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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  奇怪接敵

今までのあらすじ


決着する赤銅と飛鳥の戦い。
両者共に虚空へと消え、嵐は初めから無かったかのように霧散する。


だが、その間にも戦いは続く。

今後、召喚予定サーヴァントは五騎。
現存のサーヴァントは六騎。


かつての悪、過去の蒔風と戦う翼刀。
そして綺堂唯子の前にも、新たな敵が現れた。


残る四騎は、標的をショウに定めて出陣する。

そのころ、その当の本人はというと――――――



------------------------------------------------------------


ぶくぶくと、気泡が上がって水面に波紋を映し出す。

見ていると、死体のようなものがゆっくりと川の底から上がってくる。



「ゴ・・・ブぁ!!ゼェッ、ゼェッ――――アァ~、空気がうめぇ・・・」

当然、それは死体ではない。
死体のように力なく俯せに浮き上がってきたそいつは、息苦しかったのかバチャバチャと暴れて仰向けになる。

そして何とか岸に上がり、また仰向けに倒れて目いっぱい酸素を補給する。


浮き上がってきた男――――蒔風ショウは、荒い息をしてはいるもののダメージからというよりは単純に身体が酸素を欲してのことだ。



あの時。
膨大な力に向かって行ったショウは、あのブラックホールを斬り伏せた。

ショウほどの者なら、擬似的なブラックホールは切り伏せられる。

単純な力ではなく、相性の問題だ。
世界一つ飲み込み、その身に宿した男の力を、世界をひっくり返すほどの渡航力に変換して斬りつけたのだ。

時空の歪みはそれで正され、ブラックホールも消え去った。

ただ、その反動で彼は「EARTH」の近くを流れる川にまで吹っ飛ばされ、そこに沈んでいた、というわけだ。


岸に上がってから腰を落とし、「EARTH」ビルを見るショウ。
ここからだと、ビルの左側面がよく見える。

吹っ飛んできた、とはいえ岸から「EARTH」敷地を囲う柵までは二百メートルもない。


水に濡れた服を、そこら辺の店からかっぱらった別の物と取り換えて、ベシャリと捨てる。
従業員も住人もみな避難していないので、「後で支払いに来ます 「EARTH」」と書置きをしてその場を去る。


そうして柵へとたどり着いた。
素っ飛んだ時のように飛び越えて中に入ろうかと思っていたショウは、そこで唖然として口を開いた。


「あー・・・飛び越えたんじゃないのか」

歪んで穴の開いた鉄柵をみて唖然としていた。
どうやら自分でもぶつかって気付かなかったほどの勢いでブチ抜いていたらしい。

そこをくぐって敷地内に入るショウ。
膝の高さほどの草木がある中を半ば強引に歩き進みながら、ショウの目はその先を見据えていた。



(魔導八天の戦力確認――――全剣使用可能。ただし魔獣使用不可、か。まあ剣で戦うには問題ないってのはまだマシか)


見据える。
もうすでに敵の姿は見えていた。

草木を抜けた先の広場と言える場所に、その四騎のサーヴァントは立っている。




「まあ、原理上は可能だろうよ、お前らの召喚は。でもよぉ・・・お前らで俺を止められるのか?」

遠くから感じる力は恐らく、蒔風が召喚されたのだろう。
それを察知していたショウは、目の前の人物の召喚にもあまり驚いていなかった。

原理は同じだろう。
今ここにいる人物を、別の形として召喚する。

ただ、顔をしかめたのは――――その顔があまりにも彼の知る彼女たちとは違っているからか。



「闇の書ってのは何人もの主を転々として来ていたからな。その過程の内の一つ、ってことでいいのかな?ヴォルケンリッター」


ショウの前に立つ四騎。
それは、夜天の主に使える騎士・ヴォルケンリッターの四人と酷似した姿をしている。


剣を肩に担ぎ、品定めする様に、それでいて嘗め回すような妖艶とした視線を向けてくるシグナム。
ショウを目の前にして、まるでおもちゃを目の前にしたかのようにウズウズしているシャマル。
虚ろな目をして、身の丈に似合わないハンマーを手にしてダラリと腕をぶら下げているヴィータ。
よだれを垂らしながらガチガチと牙を鳴らし、唸り声をあげて威嚇しているザフィーラ。


(こうしてみると・・・まあ違うこと違うこと)


しかし、そう。

四者四様、どれも彼の知るヴォルケンズではない。
姿形は確かに彼等と同様。確かに間違いなく、風貌はどう見ても彼女らのそれ・・・・


だが、あまりの違いに別人かもしれないと思ってしまうほどの違いがある。



(ヴォルケンズも色々な主に召喚されてきたからな。ああいう変なことになったのもあるんだろう・・・けど)

そう自分を納得させようとするショウだが、どうにも納得がいかない。
だが考えても無駄だと思ったのか、魔導八天の一本を手にしてクキクキと首を鳴らした。



「聞かないの?私たちが何かって」

「セイバー、キャスター、ブレイカー、ランサーってとこだろ、お前らだと。そもそもだ」

そういって笑い

「これきりになるってのに、いまさらお前らの話聞いたってしょーがねーだろーが」


実に適当な口調で、しかし決して無視できない闘気を発して威圧する。
それを四者四様に華麗に流し、その激しい気におぉ、と感嘆の声すら上げる。



「良いねぇ。あんた、中々骨のあるクズ野郎だ」

「あ?」

「あぁ、斬りたい。切ってあんたの身体から滲み出るあらゆる汁を啜ってやりたい。血でも、涙でも、汗でもいい。ブシャー、と派手にぶちまけようよォ・・・・ねぇ?」

怪訝そうな顔をしていたショウだが、ここでその顔が一気に引きつった。


コイツはヤバい。
強いとか弱いとかの次元じゃなく、ヤバい。


背筋を襲う悪寒は、目の前の人物を強大な者としてではなく、脅威となる者として捉えた。


「さあ、さあ!!早く始めよう!!あんたのでも私のでもいい。互いの持てるモノ全部撒き散らして混ざって派手に一緒にイこう!!」

「チッ、変態がッッ・・・・!!!」


舌なめずりから、そのままだらりと舌を垂らして発情したかのように叫ぶシグナム。

だがもうその姿に「シグナム」と言えるような気品さも実直さもない。
あれはただ、自らの欲求を満たす為だけに人を斬りたがるシリアルキラーだ。



そのままかけてきたシグナムに合わせるように、ショウもまた駆けだした。


二人が衝突するよりも早く、シグナムが先に腕を振るった。
大きく振りかぶって突き出してきた剣は、例によって連結刃となってショウへとまっしぐらに突っ込んでくる。

その切っ先を剣で軽く受け、紙一重でショウがいなす。更に、少し角度を変えて後方へと伸びていくそれの鎖部分を右手で掴み、一気に引っ張った。


「おぉ!?」

グゥン、と身体が宙に浮き、ショウを飛び越える様に飛んでいくシグナム。
その身体が頭上を通過した瞬間、ショウは一切の容赦もなく剣を振った。


間違いなく、腹を切った。
だがそれで勝敗が着くことはなく


「はぁッ♪」

「なっ!?」

宙でシグナムの身体が翻る。
そして大口を開けて、笑いながらシグナムが剣を振るってその首を狙って襲い掛かってきたのだ。


「ぐゥッ!!」

それを高質化させた腕で咄嗟に受けるショウだが、思いもよらない反撃に体勢を崩して膝をつく。
一方、斬られて斬ったシグナムは、片手で地面に着き、一回跳ねて着地した。

連結刃を戻し、そこに着いたショウの血を舐めながら恍惚とした表情で彼を見る。


「アはァ・・・・いい。いいクズ野郎だよあんた。もっと、もっと激しく斬り合おう!!想像しただけでたまらない!!あんたもイッちまいそうでしょう!?」


後方にいる残り三騎を警戒しながら、シグナムを見据えるショウ。
いくら硬質化したとは言え、流石に防ぎきれなかったのか右腕からは血が滲み出ていた。


「お前、シグナムじゃないのか?」

疑問をぶつける。
知ったところでしょうがないとは言った彼だが、ここまで違うと気になってしょうがない。


そして、その質問をされた当の本人は

「はぁ?シグナムぅ?誰それ」

そう、あっさりと言い放った。



「ほかの女の話を振るとか、やっぱなかなかのクズ野郎だね。ますます斬りたくなってきたよォ♪」

そんなことを後に続ける女だが、ショウはそれどころではない。
チラリと振り返って、残りの三機を見る。


今になって気付くが、服装が皆違う。
シグナム達ヴォルケンリッターがまとっている騎士甲冑のバトルジャケットは、はやてを主としたときに彼女が考えたものだ。

それ以前の主の時では、たしかそんなものは不要とされて簡素なインナーと布だけだったはず。
だが、今目の前にいるこの四騎のサーヴァントの服装は――――


目の前のシグナムは、ショウの知る彼女に比べて露出の多い服装。
シャマルの方は、私服と言って差し支えない者だが、意匠をみるに何かに仕える立場の者が着るような服装。
次のヴィータだが、青い短パンにシャツという簡単さ。すこし時代の古い感じの意匠だ。
ザフィーラはというと、狼の姿―――というか狼そのものだ。ただ、全身をよく見ると生傷が多い。


それらを踏まえて、ショウがもう一度聞く。


「お前ら、どこの時代のシグナムだ」

「はぁ?だから誰それ。いいじゃないのよ、そんなこと。あんたも言ったじゃん。今はただ、斬って斬られて派手にヤりあおーぜ!!」


そういって繰り降ろされる女の剣を、ショウが頭上で受けて腹を蹴り飛ばす。
そして女が倒れるよりも早く背後に回り、背中をド突いて三騎の元へと戻していった。


「いっつ!!このクズ野郎!!やるなら斬れよ!!蹴りとか殴るとかバカじゃないの!?」

「あらあら、怪我したの?ふふ、いいわよ?あなたでも。ずっと、ず~っと、私が面倒見てあげるから・・・・」

「あぁ?あんたの趣味にかまってらんないんだよ!放せ!」

「あぁん」


転がってきた女を足元に眺め、いたわる様に話しかけるシャマル(とおぼしき女性)
だがその口調には慈愛というよりは占有したいと言う思いの方が・・・というか、それしかないような響きだった。


(シグナムは変態シリアルキラー。シャマルの方は・・・管理願望か?監獄に閉じ込めて私がお世話してあげますよ~ってかんじの)

シリアルキラーの次はヤンデレ看護師かよ

うんざりとするショウ。
がっくりと肩を落しながらも、面倒くさそうにショウが聞いた。


「あー、解ったから。で、俺の知ってるあいつらじゃないならお前ら一体何なんだよ」


ショウの質問。
もはや聞かずにはいられない。


それに対し、彼女たちは答えた。


「はぁ?とっ捕まったときに、私の名前は消されたよ」

「わたくしもですわ。私はただ主人を「死ぬまで」看護していただけですのに」

あっけらかんとそう言い放る二人。
残りの少女と獣は答えもしない。


「お前ら一体ホントに何なんだ・・・・・」

もはや呆れ、などというものはない。

ショウは額を流れてきた汗をぬぐい、皮肉気味に笑う。
こいつらの存在のヤバさも去ることながら、セルトマンに対しての驚愕だ。


(各世界に対しての知識なら、俺だってまだ覚えてる)

それは、かつて彼が世界を破壊しようとしてめぐっていた頃のものだ。

今でいえば原典の内容、知識。
今はうすぼんやりとだが、きっかけがあれば出てくる。

だが、こいつらにはそれがない。
本人たちを目の前にして、相手の素性が全く分からないなどということが、何より一番おかしいのだ。


(セルトマンはクラスを用意し、そこに原典の中身を注いで現界させているようなもんだ)

冬木の聖杯戦争のサーヴァントというものはそういうものだった。

クラスを設け、そこに「座」にいるという英霊の魂の一部を注ぐことで形を成させて現界させる。
いわばサーヴァントというのは、本人ではあるが本人ではないコピーということになる。

そして、冬木の場合はそのもとが英霊の座からであるように、今回の大聖杯はアーカイヴ、即ち原典に接続されている物だ。
だと言うのであれば、ショウにもこの者たちの正体はわかるはず。

もうわかるだろうが、この四機のサーヴァントは、他のサーヴァントとは一線を画した存在ということ。


「セルトマンは、一体どこからお前達を召喚したんだ――――――!!!」

原典にない者は召喚できない。

それは先ほどのクウガや魔女たちをは違う。
あれはありえたかもしれない存在であり、原典にも多少の手掛かりはある。

だが、この四騎は完全にそこから逸脱している。
シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラの四人どれをとっても、この人物たちにつながることなどありえないだろう。

そもそも、そんな記述も描写も原典には存在しない。



それが恐ろしかった。
セルトマンは一体、こいつらの召喚を経て何を呼び出そうとしていると言うのか。



「――――――――」

空気を吐き出す。
ショウの剣から、迷いが消えた。


「今更ごたごた考えてもしょうがねぇ、か」

そう。
わかったところで、彼等はすでに召喚されている。ならば、できることは倒すだけだ。

そしてこの先何かとんでもないことが怒ろうとしているのを知った以上、彼に迷う暇はない。



腕を組み、剣を構え、その隙間から覗く眼光が剣の女を突き刺す。


「退けとは言わん。そこを動くな。ヘタに動かれると手元が狂う」

「へぇ・・・いいじゃん。ぁぁあああ・・・ゾォクゾクしてきたよ・・・・・」



「逝くなら一人で勝手に逝ってろ。その顔で下卑たこと抜かしてんじゃねェぞクソビッチ」

「ハハッ、早く早く。早くおいでよ!それとも一人でが好きなのかい?チェーリーィ?」


「ヌゥンっ!!」

「フはァ♪!!」


女の剣と、ショウの剣が正面から衝突する。
戦いではない、殺し合いが始まった。




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「クッ!!」

頭を逸らす。
直後、そこを炎熱砲が通過して壁を穿った。

砲、とは言う物のその直径は細く、何かというとビームと言った方が正しいか。


今、鉄翼刀がいるのは「EARTH」内にある学校校舎だ。


一階には放送室や職員室等の部屋。
二階から上がるごとに三年生、二年生、一年生の教室がある四階建て。

その校舎の三階と四階を繋ぐ階段。
階段は折り返すようになっていて、ちょうどそこに翼刀は座り込んでいたのだが


(な・・・んでだよ!?あっちからこっち見えてないだろ!?)

「いつまであっちにいると思ってんだ」

「は!?」

バチィ!!

裏拳に後頭部が弾かれる。


転がって最初のビームを回避した翼刀が階段を上がろうとその半分まで行ったところで、背後から声がした。
即座に振り返って迎撃をしようとした翼刀の、その後頭部に蒔風の裏拳が命中したのだ。


「か・・・ぉ」

「散漫だぞ。意識」

「ッ!!!」

ビシィ!!という鋭い音がして、気づくと翼刀の手が合掌されて喉元に伸びていた。
合掌、と言いながらもそれが横向きで、何かを白羽取りしようとしたかのような形である。



「っと、危ない危ない。剣取られるとこだったぜ―――――」

「どこに・・・・・」

(クソッ、声がしても姿が見えねぇ!!ってか、あの人ホントにアサシンだったのかよ!!)


最初の裏拳もそうだ。
自分は階段を上がった。そこで振り返ってみたら後頭部から攻撃されてしまった。

つまり、対象はすでに翼刀の前に回っていたと言うことになる。


そして今回の合掌も、白羽取りのよう、ではなく白羽取りをしていたのだ。
喉元に迫るであろう刃を止めようと、彼がとった行動に間違いはない。

現にその瞬間刃は彼の喉に向けられていて、彼の動きを見て刃が引かれたために空振りになっただけのこと。


「よく察知したな」

ただ、こうして翼刀を称賛するアサシンだが、翼刀の心境は穏やかではない。

何せ、彼には相手の攻撃どころか、相手そのものすら見えていないのだから。
先ほどの喉の白羽取りも、もう何度もそこを狙われていたからという、勘に頼った動きでしかない。

よく見ると、翼刀の喉元は致命的ではないものの傷がチラホラと刻まれている。
嫌というほど向けられてきた刃は、何度かすでに翼刀のそこを狙って来ていた。そして何が恐ろしいかというと、そこ以外への攻撃があまりないと言うことだ。



(勘と行き当たりばったりばっかで凌ぎきれる相手じゃない!!しかも全部の攻撃が喉を狙うものか、その為の布石でしかないし!!)

まさしく、アサシン。
階段を転がり落ち、折り返しで跳ねて飛び、階段をすっ飛ばして二階へと降り立つ翼刀。


振り返り―――そうになって、即座にその場に伏せた。
頭のあった部分を、円盤状に組み上げられた龍虎雀武が音もなく通過していったからだ。


だがそれがどこに飛んで行ったかなど確認している暇はない。
不動拳の反動を使った全速力の匍匐前進で階段前のホールを脱して、教室に挟まれた廊下へ。


転がり込んだそこで、すぐに翼刀は机や椅子を蹴り飛ばしてバリケードにし、侵入を防ごうとする。

(こんなの微塵も意味無いけど、やらないよかマシだ!!)



翼刀には、一応ながら蒔風に勝算があった。
だがこうも相手が見えず、防戦一方では整う物も整わない。


「フゥ・・・・・」

翼刀が周囲を警戒しながらも、精神を統一させて渡航力を上げてく。
しかし、その途中で何かが割れて教室へと二つのものが投げ込まれた。


「!?」

投げ込まれたのは、窓から。
とはいっても外に面した方からではなく、廊下側の壁の、天井近くにある小さなガラスを破ってだ。

フローリングの床を転がってきたのは、アルコールランプ二つ。前後にある出入り扉の上から投げ込まれた。
それを投げ込んできたのは、間違いなく蒔風。

それを見て、翼刀がギョッとする。
当然、そんなものに火がつけられていないわけがなく



「うそッ!?」

ボゥッ!!!

ぶちまけられたアルコールにも火が回り、教室の前後が炎に包まれる。


焼き殺す気かよ!?と、翼刀が窓を破って外に出ようとそちらに駆けた。
だが、ゾッとする殺気を感じて即座にストップをかける。

直後、どういう軌道で投げてきたのか、アルコールランプが入ってきた小窓から白虎釵が投げ込まれてきた。
背後から迫り、左右の上からX字で襲い掛かってきたそれは、咄嗟に止まった翼刀の顎をうっすらと切る。

回避した翼刀は、それでも体勢を崩さず喉をガードするように拳を構えた。



だが、その身体が即座に束縛され――――


「なに!?」


白虎釵は、その形ゆえに空中できれいにクロスして通過することなく絡み合って、そこでクルクルと回っていた。
そこでその先端から光のロープともいえるものが伸び、滅茶苦茶に回った挙句に翼刀の身体を拘束してきたのだ。しかも、そのロープは教室中に張り巡って、蜘蛛の巣のように翼刀をその場に固定する。

「まさか」


まさか

この炎は、自分を窓に向かわせるため。
そして、向かったらそこに喉を狙う一投。


まさか

炎はあくまで喉を狙い一撃で終わらせるための布石。
そう思って自分は止まった。


まさか

だがまさか、今まで喉を狙った攻撃は―――――



「――――――雷」

壁の向こう、廊下から声がした。
くぐもってはいるが、間違いなく蒔風の物。


「旺」


そしてここまで言えば、やることは解っている。

この男、絶対の一撃のために
あの一瞬、翼刀を油断させて縛る為だけにわざわざ喉を狙うなどという小技を



「砲」

「ヴァルク――――」


直後


ゴッ―――――バァゥッ!!!


轟音がした。




形容のしようもない。
もはや光とも思えぬ程の雷の閃光は、アサシンの上下に構えられた腕から放たれている。

荒れ狂い、爆ぜ、万物に浸透して破壊を実行するその雷は、教室を破壊した、では済まされない。


壁、天井に机や椅子は当然、その瓦礫すらも破壊しつくして吹き飛ばす。
アルコールランプによる炎など、真っ先にその轟音で掻き消えた。

そして当然、縛り付けられていた翼刀にはそれを回避する術はない。




砲撃が止まる。
その先の攻撃は、まさしく地獄の跡であった。

その一教室は完全に吹き飛び、残ったのは床しかないと言う有様。
その床も黒こげで、まるで焦がしたトースターの上であるかのようだ。


その上を、アサシンが歩く。
翼刀の身体ならば、死んだとしても消え去ってはいまい。死体を確認しなければ、この男は安心しない。


土煙、などというものはない。
何せ壁がなくなり風通しはいいのだ。そんなものは即座に消える。


蒔風は特に油断せず、しかし何の感情もないように周囲を見渡し死体をさがす。
その中で翼刀が立っていただろう場所を見つけてから、無くなってしまった壁の方へと歩いて外を見る。


此処に死体がない、ということはあの砲撃に吹き飛ばされたと言うことだ。

その教室からも、大聖杯は見える。
それをチラリとみて、顎に手を当て考える。



目的は大聖杯の破壊だ。
あの男はそれを阻もうとしていたからこうしてしまったが、無理に殺しに行く必要はない。


「―――――吹っ飛んで行ったか?」

なら問題はない。
自分の邪魔をしないのであれば、いい。

大聖杯の破壊に伴う大災害の被害で皆が死ぬかもしれないのは仕方がないが――――――



「じょーだん。テメェが吹っ飛べ」

「なに!?」

ゴッッ、と鈍い音がして、蒔風の身体が後ろから蹴り飛ばされた。
そこにいたのは、間違いなく鉄翼刀。

あの瞬間、翼刀はヴァルクヴェインの刃を展開して床を削り、寝そべるだけの穴を作ったのだ。
砲撃の瞬間に壁は崩壊したので、ロープが緩んでからそれが襲い掛かる一瞬のうちに倒れ込んでそこに俯せに入る。

背中側に刃を敷いてガードし、更にそこに電気を帯びさせることで見事に翼刀は雷旺砲のダメージを軽減することに成功していたのである。


そして蒔風の背後に回り蹴り飛ばし、さらにそこに向かって刃幕を叩き込む!!


「ザァッ!!」

「ッ!?」


開翼し、翼で自らを守る蒔風だが相性が悪い。
すでに翼刀の準備はできていて、その刃一つ一つにはある力が込められている。

そう、それこそが彼の会得した、翼人抑制能力―――――!!!


「ガァッ!!!?」

いくらガードしようとも、そんなものが襲い掛かっては蒔風も防ぎきれない。
翼で上半身を覆うも、その翼はいとも簡単に貫かれ、肩と右足に刃が突き刺さる。


そのまま地面に落下し、強かに背中を打つ蒔風。
地上三階の高さから落下したところで翼人には大したダメージはならない。

だが今はその力を、完全にではないとはいえ抑制されているのだ。元の肉体が“No name”である蒔風にはかなり有効打である。


苦しそうにする蒔風。
その蒔風に向かって、翼刀も飛び降りて下段突きでその顔面を狙う。

それを見て、苦しむ身体に鞭打って蒔風が拳を受け止めた。
蒔風の頭部に跨る形で着地した翼刀は、しかし止められた拳を悔しがるわけでもなく笑った。


「喰らえ!!!」

ズンッッ!!


止められた拳からの攻撃は、彼にとってみれば十八番だ。
蒔風の顔面は自分の手の甲越しにぶん殴られ、地面に陥没する。

だがそんな状態であっても、蒔風は反撃する。


頭部が地面に埋まるのならばと、逆に跳ねあがった脚をそのまま勢いを乗せて振り上げたのだ。
当然、それは翼刀の背中に命中し、彼を前のめりに倒れさせる。

セルトマンからの魔力提供で顔面の傷を多少なりとも癒やした蒔風が、即座にその翼刀の首を落そうと右手刀を振るう。



だがそれを見もせずに翼刀は上げた手でそれを止めた。
そしてそのままで放った後ろ肘打ちで蒔風の鳩尾を打ち、正面に向き直ってさらにボディブローを一撃。

殴られながらも蒔風は反撃するも、翼刀はそれの防御をとるとともに、一方の手で確実に攻撃を入れていく。


パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!!!と、リズムよく行われていく、翼刀の防御と攻撃。
引かず、攻撃をつづける蒔風だがその足は後退させられ続けている。

そして、ついにその身体が崩れた時に、翼刀の一撃がぶち込まれた。



「ラァ・・・・・」

「しま」

「じゃァッッ!!!」

中段の跳び後回蹴り。
強烈な一撃に蒔風の身体が曲がり、鳩尾にぶち込まれた一撃で身体が吹っ飛ぶ。

ゴゴンッッ!!という音と共に職員室に突っ込み、そのまま部屋と廊下を横断して中庭にまで吹き飛んだような音がして、それが終わった。



「ハァ――――――」

と、深く息を吐いて呼吸を整える翼刀。
手を膝に付き、よしっ、と頬を叩いて蒔風の吹き飛んだ先へと進む。

かなりのダメージを与えたはずだが、恐らくまだ消えてはいないだろう。
時間を置いてはそれも回復される。


あまり気が進まないが、あれを倒しに行かなければ。

そうして、翼刀は蒔風の通った穴を進んでいく。




その先の中庭
小さな噴水に突っ込み、あたりを水浸しにしている蒔風もまた、全身水に浸かっている。


まだ消えてはいない。
だが、このままでは敗北は決定だろう。


その彼に、今翼刀が近づいて行っている。


------------------------------------------------------------




そのころ、綺堂唯子は



「がフッ・・・・」

謎のフードの人物に喉元を掴まれ、壁に押しつけられていた。
脚が浮き、じたばたと暴れるが拘束は解けない。



「こんなもの?こんなものなの?あれを乗り越えた軌道唯子って」

「な・・・にを」

「あの機関の地獄の実験を、あなたは生き抜いて、生き残った。其れなのに、私に負けるの?」

「・・・・!!!」

それを知っている人物はそう多くない。いたとして、「EARTH」のメンバー。
こういってはなんだが、自分の実力は「EARTH」内でもそこそこ上位にはいる筈。その自分をここまで追い詰めるなんて、そう何人もいない。

つまり、こいつの正体は「EARTH」上位ランカーということになるのだが―――――



(な、なんなのこの違和感・・・・こいつの戦い方、知ってる。って言うかこれは)

「あんたは生き延びたって言うのに、死んだ私より弱いの?」


唯子の違和感。
戦いとなれば、相手独自の何かが見えてくるものだ。

だが、これはまるで“自分自身と戦っている”ような――――――



「あんた一体」

道場にいた人間だろうか。
だが当時ならともかく、今の自分に勝てる人間など翔剣のほかにはいないはず。


ブンッと、フードの人物が唯子を片手で払うように投げ、喉を抑えて唯子が転がる。



「あんたがそんなに弱いなら、もう仕方ないよね」

そういって、フードに手をかける“彼女”



「な・・・・・」

暗いとはいえ、唯子はその顔をはっきりと見た。
片目がないのか、右目には眼帯がつけられている。



「だったらあんたを倒して、私が変わる」

隻腕、片目。
それだけ傷だらけに変貌した彼女ではあるが、唯子にその顔を見間違うはずがなかった。



「あんた・・・・誰だ!!!」

知りながらも、そう叫ぶしかなかった。
だって、そうでもしないと自分が保てるかわからない。



「私は」

だが彼女はそれを言う。
叩きつけるように、突きつけるように。



「私が、あんたと変わる。問題ないでしょ?だって私も“綺堂唯子”なんだから」

「――――――――」


言葉が出ない。
目の前の彼女は、まったく自分と同じ顔をした人間だったのだから。


軌道唯子VS



「なんであんたなのよ。生き残ったからだって?だったら、あんたを殺して、私がそこに変わるんだ!!」



――――VS ブレイカー・綺堂唯子





to be continued
 
 

 
後書き

ウワァ!!敵が謎すぎる!!
そんな奴らですね。蒔風を除いて。

蒔風
「まあな。ってか第二章の俺死んだんじゃね?」

まあね。
純粋な武術勝負になったらお前翼刀に勝てないし。


翼刀
「そうなんすか!?」

蒔風
「あー、それはマジだね」

ただの戦闘になると蒔風の方がまだ勝てるけどね。
そういう場で戦うとなると翼刀の方が上。

だから力抑えられて、しかも第二章のお前なんかじゃ翼刀には勝てん。
最初に倒しきれなかった時点で敗北は決定だったね。

蒔風
「まじか――――でもまだ終わらなそうだな」



ヴォルケンズっぽいのも来ましたしね!!

ショウ
「そうだよ。あのポイの何だよ。ホント分けわかんねぇ」

あいつらの話全部そのまま書いたらこの小説R-18になっちゃうからね!!
R-15くらいで止めておいたよ!!

ショウ
「正直に言えや」

ヘルシングみたいなイカレた会話が書きたかった。
今のところ後悔も反省もない。

なんかこういう感じのダークな敵って書いたことないし。


そして、唯子の前に現れたもう一人の唯子とはいったい!?



翼刀
「次回。ショウさんが相手してるあの四人って一体何なんだ!?」

ではまた次回
 
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