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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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五 鈴鳴る向こう

 
前書き
ギリギリの更新、大変申し訳ありません…!!
また、急いで書いたので大した内容ではなく、更に短くて申し訳ございません!


相変わらず、捏造多数です。ご注意ください!
 

 
鈴が鳴る。

砂に染み入るような涼しい音色。
どこか物悲しい音は夜が奏でる風に溶け、やがて消えてゆく。

頭上を覆う巨大な鳥を見上げ、次いで正面を見やったデイダラは軽く肩を竦めた。
「やっと砂ともおさらばだな…」


砂漠から一転、鬱蒼とした森を見て、うん、と口癖を言えば、隣から不機嫌そうな声が返ってくる。

「人を待たせるのは嫌いだ…急ぐぞ」
我愛羅を追ってきたカンクロウの相手をしていたサソリの言葉に、デイダラは薄く苦笑する。

「やれやれ…誰のせいでこんなに時間食ったと思ってんだ」
自分のことを棚に上げてのデイダラの発言に、サソリは間髪入れず、反論した。

「それはお互い様だ」
「そうだった」

再び肩を竦めたデイダラは背後を振り返る。広大な砂地が広がる光景のずっと向こうを、彼は長い前髪の合間から覗き見た。


「追い忍は…さっきのサソリの旦那が相手にしたヤツだけか、うん」
「追い駆けたくとも追えない現状なんだろうよ」
「そりゃどういう意味だ、うん?」


首を傾げるデイダラに、サソリは剣呑な細い瞳を更に細めた。


「言ったろ…俺はお前と違って準備は怠らないんだよ」


砂漠に吹き荒れる風が、デイダラとサソリの外套を大きくはためかせる。
黒地の中心の赤い雲模様が、月下にて異様に赤黒く浮かび上がった。



「引っ掛かるように作るのがトラップ。そして気づかれないうちに仕込むのも、トラップってもんだ」



ククク…、と喉を震わせるサソリの笑い声が、鈴と風の音に雑じり合う。


砂嵐の向こう側を見やるサソリの眼には、今し方強襲した、そして郷愁に駆られた、砂隠れの里が見えなくとも映っていた。
















解毒に成功し、カンクロウが眼を覚ました。
彼は転んでもただでは起きぬ根性で、サソリの服の切れ端を『暁』の手がかりとして、最後の力を振り絞って得ていた。

その切れ端の匂いをカカシが忍犬達に辿らせ、その知らせを待っている間、砂隠れの里に新たな災難が降りかかる。


「た、大変です…!!」

慌てふためいた砂忍が、突然治療室に飛び込んできた。
次から次に襲い掛かる凶報に、バキはただでさえ、眉間に寄せていた皺を更に深くする。


「なんだ、いきなり…!」
「そ、それが…通路の起爆札を取り除いていた者達が突然、倒れて…!!」
「なに…!?」

バキが驚愕の声をあげるよりも、医療忍者であるヒナタといのが、逸早く飛び出す。
砂忍の案内で辿り着いた別の治療室は、病人で溢れかえっていた。



「な…なんだ、これは…っ!?」
愕然と立ち竦むバキとテマリに反して、ヒナタといのは患者達の容態をすぐさま診る。

「麻痺してるわね~…瞳孔が収縮してるわ」
いのの意見に頷きながら、ヒナタが『白眼』で体内を透かし見る。


「…筋肉を収縮する神経伝達物質の伝達が滞ってますね…」

一目で正確な診察をした二人の木ノ葉のくノ一に、感嘆している砂忍を、バキは苛立たしげに問い質した。


「一体、何があった⁉」
「それが…とても取り除けない場所に配置されている起爆札があり…仕方なくあえて爆破させたところ…その爆風の煙を吸った者達が次々と…」

おどおどと状況を説明する砂忍を前に、バキは眉間を指で強く押さえ、「何故、上に指示を仰がなかった…」と呆れが雑じった声を喉から搾り出した。

「勝手な判断がこのような状況を招いたのだ!もっと慎重に行動しろ!!」


怒鳴るバキの背後で、淡々と患者を診ていたヒナタといのが、忙しなく手を動かしながら眼を細めた。

「状況から察するに、その爆風がただの爆風ではなかったようですね」
「瞳孔の収縮、痙攣、咳…症状から見て、おそらく毒ガスね~…」



ただの爆発ではなく、毒ガスを孕んだ爆風をその身に受け、全身全身が麻痺している。
もっとも幸いなことに、命に別状はないようだ。症状もさほど重くない。
だが、人数が人数である。

カンクロウの治療を終えたばかりだが、いのとヒナタは手分けして彼らを診た。毒に詳しいチヨも、二人と協力して、患者を治療する。

三人は流石に手馴れていたが、特に『白眼』を持つヒナタの正確な手腕は見事だった。



頼もしい同期であり仲間であり友達であるヒナタといのの二人を、ナルは誇らしげに見る一方で、同時に何も出来ない自分を歯痒く感じる。
できることと言えば、包帯を変えたりタオルを洗ったり、といった簡単な作業だ。

テマリも医療関係の知識はないので、さほど助力できない己を悔いているらしく、唇を噛み締めている。けれども、時々、チヨに教えてもらったのか、ナルよりは手早く治療の補助をしていた。


やがて医療忍者の能力の高さから、比較的早く、患者達の呼吸が落ち着いてきた。
それでもまだ、油断はできない状況で、まだ毒ガスの影響を受けている砂忍もいる中、『暁』の追跡を頼んでいた、忍犬が戻ってくる。

我愛羅の匂いもした、と報告する忍犬――パックンの話を聞いて、カカシは顔を顰めた。

「そうか…すぐにでも出発したいが…」



チラリ、とカカシは、医療忍者が奮闘する治療室を窺う。カカシの視線に気づいたヒナタが手を止めた。

忍犬とカカシ、そしていのへ視線を這わせ、最後に、ナルを見る。
決断は、早かった。


「こ、ここは私に任せて、先に我愛羅くんを助けに行ってください…!」

いつものように口ごもりながらも、ヒナタの声音にはしっかとした決意が秘められていた。
綱手の弟子であり、同じ医療忍者のいのが、ヒナタの宣言に驚愕の表情を浮かべる。


「な…!ヒナタ、あなた…」
「私は大丈夫です。ここの患者さん達をきちんと治療して、後からナルちゃん達を追い駆けるから」
「ヒナタ、でも…っ!」

思わず身を乗り出したナルに、ヒナタは穏やかに微笑んだ。
診察している身、額をつたう汗が窓から注ぐ陽光で、キラリ光る。


「し、心配しないで、ナルちゃん…。『白眼』を持つ私なら、そんなに大変じゃないから…ね?」
「……そうなんだってば…?」

ヒナタに説得されつつあるナルをよそに、いのは秘かに眉を顰めた。
いくら『白眼』を持っていたとしても、たった一人でこの人数を治療するのは大変に決まっている。
けれども同時に、ヒナタの考えをいのは察した。


ヒナタは、ナルとカカシだけを、我愛羅奪還に行かせまいとしているのだ。
班につき一人は医療忍者が必要。特に、なりふり構わず敵の許へ向かってしまうナルの身を案じているのだろう。

本当は自分こそがナルと一緒に行きたいだろうに、適材適所を考え、ヒナタはいのに頼んだのだ。
頭に血が上って、敵に突っ込んでゆくナルを止めるストッパー役兼医療忍者として。



ヒナタの視線から、彼女の意図を感じ取って、いのは軽く溜息をついた。
承諾の意の吐息だった。



「…わかった。命に別状がある緊急の患者はいないから、ヒナタに任せるわ~」
「う、うん…ありがとう、いのちゃん…すぐ追い駆けるからね」

二人のやり取りを目にして、聡いカカシは彼女達の思いやりと成長っぷりに、眼を細める。


ヒナタだけではなく、ここには砂の医療忍者もいる。
だがヒナタの助けなくては、患者が回復するのは聊か難しい。状況から考えて、ヒナタの判断は間違っていないだろう。

なんせ一刻も早く我愛羅を助けに行くのが、一番の目的なのだから。



ヒナタに患者を任せ、早速パックンから得た情報を頼りに、ナル・カカシ・いのが砂隠れの里を出発する準備をする。
しかしながら、一緒に我愛羅の救出へ向かうはずだったテマリを始めとした砂の手練れの忍び達は、バキに止められた。

風影の不在が公になれば、他の里が攻めてくる可能性もあるという、里を第一に考える上層部の決定で、テマリは国境警備を余儀なくされた。
反論するも、苦々しい表情を浮かべているバキの顔を見れば、彼もまた上からの命令を渋々聞いたということが窺える。


板挟み状態となった砂忍達の頭上から、突如降ってきた声の主は、思いも寄らぬ人物。

「わしが行く」
決意を瞳に湛えて宣言したのは、砂隠れの里の相談役のチヨだった。


砂風に服を靡かせ、高齢を感じさせない軽い足取りで、ナル達の前に降り立つ。
隠居した身であり里の相談役、その上、かつて熟練の傀儡師と謳われたチヨには里の上役もなかなか口を出せない。それを逆手に取って、チヨは口許に弧を描いた。


「可愛い孫を久しぶりに可愛がってやりたいんでのう…」


どこか妖しい皮肉げな言葉の裏には、孫に対する複雑な感情も僅かに感じ取れる。

かつて砂隠れで傀儡部隊の天才造形師と謳われた『赤砂のサソリ』。
彼の実の祖母であるチヨは、大きな決意を胸にすると共に、感慨深げに眼を細めた。





















見渡す限りの砂海と暗澹たる森の狭間。

広大な砂漠を抜け、鬱蒼とした木立を歩くデイダラとサソリ。
その傍らで羽ばたく巨大な鳥が捕らえている我愛羅は未だ目覚める気配がない。


「なるほどな…起爆札に見せかけての毒ガスか…ねちっこい旦那の好きそうな手段だな、うん」
「誰がねちっこいだ、ぶっ殺すぞ」

サソリが砂隠れの里に残した更なるトラップの話を聞いて、デイダラが軽く口笛を吹く。
感嘆しつつもわざわざ揶揄してくるデイダラを、サソリは苛立たしげに睨んだ。


「さっき旦那が相手にした砂忍の治療で困ってるのに、毒ガスで病人は増える一方…今頃、里は阿鼻叫喚だな、うん」

木ノ葉からの救援である腕利きの医療忍者…いのとヒナタの存在を知らぬデイダラが嘲笑すれば、サソリは僅かに肩を竦めた。


「…と言っても、時間が無かったから、毒ガスのほうは大した効果はねぇ…毒に詳しい人間なら十分治療できる程度だ」
「毒に詳しい人間…?誰だ、うん」

デイダラの問いに、サソリは口を噤んだ。
毒に詳しい、祖母の姿が彼の脳裏を一瞬過ぎってゆく。


暫しの沈黙の後、サソリは一言、「さあな…」と答えた。




サソリの妙な返答に、デイダラは怪訝な顔をしたものの、すぐに目線を下に向ける。

清涼な渓流。切り立った崖の端で立ち止まり、下を覗き込めば、唐紅の社が大きな奇岩の前に鎮座している。

急にぽっかり開けた森を背後に、険しい崖から降り立った二人は唐紅の社へ足を進めた。



岩壁に穿たれた穴を塞ぐように佇む社。そしてその穴には奇怪な岩が嵌っている。
我愛羅を捕らえる鳥を伴って、社の前で印を結べば、奇岩怪石の中央に貼られた『禁』という御札から赤い光が迸った。

ややあって、途轍もなく大きな奇岩がズズズ…と上へ浮き上がる。岩から滴る水が糸を引き、小さな滝を作り上げた。

奇岩が浮くにつれ、ぱっくりと口を開ける洞穴。



社を潜る。

滝を抜け、洞窟の中へすうっと入った巨大鳥が我愛羅を下ろす。
途端、白煙となって掻き消える鳥をよそに、洞窟の出入り口付近で待っていた男は開口一番「遅かったな…」と、デイダラとサソリをやや責めた。

「思いの外、強くてな…人柱力ってのは」

デイダラがそう弁解すると同時に、背後で再びズズズ…と音が轟いた。奇岩が外からの光を遮り、深い闇が広がる。
閉ざされた外界。


「もうお待ちかねだ…」

陽炎のように揺らめいた姿で、ペインは背後を振り仰いだ。
洞窟の奥。更に深い闇の向こうで佇む彼の姿を認めて、デイダラとサソリは笠を恭しく脱いだ。



「頼んだぞ…――ナルト」




陽炎の如く揺らめくペインの言葉に、闇から静かな声が応えた。
デイダラとサソリが被っていた笠の鈴よりも、いっそ涼やかな声音だった。




「――ああ」

 
 

 
後書き
急いで書いたので大した内容ではなくて申し訳ございません!!

これからも、どうかよろしくお願いいたします。 
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