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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第128話「海鳴の門の守護者」

 
前書き
久しぶりの優輝の出番。
そしてそれ以上に描写される事のないヴォルケンリッターやプレシアさん。

それはともかく序盤から強敵案件。
これと同等以上が今回は多くいます。(特にこの章のラスボスは格が違う)
 

 




       =優輝side=





「……シッ!」

 すれ違いざまに、妖を切り裂く。
 司からの念話を受けてから、既に数分経っている。

「……こっちか…!」

 妖が現れる原因である幽世の門を探して駆け回り、ようやく目星がつく。
 感じられる霊力が一際強い場所があり、そこへと向かう。

「……海鳴臨海公園だと…?」

 妖は普通に妖怪だとかを基にしている。
 公園にはなんの逸話もないから、門があるとは思えないんだが…。

「(とにかく、行ってみるか……)」

 門を閉じない事には何も変わらない。
 僕は門があると思われる場所へと足を急いだ。





「……ここか…」

 海鳴臨海公園。そこの、海を眺めれる場所。
 緋雪が死んだ場所でもあるその場所に、門となる穴があった。

「……これが、幽世の門か……」

 見るだけでもわかる瘴気を放っている。
 ここから妖達は湧き出ているのだろう。

「さて、閉じ方は…」

 門を探している間に、椿たちに閉じ方を念で聞いておいた。
 そのため、僕でも門を閉じる事は出来る。
 …問題は……。

「……来るな」

 強い力が門から感じられる。
 そう。門には守護者…所謂ボスがおり、それを倒さなければならない。
 どうあっても邪魔される上に、存在する限り閉じられないようだ。

「(…さて、何が来る…)」

 リヒトをグローブ形態に変え、シャルを構える。
 そして、守護者が姿を現し―――





「……………え……?」

 ―――その瞬間、僕は思考するという事を忘れていた。

「なん、で……」

 改めて現れた守護者の姿を見る。……そして思う。“ありえない”と。
 そう。あり得るはずがないんだ。

「っ………」

 なんで。どうして。嘘だ。ありえない。夢でも見ているのか。
 ……溢れるように様々な思いが頭を駆け巡る。なぜなら…。

「……緋雪…」

 ……なぜなら、その守護者は…緋雪だったのだから。







     ッギィイイイイン!!

「ぐっ……ぁあっ!?」

 だけど、動揺している暇はなかった。
 緋雪の姿をした守護者は、容赦なく大剣を作り出して斬りかかってきた。
 咄嗟に防いだものの、まるで棒切れのように僕は吹き飛ばされる。

「(魔力の大剣…さすがに、シャルまではないか…)ぐっ……」

 霊力による身体強化を間に合わせ、リヒトを地面に突き刺して何とか着地する。
 だけど、受け止めた手が痺れていた。

     ギィイイン!!

「ぐぅっ…!(以前よりも僕は強くなったはずなのに……力が強い…?あの時よりも、パワーアップしているというのか…?)」

 霊力による身体強化、導王流、そして体格。
 全てにおいて前より成長しているというのに、力で言えば前より押されていた。

「ちぃっ……!」

     ギギギィイイン!!

 連続で斬りかかってくるのを、何とか導王流で逸らす。
 しかし、受け流しきれずに僕はどんどん後退していく。

「シャル!あれは…本物なのか!?」

〈……それは、マイスターが良く分かっているのでは?〉

「…だよな」

 高速で接近してくるのを紙一重で躱し、距離を取る。
 ……既に解析魔法を掛けておいた。結果は…黒。本物ではない。

「(当たり前だ…。緋雪はあの時死んだ。……僕が、殺したんだから)」

 第一に、霊力まで使ってくる時点で本物とは思えない。
 それに守護者としている事も、本物ではないからだろう。

「っ!はぁっ!(だけど……)」

 剣の攻撃を吹き飛ばされるように凌ぐと、魔力弾がこちらに向かってくる。
 緋雪の姿だからか、霊力だけでなく魔力も扱えるらしい。
 …咄嗟に対処したものの、それが確信へと至らせた。

「(……緋雪と言う存在が脅威の存在として、守護者となっている…)」

 今回の事件は、別に日本だけが要因で起きた訳ではない。
 おそらく、ロストロギアも関わっている。
 つまり、次元を隔てた存在が関わっているのだ。
 そこから考えれば、緋雪は何も逸話がないとは言い切れない。
 ……古代ベルカ時代に、“狂王”として名を残しているのだから…!

「……っ、くそ…!!」

 憤りはある。何せ、緋雪をそういった観点から見ているのだから。

「ふざけるな…!緋雪を、シュネーを化け物扱いするんじゃない…!!」

 妖として扱われる…それはまるで、“人間”として見られていないみたいだ。
 ……だから、僕は憤る。否が応でも、目の前のこの守護者を倒さなければならない。

「ぐぅっ!?」

 だけど、動揺が大きかったようだ。
 体勢を立て直す間もなく、次の攻撃が来る。
 何とか受け流し続けてはいるものの、ずっと後退し続けている。
 このままだと……。

〈マスター!もうすぐ、学校が…!〉

「っ、ちっ…!くっ、ぁああっ!?」

 リヒトの声に、僅かに焦る。…それがいけなかった。
 剣の攻撃に吹き飛ばされてしまう。
 咄嗟に着地し、跳ねるように飛び退き…。



 ……そこへ、強烈な一撃が叩き込まれた。

「ぐぅうううううう……!?」

 霊力の身体強化を限界まで引き上げて正解だった。
 それでもなお体が悲鳴を上げる程に追い詰められる。

「ぐ……くっ、ぐぅ……!」

「「「っ――――!?」」」

 グラウンドを滑るように押され、何とか踏み止まる。
 防護服の靴だからいいものの、普通であれば靴底が剥がれていただろう。

 ……そして、その際の砂塵が晴れて周りが驚きに包まれる。
 当然だろう。死んだはずの緋雪がそこにいるのだから。

「くっ……っ!」

「……!」

「(後ろには皆が…迎撃か!)ぜぁっ!!」

 鍔迫り合いで勝てる訳がないので、創造した剣を真下から繰り出す。
 それを守護者はバク宙で躱し、同時に魔力弾を放ってきた。
 密度も威力もそこまで高くなく、受け流すか躱すかして反撃は可能だった。
 しかし、後ろには結界があるとは言え皆もいる。
 なので迎撃を選び、魔力を込めたシャルで切り裂く。

「っ……!」

 魔力弾を切り裂いた瞬間、その隙を狙うように大剣がこちらへ突き出される。
 …だが、それは僕にとっては好機。

「吹き飛べ」

   ―――“戦技・金剛撃(こんごうげき)

     ドンッ!!!

 シャルを片手で持ち、上手く導王流で受け流す。
 同時に、霊力を掌に集め、掌底を放った。

「優ちゃん!」

「優輝!」

 守護者を吹き飛ばした所で、椿と葵がこちらへ来る。

「……今のは…」

「門の守護者…のはずだ。……何の因果か、緋雪の姿をしているがな」

「緋雪がこの地に縁を持ち、且つ過去…前々世で逸話を遺したから…ね」

 椿の言葉を聞いて、やはりそれが原因かと思った。
 ……そして、緋雪を化け物扱いするその事実に怒りが湧く。

「優輝?……そう。まぁ、認められないわよね。あの存在は」

「……ああ」

「援護は必要?」

「いや、あれは僕がやる。椿と葵は門を頼む。皆の防衛は司達に任せる」

 認められない。……あぁ、認められなくて、赦せないのだろう。僕は。
 だから、あの守護者は僕が倒したい。

「門は守護者を倒さないと閉じれないわ」

「それでもだ。僕が倒したら、すぐ閉じてくれ。……緋雪を妖扱いする門は、さっさと閉じてしまいたい」

「……そうね」

 僕の怒りが伝わったのか、椿は短く頷いた。

「完全に頭に来てるね優ちゃん。……まぁ、司ちゃん達にはあたしから伝えておくよ。だから、存分に戦って」

「……助かる」

 会話が終わると同時に、守護者の気配が戻ってくる。

「ふふ……あはははは……!」

「っ……!」

「……喋るのね」

 狂った笑いを浮かべながら、その守護者はこちらへ歩いてくる。

「……行け」

「っ!?……ええ、わかったわ」

「無茶はしないでね」

 自分のものとは思えない程、冷たい声が出た。
 それでも椿と葵は僕の指示に従ってくれた。

「……いい度胸だ。……そこまで写し取るか、妖が!!」

   ―――“霊魔相乗”

 霊力と魔力を合わせ、二重螺旋の如く練り上げる。
 かつて緋雪との戦いで使用した反則技。
 体の負担が半端ないが、出力を調整した上、体の成長した今なら……。
 ……この妖を屠るだけの余裕は、ある!

     ギィイイン!!

「あはっ、あははは!」

「その姿で!その声で!緋雪を騙るなぁ!!」

 こちらから仕掛ける。同時に、椿たちも駆け出した。
 踏み込み、一直線。一閃。だが、防がれる。
 身体能力も戦闘技術もあの時の緋雪より上だ。……それが、余計に腹立たしい。

「っ!」

     ギィイン!

「ぜぁっ!」

     ギィイン!

「はぁっ!」

 斬りかかり、防がれ、弾き飛ばされる。
 例え防御を掻い潜っても、それで与えた傷程度ではすぐ再生された。
 ……だが、別にそれは関係ない。

創造開始(シェプフング・アンファング)……!」

 弾き飛ばされ、地面を擦るように体勢を立て直す度に仕掛けておいた術式。
 それを発動させ、剣群を守護者に向けて放つ。

「あはははは!ははは、ははははは!」

「どこまでも笑う奴だな……。……そこまでして僕を怒らせたいか!!」

 それを守護者は飛び上がって躱す。狂った笑いを加えて。
 そこへ僕は斬りかかる。

「ぉおっ!!」

「あはっ!」

     ギィイイイイン!!

 一際大きな音が響き、僕は空中で足場を作って体勢を立て直す。
 そしてすぐにそこから跳ぶ。そこに魔力弾が飛んできていたからだ。

「それそれそれそれぇ!!」

「………!」

     ギギギギギギギギィイン!!

 守護者は避けた所に斬りかかってくる。
 連続で放たれる重すぎる攻撃。その全てを僕はシャルで受け流す。
 魔力の足場で体勢を立て直しながらだが、受け流す事は可能だ。
 かつての緋雪よりも、力や戦闘技術が上がっているが、それだけだ。
 それだけでは、僕が負ける道理はない!!

「あはは……は…?」

「まずは、一太刀」

 守護者の片腕が落ちる。
 シャルで攻撃を受け流し、同時に創造した剣で切り落としたのだ。

「緋雪やシュネーとの戦いでは、暴走を止めるため、悲しみを受け止めるために“防御”に徹していた。……だけど、お前は違う」

「……………」

 切り落とした腕は再生していく。
 だけど、守護者は黙ってこちらを見ていた。

「全身全霊で、容赦なく、叩き切ってやる」

「……ふふ……」

「なにがおかしい」

 理性があるのか、自我があるのか。
 まるで今の言葉を馬鹿にするかのように、守護者は笑った。

「これが笑わずにいられると思う!?皆、みーんな私を偽物だと思っている!ただの妖、ただの守護者でしかないと思っている!あっはは!ホント、おかしい!」

「……なに…?」

 その言葉を、聞き流す事はできなかった。
 まるで自我を持ったような喋り方。狂気を孕んでいるものの、確かに意志があった。

「私が偽物?ふふ、確かに“本物”ではないね!だって私は死んだんだもの!大好きなムート(お兄ちゃん)に殺されて、もう肉体はこの世に存在しないんだから!!」

「…………」

     ギィイイン!!

 高らかに言う“ソレ”に、容赦なくシャルを振るう。
 愚直すぎたその攻撃はあっさりと防がれ、大きな音が響き渡る。
 ……聞かれた、か。魔法や霊術を知っている司達は別にいい。
 問題は学校の皆だ。……今の話を、一体どう思うやら。

「……お前は、緋雪の“何”だ?」

「ふふ、あはは!それをムート(お兄ちゃん)が聞く!?わかってるでしょ?わかってるんでしょう!私が“何”なのか!私がただの偽物じゃないって事は!」

「っ………」

 ……ついさっきまでは、緋雪を妖扱いする守護者を赦せなくて倒そうとしていた。
 だが、今は違う。……ただ、“斃すべきモノ”として、倒さなければならない。

「……お前は、“狂気”そのものか…!」

「そう!そう!!その通り!!私はシュネー・グラナートロートと志導緋雪の“狂気”そのもの!人に弄ばれ、人に蔑まされ、人に忌避され、人に嫌悪され、人に恐れられ、人に殺された吸血鬼となった人間の、哀しみや苦しみを取り除いた、純粋なる“狂気”なの!!」

「…………」

 高らかに、まるで謳うかのように言う守護者……いや、“狂気”。
 かつての緋雪やシュネーは、確かに狂気を持っていた。
 だけど、その中には確かに苦しみや悲しみを抱えていた。
 ……でも、こいつは違う。
 まるで抽出したかのように、純粋な“狂気”だった。

「……そうか…」

「私は幻でも偽物でもない!正真正銘、志導緋雪の持っていた“狂気”なんだよ!まさしく人が生み出した罪!他ならぬ人間のせいで生まれたのが私なの!」

「……もう、黙れ」

 刹那、“狂気”の腕が消し飛ぶ。僕が斬り飛ばしたからだ。

「ああそうさ。お前は周りの人間が生み出した。人の悪意と、その悪意から守れなかった僕のせいで。……だから、ここで消す」

「……ふふ、あはは!できるの?できるのかな!ただの人間に!幼馴染も!妹も!二度に渡って救えなかったムート(お兄ちゃん)が!!」

「……ああ」

     ギィイイン!!

 言葉を返すと同時に、斬りかかる。
 だが、“狂気”は片手に対し、僕は両手で剣を持っていて…押されていた。

「っ……!」

「軽い!軽いよムート(お兄ちゃん)!!その程度じゃ棒切れのように吹き飛ばしちゃうよ!」

「くっ……!」

 “狂気”の言う通り、僕は吹き飛ばされる。
 その際に校舎の皆が視界に入ったが…皆、少なからず恐怖を抱いていた。
 当然だ。良くは分からなくとも、その狂気は伝わってしまったのだから。

「あは!あはははははははははは!!」

「っ………!」

 吹き飛ばされた所に大剣が振るわれる。
 それを屈むように躱し、すれ違いざまに一太刀入れる。…が、障壁に阻まれる。
 しかも、それは霊力による障壁。やはり霊力も兼ね備えているようだ。

「(だけど……)」

 それだけだ。特に何かが変わった訳でもない。
 圧倒的な差がある戦闘は、既に何度も経験している!
 特に、緋雪のような…シュネーのような戦い方は、よく知っている!

「ふっ……!」

「……!」

 放たれる弾幕のような魔力弾を掻い潜る。
 魔方陣を足場にし、跳弾のように避けながら肉薄し、胴を切り裂く。

「っ……!吠えたてよ、七色の輝きよ!!」

   ―――“Regenbogen Gebrüll(レーゲンボーゲン・ゲブリュル)

「(見た事がない魔法…!……だが!)」

〈“解析(アナリーズ)”〉

「術式模倣……お返しするぞ!」

   ―――“Regenbogen Gebrüll(レーゲンボーゲン・ゲブリュル)

 “狂気”の背中の羽にある七対七色の宝石全てから光が迸る。
 それに合わせるように僕も14個の魔力結晶を取り出し、同じ魔法を繰り出す。
 14筋の光がそれぞれ集束し、ぶつかり合い、そして爆ぜる。

「シッ―――!!」

 光は相殺される。だが、僕はすぐに動いた。
 後ろに振り返るようにシャルを振るい、同時に転移魔法を発動する。
 転移先は“狂気”の後ろ。不意を突いた一撃。これなら……!

「……偽物か」

「残念残念。残念だったね!さぁさぁ、甘い果実に釣られた愚か者の末路はなーんだ?」

   ―――“Obst falle(オープストファレ)

 周りを包囲しながら、何度も魔力弾がこちらへ向かってくる。
 誘い、包囲し、魔力弾で食らいつくす魔法。僕はこれを経験した事がある。
 ……だから。

「無駄だ」

   ―――“破魔霊撃(はまれいげき)

 掌を合わせ、霊力を周囲に一気に広げる。
 衝撃波のように広がった霊力は、その魔法の術式を破壊した。

「…………」

「……あはっ♪」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)
   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 間髪入れずに、お互いの魔法を発動させる。
 僕は術式を模倣したもの、“狂気”は破壊の瞳を使っていた。
 お互いがお互いを対象とし…爆ぜる。

「……あれ?」

「遅い」

 だが、爆ぜたのは“狂気”だけだ。
 爆ぜたように見えた僕は、予期して作っておいた分身。偽物だ。
 即座に転移魔法で肉迫し、シャルで一閃を放つ。

     ギィイイン!!

「……ちっ!」

「へぇ、へぇ、へぇ!やるじゃん!さっすがムート(お兄ちゃん)!でも、でも、これはどうする?これはどう凌いでくれる?」

 だが、その一撃は防がれ、さらに間合いを取られてしまう。
 ……そして、“狂気”は笑って次の手を使った。

「っ……!?」

 それは、僕も知らない一手。
 術式が込められた御札をばら撒くという、椿や僕が使う霊術の戦法。
 ...そう。“霊術”だ。この“狂気”は、霊術を使おうとしていた。

「“火炎”、“氷柱”、“風車”、“神撃”、“闇撃”!あはは!ムート(お兄ちゃん)は私がこれを使うのは知らないよね!さぁ、どう対処してくれるのかな!」

「…………!」

 どれも、簡単な霊術。だが、数が数だ。
 とにかく、僕も同じ霊術で対抗する。

「燃え盛れ、紅蓮!!」

   ―――“紅焔(こうえん)

 途端に、複数の御札が僕を囲うように飛んでくる。
 そして発動する術式。全てを焼き尽くすかの如き炎が僕を包まんとする。

「(これは……防ぎきれない…!)」

 事前に分かっていれば防げただろう。だが、咄嗟には無理だ。
 だから、僕は転移魔法を使って躱した。

「“Granatrot Gebrüll(グラナートロート・ゲブリュル)”!!」

「っ………!」

 しかし、回避を予期していたのか、砲撃魔法が転移先に迫ってくる。

「ちぃ……!」

   ―――“Twilight Spark(トワイライトスパーク)

 先程使った魔力結晶の魔力はまだ残っていた。
 その魔力を使ってこちらも砲撃魔法を即座に放ち、相殺する。

「(時間を稼がれた…?だとしたら、次は……)」

 相殺の爆風の奥に、魔法陣が見えた。
 その魔法陣の数は三つ。僕の予想であれば、厄介な事になる……!

「生まれ出でよ!我が分身!」

   ―――“Alter Ego(アルターエゴ)

 “狂気”の声が響き、魔法陣が輝く。
 ……止めるのが遅れた。

「……出し惜しみなし…か」

 かつてムートだった時に比べれば、まだ楽な条件だ。……“僕の方”は、な。
 だが、それに比例するかのように“狂気”も厄介さを増している。
 だからこそ、本気で戦わなければならない。

「……………」

「ふふ……さぁ、どうする?」

 少し離れた所には、四人の“狂気”。……内三人は分身だ。
 増えた事に、校舎の皆が驚いている。遠目だから詳しくは分からないが。

「……何度、その技を経験したと思っている」

「これまでのものと同じだと思う?」

「変わらねぇよ……結果はな!」

 分身三体がこちらへと迫る。
 一体は真正面、一体は側面、一体は後ろに回り込む。
 タイミングをずらし、連続で魔力の大剣を振り下ろしてくる。

「……………」

 だが、その程度ならどうという事はない。ムートの時も経験していた。
 むしろ、分身によるパワーダウンのおかげで、安定して受け流せる。

「(……けど、そこに霊術が加われば…)」

「ふふふ、あははははははははははは!!」

   ―――“刀奥義・一閃”
   ―――“極鎌鼬”
   ―――“戦技・三竜斬”

 強力な一閃、風の刃、三連続の斬撃。
 それらが三体の攻撃に混じってくる。……さらに。

   ―――“スカーレットアロー”

     ギィイイン!!

「くっ……!」

 本体からも魔法が飛んでくる。
 ……心なしか、シュネーの時よりも連携が上手くなっている。

「ち、ぃ……!!」

 導王流をフル活用し、分身の攻撃をいなしていく。
 隙がない訳ではない。見せた所から叩いていく……!





     ギィイン!ギギギィイン!!

「ふっ……!」

「っぁ……!?」

「そーれ!」

「甘い!」

 斬撃を凌ぎ、炎や風の刃を切り裂き、最小限の動きで躱す。
 霊術を織り交ぜた時はどうなるかと思ったが、もう慣れた。

「そこだよ!!」

「っ……!」

 避けきれなくなった所に、本体からの強力な一撃が飛んでくる。
 それを僕は受けるが吹き飛ばされてしまう。……否、態とそうした。

「まずは一体」

「っ!?」

 吹き飛ばされる際に、自分からも飛んでいた。おかげでスピードが乗る。
 そのスピードのままに、分身の背後に転移。
 体を捻り、回転切りを放って首を断った。

「っ、“創造(シェプフング)”…!」

 トドメを刺した際、大きな隙ができる。
 それを狙って他の分身が襲い掛かってきた。……が、予測済みだ。
 退魔の術式を込めた投げナイフを創造し、投擲する。
 同時に転移魔法を発動させ、防いだ所を背後から一閃。

「分身していなければ、防げたものを」

「はぁっ!」

 最後の分身が砲撃魔法を撃ってくる。
 だが、僕は既に戦闘で散らばった魔力を集めきっていた。
 その魔力を手に纏い、弾き返す。

「っ!?」

「チェックメイト」

 防御魔法で弾き返された砲撃魔法を防いだらしいが、無意味だ。
 真上から巨大な剣を創造して突き刺す。
 体の前後で分かたれたが、分身なのでグロくなる前に消える。

「油断大敵!」

「してないぞ」

   ―――“創糸地獄”

 先程一閃した分身が生き残っていたようで、背後から斬りかかってくる。
 もちろん予想していた。その上で霊力の糸を置き、雁字搦めにして引っ張る。
 分身はバラバラになると同時に消え、残りは本体だけとなる……が。

「……準備していたのか」

「当然。これがなかったら、“私”じゃないからね!!」

 “狂気”を中心に渦巻く魔力。そして広がる魔法陣。
 それは、今すぐにでも発動できる結界魔法で、もう阻止する事はできなかった。

「さぁ、さぁ、さぁ!!我が狂気は世界をも浸食する!人の罪、人の業の権化を今ここになそう!いざ、染め上げろ!我が狂気に!!」

   ―――“悲哀の狂気(タラワーヴァーンズィン)

 世界が、狂気に包まれる。
 空は紅い暗雲が覆い、それでもなお朱き月が煌々と地を照らしていた。
 その地も荒れ果て、その上に血の如き赤い水面のようなものが広がっている。

「……これが、お前の…シュネーと緋雪が持っていた狂気か」

「その通りその通り!ここは私の心象を模した世界!ここにいる者は皆、水面の波紋が広がる度に狂気に侵される!さぁ、さぁ!狂気の宴を再開しましょう!」

「初めて見たが……そうか、これが…か」

 途端に波紋が広がる大地にある水面。
 それが僕の足元まで来た瞬間……。

「っ……!」

 精神が蝕まれるような感覚に見舞われる。
 あぁ、確かに狂気が僕を侵しに来ている。……でも…。

「そうか……シュネーは、緋雪は……ムート()の死後、ここまで哀しみ、苦しみ、嘆いたんだな…」

     ギィイイン!!

「あはっ!どうしたのムート(お兄ちゃん)?ギブアップ?私を倒すんじゃないの?ねぇ!」

「…………」

     ッ、ギィイイイイン!!!

 笑いながら斬りかかってくる“狂気”を、思いっきり吹き飛ばす。

「……改めて言おう。……ごめんな、シュネー。お前を救えなくて……ここまで、苦しめる事にさせてしまって…」

「っ………」

「そして、“狂気”。お前はここで果ててもらおう。もう、緋雪の哀しみはなくなった。……だから、お前はもう必要ない」

 シャルの切っ先を向け、そう宣言する。

「霊魔相乗の出力、五割から七割に底上げだ。……行くぞ」

 刹那、足元が爆ぜるかのように僕は踏み出した。











 
 

 
後書き
戦技・金剛撃…打属性依存。霊力を込めた強力な打撃を放つ。斧を用いる事が多い。

Regenbogen Gebrüll(レーゲンボーゲン・ゲブリュル)…“虹の咆哮”。羽にある七対七色の宝石に込められた魔力と術式を使い、14筋の光を集束させて攻撃する魔法。1筋だけでもそれなりの威力を持ち、全てが集束した場合は相当な威力を誇る。

破魔霊撃…基本的には通常の霊撃と同じだが、こちらはそれをさらに魔法の術式破壊に特化した術。衝撃波としての威力はないに等しいが術式は破壊できる。

紅焔…火属性依存の二回攻撃。一見シンプルだが、神話級激レア(所謂UR)のスキルなので強力。本編では、全てを焼き尽くすかの如き炎を発現させる。

Granatrot Gebrüll(グラナートロート・ゲブリュル)…“紅の咆哮”。かつてシュネーが使っていた強力な砲撃魔法。威力はなのはのディバインバスターを軽く凌ぐ。

戦技・三竜斬…斬属性の三回攻撃。竜を切り裂くが如き連撃を繰り出す。


たった一体の守護者相手に一話以上使う……あれ?このペースだと話数ががが……。
まぁ、今回が特別なだけなんですけどね。
ちなみに今回使っている霊魔相乗。所謂DBの界王拳のように、一定までなら負担はほとんどなくて済みます。その限界は大体六割程まで。つまり、今は負担が掛かっています。
それでも十割よりは圧倒的に軽いですが。 
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