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ガルパン主人公に転生したけど、もう限界な件

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凡人に世界を変える力はない。だけど、ほんのわずかだが流れを変える事が出来る

 
前書き
原作キャラの心情を書くのは難しいです。 

 
西住みほが事故死して二カ月ほどが経過した。俺は新たな生を受けて首都圏から離れた地方都市のK市のマンションに住んでいた。都会とは言えないがかといって田舎でもない市だが、生活する分には困る事はなかった。歩いて数分にコンビニ、スーパー、駅があるからかなりの好条件が揃ったマンションに俺は住んでいた。

「○○様。食事の用意が出来ました」

「おお。ありがとう美紀さん。」


二十代後半くらいの黒髪のロングヘアーの女性が俺に声をかける。この女性の名は美紀さん。俺の新たな生を受けた時にあの性悪爺=神様が置いていった俺の戸籍上は母にあたる人物である。神様曰く「男子高校生が一人暮らしで学校で通ったら不自然じゃろ」と、いうわけで俺の新たな母を用意したというわけだ。性悪爺曰く下位世界で新たな人間を作ること事態は簡単らしい。俺の好みを反映してくれて控えめの女性を作ってくれたそうだ。

だけど容姿が綺麗なせいか近所では「突然と引っ越してきた美人妻が来た」と、噂になってしまったけどな。まあ、それでも一時的に騒ぎになっただけで今は落ち着いている。俺はこうして今の生活を満喫している。俺自身は十年以上も演じた西住みほとしての生から解放されて現在の生活を満喫していた。新たな高校生活も順調だ。今まで女性として生きていた為に、男の部分を封印していた為に無理して笑顔を作って自分の心情を隠していた黒森峰と比べれば、今の俺の男としての生活は充実していると言ってもいい。はたから見れば結局は前世のやり直しかもしれないが、凡人の俺にはこれで十分なんだ。

天才と呼ばれた西住みほを演じるのも、西住流を支えるのも俺には不可能なのだ。姉であるまほと、かつての母であるしほが今、どのような状況なのかは俺は知らない。というより知った事ではない。西住みほを演じた凡人は、今は何処にでもいる平凡な男子高校生として生まれ変わったのだ。もう、この先は戦車道とも西住流ともかかわる事はないだろう。

俺の名は○○。西住流の重圧と西住みほという人形から解放された平凡な男子高校生だ。

「さてと、明日はプラモでも作るかな」


俺は、この平凡な生活を満喫している。

ーーー。


全国大会決勝戦敗退。10連覇という偉業を逃した黒森峰はマスコミや報道陣の対応。そして黒森峰を支援しているOGやスポンサーの対応などに追われていた。しかし黒森峰の戦車道隊員達は十連覇を逃して落ち込んでいるのではない。西住みほの事故死という現実に打ちのめされていた。そして、それは戦車道を選択している機甲科だけではない。他の科にいるみほの知り合い達も同じように悲しんでいた。だが、悲しむ暇は私達になかった。それはOGのある一部の過激思想の西住流信奉者の心もとない言葉が原因で、黒森峰は崩壊の道に進んだからだ。

「犠牲無くして勝利を得らない。西住みほは西住流の恥さらしだ!」

「10連覇達成という偉業を潰した戦犯だ!!」

大会終了後の数日に黒森峰に来た一部のOG達が事故死したみほに対して侮辱とも言える発言だ。

これに機甲科の隊員の殆ど激怒して乱闘騒ぎとなった。黒森峰の隊長であり、身内の隊長に至っては普段は冷静で感情を表に出さないが怒りの形相で激怒して真っ先にみほを侮辱したOGを殴り倒したのだ。そしてわたし逸見エリカも同じように激怒し乱闘に参加した。この騒動は学園艦全体に広まるほどに拡散してしまい誤魔化しようがない事件として全国に拡散した。

『人の命を何とも思わない冷酷な西住流の実態が明らかに!!』

『黒森峰OGの過激発言に黒森峰の女子生徒達が大激怒!学園艦全体で乱闘騒ぎ!!』

この騒動はただでさえ10連覇を逃しただけでもマスコミ達にとっては美味しいネタがあるなかで、更なる美味しいネタが飛び込んだと思ったに違いない。しかし、幸いなのは乱闘騒ぎになりながらも自分達は逆に世間からはそこまで叩かれていないという事だ。逆にこの心もとない発言をしたOG達に批判が集まり、副隊長のみほを試合中の事故で亡くして悲しんでいる私達に対してみほを侮辱して人道に反したOG達の行為に対して自分達の怒りは正当な物だと世間の半数の人間が認めてくれた事だった。

しかし、今回の騒動を含めて黒森峰は壊滅的な打撃を受けた。その理由の一つを挙げるならば副隊長の西住みほの事故死。中等部よりみほを知っている隊員も含めて高等部から黒森峰に進学した隊員達の殆どがみほの死を悲しんだ。普段から笑顔で元気で温厚な少女であり、みほの姉で尊敬する冷静で厳格なまほ隊長と全く異なる少女だが、戦車に乗れば隊長を補佐するなら誰が見てもすごいの一言だ。それを中等部より見続けた私は、みほがどれだけ黒森峰に必要な人間であることを理解していた。黒森峰の隊員は私も含めて大半は厳格な性格をしていている。だけど、みほがいる時だけは誰もが厳格な黒森峰の生徒としての秩序を忘れて年相応の少女達の雰囲気となる。この西住姉妹達は人を率いる点でいえば誰もが認める才能がある。だが二人は人を率いるカリスマを表すならば形が違う。隊長を表すならば強烈な輝きを放つ誰もが憧れる英雄のような輝き。みほの場合は暖かい家族達と楽しく過ごすように心を和やかにする友人や家族愛のような結束力。


隊長は上級生からは頼れる後輩のように慕われて、下級生や同級生から忠誠を誓うに値する隊長という認識である。みほは上級生や同級生からは守りたくなるような妹分であった。誰もが無意識に、この太陽のような明るくて優しい副隊長を守ろうと誰もが思ってしまうように感じてしまう。私もそこは認めざる負えないが、素直に感情を表現する事が出来ない為に強く当たってしまうが、みほはそんな私にも気にしない素振りで接してくれた。

尊敬する隊長に少しでも近づきたい為に、私は常にライバルとなる人間たいして牙を向いていた為に黒森峰で親しい人間はいなかった。でも、みほはそんな私に対して常に気にかけてくれた。ルームメイトという事もあるだろうけど、いつか絶対に副隊長の座を奪ってやると強く当たってるのにどうして私に優しく接してくれるのかと常に不思議に思った。その事を中等部にいた時にみほ本人に聞いたことがあった。

「私はエリカと友達になりたいからだよ」

友達。この言葉を聞いた時は私は初めは激怒した。私にとって貴女は副隊長の座を競うライバルと思ってたのに友達なんて甘い言葉を言うなんて、私は眼中にすらないのか!と、みほに反論したのだ。

「嬉しかったんだ。そうやって私個人を見てくれてる事が」

みほは語った。みほは西住流の次女だ。小さいころより戦車道に触れてきた人間だ。西住流という戦車道の名門の本家に生まれた次女は周りからは当然のように戦車道をやるように求められた。そして姉の隊長同様にみほも西住流に恥じないように努力した。その結果は姉の隊長とも勝るとも劣らない才覚を周りに認めさせたが、それ故に同年代の友人が出来なかった。そして西住みほに挑もうとする同世代の少女達はいなかった。誰も同じように諦めたように口にする。


「相手は西住流の娘だ。初めから敵わない。」

「生まれた時から才能が違う」

誰もが西住みほの才能を前にして追い抜くという事を諦めたのだ。同世代の少女達とは明らかに異色なみほは、戦車道において対等な友人という存在があまり存在しなかった。それ故に初めは中等部でも自分の力を発揮すれば、直ぐに諦めるだろうと思ったらしいが、どんなに負けてもあきらめずに噛みつこうと言わんばかり食らいつく私に興味を持ったらしいのだ。

この話を聞いた時に私は自分でよくわからず興奮していた。みほは誰に対しても笑顔で親しく付き合ってくれる。基本的に誰に対しても平等だ。だが、特別と思ってくれる人がいると言えば首を傾げるしかない。あのみほが自分から友達になりたいと本心で話してくれる。私はこの時の話を聞いた時は自慢したいと思ってしまった。みほが自分から私に友達になりたいって言ってくれたんだよと自慢したい気持ちでいっぱいだった。この時からだろう。私が更に打倒みほを掲げて更に戦車道に対してのめり込んで、みほの太陽を自分だけで向けてくれるように、対等な友人としていられるようにと努力した事は。

みほや隊長と比べたら私、逸見エリカは才能はない。周りは西住流の体現者である西住姉妹に対して無謀な挑戦と笑うだろう。そんなこと知った事か。私は誰よりもあの太陽を独占したいのだ。あの誰に対しても心を穏やかにしてくれる太陽を自分だけに向けてくれてるようにと、ただ太陽を平等にくれるだけでは私は満足しない。この時、私は本当に非常にワガママな存在という事も理解した瞬間でもあった。


だけど、どんなひねくれた人間に対しても優しく包み込んでくれる太陽は沈んだ。西住みほはもうこの世に存在しない。隊長から後日みほの葬式が熊本の実家で開かれると聞かされて、みほがこの世を去った事を理解させられた。誰もが悲しんだ。あの冷静で鉄仮面のように感情を表さない隊長も涙を流していた。


「……みほ、何でよ」

どうして亡くなったよ。貴女は私の太陽なのに……黒森峰を優しく包んでくれる太陽なのよ。


「どうして……どうしてなのよ……」

涙を堪える事が出来ない。抑えよとすればするほど余計に涙があふれてくる。



それからしばらくして西住みほの事故死を受けて戦車道連盟は、安全面の見直しとルール変更を力を入れる事になる。皮肉にも、西住みほの事故死という形で戦車道はより安全な武道として認知される事になった。


 
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