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フルメタル・アクションヒーローズ

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第131話 方言少女と改造人間

 
前書き
 あけましておめでとうございます! 今年もどうぞよろしくお願い致します!(*^▽^*) 

 
「――、た、龍太――」

 誰かが俺を呼んでいる。

 何も見えない、暗い世界。そのただ中にいる俺にも、その声だけは確かに届いていた。
 今の自分に意識があるのか。そもそもまだ生きているのか。それすらもわからないというのに、俺を呼ぶあの声が幻だとは、どうしても思えなかったのだ。

 なぜなら、それは。

「……龍太ッ! 龍太ァッ!」

 俺がよく知る、彼女の声だったのだから。

「んッ……」

 そこでようやく俺は、自分がまだ死んだわけではなかったことに気づかされる。
 あらゆる光を遮断しているこの暗闇は、あの世ではない。ただの閉じられた瞼なのだ。

 なぜ俺がまだ生かされてるのかは知らないが――楽に死ぬにはまだ早過ぎるらしい。

 自然に眠りから目覚めるように、瞼を開く。その先に見えたのは、俺の顔を心配げに覗き込む、あどけない面持ちの彼女……ではなかった。

「R……型……?」
「龍太ぁッ! 龍太ッ……よがった、よがったぁ、龍太がいぎどるよぉ〜ッ!」

 俺と視線を交わした、R型を纏う人物は突然泣き出すと、音だけでわかる程に鼻水と涙を赤裸々に流しながら、俺の胸板に顔を押し当てている。

 ――甲侍郎さんが連れて来た精鋭達の中に、こんなに小柄な体格の人なんていなかった。それに、ここまで大袈裟な振る舞いを俺に見せる人物といえば、大抵は彼女しかいない。
 そこから導き出せる結論は、ただ一つ。

「矢村、なんでお前『救済の龍勇者』に……!? それに、ここはどこだ!? 『新人類の巨鎧体』は、瀧上さんは……四郷はどうなったッ!?」
「ちょちょ、落ち着いてやっ! 一遍にアタシに聞いたって……!」

 彼女が「救済の龍勇者」に着鎧していること。俺達がいる瓦礫に囲まれた狭い空間。そして、「新人類の巨鎧体」を操る瀧上さんと四郷の状況。

 ありとあらゆる疑問が一斉に噴き上がり、気がつけば俺は血相を変えて、彼女の肩を強引に揺さぶっていた。その時の俺の手が、ユニフォームの黒いグローブになっていたところを見るに、どうやら気絶した際に着鎧が解除されてしまっていたらしい。

「それは僕が答えよう。まずは落ち着くんだ、龍太君」
「――『必要悪』ッ!?」

 そんな俺の取り乱した様子を見兼ねたのか、矢村の背後に現れた白銀の男が、穏やかな口調で語り始める。

「まずはこの場所のこと。ここは瓦礫同士が積み重なって出来た、大きめの『隙間』でね。『新人類の巨鎧体』の目から一時的に逃れるための『隠れみの』ってわけさ。僕と矢村さんでアイツを撒いて、君をここまで運んできて隠れてる――ってこと」
「じゃ、じゃあ、瀧上さん達は今も俺達を血眼で探してるってことなのか……」
「そうなるね。今は随分と遠いところで僕達を捜し回ってるようだけど、ここを嗅ぎ付けるのも時間の問題だと思った方がいい。鮎子君をもう一度助けに行くなら、早く作戦を練る必要がある」

 彼の言葉を耳にして、試しに隙間から差し込む光明を覗き込んでみると――百メートル程先に、「新人類の巨鎧体」が俺達を見つけようと、片っ端から瓦礫を漁っている様子が伺えた。コンクリートが粉砕され、大量の水が流れ込んでいく轟音が、絶えず振動となってこちらに響き続けている。

 確かに、しらみつぶしに瓦礫をひっくり返している彼らが、徐々にこちらに近づいているところを見れば、時間がないという事実だけは一目瞭然だろう。

 ――それにしても、随分と派手に暴れてくれたもんだ。到底、さっきまでコンペティションをやっていた空間だとは思えないくらいに。

 今でも引っ切りなしに落石が起きているし、浸水もさらに深刻化している。俺が気絶する前までは、客席に海水が僅かに入って来る程度だったのに、今となっては陸地になってる部分の方が少ないくらいなのだ。
 その上、天井の照明まで壊れており、あちこちで発生している火災が、辛うじて明かりの役割を果たしている。

 ……「長く持たない」どころじゃない。いつ天井が総崩れを起こして、全員が生き埋めになってもおかしくない状況だ。

「次に、矢村ちゃんのことだけど……どうやら彼女、『新人類の巨鎧体』が一発目の急降下を仕掛けた時に、エレベーターに乗り損なって吹き飛ばされてたらしいんだ。幸い、どこにもぶつからなかったおかげでケガは免れたみたいだけど、エレベーターが壊れてたことで途方に暮れてたんだって」
「う……」

 すると、いきなり現れた彼にキツいところを指摘され、負い目を感じたのか、矢村は泣き止むだけでなく俯いて押し黙ってしまった。

「そんな折、偶然にも客席に転がっていたR型の『腕輪型着鎧装置』を拾って、君の手助けをしようって考えたらしい。聞くところによれば、彼女自身も君に付き合って着鎧甲冑のことを勉強していたそうだからね」
「……やけんど、アタシ、怖くて何にも出来んかったんや。龍太も『必要悪』さんも命懸けで頑張っとんのに、アタシも着鎧甲冑を持っとったはずやのに。――あんたらが戦いよる時も、アタシは瓦礫の影で震えるだけやった……」

 俯きながら話す矢村の姿は、さながら取り調べを受ける容疑者の様だった。本来の彼女なら滅多に見せない、明るさのかけらもない振る舞い。
 そんな彼女のありように、俺は困惑せざるを得なかった。それだけ、悔いているのだろう。自分が、何も出来なかったことに。

 ――本来なら「なんでさっさと逃げなかった!」と文句の一つくらいは言ってやりたいところではある……が、俺に彼女を責める資格はない。そもそも俺について来るようなことにならなければ、こんな危ない目に遭うことも、自分の行動を悔やむこともなかったはずだ。

 だから彼女がどういう経緯でここに居ようと、俺は全て受け入れなきゃならん。「人の命を預かってナンボ」の着鎧甲冑の所有者なら、なおさらだ。

「……くれぐれも、彼女を責めないでくれ。二発目を喰らってアリーナに水没した君を引き上げたのは、他でもない彼女だったんだから」
「ッ!? そ、そうなのか?」
「う、うん。ごめんな、龍太。アタシ、大したこと出来んくて……」

 ――しかし、実際のところは俺の想像とは大きく違っていたらしい。水没した俺を助けた? 十分大活躍じゃないか。何が「震えて動けなかった」だ。

「……そんなこと、あるか。お前が来てくれなかったら、俺は今頃海中でおだぶつだったんだ。本当、恩に着るよ。ありがとう」

 いろいろと説明されたおかげで、ようやく落ち着きが戻ってきた。俺は肺に溜め込んでいた一息を吐き出して気を鎮めると、可能な限り穏やかな口調で言葉を紡ぐ。
 彼女はそんな俺の様子に一瞬たじろぐような仕種を見せると、背を向けて「着鎧解除」と呟き、本来の姿を取り戻した。

 一向に素顔を見せようとしないのが気にかかるが――カンに障るようなことでも言ってしまったのだろうか。

「さて、矢村ちゃん。彼も無事だったことだし、そろそろ腕輪を渡してくれてもいいかな? 僕もまだ死にたくはない」
「……そうやな」

 一方、彼女は俺とは視線を交わさないまま、R型の「腕輪型着鎧装置」を「必要悪」に手渡していた。死にたくはない……? どういうことだ?

「そういえば、君にはまだ話してなかったね。僕の身体には『腕輪型着鎧装置』のように、バッテリーで駆動する生命維持装置がある。定期的にこうやって、電力を補給しないと……たちどころにあの世行きってわけさ」

 彼が自らの装甲服の左胸に手を当てると、その部分が扉のように開き――蒼く発光する球体のようなものが現れた。

「……!?」
「本来ならすぐにでも電力を貰いたかったんだけどね。矢村ちゃんがあんまり君に夢中だったから、声を掛けるに掛けられなかったんだよ」
「う、う、うるしゃいッ! 余計なこと言わんでえぇッ!」

 球体の周りには幾つかのコードが繋がれており、彼はそれらの内の一つを摘むと、矢村から受け取った腕輪に接続する。
 本来、「腕輪型着鎧装置」がバッテリーを補給するためにある接続部分。だが、そこに繋がれているのはバッテリー補給用の機材ではなく、「必要悪」の心臓部に取り付けられたコード。
 先程の彼自身の話とその状況から、彼が何のためにR型の腕輪を自分と繋げたのかは、容易に想像できる。

 ……問題は、そんなことをしなきゃいけない、という彼の身体の謎だ。

 瀧上さんとタメを張る立ち回りといい、十年前の彼と全く同じ声を持っていることといい、あまりにも不審な点が多過ぎる。
 今までは正体を探るどころじゃなかったし、手助けしてくれるならそれでいいと割り切っていたが――やはり味方であると言っても、知らないままでいいとは思えない。
 松霧町で初めて会った時に、線路へおばちゃんを落としたり、茂さんに「救済の超機龍」のことを吹き込んだり。何が目的なのかもわからないまま、そんなことをやっていた人を素直に信用するわけにはいかないだろう。

 ……だが、矢村の方は特に訝しむ様子も見せず、「必要悪」の指示に淡々と従っている。こういう得体の知れない相手には、一番怪しがるタイプのはずなのに。
 もしかして――俺が寝てる間に、何か事情でも聞いたのだろうか?

「――よし。これで当分は持つね。バッテリーを吸い尽くしたから、R型の方はすっからかんになっちゃったけど」
「しゃあないやん。命には代えられんって」
「ふふ、ありがとうね。さすが龍太君の奥さんなだけあって、気立てがいい。樋稟ちゃんも随分と大人っぽくなったと思うけど、君のように相変わらずな娘も捨て難いよね」
「ちょッ! ま、まだ奥さんとか、そ、そこまでは言っとらんし……! あと、相変わらずは余計やッ! あんたに言われてもちっとも嬉しくないんやけんッ!」

 どうやら俺がいない間に、二人はそれなりの信頼関係を築いていたらしい。あの矢村がここまで気にかけているのだから、決して悪人ではない……と思いたい。

 だが、何も知らないままでいるわけにも行かない。これからもう一度瀧上さんに挑むとするなら、なおさらだ。

「心臓維持装置だかなんだか知らないが……そろそろ、あんたのことを詳しく教えて欲しいもんだ。聞くところによると、瀧上さんと戦う道理はあんたにもあるんだってな。何が狙いであんたはこの場に?」

 少々突っ掛かるような物言いになってしまったが――下手(したて)に出てはぐらかされるよりはマシだろう。

「そうか……そうだね。これから一緒に戦うんだ、君にも腹を割って話さなきゃフェアじゃない。矢村ちゃんにも、一通り説明したところだしね。でなきゃ、電力供給なんて絶対に手伝ってくれないし」
「あ、あんなぁ龍太。この人は――」
「大丈夫だ、心配しなくていい。四郷君を助けることに繋がるなら、彼にとっても不利益にはならないはずなんだから」

 俺から「必要悪」を庇うように、矢村はか短い腕を目一杯広げようとする。そんな彼女を片手で制すると、彼は上体だけを起こしている俺の前で膝立ちの格好になり、仮面越しにこちらと視線を交えた。

「やはりあの時とは違う……。僕が思っていた以上に、君は逞しくなっていたらしいね。龍太君」

「――やっぱり。あんたは……!」

 そして、彼は品定めするように俺を一瞥した後、ついに自分の仮面に手を掛ける。
 次の瞬間――白銀の兜に覆われていた素顔はあらわになり、仮面が外れたのと同時に、声もさっきとは別人のような声色に変化していた。
 マスクを外しただけで、丸っきり他人の声になるというのも十分驚きだが……それ以上に、俺の心理を支配しているもう一つの感情があった。

 ――安堵感だ。

 「やっぱりあんただったのか」という、「可能性」が「確信」に変わる瞬間。
 その変化を「声」で感じていた俺は、「必要悪」の素顔と正面から向き合い、思わずほくそ笑む。
 あまりにも予想通り過ぎて、もう笑うしかねぇよ。……ったく。

「久しぶりだね、龍太君。いや、ここでは『救済の超機龍(ドラッヘンファイヤー)』と呼ぶべきかな?」

「ハッ、呼び方なんてどうでもいいだろ。『必要悪(アステマ)』もとい、古我知剣一(こがちけんいち)さんよ」
 
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