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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の休日・2nd-前編-

 さて、久々の休日だ。どうやら新人の中には俺が365日休み無しで仕事をしているワーカーホリック、仕事中毒な人間だと思っている輩がいるらしい。決してそんな事はなく、月に5~6回は休日を挟んでいる。現場に出ている艦娘達よりは少ないが、休みは取っているのだ。

「さて、どうすっかねぇ……」

 いつも通り正午に目を覚まし、ゆっくりと着替えをした後にソファに腰掛けて煙草をくわえる……が、火を点ける気分にもなれず唇でくわえたまま弄ぶ。このまま一日中寝てるってのも悪くないが、どちらかと言うと休みの日には仕事中よりも活発に動きたいタイプなんだ、俺は。しかし何をしたものかといいアイディアは浮かばずにまんじりと時間を浪費している。と、グウゥ……腹の虫が抗議してきた。どうやら何をするか考える前に栄養補給しろ、という事らしい。

「とりあえず、昼飯にすっか……」

 よっこらせと立ち上がり、自室を後にする。たまの休み位、自炊以外の物が食いたくなったりする。




 鎮守府内をぷらぷらと歩きつつ、『間宮』へと向かう。昼飯のピークが終わった今くらいの時間なら、間宮も食堂から自分の店の方に戻ってきているだろうという読みだ。その道中、すれ違う艦娘達と挨拶を交わしていく。俺を見ての対応も、付き合いの長さや個人の性格が現れていて面白いもんだ。入ったばかりで俺に慣れていない娘は、俺を見ると一瞬硬直して直立不動になり、ガチガチの様子で敬礼をしてくる。俺は逆にユルさ満点に右手を挙げて「うい~っす」と返し、もう少し力を抜けと頭を撫でてやる。もう少し慣れてくると声を掛けて来るのでこちらも声を掛ける。一番厄介なのは付き合いが長く、しかも俺に遠慮がない連中だ。ほら、こんな感じに。

「へへ~、しれぇつっかまーえた!」

 腰の辺りにドン、と軽い衝撃を感じてそこを確認すると、時津風の奴が抱き付いていた。その後に続いて雪風、初風、天津風がパタパタと駆け寄ってくる。どうやら普段から仲のいい4人で遊んでいたらしい。

「ねーしれぇ、どこ行くの~?ねぇねぇ」

「あ?今から昼飯だよ。休みだし、『間宮』にでも行こうと思ってな」

 間宮、という名前が出た途端に時津風の目の色が変わる。

「間宮さんトコ行くの!?しれぇ、奢って奢って~!」

「ちょ、ちょっとダメよ時津風!」

「しれぇに何頼んでるんですか!?」

 初風と雪風がそれを咎める。

「えー、いーじゃん別に~」

「ちょっと時津風、アナタ図々し過ぎるわよ!」

 天津風も目を吊り上げて怒っている……が、その瞬間にくぅ……きゅるるると可愛らしい腹の虫が鳴いた。誰のかと思ったら天津風が赤面して腹を抑えている。

「……な~んて言ってるが、腹の虫は正直だなぁ天津風?」

「あうぅ……///」

「いいよ、奢ってやる。ただし、1人1000円までな」

 『間宮』のメニューには時々恐ろしい値段の奴がある。何だよ、パフェ1人前3500円とか。量も値段通りの量なんだがよ。




「いらっしゃいませぇ~……あら提督に、可愛いお連れさんですね?」

「よぅ。今日は非番なんでな、昼飯食いに来た」

「私達は提督を拿捕したから、オヤツ奢って貰うんだー!」

 おいこら時津風、その言い方だと俺が不審船とか密漁船とか、悪党みたいじゃねぇか。

「はーい、では今お冷やとメニューお持ちしますので。お好きな席でお待ちください」

 間宮に促されて手近なテーブル席に座る。店内は満席……とまではいかないが、半分以上の席が埋まっている。それにチラチラとこっちに視線が向けられてるな。大方俺がここにいるのを物珍しいと思ってるんだろう。大概3時の休憩のオヤツは俺の自作か間宮に出前を頼んでるからな。店には滅多に顔を出さない。

「メニューお持ちしました!ご注文がお決まり次第、呼んでくださいね!」

「あぁ、あんがとさん」

 伊良湖もようやく俺を見ても緊張しなくなったのか、普段通りの接客をしていた。さて、何にするかな?

-数分後-

「お前ら、注文決まったか?」

 時津風達4人も頷いている。では注文するとしよう。

「おーい、注文頼まぁ」

「はーい、お伺いします」

 伊良湖が伝票を持ってやって来た。瞬間、店内に変な緊張感が走った……ような気がする。何だ?

「えぇと『ブロッコリーと小エビの赤パプリカクリームソースパスタ』に、『タピオカプリン』。それと食後にコーヒーを頼む」

 俺が注文を終えると、店内にいた何人かが盛大に噎せ返っていた。何だよ、集団で引き付けでも起こしたか?というか、同じテーブルの4人も固まっているんだが。

「おい、お前らは?」

 俺に声を掛けられたのでハッと正気を取り戻したのか、各々が伊良湖に注文を告げる。

「はーい、では少々お待ちください」

 パタパタと厨房に戻っていく伊良湖を見送っていると、天津風が話し掛けてきた。

「あ、アナタ……随分と可愛らしい物を注文するのね?」

 その声は僅かに震えていた。

「可愛らしい?どこが」

「だってさー、しれぇの顔だと女子っぽいパスタとか似合わないよ?マジで」

 時津風もクスクス笑いながら、そんな失礼な事を言って来やがる。

「雪風は何でもいいと思います!」

 この4人の中だとお前が良心か、雪風。というか初風はさっきから下向いてプルプルしてるんだが……まさか、笑いを堪えてやがるのか?

「もう無理…限界……!」

 と呟いた途端に爆笑し始めやがった。そんなに似合わんかねぇ?俺にお洒落な料理って。




「はい、お待たせしました。『ブロッコリーと小エビの赤パプリカクリームソース』と『タピオカプリン』です」

 間宮が注文の品を持ってきてくれた。時津風はクリームあんみつ、雪風はプリンアラモード、初風はティラミス、天津風はホットケーキを頼んだらしい。どれ、それよりも俺は昼飯だ。

 スプーンとフォークを使い、少しピンク色のクリームソースをパスタにたっぷりと絡めていく。具材は小エビとブロッコリー、玉ねぎ、それに黄パプリカ。赤パプリカの姿が見当たらないが、恐らくは加熱した後でフードプロセッサーなんかを使って細かくしてクリームソースに溶かし込んであるのだろう。どれ、味は……と。

 うん、これはいいな。エビのプリプリ感と玉ねぎとパプリカ、ブロッコリーの歯応えがしっかりと残ってる。火を入れすぎていない絶妙の状態だ。クリームソースの赤みもやはり、赤パプリカだったらしい。独特の風味が口に入れた瞬間に鼻に抜けてくる。ただ……惜しむらくはちとしょっぱいな。具材とパスタを茹でる時にも塩を入れて茹でている所に、クリームソースにも結構な塩を入れているようだ。具材を塩ゆでするなら、クリームソースの塩は控え目にすべきだと思う。

「どうでした?パスタ。新商品なんですが」

 間宮がエプロンで手を拭いながら寄ってきた。

「うん、美味いと思うよ。ただ……具材を塩ゆでするなら、クリームソースの塩は控え目にした方が全体的に纏まりが出ると思うがな」

「……だそうですよ?伊良湖ちゃん」

 あれま、このパスタ伊良湖の作ったメニューだったのか。知らないでダメ出しして、悪い事しちまったかな?

「ありがとうございます提督さん!」

 ……あれ、感謝されてしまった。

「自分でもイマイチ出来に納得できてなかったんですが、今のアドバイスとても参考になりました!」

 どうやら、間宮が俺が来たのを見て急遽メニューに追加して俺に毒味……というか試食させたらしい。間宮め、図りやがったな?そんな計略を仕組んだ犯人はと言えば、悪戯っぽくペロッと舌を出していた。まぁいいんだけどよ。

 
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