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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  勇猛の戦士

今までのあらすじ


夜天の書の守護騎士、ヴォルケンリッター。
その四騎の人格プログラムには、元となる人物がいた。

リィンフォースという援軍を受け、ショウと似非シグナムとの戦いは激化の一途をたどっていく。

さらには、一度撃破したはずのアサシンも復帰。
再び翼刀の命へと刃を向ける。



その中で、残された完全の一。
見極の完全・フォンはというと・・・・



------------------------------------------------------------



「・・・・・・・・」

黙して語らず、まったくの無表情で、只々敵がいるであろう方向へと向かって歩く。
その様子を見て、今までのフォンだと気付く者はいまい。

あのお気楽そうな笑顔も、軽薄な言葉も、それら一切がなくなり、一つの機械のようにただ敵を倒すだけの存在として、彼の心は動いていた。



目標は、言うまでもなく蒔風ショウ。
オフィナの最後の一撃を無駄にしないために、あの男は殺さねばならない。

そして、次にハクオロだ。
あの男がいなければ、オフィナもいなくならずに済んだ。

更に五代雄介、高町なのは、直枝理樹、蒔風舜。
他の三人を葬った要因である彼等も消さねばなるまい。


ザフザフと、まるでその芝生の草一つ一つが仇でもあるかのように踏みしめて進んでいくフォン。
だが、唐突にその足が止まる。



「・・・・なんだ」

「ハッ!なんだとはつれねぇじゃねえか!!」

「他のみんなは倒れて動けません」

「だから、私たちが止めるよ!!」


その目の前に、デンライナーが滑り込んできたからだ。
さらに、その上にはキャッスルドラン。

中やその上部にからも、数名のメンバーが顔を出していた。


「さぁて、こっから一気にクライマックスだぜ!!」

野上良太郎(モモタロス)


「ここで、あなたを止める!行くよ、キバット!!」

紅渡


「最初に行っておく。俺はかーなーり、強い!!」

桜井侑斗


「行くよ、バルディッシュ」

フェイト・T・ハラオウン


「負けないからねぇ~?」

アリシア・テスタロッサ


「みなさん、相手は未知数です。油断しないで!!」

ティアナ・ランスター


ムラはある物の、残った戦力としてはトップクラスの実力者たち。
その彼らが、フォンを止めようとその眼前に立ちふさがった。


「・・・・・邪魔だ」

「あ?おめぇ何言ってんだ?声ちいせぇぞ!!」

『て言うか、なんか感じ変わってない?彼』

『モモタロス。ここは少し様子を見よう』

「・・・ち」

脳内に聞こえてくるウラタロスと良太郎の声に、不満ながらも従うモモタロス。
その内で、ウラタロスの発言は実に的を射たものだった。


「もっと彼・・・その・・・・軽いノリじゃなかったっけ?」

「うん・・・今じゃまるで別人だ」


小声で話し合うアリシアとフェイト。
そうしながらも彼から視線をそらさず、それぞれのバルディッシュを握りしめている。


そして、ティアナが口火を切る。


「あなたがこれ以上抵抗せず、我々の元に来ると言うのであれば、これ以上の攻撃はしません。投降してください」

まずは、勧告。
最後通牒とでもいうのか。あくまでも時空管理局執務官である彼女は、まず相手のその意思を確認せねばならない。


だが

「断る」

「そう」

フォンの短い即答に、ティアナも用意していたかのようにサラッ、と言い切る。

そして

「では次です。この戦力差では、あなたに勝つ見込みはないでしょう?それでもまだ戦うと言うのですか?」



そう。
フォンの得ている「完全」は、おおよそ「敵を倒す」ということには向いていない。

見極の完全は、何かというと「生き延びる」術だ。
戦いにおいて優位に立つことも可能だろうが、一番力を発揮する方法ではない。


この人数相手でも、彼は見極め、躱し、倒されることはないだろう。

だがそれでも、相手を倒すだけの地力がないのだからどうしようもない。
相手の体を崩し、柔術の要領で倒すこともできるだろうが、決め手にはなりにくいのだ。


攻撃や防御の数値を、全て「見極める」という行動に降ったのがこの完全である以上、彼に負けはなくとも勝ち目もない、ということだ。



「愚問だな」

だが、それでもフォンは答えた。
三白眼の様に半分閉じられた眼が、どんよりと周囲を見渡した。


「お前らも良く言うだろう。勝てるかどうかわからない。でも、勝たなきゃいけない。戦わなきゃいけない。そんな戦いがある、と。俺にとって、この戦いとはすでにそういうものだ」

そういって、短く息を吐き漏らす。



フォンという男は、もともと活発な男ではない。

様々なことを見抜き、洞察力が優れ、そしてそれゆえに孤立してしまった男だ。
故に、何をしようとも結果がある程度分かり、そしてそれ故に興奮も期待も何もない。

セルトマン達の出会いから、その道の世界を知りだんだんと明るくなっただけであり、これが本来の姿。


だが、そんな彼に戻っても、昔と違うことが一つある。



「俺には守らねばならないものがある」


コール。加々宮。アライア。オフィナ。
彼等は戦いに散っていった。その思いは、ずれがあっても一つ。

あの男――――アーヴ・セルトマンという男の、願いを叶えさせてやろうと。


あの男は、世界に置いて行かれ、絶望し、飽き、枯れ果てていた自分たちに新たな道と力を示してくれた。


それが悪の道であることは重々承知である。
彼等は妄信者などでは決してない。

だが、それでも彼等はそのために動く。



あの男の思惑は、そんなことどうでもいいのだろう。
戦力にしようとも、音を売ろうとも、そんなことは微塵も思っていないだろう。

彼の作り出した「完全」の能力。
我々はそのモルモットに選ばれただけ。


だが、関係ない。
彼の思惑も、その道が悪であるかどうかすらも、関係ないのだ。


彼の与えてくれた新たな力が、世界が、あまりにも輝いていて、生まれ変わったのかと思える程に世界が違って見えた。

それがあまりにも暖かくて、美しく、そして二度と手に入らない物だと思っていたからこそ、それを与えてくれた彼についていくのだ。


そう、これは恩返し。
もはや生きる価値を自分にも、世界のどこにも見い出せなかった自分に、彼が与えてくれた光に対する恩返し。

だから彼は強要はしない。
自分はついていくだけだ。それが一人も欠けずに五人いただけ。




「その為に戦う。お前達はそれを愚かだ、間違っていると叫ぶのか」

射抜くようなフォンの瞳。
そのあらゆる反論を否定する言葉に、思わず言葉がつっかえる。


それがたとえ悪の道でも。
許されないであろうことであっても。

自分たちは、自分の大切な「友」と「恩人」のために戦う。

それを否定する言葉など、出てくるはずもない。



悪いことは悪いことだ。
そう断じることは簡単だ。確かに簡単だ。何せ、間違いなくその通りなのだから。

だが、そんな言葉で終わらせてしまっては、今までの自分たちの行動すべてすらも否定されてしまう。

彼等もまた、大きな犠牲よりも大切な人のために戦ったから。
勝ち目がないと言う戦いに、勝たねばならぬと立ち向かって言ったから。

そして、それを勝ち取ってきた者たちなのだから。



「解りました」

その覚悟を聞き、渡が口を開く。

相手にも自分たちにも、譲れない想いがある。
自分のそれを断てれば、相手のそれが立たず。そして、それの逆もまた然り。

もしもそれがぶつかり合うと言うのならば、もはや戦うしか道はない。



彼の戦いの多くはそうだった。
種族の争い以上の、心と心のぶつかり合い。

だからこそ、彼はここで立つ。


「そうなる運命にあると言うなら、その鎖を僕たちは解き放つ。それだけだ!!」

拳を握り、そしてバッ!!と手を前に突き出して再び相棒の名を叫んだ。


「行くよ、キバット!!」

「よっしゃ。つまりぶっとばせばいいんだな!?」

「そう単純じゃねーっつってんのに」

「彼は、ここで止める!!」

「よし!お姉ちゃんもがんばるぞ!!」

「クロスミラージュ、準備はいい?」


各々が構える。
そして、手に握ったそれを振りかざし一斉に叫んだ。


「「「変身!!」」」

「「「バリアジャケット展開!!」」」


並び立つ六人。
キバを中心に、次々に変身を完了する。

そしてその姿は皆、最終フォーム。


クライマックスフォーム
エンペラーフォーム
ゼロフォーム

真ソニックフォーム
ザンバーフォーム
ブレイズモード


それらを軽く見、フォンはそれでも臆することなく



「それだけなら・・・早くしろ」

ドンッッッ!!


一気に駆け出した。
それに対し、六人も疾走する。

相手はあらゆる事象を見定める目を持つ男。




だが彼の目をしても



この戦いの行方は、わからない



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何故彼等は戦うのか。
少女にはそれがわからなかった。

人を斬るのが好きだと言う彼女も、人を拘束するのが好きだと言う彼女も、どうしてあんな積極的にかかわろうとするのか。



ヴィータと同じ姿をし、それでいながら死んだように濁った眼をした、生きる活力の一切を感じさせないその少女はそんなことを考えていた。
だから戦いにも参加していかないし、こうして膝を抱えてぼんやりとその様子を見ていた。

隣にいる大きな狼は、唸り声をあげてこちらを睨み付けている。
どうやら近づく者は敵だと思っているらしい。

心外な。私は何もしないよ。めんどくさいから。
関わるのも、殺すのも。



二人と違い、彼女は犯罪者ではない。故に奪われた名前もなかった。
だが、それでも彼女に名前はない。

簡単な話、彼女には最初からそれが与えられることはなかったからだ。


彼女は天性の才能を持っていた。

初めてデバイスに触れ、起動させたのはまだ自我の芽生えぬ生後半年。
その才能を知った彼女の親は、次々と、いろいろなことを試させた。


そうして彼女は次々に武功や好成績を収めた。

齢5歳にして、大人の男ですら敵わない魔力量、戦闘技術。
特に相手を叩き壊すと言う「破壊」に関して、彼女の右に出る者はいなかった。

それがまず、彼女の才能の話。




彼女の家はドンドン豊かになった。
親も最初は喜んだ。


だが力を持った子供というのは、大人にとっては脅威以外の何ものでもない。
それを感じ取った大人たちがとった行動はただ一つだ。

その子の力を、抑え込んでしまえばいい。
力を抑え、更に自我に鎖をつける。

そうすれば、ただ我々に従順な人形でい続けてくれる。



事もあろうに、このことを提案したのは彼女の親だ。
何より彼女の存在に怯えていたのは、その実の親だった。

そして、彼女は抑え込まれた。

言われたことだけをすればいい。
あれをしろ、これをしろ。



気付けば、彼女は「おい」だとか「これ」だとしか呼ばれなくなった。
そんな子供が、自分の名前を知っているはずがない。


そうして抑え込まれ続けていた彼女。

そのうまく行きように、周囲の大人たちは鼻高々だった。
これで自分たちは安泰だと。


しかし



そんな彼らは、ある冬の日にみんな死んだ。


死因は様々。

潰されて圧殺。
引きつぶされて轢殺。

建物が無くなり凍死。
逃げようとして獣に襲われ。
食べ物がなくなり餓死。


無論、彼女の仕業である。

その場に駆け付けた救助隊が彼女を発見した時、彼女はまだ生きていたが搬送先の病院で死亡。
その際に彼女の人格データが記録され、のちに採用されたのである。


それが、彼女の身の上話。




彼女は関わりたがらない。
しかしそれは彼等に抑え込まれていたからではない。

結果的に彼女はおとなしかったが、彼等の抑え込みが成功していたわけでは決してなかったからだ。


そう。
彼女は抑え込まれていた境遇に、不幸だとか不満だとか、そんなことは到底考えていなった。

大人しくしていたのは、彼女自身の意志である。
ただ従っていたのは、それが彼女の利害と一致していたから。
彼女がそれに従っていたのは「そうないと、自分は簡単に人を殺す」から。



彼女は殺したくないのだ。
たが、彼女は本能でわかっていた。

誰かが、何かが自分に近寄りすぎると、どうしても殺したくなる。
全部壊して、何もかもぐちゃぐちゃにしたくなる。

どうしようもない衝動、発作。
だから、それを抑えてくれるのではないかと大人に従っていたのだ。


結果的に、一度も彼女はその衝動を爆発させることはなかった。
あの、冬の日まで。


その冬の日。
大人たちのそれが失敗だったとわかった、あの日。

自分は結局人を殺したし、その時に抱いた感情は

“誰が誰かもわからない。なぁんだ別に大切な人じゃないならいいや――――”



だから、あの場に留まった。
自分はこれ以上生きてちゃいけない。

だから大人しく死を選び、あの場で倒れていたのだ。



誰かを求める心。
見栄を張りながら、年相応な甘えたがり。

そして破壊の才能は、幾分か柔らかくされていながらも、正確に受け継がれていた、ということだ。




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似非シグナムと、リィンフォースの戦い。


主であるはやても、同胞であるシグナム、ヴィータも倒れ、シャマル、ザフィーラは「EARTH」(仮)での仕事で動けない。
ならば、この者たちを叩くのは自分の役目だ。

そう思って駆けつけ、いざその一角と戦い始めたわけだが―――――



「あぁん!!女同士ってのもいいねぇ!!あんた、そっちの人だったのかい!?」

「五月蠅いです!!」

ゴォッッ!!

魔力の込められたリィンフォースの拳が、似非シグナムを狙って虚しく空を切る。

ステップを踏んで下がり、そのまま連結刃を放ってくる似非シグナム。
だが飛来するその刃全てにブラッディ・ダガーを撃ち放って弾き飛ばしていくリィンフォース。


爆発が起き、その向こうから似非シグナムが剣を構えて突っ込んできた。
その刃を体捌きで回避し、腹部に一発拳をブチ当てる。

ゲはァッ!と息を吐き出し、しかし怯むことも後退することもなく、そのまま覆いかぶさるように襲い掛かる似非シグナム。


その剣の一撃が肩に掠り、痛みに顔をしかめるリィンフォース。
その表情に興奮し、似非シグナムの剣撃がさらにヒートアップしていく。


先ほどまでは回避できていた剣撃が、次第に掠り始めていく。

だんだんと深く。
だんだんと広く。
だんだんと長く。

傷口が増える度に、大きくなっていく。


――――強い。

ヴォルケンリッターの元になったという人格。その人物。
その一人しか相手にしていないと言うのに、こっちの攻撃が斬り伏せられてしまう。

ゴリ押しでの封じ込みではなく、純粋な戦力で封じられているのだ。

粗暴さに相反して、この女の純戦闘力はやはり高い。



だが、そのなかでリィンフォースの瞳は全く怯んでいなかった。

身体に傷をつけられながら、散る鮮血の中でその瞳は敵を見据える。
その、まったく閉じられることなくしっかり開かれた眼で相手の動きの総てを見


ガッッ!!

「お?」

大きく振りかぶり、左から襲い掛かる剣。
その剣を握る似非シグナムの右手首の部分を、左手で止めた。

狙っていたのは、この一瞬。
この一瞬為に、斬られることを覚悟で彼女の間合いの中にいた。

前へ、前へ。
恐れず突き進んだ中で、彼女はついにその一手に届いたのだ。




更に、相手が唖然としているうちに、その腹部へと掌底を。
そして彼女の知る中で、最も強力な砲撃魔法の一撃を放つ。


「ハッッ!!!」

ドンッッッ!!

ディバインバスター。
これほどの砲撃魔法を、これほどの至近距離で受けては、流石に腹に穴が開き消滅だろう。

彼女の上半身が煙の向こうに消える。

キラキラと光り、粒子が霧散する。
それはきっと、サーヴァントが消滅する際の魔力粒子。

そして、それが風に乗って散――――



「はっはァッ!!」

―――って、行かない。

それどころか、彼女の身体は健在だ。

砲撃は、彼女に届いてすらいなかったのだ。



空いた似非シグナムの右手。
そこに、その粒子は集まっていた。

この宙に散る魔力粒子は、この右手に集まっていく流れによるもの。



「まさか、集束魔法・・・・!!!」

そう。
シグナムにはない、彼女が持つ能力。

しかし、その精度が化け物じみている。


よく知られる高町なのはの集束魔法は、魔法使用時に散ってしまい、空間に漂う余剰魔力をかき集めて、自分の魔力に上乗せして放つものだ。


だが、この女はその上を行く。
この女は放たれた砲撃魔法が、あの至近距離であるにもかかわらず自分に届く前に分解し、収束し、その右手に刃の形で結集させていたのだ。


「な・・・・」

「あんたさぁ・・・言ったよなぁ・・・・やるならよォ・・・・ボコってないで、ズタズタに切り刻んでくれってよォォォオオオ!!!」

無防備なリィンフォースの肩に、集束されてできた魔力刃が食い込む。

この魔法において作られた刃は、そう大きなものではない。
だがその代わり、集束された魔力は、切れ味を極限にまで高められている。

リィンフォースもバリアジャケットと同質のプロテクターを身体に張っているが、そんなものはチェーンソーの前にベニヤ板を置いたようなものだ。

いとも簡単に魔力壁を越え、刃が身体に到達。

それが肉を断ち、血がその隙間から出始め




ガンッ!!!という音と共に、刃が肩から外れて似非シグナムの腕が跳ね上がった。

そして唖然とするリィンフォースが何が起きたのかと振り返るよりも早く、顔の横を通って蹴りが繰り出され、似非シグナムの顔面にめり込んで彼女の身体を転げさせた。



「な・・・」

「おう。大丈夫か?」

振り返ると、そこにいたのはショウだった。

少し息苦しそうで、服もボロボロ、所々血が流れているが、五体満足でそこに蒔風ショウが立っていた。
血が流れていると言っても、どうやら軽傷のようだ。だがそれを差し引いても、彼のダメージが回復しているような気もする。


「な、なにが・・・・?」

困惑するリィンフォース。

確か、この男は似非シャマルというべき女と戦っていたのではないか。
しかも、それはついさっき。五分も経ってない。

もしシャマルの能力が彼女のもっていたものだったならば、それはきっともっと凶悪なものだったはず。


「旅の鏡」を最悪の使い方をすれば、重要な内臓を直接鷲掴みもできる。
そのまま抜き取れば、心霊手術の真似事だって可能なはずだ。

先ほどショウが苦しみだして、標的を変えたのはきっとそういうことだ。

だと言うのに、なぜこんなにも早く?



「なに、簡単な話だ。あの女は相手を生かさず殺さず、ずっと自分の手の中で看病し続けたいとかほざいた輩だ。だったら――――あいつは俺を殺さない、だろ?」

「・・・・・あ」


言われてみればその通り。

あの女は、相手の一生の全てを縛り、自らの手で管理して尽くすことに至上の喜びを感じていた。
結果的に相手はそれに耐えきれず死んだわけだが、彼女は相手の命に直接手を伸ばしたことは一度もない。


だから、ショウはそれを逆手にとった。


決して殺されないのであれば、どんな無茶だってできる。
逆に、こちらが大きなダメージを負えば死なないように処置もしてしまうのだ。

それほどに、彼女は主を大切に思っている。
歪んでいるのは間違いないが、その献身は間違いなくトップクラスなのであった。




ショウは、その中で突き進んだ。

内臓を掴まれようが、心臓が握られようが、血管をせき止められようが、肺を押し留められようが、この男は一切の躊躇もなく突き進み、そして彼女の前に立った。
それは同時に、彼の身体が真に危険な状態になったところでもある。

だがそれでも斃れない。
余りにも追いつめてしまった彼女は、さすがに死なせるわけにはいかないと治癒をかける。

完全には治されないが、持ち直すところまでそれが施された。
瞬間、彼の手刀が彼女の首に直撃した。


その一撃のもとに彼女は命を絶たれ、瞬時にこの戦いから脱落したのだ。



これが、蒔風ショウ。

これが「EARTH」副局長。

蒔風以上に、不動の意志を持つ男。
一切の迷いなく、ただ敵を倒すと言うベクトルに突き進む。

だからこそ、彼はあの女の相手を引き受けたのだ。





(・・・・・は?)

一方、そんなことは似非シグナムにとってはまったくもってどうでもいいことだった。


一応は一括りにされて召喚されたものの、仲間意識なんてものは彼等には最初からなかった。
だから倒されたことは別にいい。


彼女が疑問に思っていたことはただ一つ。

あらゆるものを斬り裂くことが可能なほどに収束圧縮した魔力の刃。
この男はそれを蹴り上げることで、あの女(リィンフォース)を救った。


似非シグナムの視線は一点を見つめている。

ショウの脚の爪先。
リィンフォースと話している、彼の足先だ。


斬れていないのだ。
その足先に、微塵の切れ込みすら残っていない。靴にさえ、新たな傷はついていない。

少々ゴツイ靴ではあるが、それで防げるような軟な刃ではないはず。



「おう。ちょっとばかしお前らヤバそうだったんでな。体内の世界レベルを上げた」

その似非シグナムの視線に気づいたのか、ショウが半笑い気味に語る。



「まあなんだ。実を言うといまだに俺って全部のエネルギー使い切れているわけじゃないんだわ」

世界一つのエネルギー。
それを体内に収めた彼ではあるが、その力を十全に使えるわけがない。


それは「奴」だった頃もそうである。

かつて、アリスは世界一つのエネルギーは翼人一人に匹敵すると言っていたが、そんなことはない。
厳密には「それだけの力を有した程の者は、翼人と渡り合えるくらいに強いのだろう」というだけのこと。

翼人であっても、力を引き上げていって世界一つ分を返還しただけのエネルギーに達するとなると、もはやその瞬間に爆ぜて死ぬほどだ。




つまり、彼は世界一つのエネルギーを体に収めながらも、その全てを解放したことは一度もない。


ほとんどは眠らせている、もしくはいざという予期の予備エネルギーとしている状態だ。


その中で、彼が「限界」であると感じる段階。
昔はその限界まで引き上げていたのだが、今の彼はその数歩手前で止めている。

彼が驚異的な強さをたびたび垣間見せるのは、その段階を引き上げているからだ。


そして、今回もまた。


「なかなかできるよ、おまえ。俺のレベルを引き上げさせるんだから。だけどなぁ・・・・これやっちゃった以上、お前もう付いてこれないぜ?」

引き上げさせるのは流石だ。
だが引き上げた先で、最早俺と立ち合えるなんて思うなよ。


その言葉に、背筋がゾクソクとしてきた。

さっきも楽しかった。
だが、この男はもっともっと楽しませてくれる。さっき以上の戦いが、斬り合いが出来ると言うのならば、それは――――――



「ざけんな」

「!?」

唐突に

目の前僅か30センチもない距離に、ショウが一気に接近してきた。



「なぁ!?」

「お、初めてそんな声出したな」

ショウの振り上げた逆袈裟の剣に、とっさに反応する似非シグナム。
だがその一撃を防ぎきれたかというと、そう言いきっていいものか判断に困る。

なにせ咄嗟にとりだしてガードに使った剣が、打ち上げられただけでなくそのまま刃のワイヤーがのばされてしまったのだから。


本来、この剣がそんなことになるなんてことはありえない。

自分の意志で伸び、意のままに形態を変化できる。
それがこの件の強みだ。そんな外部からの干渉で勝手にワイヤーが伸びてしまうなど、欠陥品もいいところだ。


だが、それが現実に目の前で起こっているのだからどうしようもない。


ただ、この男のこの一撃はすでに、その常識の範疇を越えた一撃に達したと言うこと。



「くっ!?」

ザラザラと流れて行ってしまう連結刃を、強引に引いて戻す。
だがその時にはショウの第二撃が迫っており、それを受けるとまた伸びる。

ショウの二撃に引き戻しが間に合うと言うのも驚異的だが、もはやそんな賛辞は意味を持たない。

ただ「斬られて果てる」というその瞬間を、引きのばしているだけにすぎないのだから。


これのやり取りは終わらない。

似非シグナムはそう悟っていた。
いつまでも終わらないいたちごっこだ。

ならば、このまま斬られて死ぬのもまた一興か。



次々に押し込まれ、後退していく似非シグナム。

と、そこで踵が何かに当たった。


そこにいたのは



「なに?」

「あ?」

膝を抱えて座っていた少女。
例に倣えば、似非ヴィータというべき少女だ。

ボーっとしていて眺めていたからか、そのまま近づいてきても気にも留めず、結局当たってしまったと言うことだ。


「お前、って!!」

と、そこで踵を取られた似非シグナムが背中から転ぶ。


すると当然、その先にいるショウの姿が少女の瞳に映り込むことになる。


瞬間、彼女の全身がビクンと振るえた。
脳内に反響する命令。

曰く「わざと負けるなどを含めての「自殺」を禁ず」
曰く「戦いに手を抜くな」
曰く「敵は倒せ」

一つの令呪に込められた様々な意図。


それが彼女の神経を伝達し、それを実行しようと彼女のデバイスに手が伸びた。


「ぶっ・・・・・・」

「え」

「―――――壊す!!!」

ドォンッッッ!!!



起こる爆発と衝撃。
ハンマーの槌部分が電柱ほどの太さの大きさへと膨張し、その一撃がショウへと叩き込まれる。


ヴィータがもつデバイス「グラーフアイゼン」では、その反対側にブースターが展開されて突進力を上げての粉砕をお見舞いする。


しかし、このデバイスでは違う。
ブースターはない。その扱いに用いられるパワーは、あくまでも彼女自身の物。

ただハンマーの着弾時に、その表面が爆発を起こして敵を爆散させると言うだけのこと。


これが彼女の魔力変換資質。

ポピュラーなものとしては「炎」「電気」
珍しいとされる中には「氷結」があるが、彼女のものはさらに異質。

この少女は、「爆発」の魔力資質を持つ人間だったのだ――――――



「ハッ!!さすがはヴィータの元になっただけあって過激だな!!!」

だがその爆発の中で、ショウは少々焦げた程度で無事だった。


狂悪の犯罪者と、暴走した破壊少女。
その二人を前にして、なおもこの男は下がらない。怯まない。


「にしても、こんなんならバーサーカーで召喚すりゃよかったのになぁ・・・・そっか。アーカイヴ通りに、か」

似非ヴィータは、すでに自我を失い周囲を破壊する一つの暴走機関車となっている。
そう。かつてあの冬の日、タガが外れ、周囲の者を根こそぎぶち壊した、あの時の様に。



真の意味で「EARTH」最高出力の蒔風ショウ。

敵が増えても、やることに変化はない。


「来いよ。俺も元はイカレで破壊者だ。ここらで決めようぜ。そのままが強いのか、脱した方が強いのかってな!!!」




to be continued
 
 

 
後書き

フォン、本当はおとなしい人だったんだね。
まあ全部がわかるような神童だったんじゃ、そうなりそうだけど。

あの明るい性格は、同等の友人を持ち、本当に世界を楽しめるようになったから得たものだったんですね。

だから、彼はそれがたとえどんな道でも彼等と共にいようとするのでしょう。



ショウ
「そして俺はいつの間にか似非シャマルを撃破」

まあシャマル自身も戦闘キャラじゃないし、彼女もそうだったんだろうね。


本当は心臓鷲掴みとかのえげつない攻撃でショウを苦しめながらも、その苦しみに臆さず怯まず、巨人のような足取りで接近してくるショウに狼狽えて、一撃のもとに切り伏せられるのを書こうと思ったんですが「あれ?こいつ殺さなくね?」という考えにいたり、没に。

まあ、結果としてたいして変わらない戦いにはなりましたけどね。
最後に治して(しまう)あたり、病んでてもデレであったと言うことでしょう。


リィンフォースは傷の治癒中。
まだ肩口に、少し深めの切れ込みが入ったくらいなので大丈夫そうです。

似非ザッフィー?
自分のテリトリーに入らなきゃ彼は襲ってきません。



そして似非ヴィータは暴走系の女の子でした。

なんか周囲の大人たち悪い、みたいに書きましたが、彼女自身もあの境遇を望んでいたので、問題なし(なのか?)
彼女からしてみればあの境遇(牢屋みたいなところに幽閉され、必要なときに出されて働く)から逃れることは可能だったんですが、まあ彼女の思惑が「自身を抑えてくれること」でしたからねぇ。


で、結局暴走。

バーサーカーじゃないの?とのことですが、ショウの言うとおりセルトマンはアーカイヴ通りにしないと不安でしょうがないようです。
なまじ知ってしまうと、それ以外の行動って怖いもんなんですねぇ。



ショウ
「次回。あれだけ大見え切ったけど、結局俺って勝てるの?」

さあ?

ではまた次回
 
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