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ガルパン主人公に転生したけど、もう限界な件

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こうして、西住みほは原作を崩壊させた

あらゆる西住みほの平行世界の経験と記憶を継承した俺だが、原作から多少の差異はあったが俺が黒森峰中等部から高等部に行くことは変わりはなかった。そして原作同様に既に二年生でありながら黒森峰で隊長職についている姉である西住まほから副隊長に任命された。何かしら俺に対してやっかみがあるかと思った。俺は確かに西住みほの名声を崩さないように中等部において好成績を残して高等部に来たが、西住流の次女で実力があるからといっていきなり一年生に副隊長を負かせるなんて、周りが納得しないだろうと普通は思うだろう。だけど、何故か周りはたいして反対はしなかった。しかし、それは表立って反対しないだけで陰では俺の副隊長に抜擢された事は嫉妬されていた。

「何で一年生に副隊長を……」

「確かに中学の時に好成績を収めたからって」

「西住流の次女だからって……」


普通はそうだよなと思った。だけど、それを気にしてたらやってられない。俺はこれでも何年も西住みほを演じてきたのだ。いちいちちょっとした影口を気にしたらすぐに精神崩壊を起こす。だけど、それもあと少しで終わりを迎える。俺は西住みほという人形から解放されるためにある策を実行に移した。それは、西住みほをこの世からいなくなることだった。もう、俺は疲れた疲れ果てたのだ。西住流の重圧と勝てば勝つほどにただ世界を知っているだけの詰将棋をやって勝っている事に、そして何より西住みほを演じる自分自身にだ。


だから俺は原作通りに第六十二回戦車道全国高校生大会の決勝戦において、原作通りの展開に進めるように副隊長の責務を実行した。俺の前方の車両が川に落ちた。そして俺は、乗員を助けるために川に飛び込んだ。予想通りに雨の影響下、川の流れは激しかった。俺は川に落ちた乗員を助けるために懸命に一人、また一人と助けた。最後の一人を助けたが、俺はあえて川の流れに身を任せて流された。途中で黒森峰の生徒の悲鳴が聞こえたように思えたが、そんなことは既に俺の知った所ではない。このまま流されて死ぬことが俺が解放される唯一の手段だった。そして、俺はこの瞬間をまっていた言わんばかりにあの爺さんの特典のうちの二つの願いを願った。


「俺、西住みほを別の存在へ転生させて、この世界の住人にしろ」

「西住みほの死体を用意しろ」


下流まで流されて虫の息で、いつ意識が失っても可笑しくないと感じた俺はこの願いを叶った。そして、気がつけばそこには、つい先ほどまで俺だった西住みほの死体があり、そして俺は別の存在へと転生していた。顔は黒髪の短髪であり、何処にでもいる男子高校生といった感じた。


「やった……俺は遂に解放されたんだな!」


これほどうれしい事はない。ようやく俺は自分の意思で生きていけるんだなと、実感したのだ。そうやって喜んでの束の間。そこに俺を転生させた張本人の爺さんが現れた。


「まさかこのような結末を迎えるとはの」

「満足したか爺さん」

「はて何がかの?」

「とぼけんな。ずっと俺を監視してたくせによく言うぜ」


そう。俺はずっとこの爺さんに観察されていた。俺を転生させたこの爺さんは神様なのだ。予定もなく死なせたからお詫びに転生させて特典を上げるなど善人な神様という御大層な存在ではない。この神様は退屈だから俺を勝手に転生させて、どんな生きかたをするのかと暇つぶしに俺を転生させたにすぎなかった。

「気がついていたか、そうワシはずっとお主を観察していた。他の転生者と比べて貴様の生き方はほんのちょっぴり退屈しのぎにはなったぞ」

俺は転生された後からこの爺さんの本質を理解した。いや、知ったというべきかな。不定期であるが、俺は夢の中でこの爺さんと喋る機会があった。転生して楽しいか、どんな感じだと当たり障りのないように喋っていたが、この爺さんは俺を心配する感じはしていないかった。どちらかといえば俺をおもちゃで遊んでいる無邪気な子供のような目で俺を見ていたのだ。それを理解した俺は、この爺さんは善意で俺を転生させたんじゃない。転生した俺が、どのような物語を進むのかという退屈しのぎに俺を転生させたのだと理解したのだ。

「貴様を転生させる前の転生者達は、本当に詰まらんかった。やれ原作ブレイクして主人公に変わるだの、ヒロインを助けるなど自分こそ世界の主人公になれると疑いもせんピエロばかりじゃったの。ただの人間の凡人風情が特典を与えられただけで、重要人物に成り代われると思っておったからな。そういう輩は大抵失敗を起こして馬鹿をやっておったの」


だったら何でそんな連中ばかりを転生させたんだと俺は呆れていたが神様曰く。

「初めから成功する可能性が高い人間に特典を与えてもつまらん」

らしいのだ。要するに勘違い野郎、凡人だけど基本的に害のない人間。そして俺のように凡人だと分かりきって原作の人間として演じようとする人間などを転生させてどのような結末を迎えるのか楽しいらしいのだ。改めて思うと、この爺さんは本当に心が腐ってやがるな。まあ、基本的に神がワガママなのは神話を知れば当たり前の事か。


「だが、これで貴様は西住みほとしてもう生きてはいけん。今までの名声を捨てる事になるがよいのか?」

「ふん、誰が好き好んで人形を演じるんだよ。俺は俺だ。西住みほじゃない」

だいたい今まで西住みほとして成功していた時点で奇跡に等しい。俺のような凡人がいつボロが出ても可笑しくない。


「くくく。貴様は他の転生者同様に凡人じゃ。じゃが、ただの凡人ではない。このワシをほんのちょっとじゃが楽しませたんじゃからな」

「嬉しくねえよ」

「まあ、そういうな。ワシをほんのちょっぴり楽しませたご褒美じゃ。新たな特典をプレゼントしておこう。」

「それは何だよ?」

「次に目を覚ました時のお楽しみじゃ」


俺は光に包まれて気を失った。次に目を覚ましたころは、もう俺は西住みほとしての俺ではない。新たな俺の人生が始まるのだろう。この極悪爺さんの目を着けられたからろくな人生でもなさそうだけど。


ーーーー。


決勝戦において事故が起こった。私、西住まほは黒森峰の隊員達の報告を聞いて心情は悲鳴を上げていた。

『副隊長が仲間の戦車を助ける為に川に飛び込みました!!』

そんな報告を聞いて私は本心では「どうして止めなかった!!」と、怒鳴りたい気分だったが、だがそれは西住流の後継者としての西住まほの理性が本人が渦巻く激情を抑えて何とか踏みとどまったのだ。

みほの行動は西住流として邪道と言われるだろう。どんな犠牲を払っても勝利を信条とする西住流はみほの行動を非難するだろうが、だけど心優しい妹が仲間を思って行動するのは当たり前だと何故自分は気がつかなかった。

「直ぐに大会運営に救援を要請しろ!現場の人間は出来る範囲でいい!救助を手助けしろ!ただし、二次災害には気をつけろ!!」

『はい!』

既に無防備になっているみほが乗っているフラッグ車は撃たれているだろう。だけど、そんなことは知った事か。本当は自分が助けに行きたいが、今では間に合いそうにない。何より現在の黒森峰は混乱している。その士気の混乱を収める必要もある。当然だ。あのみほが、あの太陽のようなみほが危険にさらされているのだから。

みほは黒森峰を変えた。みほは常に笑顔だった。分かるか?常にピリピリとしていた黒森峰を、みほが変えたんだ。最初はみほが高等部に入学した時など私の妹という事で姉の七光りと言われていたが、そんな風評は直ぐに吹き飛んだ。誰もが予想しない指揮により七光りと決めつけていた上級生と同年代を黙らせた。しかしそれだけではない。ただ強いというわけではなく、みほの常に笑顔で明るい性格は黒森峰の隊員達を明るくした。誰に対しても笑顔で困ったことがあれば積極的に手助けをした。そして、気がつけばみほの周りは常に笑顔だった。

常勝軍団とよばれた黒森峰の隊員達は厳格であり、常にピリピリしていた。いつも張り詰めた雰囲気だったが、それをみほは黒森峰を年相応の少女達の集団と変えたのだ。それから黒森峰はみほを中心とした集団となった。みほの笑顔で周りも穏やかになり、心情的に余裕が出来た隊員達は王者として更に強くなった。

みほがいたからみんな強くなれた。そして私は西住流後継者という重圧から救ってくれたのもみほだ。私にとってみほは、西住流の西住まほとしてではなく、だだのまほとして見てくれる唯一の存在だ。自分の本音を言える唯一の存在であるみほがいなくなるなど考えたくもなかった。

だから……だから……みほ。

「私を一人にしないでくれ……」


だが、私の願いは無情にも崩された。みほは力尽きて岸に着く前に流されたのだ。これを聞いた黒森峰は更にパニック状態となった。救援隊は流されたと聞いて下流を検索したが、そこに西住みほと思われる少女が打ち上げられている事が確認されたが、脈拍と呼吸は停止していた。直ぐに心肺蘇生処置を行われた。

救急隊も賢明に心配組成処置を繰り返したが回復する傾向はなかった。その後は病院に搬送されたが医者は西住みほを事故死と断定した。こうして、西住まほと黒森峰の太陽は沈んだ。

 
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