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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  狂気の笑い声


今までのあらすじ

翼刀、唯子、ショウと、次々に敵と出くわしていく「EARTH」。
戦力は確実に削られており、もはやまともに戦える者は数少ない。


その中で今、蒔風ショウが相手にしている四人。
ヴォルケンリッターに良く似たこの四人は、一体何者だと言うのだろうか?



------------------------------------------------------------


唸る剛剣。
奔る鞭剣。

縦横無尽に駆け巡る連結刃は、周囲を覆うように張り巡らされて、その周囲を削っていく。

その中を、一人の男が一直線に突き進んでいっていた。


「オオオオぉォォォォオオオオオオオオオ!!!」

「あっはははははははは!!ははッ、はははぁ!!」

握ることなく腰からスカートの様に魔導八天を下げ、自分に襲い掛かろうとする連結刃共の中を、そのまま疾走していくのは蒔風ショウ。
周囲を奔り、自分に迫る刃など無視して只々似非シグナムと言える存在に向かって一直線に掛けていく。


周囲を覆うような無数の刃。
もはやワイヤーであろうとも、触れれば切断されるだろう。

そんな中を、だからこそショウは一直線に駆けていく。


回避すればその先で絡め取られる。
弾けば足が止められる。

その場凌ぎはいつまでも続くかもしれないが、逆にいつまで持つかわからない。
それが崩れた時、自分が死ぬ時だ。


ならば、取るべき行動など一つしかない。


(ただ眼前の敵を見据え)

ゴ――――

(突き――――)

――――ォウッッ!!

(進むッッッ!!!)



「うっハァ、ははははははははは!!すげぇすげぇ!!これだけ斬っても斬れないなんて、今までで一番骨のあるクズ野郎だよあんた!」

その目的地。
似非シグナムは、そこで恍惚とした―――というほど上品でもなく、発情したと言うのが合っている顔をして大笑いしながら柄を振るっていた。

その大振りにも見える動きは、しかし確実にショウの周囲へと迫っており、それに見合った破壊力を秘めていた。


「当たんねぇ、当ったんねぇ!!もうこれ以上早くなんねぇって早く斬られてブシャッとイけよこのクズ野郎!!!」


楽しそうに。しかしその直後怒りの感情を臆面もなくぶちまけてさらに荒々しく剣を振るう。

当たらないのは、何もこの似非シグナムの攻撃が荒いだとか、感情が暴発しているから、ではなく。
ただ単に、ショウの突進スピードがそれだけ早いと言うだけのこと。


もしも讃えるのであれば、それはショウの速さでありそれに食らいついていく似非シグナムのセンスだ。
人格、性格はともかく、非難に値するような戦いぶりはここにはない。



だがそれにも終わりは来る。
つまり、ショウが目的地にたどり着く時だ。

それは似非シグナムが斬られる時であり、この戦いが終わる時だ。

無論、それは彼女もわかっていることだ。


最初は簡単に斬られてくれないこの男に興奮した。

嗚呼、このクズ野郎となら、最高に最悪な斬りあいが出来る!!自分が斬って、しかも斬られるなんてこと、同時に思い知れるなんて!!

さあ、さあさあさあ!!
暴漢のように襲い掛かり、痴女のように悩ましく、外道のように斬りあって、下衆のように大笑いして、餓鬼のように血を舐めて、バラのような艶やかな血で彩って、死に化粧の中で死にましょう!!


だけど、この男の顔を見てだんだんとわかってきた。
コイツには、私を斬る気はあるくせに斬られるつもりはないらしい。

斬られる覚悟はあるようだけど、そんなことは断る。そんな顔だ。


「何コイツ。一人だけ斬ろうっての!?自分だけ気持ちよくなろうっての!?ダメダメそんなんじゃァダメなんだ!!私は斬りたいんだ。斬られたいんだ!!あんたはどっちもやられなきゃぁぁああああああああ!!!」

悲鳴を上げる。
耳を劈くような声に、ショウも思わず顔を苦しげにしかめた。

だが止まらない。

無理矢理ゴリ押すように脚を踏みだし、似非シグナムに向かって突っ込んでいく。


そして

「喝ァッッッ!!!」

一喝。


その一発の声に、似非シグナムの身体がビクンと振るえた。
何もこれは、心情的なものや脅しではない。

彼のいつも放つ、主力技である波動砲。
それを声に混ぜて発したのだから、それほどの威力はなくとも、これは言わば「一喝(物理)」と言えるものだ。


「取ったァ!!!」

動きが止まり、追って来ていた連結刃の動きが鈍る。

この一瞬の一撃。
否、ショウの握った魔導八天の後を、他の七剣が追従する。

故に、正確には八撃。
ショウが一振りすれば、それに続いて残りの刃がこの女を切断する。

そのはず、だったが


「大声だしてぇ・・・踊ろうぜェ!!」

中指を立て、舌を出し
そう叫んだ似非シグナムが、右手に握った柄を振り上げた。

瞬間、地面にたるんだワイヤーが引き締められ、一斉に主の元へと集結していく。


当然、ショウはそれを踏まないように駆けてきたはずだ。
だと言うのに、その足は掬われて


「ッ!!」

「弾けてイっこーぜぇ!!!」

何とか体制を整えたそこに女の一撃が叩き込まれる。


その一撃も、大したものだった。

引き寄せられた連結刃は、剣の状態に戻るでもなく彼女の足元に束になって詰まれただけだった。
彼女はそれを軽く蹴り上げ、ショウの目の前にフワリと浮かせる。

咄嗟にショウは魔導八天を眼前に防御のために出した。
とはいえ束ねることなどする暇はなく、八本バラバラで目の前に放っただけのような形だ。


そして、似非シグナムは柄を引いた。



仮に、あなたが掃除機のコードをしまうとしよう。
きっとあなたは、掃除機のボタンを押して巻き取られるコードを想像するだろう。

これはそれだ。

だたその勢いは掃除機の比ではないし、ワイヤーも絡まらず、更に刃が取り付けられているとすれば


ガッチュゥンッッッ!!


その丸まったかのような連結刃が、ビチビチと跳ねながら目の前で踊った。


「グォッ!?」

ニィッ、と決していい目つきではない顔で笑いながら引くシグナムと、目の前で弾ける火花に眩みながら後ろに飛ばされるショウ。

魔導八天の七本は四方に飛び、残るはショウの手に握られた一本のみ。

そして後ろに飛ばされたとはいえ、その距離は二、三メートルがせいぜい。
更に、この攻撃で似非シグナムは柄を引いている。つまりこれは「今の攻撃」と「その次の攻撃の準備」を同時に行えると言うことで――――


「斬ったァ!!」

先ほどとは立場が逆だ。
今度は似非シグナムが叫んで剣を振る。

だが、逆だと言うならショウにも逆転の手はあると言うこと。


「集まれ!!」

剣を構え、振ることなく叫ぶ。
ショウが手にするこの剣は、魔導八天を一つにまとめる際にその中心となる剣だ。

つまりそれには、十五天帝の天馬の様に、他の剣を引き寄せる力があり



「串刺しだ!!」

弾けた七剣が、一斉に似非シグナムの方へと


「いやだぁ」

突っ込み、刺さらなかった。

「な・・・・・」

展開された連結刃は、再びドーム状に広げられた。
そして彼女の正面は当然、上部、後部から飛来する剣七つの全てを絡め取り、空中でそれを止めてしまったのだ。


「そんなに太くてぶっといので刺したいのならァ・・・自分の手でじゃないとダメだろぉ!?」

「ギッ!?」

目の前の光景に驚いている隙に、首に手が伸びて締め上げられていく。
そして足がぶらりと浮き、似非シグナムによってショウの身体が持ち上げられた。


「ガ・・・・くっ」

「はぁ、いい。あんまり斬られなかったけど、ここから楽しめるよなぁ?これからこのままあんたを斬って、あんたは抵抗してあたしを斬る。斬って、斬られて、ズタズタのボロボロになって、互いの液体混ぜ合わせてその中でぶっ倒れよう・・・・?」

ショウは空いた片腕でその片腕を外そうともがくが、揺れるだけで外れはしない。
それどころかこの女、ショウの口から流れてきた唾液が手に触れて興奮しているのか、更に手に力が込められていく。


「さあ・・・じゃあ斬り合いのぉ・・・始めェ!!!」

「ブラッディ・ダガー!!」

「チッ!?」

ドドドドドドド、ドンッッ!!!



ショウの身体を、魔導八天を絡めた連結刃でそのまま切ろうとした似非シグナム。
直後、そこに向かって、澄んだ声と共に紅い魔力光を帯びた短刀が多数飛来して爆炎を起こした。

連結刃を使ってそれを弾く似非シグナムだが、魔導八天が絡まっていて本来の速さが発揮できない。

やむなくそれらを落とし、飛来したダガーをすべて落とすも、更に叩き込まれた砲撃に腕を弾かれショウの身体を落してしまう。



ドサリと落ちるショウは、倒れたまま即座に似非シグナムの腹を蹴り飛ばした。
シグナムの身体は転がり、喉を抑えてショウが咳き込む。


「あ゛ぁ゛!?てめっ、また蹴りやがったなぁ!?斬れっつったろうがよぉ、えぇ!?」

「ゲホッ・・・・首絞めは良いのかよ・・・・・」

「ってか、邪魔しやがったの誰だ!!突き刺したいってんなら大歓迎だけどねぇ、一方的なのは嫌いなんだよ!!」


ガァア!!と怒れる似非シグナム。
するとその声に応じる様に、ショウの隣にリィンフォースが降り立った。

「リ、リィンフォースか・・・・」

「はい。あなたに手を貸すのは何とも不思議な感じですが・・・・今ここは加勢しましょう」

「厳しいね」

「胸に手を当ててください」

「はは。まあそりゃそーだ」

差し出された手を掴み、よっこらしょと立ち上がるショウ。
だが彼女を後ろに配する様に前に出て、取られないうちに魔導八天を手元に戻す。


「さて、じゃあもう一回・・・・」

「待ってください」

もう一回。今度は一緒にやるか?と聞こうとしたショウだが、それをリィンフォースが制して並び立つ。


「その前に、あれがなんなのか知りたくないですか?」

「・・・必要あるのか?」

「さあ?ただ生前のことを知るのは、そのサーヴァントを倒すのに必要事項だと聞きましたが」

「・・・・・聞いとく。ってかそうか!!お前なら知ってるかもだよな!」

実際にはこの事件におけるサーヴァントは英霊の座からによるものではないため、生前どのような死を迎えたかなどはあまり攻略に劇的な意味を為さない。

とはいえ、これほどの実力者がどんな死に方をしたか、というのは弱点に直結する。
生前の制約などはないにしろ、有利になるのは確実だ。


そして、リィンフォースは夜天の書の管制人格プログラムだ。
もしかしたら、あのヴォルケンズのことも何か知っているかもしれない。


「さて、ではゆっくり話している暇はなさそうなので」

「ああ。出来れば落ち着いて聞きたがったけどな」

「それはまた今度ッ!!」

「おっけ。そうするとしよう!!!」

その場に襲い掛かる連結刃を回避し、弾けるように左右に分かれる二人。
その間、リィンフォースからの念話による話を聞くことになる。





夜天の書は、彼の地アルハザードにて作り出された。
目的は、先人たちの知恵や技術を記憶、記録し、後世へと長く伝えていくための記録媒体デバイスだ。

その過程で様々な悪意ある改造が施されたのは周知の事実だが、その開発の際に組み込まれた最初のプログラムがある。



その膨大な情報を管理し、主をサポートするユニゾンデバイス。
管制人格プログラム。当時は名も無きリィンフォース。

主を転々とする継承システム。


そして、その主を守護する四人の人格プログラム。
それが、守護騎士・ヴォルケンリッター。

烈火の将・シグナム
湖の癒し手・シャマル
紅の鉄騎・ヴィータ
盾の守護獣・ザフィーラ

それを構成する四人は、どれもその道のエキスバート。

即ち「戦闘」「治癒」「破壊」「防衛」
だが能力だけを求めては、プログラムとはいえただの機械だ。幾つもの時代を越えて継続されるであろうこの夜天の魔導書を守る存在だからこそ、柔軟性が求められた。


ならば、ゼロから人格プログラムを作り出すよりも、元から存在した人間を元に作り出した方が完成度は高くならないだろうか。



『じゃあまさか』

『はい。あの四人はおそらく、烈火の将たち四人の元になった』

『オリジナルってことか!!!』


確かに、考えてみればわかる気がする。

この圧倒的な戦闘センス。
背後から伸びる魔導八天すらその連結刃で絡める手腕など、並みの使い手ではない。

ただ当然ながらその人格をそのままではマズイとされたのか、そこに多少の改変はされていたようだ。


『シグナムのバトルマニアはこれが元ってことか』

『まあ・・・そうなりますね』

苦笑するようなリィンフォースの声。



つまりこの似非シグナムは、何一つ嘘などついていなかった。
そもそも、似非などではないどころかオリジナルだったということだ。


『あの女性には名前がありません。捕まった時、名前も何もかもを剥奪されましたから』

『捕まったって・・・・ああ』

聞いて、バカなこと聞いたと一人納得する。
あんな性格じゃあ、その時代の警察に捕まるのは当然だ。




『彼女は連続殺人犯です。しかも、おおよそ報道できるような方法や趣味嗜好ではない』

知ってる。それは身を以って知ってる。


『最終的に39人を惨殺と、一人を殺人未遂。一人殺すごとに自身も傷を負い、最後には瀕死の状態で病院に担ぎ込まれたらしいです』

『殺人未遂?殺し損ねたってか?』

『担ぎ込まれた警察関連の病院で、麻酔を打たれたにもかかわらずメスを入れられると同時に医師に切りかかって行ったらしいです』

『・・・・・・・・』


収監後に彼女の人格はサンプルの一つとして取られ、投獄。
結果として彼女のそれをもとに烈火の将・シグナムが誕生し、恩赦として秘密裏に死刑は免れていたらしい。

だがそのことは知らされず、彼女は死刑宣告をされたとして、絞首刑を嫌がり脱走。
死を恐れてではなく、その死に方が嫌だったらしい。

塀の外に逃げることはせずに自身の剣を奪取した後、受刑者203人、刑務官28人の総数231人を斬り殺し、さらに重軽傷者300人以上を出して射殺された。自分と400人余りの血だまりの中で、大笑いして死んでいった最期だった。



『ってことは他の三人も?』

『ええ。ですがこれ以上は!!!』


ドシュゥ!!と、飛来してきた連結刃を回避し、リィンフォースが言葉を切る。

回避一辺倒だったからこそ会話が出来ていたが、戦闘に入ればそんなことはできまい
二人が並び立ち、拳と剣を真っ直ぐに彼女へと向ける。


「他の三人は・・・まあ、これが終わってからゆっくり聞く」

「そうしましょう。あれが一番厄介な敵ですからね」


ヴォルケンリッターの将たるシグナムの元であるだけあって、その実力は折り紙つきだ。

しかも、シグナムはその人格を構築される際に様々な知識等が組み込まれている。
その際そぎ落とされてしまった技術や力があると言うのならば・・・・この女には、シグナムにはない戦闘方法があると言うことだ。



「サーカスみたいでいいけどさぁ・・・・そろそろもっと血を噴き出してイこうぜぇ!?」

「行きます!!」

「おう!!」


いよいよもって斬り込みに行く二人。

柄を振り上げ、二人に向かって連結刃を伸ばしてくる似非シグナム。
だが、その瞬間


「グッ!?」

「な・・・どうしたんですか!?」


駆けだしたと同時、ショウが胸を抑えてその場に倒れ込んだ。

振り返るリィンフォースだが、迫ってくる連結刃がある。
魔力で装甲した腕でそれを弾いていくが立ち止まってしまっていては的だ。


振り返ると、地面に倒れたショウはみるみる顔色が悪くなり、苦しそうに息を切らし始めていた。


「グッ・・・はぁ・・・お、い」

「なんですか!というか、何があったんですか!?」

「それ言ってる・・・暇はない。お前、行け」

「な!?」

ショウを守る様に立って連結刃を弾くリィンフォース。
その彼女に、ショウはあの女を倒してこいと言う。

だがここを離れれば自分より先にショウの首が飛ぶだろう。
それがわからない彼ではないはずだろうに、そんなことを言い出す理由がわからなかった。


「グッ・・・ッ、フンッッ!!」

一際苦しそうに呻くショウ。
すると、一気に自分の胸のあたりを拳で殴打したではないか。

その瞬間、ストッパーが外れたように彼の呼吸が大きく、思い切り吸い込むようになり、何とか自分で立ち上がることにも成功していた。



「ハァ・・・はぁ・・・・これなら、いいか?」

これなら一人で大丈夫だ。
そういって、ショウが再びリィンフォースを促す。

そこで、彼女はショウの視線の先にいる人物に気付いた。

なるほど。彼女が相手にいる以上、放置しておくわけにもいかないと言うことか。



「任せます」

「逆だ。そっちの変態任せるからこっちの変態やってる間、足止めしとけ」

「・・・まあいいでしょう。でも、別に倒してしまってもいいんですよ、ねッッ!!!」


ダンッ!!と、ショウの言葉に皮肉気味に返してリィンフォースが似非シグナムへと突っ込んでいく。

彼女はユニゾンデバイスだが、一人であってもその戦闘能力はかなり高い。
似非シグナム一人なら何とか抑え込むことも可能だろう、とショウは思っていたのだが


「あいつ、さらっと死亡フラグ口にしていきやがった」

だがそれをそのままに現実にさせる程、彼等は弱くない。
・・・・・まあそれでも現実になってしまうから「死亡フラグ」というのだが。

「ま、そうだとわかってれば逆にフラグも折れるかもしれないし」


そういって、冗談交じりに話を終わらせるショウ。


彼が睨んだ先にいるのは


「いきなり心臓を直に鷲掴み?あっちもそうだがお前も大外だな」

「そうかしら?素晴らしい殿方がいれば、そのハートをゲットしたくなるのは当然でなくて?」

「それを言葉通りにハートキャッチするバカがいるか」


淑女らしい言葉遣いながらも、どこかほわほわした感じがあるのは、流石は「元」となっただけのことはある。
だがほわほわしていたりするのは、あくまでもその言葉だけのこと。

その顔はやはり、「滾ってきた」といった具合に高揚した物であった。


「お前の名は?」

「名前はありません。わたくし、それを奪われてしまったもので」

「あれとおなじか」


そういって、ショウが一切の油断もなく睨み付ける。
服装は看護師らしいものだが、彼女の雰囲気がその優しそうな服の雰囲気を完全に塗り替えている。

湖の癒し手・シャマル
そのもととなった人間なのだろう。


会話からして、この女―――――


「それにしても、強いですのねぇ・・・・」

「・・・まあな。で?」

「ああ、いいですわ。どんな怪我でも生きている。どんな無茶でも無事でいる。どんなことをしても、簡単に死なない、壊れない!!素晴らしいですわ!!だって―――――どんな看病しても、あなたは絶対に壊れない!!」

ヒクッ、とショウの口元が吊り上る。
もちろん、面白そうにではなく、後ずさりそうな足を抑えての引きつった笑みだ。


「今までのご主人様はダメでしたわ。み~んな私の看護で治ってしまうんですもの」

「・・・はぁ?」

「ダメなんです!!治るのは良いんです。でも、私は看護し続けたいんです!!だから、健康でいるのはいいけれど、健康でい続けるご主人様なんて耐えられない!!」

「げ」

「だから、私が管理するんです。大丈夫ですよ~、絶対に死なせませんから。あなたはベッドで楽にしてればいいのです。全部私がやります。私が看護します。弱っていくあなたを励まし、元気づけ、そしてそのすべてを管理してさしあげますわ!!」

(こ、こいつ・・・・)

おそらく、この女はそんな看護を繰り返して何人もの人間を殺してきたのだろう。
殺している、という自覚があるかどうかわからないあたり、さっきの似非シグナムよりもたちが悪い。


ショウのその予測は正しい。

この女は、これまで仕えてきた主人の看護をし続けてきた女だ。
それだけを生きがいにしていた女だ。

だが、主人が回復することは喜ばしいがそのままでいるのは耐えられない。
自分の元に帰ってきてほしい。私が全部のお世話をしたい。


だから、また怪我や病気を与える。

都合よく倒れればそれでよし。
そうでないときは、自ら仕組んだ。


食事に微量の毒物を混入
家具の固定を緩めて事故の誘発

ある時には自分から襲い掛かったことすらもある。


そうしてこの女は、実に3人の人間を苦しめてきた実績がある。

一人目は2年で死んだ。
慣れてきたので、二人目は9年生きた。

最後はかなり長引いたが、12年で壊れた。

そして、その総年数23年の間に彼女が起こした傷害及び殺人未遂の数は実に9000を超える。
この数は、一日一回以上仕掛けないと到達できない数だ。



「さぁ・・・あなたの看護をさせてください。いつまでも、いつまでも・・・あなたの身体を、私に預けてェ!!」

女の手が伸びる。
ショウとの距離は20メートル。

だが、ショウはその場から転がって即座に回避した。


(チッ、ま~た厄介な奴に目ェつけられちまったな、おい!!!)



------------------------------------------------------------



「やったか?」

ジリ、と、翼刀が蒔風の倒れている場所ににじり寄っていく。
途中までは普通に接近していたが、ここにきて急に足取りが重くなった。

蒔風まで、残り5メートル。
だと言うのに、その距離が二十倍もあるように感じる。



「やった・・・のか?」

再び口にする。
今度は疑問の意味が強い。

この男は、これだけのプレッシャーを倒れているままで与えられると言うのか。

だがそれでも止めは刺さねばならない。
気は進まないものの、そうしなければセルトマンからの魔力供給で傷は癒えてしまうからだ。



意を決して、五メートルを詰める一歩を踏み出す。

瞬間



《俺のクラスはアサシンだ――――》

「ッッッ!!!!」


最初に言葉を交わした時の、そんなセリフを思い出して即座に振り返っていた。

だが、そこには誰もいない。
当然だ。倒した男は、今目の前で倒れている。


首を戻し、再びそこに倒れている蒔風を見据える。
ぐったりと腰から倒れ、脚を投げ出しているその姿にある種の安堵を覚えた。

この状態で反撃などありえない。



そう、彼が油断した瞬間。


ドッッ!!

「ぐゥッ!?」

心臓目掛けて、重い一撃が叩き込まれた。
目の前の、倒れたままの蒔風が、白虎釵を手にして腕だけを突き出している。


「な・・・・・」

「やはりいい反応をする。突き刺さった瞬間に身を翻し、心臓に刃が到達するのを防ぐか」

声がした。
その声は、自分の背後から。

目の前の蒔風を踏みつけ、胸から白虎釵を抜いて振り返る翼刀。
そこにいたのは、間違いなくアサシンのその姿だった。


「暗殺者が敵にその姿をさらし、しかもそのままで死ぬと?」

「まさか・・・こいつは」

胸を押さえ、ヴァルクヴェインの力で何とか止血だけは済ます翼刀。
先ほどの蒔風を見ると、ぐったりして倒れていた所に一本の剣が転がっていた。


「白虎・・・?」

「そうだ。本来は使役獣なのだがな、どうやら勝手が効かないらしい」


十五天帝に宿る使役獣。龍虎雀武・獅子天麟。

今の状態の蒔風ではどうやら使えないらしいが、それでも蒔風の姿を取らせて身代わりくらいには使えるようだ。


「うん、案山子としては十分に使えたから上出来」

「くそ・・・一瞬の操り人形かよ」

「と、いうより身代わりの術だな、うん。にしても精度に欠けるな。心臓を一突きにできねば意味がないし」


そういって、「天」と「地」を抜いてだらりと腕を降ろす蒔風。
どうやら、ここからが本気の戦いになりそうである。


「正面からの戦いか。暗殺者として召喚された以上はその流儀に則りそれっぽくと思ったが、やっぱり俺はこういう戦い方が性に合う」

「くそ・・・・ヴァルクヴェイン!!」


翼刀が叫び、剣を構える。

そうだ。
相手は過去の蒔風舜。


基本的に情報は与えられても、翼刀とは初対面の存在だ。
そんな男を相手にして、この蒔風が何もなしに突っ込んでくるわけがない。


翼人の脅威は、その強さではない。
強さもさることながら、一度戦った相手には多少なりとも優位に戦えるその理解力。

一回目で勝利できない場合、そして自身の力を知られた時、翼人に勝つことは困難だ。



「貴様の力は不動拳とかいう武術。驚くことに四剣の一、ヴァルクヴェイン。そして、渡航力と言ったところか」

ばれている。
こちらの手の内は、ほぼ見透かされた。


だが

「まだこっちも明かしていない手の内はあるぜ」

「だろうな。それだけのものがあるならば、バリエーションは相当なものだろう」

「ああ。だからよ・・・勝った気になるなよな」

「そうだな。そういうのはいくらでもいえる」

「ちっ・・・・そこまで言うなら、俺の技見て驚くなよ!!!」


翼刀が駆ける。
過去、一度は圧倒したその男に。

今、その背を追う男の内の一人に。

そして、いつかは追い抜いてやるその姿に。


「鉄流不動拳十八代目当主、鉄翼刀。参る!!!」



to be continued
 
 

 
後書き

まあ当然、蒔風がそう簡単にやられてくれるわけもなく。

途中から白虎に変わってました。
こういう使い捨てにするあたりが第二章。


似非ヴォルケンズの二人の素性が明らかに。
似非のお二人さん、ホントにイカレですね。


似非シャマルを書いてると、ネウロのドラマCDの犯人にそっくりなことに気付く。
あの犯人も介護厨だったからなぁ・・・支配欲と愛情が織り交ざったドロッドロの。

犯罪歴ヤバすぎるだろ。



ショウに思わぬ援軍。
まあ彼自身なんだかんだ言って、セルトマンにボコされて、オフィナの爆発に巻き込まれ、ですからね。

リィンフォースと一緒にがんばれ。



ショウ
「次回。VS似非ヴォルケンリッター」

ではまた次回 
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