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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第47話 君に会えてよかった

H13年5月9,10日 side-Asumi

 水曜日の大手合いが終わる。私は天元戦の予選Cも含めて負けなしの連勝を続けている。

 何故か進藤は大手合いを欠席し不戦敗となった。

 親に連絡を入れ今日は対局の反省を独りでしたいからと勉強部屋に泊まると伝えた。

 彼のアパートの部屋は驚くくらい綺麗に整理されていた。
 うつ病の人が急に部屋の片付けや身の回りの整理をはじめると、それは自殺前の大切なサインだから見逃さないでとテレビで言ってたことを思い出す。

 私はわかってしまった。もうすぐ彼がいなくなってしまうことに――。

 彼が囲碁サロンに足を運ぶことがなくなったのはいつからだろう。
 三年次からは大学生活が忙しくなるからといってIT企業のアルバイトを辞めたと聞いてた。

 彼が新初段シリーズの棋譜を自然に並べることができるようなり、最近はAiとsaiの二人の対局を真剣な顔つきでずっと並べていたこと。

 前の日曜日、ネットの対局にsaiが現れなかったときの彼のほっとしたような表情を。

 私の心のどこかで分かってた。だから今年中に天元を取りたいって思ってた。

 できるだけ今までは考えないようにしてたけど、神様は年末までは待ってくれなかったみたいだ。

 私を待っていた彼が優しい表情で謝罪の言葉を述べる。

――ごめん。もうすぐ消えるみたい

「そらくん……帰っちゃうの? 元の世界に?」

――そうだね。どうやら無事に帰れるみたい

「桐嶋和さんの所へ行くんだ」

 私は我慢できず胸の内に渦巻く想いを全て伝えた。

 最初は単に和-Ai-の碁にだけ惹かれたこと。

 次に彼が話す桐嶋和さんの物語に憧れたこと。

 そして少しずつ貴方に私が惹かれていったことを――。

 一緒に居て楽しかったこと、出会えて幸せだったこと、二人で中国に言ったこと、プロ試験のときは心強かったこと……伝えたいことは……いっぱいあった。

 私は和-Ai-だけじゃなくて貴方がいたからプロになれた。

 棋譜の件も本音では私の碁を忘れないで欲しいと願ったことを。

 帰って欲しくない。傍にいて欲しい。

 無理だってことは分かってるけど、桐嶋和さんじゃなくて――私を選んで欲しいって!

 時折り困った表情を見せながらも彼は黙って私の我がままを聞き続けてくれた……。

 17歳の誕生日、学校は欠席した。

 私は<バラの香りの世界一のケーキ>よりも彼と二人だけでいることを望んだ。

 そして和-Ai-と私の最後の対局を行っている。
 足付き30号の新かやの碁盤に彼がAiの打ち手を務め、私が彼の手に答える。

 この対局を忘れないで欲しいと願いながら。私は手を進める。

(もっと彼に多くの棋譜を残したかったな。)

 最後の一局が終わった後、再び一から石を並べ始める。

「……私ね。必ず天元になるから」

「貴方のこと忘れない。和-Ai-の碁も私が打ち続けるから――」

 少しずつ少しずつ彼の存在が希薄になっていくような感じがする。

「いつかきっと本因坊も取るから!」

「……約束するから! 私のこと……忘れないでね!! お願いだよ!」


―― 君に会えてよかった ――


 別れに残された言葉。

 最後くらい嘘でも良いから「我爱你」って言って欲しかったな。

 私は初恋に破れて涙を流した。 
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