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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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六 不可視の領域

 
前書き
捏造多数です。
書いといてなんですが、原作熟読していないですし、知識もあまりありません。
尾獣に関しても独自設定や捏造が多く含まれておりますので、ご注意ください!!

タイトルと一部の名前、変更しました。大して変わりませんが、ご了承願います!
 

 
(誰だ…この手…)


白に満ちた空間。
眼に入ったソレが己の手だと気づくのに、我愛羅は幾許かの時間を要した。

(……なんだ…俺の手か…)


自分の手をまじまじと見遣って、眼を瞬かせる。
曖昧模糊な感情とおぼろげな記憶が、彼の思考を鈍らせてゆく。不明瞭な考えばかりが取り留めも無く溢れては泡のように弾けて消えてゆく。


不意に、強烈な感情を伴う心の底からの疑念が胸を突いた。
(…俺は、誰かに必要とされる存在になれたのだろうか…)


手持ち無沙汰に手を開き、そして握ってみる。その手が掴めたモノの正体が我愛羅にはわからない。

夢も希望も未来も、己には手に入れられないモノだと幼き頃から悟っていた。
縁が無いモノだと諦めていた。

しかしながら幼い頃から自分が望み、願い、手に入れたかったソレは、結局のところ、何であったか。
今、心の底から浮かんだ疑問こそが、己の望むモノだと、ややあって我愛羅は気づく。

誰かに必要とされる存在。


(…――何故、必要とされたかったんだろう)
手を開閉させながら、我愛羅は思い巡らせる。


幼い頃……心身共に子どもであった自分は、どういう存在であったか。

何の為に存在し、生きているのか。
生きている間はその理由が必要。そしてその答えが見つからぬ限り死んでいるも同然。
過去のかつての自分は、己以外の人間を殺す為に存在している、という答えに行き着いた。

たくさん殺せば自分の存在を確かめられる。
他人の死が自分の強さの象徴。殺した数が強さであり、己が生きる理由。

今となっては一笑に付すほどの愚かな解答であったが、あの頃の自分にはそれが全てであった。
そうでも考えないと己を保つ事が出来なかった。




開いた手を、我愛羅はじっと見据えた。
子どもの時より随分大きくなった手だが、果たして何かを掴めただろうか。

夢も希望も未来にも縁が無い自分が。手に入れられない自身が。この手に掴めない己が。
そんなおこがましい考えを持てるのだろうか。


誰かに必要とされる存在になりたい、だなんて。


(俺は何故、それを望んだんだろう。そもそも俺とはなんだ…)


自分自身が何者かでさえ、わからなくなってくる。
真っ白な何も無い虚空に、我愛羅は手を伸ばした。何かを掴むように。

広大な白に、ぽつねんと所在なさげに佇む己こそが、取るに足らない存在に思えてきて、自然と自嘲の笑みがこぼれる。


(ああ、俺はなんて小さな―――)




空を切った手が力無くダランと垂れて、下りてゆく。
手を完全に下ろすその寸前に、何かが我愛羅の手首をパシリと握った。



虚空を切って何も得られなかったはずの手が、誰かに引き留められている。
自分の手首を握る白い指を、我愛羅はまじまじと見遣った。


ゆっくりとその指の先を視線で追う。
指、手、腕と目線を上げてゆくと、太陽のように眩い金色が突如として瞳に飛び込んできた。

今まで白のみに占められていた世界で急に現れたその金に、我愛羅は眩しげに眼を細める。
その金色を認めた途端、周囲も色鮮やかになってゆく。曖昧模糊な白の空間が突然鮮明な世界へと一変した。



輪郭は陽炎のようにぼんやりしているのに、妙に鮮烈に思える。
記憶も思考も薄れかかっている我愛羅は、その声の持ち主によって、まだ自分が存在できていると妙な実感が湧いた。
顔も気配も何もわからなかったが、金色だけがやけに眼についた。


「今の君は、ちっぽけな存在じゃない」



我愛羅の手を握った相手がだしぬけに口を開く。
その不可解な発言に答えようと口を開けた我愛羅は、そこでようやく、この世界が何処で、何であるのか知り得た。

此処は…―――。




「そうだろう?」

自分の手を握っている金色の存在が、急に我愛羅の背後へ声をかける。

その呼びかけに応えたのは、獣の唸り声。物凄い威圧感が全身にひしひしと突き刺さる。
同時に、見知ったチャクラだ、と我愛羅の直感が囁いた。


おそるおそる後ろを振り仰げば、巨大な茶釜がそびえ立っている。
幾重にも鎖が巻かれているその釜の奥底から、昔からずっと我愛羅を苛ませてきた存在が、劈くような声をあげた。


「てめぇら…誰の許しで此処に入り込んだんだァ!!??」


眼の下の隈が取れない原因であり、我愛羅を不眠症に至らしめている獣。

茶釜の中央に貼られた『封』の紙を目にして、我愛羅は己の背後に立ちはだかるその者が何なのか思い当った。


「お前は……俺の中にいる…」
「…―――守鶴」


我愛羅の言葉尻を捕らえて、金色の誰かが正確な名を告げる。
名前を呼ばれて、苛立たしげに己の巨躯を怒りに震わせた存在は…―――『守鶴』。


我愛羅の体内に封じられた一尾であった。


























薄暗い洞窟。

再び奇岩で出入り口を閉められた為に、内部は薄暗い。しかしながら、その奥は光すら射し込まぬ闇が広がっている。

意外に深い洞窟の奥を、デイダラは眼を細めて見やった。
先ほど引き渡した我愛羅を、洞窟の奥に連れて行ったナルトの背中を追うように。


ナルトに何事か頼んだペインの姿はもう無い。ナルトの邪魔はするな、との一言を残し、消えてしまった。

事前に聞いた話だと、尾獣を人柱力から引き抜く儀式をするにあたってナルトと何かを契約しているそうだが、定かではない。
何れにしても、手練れの忍び九人がかりで、それも三日三晩掛けてようやく可能となる術を、たった一人で行うという。


「普通なら、ありえねぇと一蹴するところだが…」
「ナル坊なら仕方ねぇな、うん」

サソリとデイダラは呆れたようにお互いに顔を見合わせる。
ナルトが何をしているか気になるのは山々だが、覗いたところで見えはしないし、聞こえはしない。
結界が施されているからだ。


『暁』のメンバーが脅威と敬意を込めて呼ぶその結界は【不可視の領域】。
たとえ【写輪眼】や【白眼】をもってしても、視ることが決して叶わぬ結界だ。



洞窟の奥周辺に貼られた結界を前に、サソリとデイダラは各自思い思いに過ごす。怠けているわけではなく、待っているのだ。

洞窟から消える直前、ペインから聞いた話はもう一つある。
砂隠れの里から我愛羅を連れ戻しに、追っ手が此処へ向かっているらしい。

要するに、ナルトの邪魔をするな、という言葉は、その間に誰かが邪魔をするならソイツを消せ、という意味と同義。

砂隠れの里で、我愛羅と一戦交えたデイダラがこれ幸いと暫しの休息を取る中、サソリは眉を顰める。砂隠れの追っ手というのが妙に気になった。



人柱力から尾獣を引き抜くのではなく、全く逆の行為が【不可視の領域】内で行われているなんて知りもせず、デイダラとサソリは追っ手を待ち構える。


結界が張られた洞窟の奥は、やはり変わらず沈黙していた。

























「……しゅ、かく…」

呆然と我愛羅は呟く。

今まで己の中にいる一尾に怖れ、恐怖してはいたが、真っ向から見たのは今回が初めてだった。
『木ノ葉崩し』の時でさえ、自らの精神を眠らせ、守鶴を呼び覚ます【狸寝入りの術】を使用したのだ。
意識が無く身体を乗っ取られた状態故に、一尾がどのような性格なのかも我愛羅は明確には理解していなかった。



「オレ様の名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!!」

釜が大きく揺れ、幾重にも厳重に巻かれた鎖がじゃらじゃら音を立てる。
守鶴が大きく揺れ動いた為に地響きがし、我愛羅は踏鞴を踏んだ。途端、ずしゃり、と何かに埋もれる。

足元を見れば、砂が足首まで覆っていた。
守鶴が封じられている釜から溢れているらしく、寸前の怒声で益々なだれ込んでくる。

砂漠と言っても差し支えないほどの砂で溢れかえったその場は、先ほどまで何も無かったはずだった。


けれども白い空間は、いつの間にか、飴色の光に満ちた砂漠と化している。
砂隠れの里から月夜に見られる、月光が射し込む砂漠と同じ光景だ。


鎖が厳重に巻かれた巨大な茶釜さえ無ければ。




自分がいる世界の変わりように、我愛羅は戸惑う。

果たしてコレは現実なのか、夢なのか。
けれども己の手を握り締める、正体不明の誰かの手のぬくもりだけは何故か現実味があった。


「そう吼えるな、守鶴」

守鶴の威圧感にも、怒声にも、地鳴りが続く足場にも、微動だにしていない金色の彼が釜へ向かって、悠然と微笑む。
しかしながら穏やかな笑顔に反して、その声音は鋭く強い響きを伴っていた。


「相互理解してゆく仲だというのに」
「ハッ!!人様の領域に無断で足を踏み入れる無礼者と仲良くするわけねぇだろ!!」


鼻で嗤う守鶴を前に、我愛羅は目の前の会話についていけず、沈黙を貫いていた。
けれども、我愛羅が傍観者でいることを、金色の彼は良しとしないらしい。
次いで投げられた一言に、我愛羅も、そして守鶴も呆然と言葉を失った。


「理解し合うのは、俺じゃない」


金色の彼は、そこでようやく顔を上げた。やはり誰なのかわからない。
妙な白い霧のようなものが思考と記憶に覆い被さり、相手の正体だけが何故か知る事が叶わない。

何処かで会ったはずなのに、初対面のような。初めて知っただろうに、どこか懐かしいような。
不可解な謎ばかりが、我愛羅を戸惑わせたが、直後の彼の発言には更に困惑させられた。


「人様の領域だと言ったな。ならば此処は我愛羅、お前の中だ。守鶴…お前を封じる、我愛羅の内」

封印術により尾獣を封じる領域であり、人柱力である宿主と尾獣のそれぞれの意志の境目。



歌うように淡々とそう述べて、彼は我愛羅に顔を向けた。
金色の陰から垣間見える青い瞳が静かに光る。


「だから宿主である我愛羅、お前の許可が必要だな。勝手にすまない」

急な謝罪に、我愛羅は何とも言えなかったが、ずっと自分の手を繋いでくれているそのぬくもりが、まるで己の意識を繋ぎ止めてくれているようで、無意識に頭を振る。
長年自分を悩ませてきた一尾との間にいる彼の存在がとてもありがたかった。

けれども、結局のところ、何故自分はこんな場所にいるのだろうか。



心の内の疑問を悟られたように、金色の彼が我愛羅を真っ直ぐに見据える。そのまま、パチン、と指を鳴らした。


刹那、足場の砂が急激に増え、我愛羅はバランスを崩して倒れ伏す。
ジュウウウウ…と何か嫌な匂いと音がして、顔をあげると、釜を厳重に巻いていた鎖がボロボロと溶けている。その鎖には、いつの間にか紫色の艶やかな蝶が纏わりついていた。

その蝶の鱗粉によってなのか、まるで毒液を浴びたかのように、鎖がどんどん溶けてゆく。頑丈な鎖の囲いが緩むにつれ、茶釜が大きく揺れ動き、膨れ始めた。


そして、最後の鎖の一本が溶けたかと思うと、次の瞬間、釜が弾け飛ぶ。
其処から、のっそり現れたソレは、砂で形成された山の如き巨躯を大きく揺らした。




「ひゃっはあああああ―――!」


高いテンションで、守鶴が雄叫びを上げる。
封じていた茶釜から解放されてしまった一尾を、我愛羅は悄然たる顔で見上げた。


「なにがなんだか知らねえけど、解放してくれたお礼にぶっ殺してやるぜ!!」



隈取りのような文様を纏わせた巨大な体躯を愉快げに震わせる。叫ぶや否や、守鶴は我愛羅と、金色の彼に猛然と襲い掛かった。砂で形成された巨大な腕を振り翳す。

だが腕が振るわれるよりも先に、我愛羅の隣で、金色の彼が涼やかな声で朗々と言い放った。



「俺がお前を解放したのは、会話するならお互いに顔を見て話すべきだと思ったからだ」


守鶴からの攻撃に身構えていた我愛羅は、一向に来ない衝撃に困惑顔で一尾を見る。
己を封じていた鎖も釜も無くなり、自由になったはずなのに、守鶴は動かない。
否、不思議なことに動けないようだ。守鶴自身も己が何故動けないのか、戸惑っている。


その妙な事態に動揺するのは我愛羅と守鶴のみで、金色の彼はやはり変わらず、悠然と構えていた。



「話し合いは共存するに必要な行為だ。いつまでも口を利かないままだと、理解もし合えない」


話し合いの場を設けた彼は涼しげな顔で、しかしながら、有無を言わせぬ強い口調で語る。
難しい議題だが、現時点で少しでも彼らの間柄を良くしなければ、今後が大変だろう。
勝手な言い分だとは百も承知。

事態を把握できずにいる我愛羅の隣で、金色の彼――うずまきナルトは、そこでようやっと、己がこの領域に足を踏み入れた目的を告げた。






「せっかくの機会だ。お互いに歩み寄らないか」

人柱力と尾獣ではなく、仲間として相棒として…――そして友となれるべく。
せめて、それぞれを尊重し合う仲になってほしいが為に。

 
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