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fate/EX=zero

作者:zeron
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幻想少女の月捜索
  仮初の少女と朧げな英雄

 
前書き
お久しぶりです。(過去最長の未更新期間でした 申し訳ない)
今回も引き続き糸島優衣ちゃんの序盤のお話

かなり駆け足で見苦しいところがちらほら……

佐々野さんが本人のスペックは(劣化しているが)高いはずなのに苦戦するタイプなのに比べて優衣ちゃんはスペックは低いがうまく立ち回って楽々進むタイプです

チェックが甘いので誤字脱字や文章的におかしなところがあるかもしれません(見つけ次第修正します)
その他もろもろのお話はあとがきにて

では本文をどうぞ!! 

 
いつも私は同じ通学路を見続けている気がする
学生なのだから当然だろう
私はどこからどんな道を通って学校に来ているのだろうか?

間違いなく家で目を覚まし制服に着替えていたはずなのにそこまでの過程の情報はまるで盗まれたかのようにどこかへ行ってしまっている

違和感を感じているが通学路の風景はまるで変わらない
むしろその違和感でさえいつも通りのように感じる



校門では生徒会長が何かをやっている
今日は風紀チェックをする日だったようだ



服装は問題ない 髪形もまぁ、問題ないだろう
髪色はややアウトの茶髪だが周りを見渡すともっと個性的な人もいるのでギリギリセーフだと思いたい


ただ鞄の中に見られてはまずいものがあるのでばれない様に隠れて校舎内へ入って行く

教室もいつも通りだ
席に荷物を置くと女子生徒が私に用事を言いつけてきた


「糸島さん、教会のシスターさんに届けて欲しい物があるの……私これから大事な用事があるから代わりに行ってもらえないかな?本当ごめん!」

仲のいい購買部でバイトをしている生徒だ
毎朝シスターに届け物があるようだが時間がなくいつも私が代わりに行っている
忙しそうにしている彼女の姿が脳裏に浮かび、ついつい引き受けてしまうのだ

「わかった、シスターさんは教会にいるのね」







この学園 月海原学園の中庭には教会がある
教会の前には噴水と花壇があり美しい風景を見ることができる

花壇には1人の生徒が花を眺めてぼんやりしている
初めてみたはずだが何故か私にはこの生徒がいつもここにいる気がした
何故?


「あら、優衣ちゃんどうしたの?」

教会から出てきたシスターに声をかけられ意識が戻る
何故かシスターに声を掛けられると体が……魂が拒絶する気がした

「あ、シスターさんお届け物です」

小包を渡して教室に戻ろうとしたら言い争っている声が聞こえてきた

「時臣!お前はどうして…いつも…………もう……凛ちゃんは……!!」
「今は関係のない話だ」


言い争っているのは教職員の遠坂時臣と間桐雁夜
酷く仲が悪いようで顔を合わせたらいつも言い争うになる

「本当あの二人は仲が悪いわねぇ」

シスターでさえ苦笑い
堂々と生徒たちの前でああも喧嘩できるとはどういう神経をしているのか、というか2人とも教師には見えない

話はよく聞こえないが何やら遠坂凛がらみの話のようだ
実の娘が生徒というのはどういう気分なんだろう?

ふと思い出したかのようにシスターは私に話しかける

「そういえば養護教諭の方が昨日からお休みしてるみたいで何人かの男子生徒が嘆いていたわよ」

養護教諭、確か保健室の先生ことだ
私は保健室によるようなことはなかったのでその人の顔も名前も知らない

シスターの話しぶりから男子生徒に人気のある人のようだ
だがそれを私に言う意味はわからない
「あら?わからないのなら気にしないであなたの行動範囲はあの子と被ってないみたいね……まぁ、優衣ちゃんがあの子と会うとすぐに終わってしまうからその配慮かしら?」

シスターに優衣と呼ばれるたびにざわざわする
そこそこシスターとは親しい関係だったという記憶……記録があるのに私はこの人が大嫌いだ


「そろそろ授業始まっちゃうよ」
「もうそんな時間でしたかでは私はそろそろ失礼しますねシスター」



授業は間桐雁夜による世界史
ただよく授業が脱線して彼が行ったことのある旅行先の話になることが多い

私は授業に興味なんてないのでぼんやりと考え事をする
シスターの違和感や嫌悪感

ふと隣にいる購買部でバイトしている友人がひそひそと話しかけてくる
「そういえば隣のクラスに一昨日から転校してきたレオくん、凄いイケメンらしいよ」
「転校生なんていたの?」


放課後はいつも同じ場所にいるので学園内の情報にはあまり詳しくない
そういえばこの友人は何故か周りの生徒と制服が違う
購買部用だろうか?

退屈な時間が過ぎていきすぐに放課後になる

いつも通り放課後は中庭へ行く
中庭には少女と少女のような少年、そして1人のおかしな女子生徒がいる
入学した時から私はここにいる子供達の遊び相手をしている……はずだ

「遅かったじゃない!」
私の姿を見てそういう少女の名はイリヤ
それに対して少年は笑いながら私を労う

「生徒の役割(ロール)は大変だねぇ」

女子生徒は何も言わない
いつもその女子生徒 ラニ=Ⅷは何も語らず2人の幼い子供をじっと見つめるだけだった
星を見ているらしい
まだ夕暮れ時なので星は見えないと思うが……

少年は噴水の中に飛び込むとこちらをじーっと眺めてぽつぽつと話だした

「さて、既にここを突破した人が何人か出てきているらしい。彼女が突破したのを呼び水に気づく人がどんどん増えているようだ」
何を言っているんだ? だがイリヤはその意味がわかるらしい
「もう行くの?まだ予選期間は残ってるのに」
「あぁ、僕はそろそろ行くことにするよ」
行く、家に帰るということだろうか?
「私もそろそろ行こうかしら、向こうでもまた遊びましょう?」
一瞬まばたきしたその瞬間に2人の子供が消滅した


狙ったかのようなタイミングでシスターが教会から出てくる
「あら、彼は行ったのね。伝説のウィザード……むしろメイガスと呼ぶべき大物の姿を見られるなんてラッキーだったわ、連れてるサーヴァントも随分と稀有な存在ね」
「さっきから何の話を?」

シスターは慈愛に満ちた不快な笑みを浮かべて私を見る
「そう、あなたはまだなのね。時間はまだあるけど早くした方がいいわよ優衣ちゃん」
「優衣って呼ばないでください!」

あれ? 別にシスターが私のことを優衣と呼ぶのはいつものことなのに
何かが変わりだした
何かがおかしい

はやくしないと
真実を見つけないと
夢の終わりはすぐそこに……








翌日

溢れだした疑問の答えを求めて思考を巡らせるがあともう一歩が届かない
隣の席に座る購買部でバイトをしている友人が心配して声をかけてくれる
「大丈夫?」
「うーん、なんだか頭が痛くて……目の前がノイズみたいなので見えにくくて」
それを聞くとむしろ友人は安心したようでその表情が晴れる
「よかった……もう少しなんだね頑張って」
「どういう意味?」
もう少し?
そういえばこの友人とはどう出会った?
私はこの学園で何をしていた?
「ごめん、私は何も言ってはいけないの」

その時始業のチャイムが鳴り私は続きを聞くことはできなかった
授業は世界史 タイガーとみんなに呼ばれる先生による…………世界史は間桐先生ではなかったか?

わけがわからない
許容限界を超え遂に私は倒れてしまった


目を覚ましたのは見慣れない場所のベット
「大丈夫ですか?」

声のする方を見ると白衣を着た生徒の姿
保健委員のようだ
「ここは?」

「保健室です、授業中に倒れたとか」


そうだった
しかしなんだかこの保健室は懐かしい匂いがする
ベットから起き上がり周りを見ると保険委員の姿以外に人影はない
養護教諭が居ると思ったが……そういえば居なくなったとか言っていたか
窓際に配置された机をなんとなく触ると保険委員がキッと睨んできた
そこまで怒るようなことだろうか?
「そこはセンセイの使ってた机です」
「あぁ、そう……そういえば何て名前だっけ?」
使ってたという言い方はおかしくないか?
それともどこか別の学校に転勤したのだろうか

「私の名前は……「そっちじゃなくて先生の名前」

「センセイの名前なら…………」

私には保険委員の声が聞こえなかった
強烈な頭痛
偽りの世界が真実によって思いっきり揺さぶられる


「私は……先輩を……」

真実と虚偽の記憶が混濁したまま私は保健室を飛び出し校舎内を走り回る


違和感の終着点
真実への出発点


走り続けた結果をそれを見つけた
ただのコンクリートの壁だが間違いなくここだ

これが真実だ
そう意識すると壁は扉へと姿を変えた

部屋の中には1体のドール

「連れていけってわけね」

まったく、偽りの学生生活にお人形遊び
ムーンセルが何故このような予選を設けているのかわからないがやれというのならやるだけだ









長い長い通路をたどりつづけ到着した場所は息苦しさすら感じる荘厳な空間

だが周りには壊れたドールと倒れた月海原学園の制服を着た人間が地面に伏している それもかなりの量だ
すぐ近くの人間を触ってみるが冷たい
死んでいる、それがただアバターが落ちているだけなのか本当に死んでいるのかの判断はつかないが少なくとも動くことはなさそうだ


ここで倒れているのは予選に落ちた敗者達
こんな奴らの仲間入りだけはしたくない
何故かここに生きている人間は私だけのはずなのに視線を感じる


その時近くの人間が使っていたであろうドールがカタカタと音をたてて立ち上がる
直感で理解する

これは敵だ



すぐに自分の動かすドールを戦わせる

「ここで最後ってわけね、あんまり真正面からの戦いは好きじゃないんだけどやってやるわ!」

すぐにポケットの中から針を取り出し人形へ投げる
私が得意とするコードキャスト Stab_harmは針を触媒として相手に複数の毒を与えるものだ
その毒のほとんどは人形に対して効果はないが腐食させ体を脆くする毒はじわじわと人形の体を蝕んでいく

敵の人形は元からボロボロだったはずなのに私の人形より力強く速い

体にインストールしたコードキャストdisguise_shapeによって周囲の光を屈折させ攻撃を躱させているが偶然か狙ってか稀に私の人形に攻撃が命中する
ダメージを受けるたびに私の人形は少しづつ欠けていく

「何本も何本も刺してるのに毒の回りが遅い……まずいわね」
私は純粋に高い威力を持つコードキャストは扱えない
とにかく時間を稼ぐことに集中しなくては

恐らくドールの力はある程度マスターの魔術的な才能によって決められている
私はトップクラスのウィザードと比べるとポテンシャルは劣る
そこを技術で補ってきたのだが今回のような状況では有効的なコードキャストはほとんどない

「まさかこんな前座で使わされるなんて…………決着術式!万華鏡の無限迷路(カレイドラビリンス)!」

万華鏡を天に掲げ光を注ぎ糸島家秘中の魔術を電子世界で再現させる
周りの風景が少し歪み出したとき鋭い視線を感じた

この空間に来たときからずっと感じていた視線だ

「ふむ、能力は悪くないが真っ当な戦闘を嫌うか……だがそこはむしろ評価すべきだな」
何処からか聞こえる男の声
既に迷路は2割ほど形成されているせいもあり何処からの声かはわからない
「どっちみちあの馬鹿バーサーカーが強引に起動した以上俺も参加させられるだろう……本来俺は狂人の処理ではなく怪物の処理が生業だがそのおかげで聖杯戦争に挑めるのだから一応感謝しておくか」

目の前に現れたのはサーヴァントのクラスを表すクラスカード
デザインはアサシン

「そこの女、俺が契約してやる」
「あなたは?」
「さぁな、それは契約してからのお楽しみだ。どうする俺と契約するか?一応言っておいてやるがこのまま戦っていけば俺以外にも貴様に手を差し伸べるサーヴァントが居るかもしれない慎重に選べよ」
そんなことを言われてももう時間はない
決着術式を途中で破棄してサーヴァントの契約を準備する



「あなたと契約するわ!!」









クラスカードから現れると思ったがその人物は上から幾本もの杭を人形に打ち込んで現れた

漆黒のコートに黒い中折れ帽子
その手には片手用のクロスボウと回転式拳銃を握っている
一体どうやってあれだけの杭を降らせたのか


「アサシンのサーヴァント……真名エイブラハム・ヴァン・ヘルシング貴様との契約に応えここに参上した」
その声は先ほどまで私に話しかけていた存在と確かに同じだった
エイブラハム・ヴァン・ヘルシングと言えばドラキュラに出てくる登場人物だ
でも確かその姿は
「エイブラハム・ヴァン・ヘルシング……」

「貴様の言いたいことは分かるマスター…………本来のヴァン・ヘルシングとは俺のように若くイケメンでこのように素早く動くような男ではない、肥った老学者の姿のはずだ。俺は世間が考えるヴァン・ヘルシングのイメージがサーヴァントとなった存在だ」

「世間のイメージ?」

というか自分でイケメンとか言っちゃうタイプなのか
顔を良く見ると好みのタイプではなかったがイケメンだった
それが無性に腹が立つがその程度のことは気にしない

「サーヴァントにとっては重要なことだ……他にも優秀なヴァンパイアハンターが俺の名前を称号に現れることもあるがまぁ、貴様のイメージからは一番しっくりくるタイプのヴァン・ヘルシングが来てよかったなマスター」

良くわからないが要するにこのサーヴァントは世間がイメージする ヴァンパイアハンターのヴァン・ヘルシングを具現化させたものということだろうか
杭を刺されたまま動きだす人形をアサシンは一瞥する

「ふん、ただの杭で倒れるほど脆くはないかここは宝具で綺麗に決めてやりたいが俺の宝具は対怪物用でな……だがまぁ、自己紹介代わりに使ってもいいかもしれないな。これが俺の宝具だ、よく見て学べマスター」

何処からか取り出した十字架(ロザリオ)が大きくなり最終的には1m程度になり十字架の下が鋭く尖った形になった
「これが俺の宝具。十字架を模した杭は吸血鬼……俺の場合はドラキュラつまり竜も含むがその天敵だ。他にも怪物であればこれを受ければ激痛にもがき苦しみ死ぬ」
そう言うとアサシンは十字架をドールへと向けた

「じゃあそれ以外にはただの槍みたいなものってこと?」
私がこれから戦うのは吸血鬼や竜ではなく英雄だ
もっとも巨大な針が突き刺さったら誰でも息絶えるとは思うが切り札にしては少し弱い

「あぁ、だがキャスターに対して刺さればその魔術の行使が阻害される銀の杭だがな」
次の瞬間アサシンは消える

気配遮断ではない
そのスピードだけで私の目から消えたのだ

「(十字(ヴァン・)の聖杭(ヘルシング)

そう呟く声が聞こえるとアサシンはドールの前に現れて杭を突き刺した
だが杭を受けてもまだ人形は動こうとする……が途中で息絶えた

「このような魔力で動く木偶人形なら銀を打ち込めば魔力の巡りを阻害されてまともに動けなくなる。さて暗殺者を望んで選んだマスター、おめでとう貴様は聖杯戦争に参加する資格を得た」

ふと手に熱を感じるとそこにはマトリョーシカのように四角形の中に四角形が入っているようなシンプルなデザインの令呪が浮かび上がっていた

「これが……令呪?」
「決して失うな、令呪自体は3画あるがすべて失うと参加資格が無くなりその時点で敗退する。使える令呪は2画までだ」
「わかった、それでこれからどこに行けば?」

アサシンはちらりと上を見ると溜息をついて

「本来なら案内があるはずなんだが俺がサーヴァントになったからと仕事を放棄しているようだ。ついてこい」
「どういうこと?」
「俺はこれでも月の聖杯戦争に何度も参加しているからな、一度運営サイドに疑似的に裁定者として呼ばれたこともある。詳しくはまた今度話す」

アサシンに導かれて進んだ先は予選で居た月海原学園へ出た
「戻ってきた?」
「いや、予選とは違うここは戦争の控室だ。ここでの戦闘行為は禁止されているがまぁ、ここで敵のマスターを直接襲う不届きものもいるから気を付けろ」


既に学園内にはちらほら人影がある
ただ予選に居た生徒の数と比べるとまだまだ少ない

丁度予選突破者がどんどん来たところのようでNPCが忙しそうにしている
この様子では案内が来るのにまだ時間がかかりそうなので今の内に学園内を見て回ることにした


なんとなく予選で長く過ごした教会前の中庭へやってきた
そこで予選でも花をぼんやりとみていた女子生徒風アバターを見つけた
「NPCだな、暇のようだし端末と説明を受けておけ」
アサシンの助言を素直に聞いてNPCに話しかける

「参加者にする案内してくれない?NPCよねあなた」
「私はNPC……なんですよね」
きょとんとしているNPC

「そりゃそうでしょう、確か予選でも居たわね」
「はい、実は居場所が無くて隠れてたんです……あまり人来ないですから」

どうにも壊れているのかAIが馬鹿なのか対応をしてくれないようなので諦めて別のところに行こうとするとアサシンが姿をNPCの前に見せた

「おい、貴様は何が担当のNPCだ、生徒会の制服ではないようだが」
「分からないんです、確かどこかのNPCが不具合を起こしたから補充要員として作られたはずなのに実際に来たら私の居場所がどこにもなくて記録も残ってないんです」
むしろこのNPCが不具合にしか見えないが何もできないなら仕方がない
「あっそ、一応上位のNPCに報告しとこうか」
「そんなことされたら私消されちゃいます!!」
「わざわざバグをいつまでも残す必要もない、そこら辺のやつに報告しておけマスター」

入口辺りに何かの上級NPCが居た気がするしそこで報告しておこう
なんとか壊れたNPCは止めようとしているが人を傷つけれないNPCに私を止めることはできない

「それくらい見逃してあげたらいいじゃない優衣ちゃん」
「優衣って呼ばないでください!」

あれ?反射的に言ったが……何故ここにこの女が?
いや、こいつとは予選からずっと一緒に居た
教会のシスターという役割(ロール)を持っていた女
「なんであなたがここに居るんですか……ジラント・ウロボロス」

魔術の塔でマリアと呼ばれていた女は教会の前に立っている
私がここに来るのを見越して張り込んでいたのではないか?
「あら、その名前で呼ばれるのは久しぶりだけどマリアと呼んで頂戴、理乃ちゃんもそう呼ぶわ。私がここに居る理由は……秘密よ」

西欧財閥の中核たるハーウェイに逆らうようなタイプには見えないが献身的に……自分の命を捨ててレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイのサポートに来るような女ではない

「まさか予選で優衣ちゃんを見つけるなんて思わなかったわ。シスターさんシスターさんって可愛らしかったわよ?」
「…………それこそあなたのコードキャストの仕業じゃないですか?」

電脳の禁忌に片足突っ込んでいる危険なコードキャストを裏で使っていることを知っているぞと少し強気になってみたがそんなことここでは何の役にも立たない
地上に戻るときにどちらか片方は死んでいるのだから

「うふふ、困ったらいつでも力になるわ優衣ちゃん」
「現在進行形であなたに困ってますが?」

不愉快な物をこれ以上見るのも嫌で中庭から去ろうとしたらこの女が現れたときの姿を隠していたアサシンが何故か姿を見せた
「ちょっとあんた何してるの!?」
わざわざ姿を見せる必要はないはずだ

「貴様のサーヴァントそれは何だ?月で召喚されていないサーヴァントの持ち込みはともかくそれはここに居るべきではないだろう?」
私にはマリアの周辺に何かがいる気配はしないがアサシンは何かを感じたようだ

「あら、ちゃんとこの戦争に参加するために調整はしてあるわ。ここに居る時点で私のサーヴァント……アヴェンジャーを使うことをムーンセルは許可してくれているのよ」
「ふん、まぁいい今回はあくまで戦争に参加するサーヴァントだ。月が認めるのならそれに従おう」







マリアと別れて他のところを見て回ると誰かが私を呼び止める声がして振り返る

「糸島さーん、まだ連絡とかまだだよね?私がやってあげる」

そう言って走ってきたのは予選で仲のいい設定だった購買部でバイト……いや購買部担当のNPCだ
商品なのか大量のアイテムをパンパンになるまで鞄の中につめて重そうにしている

「あー、うん」

自分でやらなくても他のNPCに任せればいいことを自分でやろうとするところは予選の時の彼女と同じだ

「これが端末。連絡のほとんどはここから来るよ、たまーに監督役の言峰神父が直接何かすることもあるけど滅多にないかな。それから糸島さんの対戦相手発表についてだけど明日になるみたい」
「今日発表される人も居たりするの?」
「うん、今日の人もいるよー。そうだ!たくさん仕入れたからこれ一個あげる…………本当はダメなんだけどね。それから部屋の準備ができたから予選で授業を受けた教室から入れるよ」

渡されたのは懐中電灯 確か幻を投影する代物だ
昔これで理乃先輩が幽霊を投影して驚かされたっけなぁ
でもこんなのを買うようなウィザードは居ないと思うが……そもそも戦闘では使いにくいし

少なくとも私は使わない
「あー、ありがとね」

「頑張ってねー」

随分と人間臭いNPCだ
だが予選では彼女が毎朝 私に教会への届け物を頼んできたのが原因であの女に私がここにいると知られたと思うと少し複雑な気持ちになる


部屋の準備ができたと言っていた
一度自室を見に行ってみよう


マスター達に提供される自室にはほとんどの家具はない
それは嫌がらせではなく各マスター達が好きなようにできるための配慮だ
人によっては高性能の機材や消費型コードキャストの触媒を大量に用意したり召喚したサーヴァントの好みに合わせたりするのだろうか?

アサシンは

「俺は特に希望はない、そもそも俺は休息など必要ない」

と言うので好きなようにさせてもらう

とはいえ私は針以外に触媒を必要とするコードキャストを普段使わないし機器を使うこともないのでごく普通で質素な部屋になった

「この写真は何だ?」
机に置いた写真を見て聞いてくるアサシン
その写真は魔術の塔に理乃先輩が居た頃にマリアと先輩と私3人で撮ったものだ
マリアが写っている部分は切り取っているが……

「昔撮った写真よ」
「お前が撮ったのか?」

写真の中に今の私は写っていない
理乃先輩の横には少し気が弱そうな少女が写っている

「そっちの子が私」

「とてもそうには見えないが……」

「私が作成したコードキャストdisguise_shape は姿を偽るコードキャスト、今の私は少し強気になれる容姿になってるのよ」

そもそも現実では人と会う機会が少なく電子世界でも自分の本来の姿に似せたアバターを使ったことはほとんどなかった
そのせいで実際の姿では少し気が弱くなってしまう
理乃先輩が居なくなってからはマリアに飲み込まれないように強気になれる姿をいつも使っている

「その時々に姿を変えて人格も変えているのか、そのようなことをして貴様が本来持っていた人格はどうなる?」

「別に問題ないわよ、解除したら戻るしそもそもこれも私だしね。それにもし私が私を失くしても見つけてくれる人がいるから」

「それが写真に写ってるもう1人の女か、だが今貴様の傍にその女は居ないぞ」

「だからここに来たのよ……その人を探してね」

「写真の女が消えてどれくらいの時間が経っている?」

「最後に会ったのは数年前ね」
アサシンは黙ってしまった
その表情は硬く真剣に悩んでいるようだ

「どうしたのよ?」

「今すぐそのコードキャストを解除しろ」

「嫌よ、私の心配してるならいらないわ。そもそもこの姿は戦う時や潜入するときにいつも使ってるやつだし電子世界じゃいつもこれだから」

「……ならせめてその姿以外は使うな」

「その時々で使い分けないと……わかったわよ」

アサシンがあまりにも真剣な顔をしていたから断れなかった
本来は状況に合わせて最適な人格を使うことで私は戦いを円滑に進めていくのだがそれをやめてしまうのは痛い
だがこんなところでサーヴァントとの関係を悪くするわけにもいかない

「しかしその姿が偽りというのは酷い話じゃないか?貴様は俺にさえ本当の姿を見せないとは」
「さっきも言った通りこれも私よ、もし別の私だったらあなたと契約することもなかったかもしれないしね。この私だったからあなたを選んだのよアサシン、それよりあなたについて教えて」

「何だ?俺が気になるのか?」
「まぁ、これから一緒に戦うわけだからね」

アサシンは少し考えこんで答える
「俺という存在は召喚されるまで不安定だ、何故なら召喚される時代のイメージによって俺ではない誰かとして召喚されるからな。今の時期は俺が出るというだけだ、他にも本来の老人の姿をしたヴァン・ヘルシングやヴァンパイアハンターとして最高の知名度を持つヴァン・ヘルシングを称号として無名のヴァンパイアハンターが召喚されるケースもある。」
「それはヴァン・ヘルシングについてでしょ?私はあんたについて知りたいの」

「俺について?それは面白いな。戦闘力はともかく吸血鬼のような化け物と戦う上ではヴァン・ヘルシングの中でも最も強い、それこそ真祖の姫君が恐れるほどにな。俺には複数の怪物と戦った経験がある……もちろん実際に存在して倒したわけではないがな、気配遮断と心眼スキルのランクが高いのはそのためだ。ムーンセルには何度も召喚されたことがある、マスターが居たときもあるし居ないこともあったが今のような形ではなくスポーツのようにマスターを競い合わせるような聖杯戦争だったころからな。残念ながら優勝まで導いたことはないが……そうだな貴様のような手段を問わないマスターとなら行けるかもしれない。戦う上では吸血鬼はもちろんドラキュラの意から竜と戦うのも得意だ、それこそ竜殺しのサーヴァントと比べても遅れを取らない程度にはな」
マスターが居ない召喚とは運営サイドの雑務をこなしていたということだろう
それだけムーンセルからの信頼も厚く経験豊富なサーヴァントというところは期待できる

「吸血鬼と竜には強いのと宝具を使えば怪物なら問題なく倒せそうね、でも普通の相手には遅れを取りそうなステータスだしやっぱりマスター狙い?」
「まぁ、敏捷以外取り柄はないが気配遮断とスピードそして貴様のコードキャストを合わせばマスターでもサーヴァントでも間違いなく先制攻撃を仕掛けられるだろう、それから勘違いされているようだが俺は別に真正面からの戦いができないわけではないそれなりの実力は持っていると自負している」
アサシンはそういうがやはり暗殺者で真正面から戦えばまず勝てないだろう
最弱と呼ばれるキャスターの方がまだ月の聖杯戦争向きだと思える

「凄い自信ね、一体その自信はどこから出てくるのよ」
「ふん、貴様がマスターだからだ……ああ勘違いするなよ、お前を評価しているわけではないが俺はマスター運が悪くてな。勝手に俺に期待しすぎて自滅したものだらけだ」

少しそのマスター達の気持ちもわかる気がする
アサシンはなんというか振る舞いが頼りになる

生死に関わる戦いの中でこうも自信満々で振る舞われるとすべてをゆだねて楽になってしまいたくなるのも仕方がない
「その点貴様はいいぞ、自分より強者と戦い慣れている。アサシンに相応しいマスターだ、いやレディには失礼か」

誰に言っても失礼だ
暗殺者が似合いますねって言われて喜ぶ人はまぁ居ないだろう
居るとしたらその人物はよほどひねくれている

「そうだ、1つ気を付けておくことがある。この聖杯戦争で気を付けるサーヴァントについてだ」
アサシンは運営サイドとして動くこともあるのでそういうことにも詳しいのだろうか
あまりフェアではないと思うがアサシンが話すということは問題がないのだろう

「強いサーヴァントを数えればキリがないが確実に召喚されていてヤバいやつがいる、女騎士のような風貌をしてランスを持っているバーサーカーだ。見かけたら俺に言ってくれそして近づくな」
「何がまずいのよ」
アサシンは頭が痛いといったように手を額に当てると語りだした
「俺が召喚される8割の原因がそのバーサーカーのせいなんだが……そいつは召喚されるたびにマスターを殺し大暴れ、聖杯戦争の運営の邪魔ばかりする。しかもステータスと宝具だけは優れているから中々負けない、あくまで真っ当な聖杯戦争に参加するサーヴァント扱いを受けていてムーンセルが直接止めるのが難しいから俺が始末してるんだが……しかもその宝具が少し特殊でな」
特殊じゃない宝具なんてあるのだろうか?
「その宝具の副作用として周囲の人間を少しづつ自分に合ったように狂わせる特性を持っていてこれのせいで一度強制的に聖杯戦争をシャットダウンすることもあった」

そんな危険なサーヴァントならそもそも召喚できないようにした方がいいんじゃないだろうか?
「とにかく見かけたら教えてくれ。どの辺りで活動をしているマスターくらいは把握しておきたい」
「まぁ、見かけたらね。なんだかムーンセルが管理しているとかいう割にはなんていうか色々と雑なのね」

変なNPCが湧いていたりムーンセルの管理側の記憶を残したままのアサシンと契約できたり色々と問題点が見える

「聖杯戦争という物は試行錯誤中でな、ルール変更が意外とよく起こる。初めは競技としての側面が強かったが今では殺し合いの戦争だ、こればっかりは俺も理解できん」
そんなに数多く開催されているのなら何故これまで聖杯を勝ち取った人物が現れないのだろう?
だがそれよりも気になることが
「それよりアヴェンジャーって何?」

教会前でいきなり姿を見せてあの女のサーヴァントはサーヴァントのことをアヴェンジャーと呼んでいた
「確かサーヴァントはセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの7クラスに割り当てられるはずよね?」

「その通り……なんだがたまに居るんだ、どのクラスにも当てはまらずイレギュラーなクラスを持ってくる英霊がな」

「アヴェンジャー……復讐者のサーヴァントってことでしょうけど他がセイバーなら剣、アーチャーなら弓、ランサーなら槍みたいに武器や宝具の形状とかがある程度予想できるのに対して少しアドバンテージがあるような感じがするわね」
セイバーなら対魔力と騎乗スキルを持っているだろうし、戦場でマスターがぽつんと立っていたらアサシンかアーチャーのサーヴァントが潜んでいないか疑う
だが復讐者についてはまるで情報が無い、相手が復讐相手なら強くなったりするのだろうか?

「セイバーが剣を使うともアーチャーが弓どころか遠距離武器を持ってこないこともあるからクラスなんて意外と頼りになる情報ではないぞ、俺が見たことのある規格外クラスのやつは盾を扱う『シールダー』に神秘の薄れた時代に現れた新たな魔術師クラス『ウィザード』参加サーヴァントとしては間違いなく認められないだろうが様々な権限を持つ『ルーラー』等があるな」

「つまりアサシンでもセイバーと殴り合えるようなこともあるってわけね」

「まぁ、そういうことだ、流石に真正面とは言わないがやり方次第では十分倒せる。ランサーの適正もあるが対吸血鬼に更に特化してしまうからこうして怪物から身を隠しひっそりと殺すアサシンとして現れたわけだ」
「そこについてはありがたいわね、私も自分を透明化させるコードキャストがあるしやろうと思えば2人とも隠れてこっそり相手を仕留められる」

少なくともこれから先戦っていくためのサーヴァントが外れではないようで安心した
ひとまず今は休憩しよう

そういえば予選の時に得た情報
あの時は何の話かまるでわからなかったが今から考え直すと何か有益な情報があるかもしれない
そんなことを考えながら私は眠りにつくことにした
 
 

 
後書き
いつものあとがき  いつも以上に長いです。
佐々野さんが4,5話かけた辺りを1つで駆け足
切りどころが中々……

糸島優衣とアサシンについてのステータスは次話にまとめます
謎の登場人物や謎のサーヴァント『復讐者』にバグってるNPCと優衣ちゃん目線では欠陥が多くみられます
優衣ちゃんには曖昧な佐々野さんの過去やムーンセルの異常を見つけるために校舎内を走り回ってもらいます

さて、本文についてのお話はこの程度で
大変長い期間まるで音沙汰がない状態が続いてしまいました
どうしてこうなった……

前回最終更新がお遊び4月馬鹿とで今は今年が終わろうとしていますね

私はひたすら流された時間でしたが皆様は有意義に時間を使えましたか?




それはそうと

今後もオリジナルのサーヴァントが多数現れると思いますが基本的には何らかの物語の登場人物がメインとなります、中にはそれサーヴァントになれるの?となる場合もありますがどうかご容赦を

候補となっているのでは嵐に飛ばされ旅をするキャスターや自身の名と同じ名前の主人公が居る作品を持つイタリアに多大な影響を与えたキャスター(キャスターばかりですね)etc……

またバーサーカーの真名解放を近いうちにできたらなぁ、と思っています。

ではでは次の糸島優衣&アサシンの紹介ページでお会いしましょう

最後に恒例の次回予告をアサシンことヴァンヘルシングさんにお願いします

アサシン「吸血鬼ドラキュラにおいてのヴァンヘルシングは60歳の老学者だ、実際にドラキュラと戦うヴァンパイアハンターとしてのイメージは舞台や映画の影響が大きいと考えられる、ちなみに作者は『ドラキュラ』より『吸血鬼カーミラ』の方が好きらしいぞ、更にこれは俺調べだがFGOにおいてサーヴァント『カーミラ』がエリザベートの成長姿として扱われているのが少し不満らしい、もっともエリザベートはあくまでモデルであって云々……らしいが気になったら吸血鬼カーミラで検索してみるといい」

長い!蛇足!次回予告してない!
 
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