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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の挑戦状・2

「そんなの簡単じゃない!答えは2の国家機密漏洩罪よ」

「正解だ、中々やるな」

 ヒトラーがバカだというのが国家機密なのに、それを大声でバラしたのが罪、という政治風刺のブラックジョークだな。

「というかお前からしたら『敬愛すべき総統閣下』なんじゃないのか?」

「あら、今は貴方の部下であり妻だもの。あんなちょび髭どうでもいいわ……それより、景品の一杯奢り忘れないでよね!?」

 色々とひでぇな、オイ。まぁ本人がそれでいいならいいんだが。俺はビス子にリクエストされたワインをグラスに注ぎ、出してやる。

「ホラよ、こいつは俺の奢りだ」

「ふふっ、勝利の美酒ってやつね。普段より美味しく感じるわ♪」

 ビス子は上機嫌でグラスを傾ける。そんな事をしていると、今度は騒がしい一団がやって来た。

「おい~っす提督、まだやってるー?」

 そんな弛い挨拶と共に入ってきたのは望月だった。その後ろには長月、菊月、皐月、文月が続いている。少し顔が赤い所を見るに、別の所で飲んでからウチに来たらしい。

「らっしゃい、随分とご機嫌だな?」

「今日はお祝いなんだよぉ。ホラ、文月に改二の辞令が降りたから」

「あ~、それでか」

「えへへへへぇ♪」

 当の文月も嬉しそうにニマニマ笑っている。

「そういえば司令官、クイズに正解したらお酒奢って貰えるんでしょ?」

 ニヤリと笑って皐月がそう言ってきた。どうやら挑戦する気らしいな。

「あぁ、まぁ一応な。でも俺の出す問題は難しいぜ?本当に正解出来んのか?」

「まっかせてよ!これでもボク、頭脳派なんだから!」

「ほ~ぉ、頭脳派ねぇ……なら、数学の問題でも良いよな?」

 う、と皐月が言葉に詰まる。実は勉強を教える担当の連中から苦情……というか愚痴を聞かされていたのだ。『駆逐艦の何人かが数学を特に苦手にしている』ってな。皐月の名前もその中にあった筈だ。

「も、勿論さ!」

「なら、日本の古典的数学パズル、鶴亀算の問題だ。『鶴と亀を数えて、頭の数は20、足が58本になる時、鶴は何羽で亀は何匹だ?』さぁ、解答権は1度だけだぞ」

 これ、中学でならう方程式を使わなくとも、解き方さえ閃けば四則計算を覚えた小学生でも解ける問題だったりするのだが……皐月には難問らしいな。

「えぇと、鶴が頭1つに足が2本で、亀が頭1つで足4本だから……」

 お、考え方としては間違ってないな。そこからどう答えに結び付けるかが大事なんだがな。たっぷり5分は悩んだ挙げ句、皐月はカウンターに崩れ落ちた。

「駄目だぁ~、全然わかんないや」

「だから普段の勉強もちゃんとやっとけ」

「ふぁ~い。ところで、問題の答えは?」

「鶴が11羽と亀が9匹だ」

 実はこれ、簡単な解き方がある。鶴と亀の数を変数にして連立方程式で求めるのが一般的な解き方なんだが、亀を分けて考える事で簡単に答えを導き出せる。

 解き方としてはこうだ。まず、鶴と亀の総数20に、2をかける。すると、『頭と足2本』の組み合わせで足が40本ある事になる。これは鶴の総数と、亀の半身の足の総数を合わせた数だ。 

 次に、足の総数58から40を引く。そうすると亀のもう半分の身体に付いている足の総数が求められる訳だ……そしてその総数は18。後はこの18を2で割れば、亀の総数が自然と解る。こうやって解けば鶴と亀の数を方程式無しで求める事が出来るって訳だ。





「へーぇ、面白いじゃん。提督、他にもっとないの?」

 眼鏡の奥の瞳を光らせて、望月が聞いてきた。

「そうだな……同じような数学問題がいいのか?」

「アタシ意外と数字強いからね~、ナメんなよ?」

「なら鶴亀算より難しい、中国の数学パズル、百鶏問題だ。『雄鶏は1羽500円、雌鶏は1羽300円、ヒヨコは3羽で100円とする。出来る限り雄鶏を多くしつつ、1万円で100羽買いたい。さて、どう組み合わせて買えばいいか?』」

 これはさっきの方程式よりも難しい、不定方程式を使わないと解けない問題だ。

「提督、紙とペンある?」

「ほらよ」

 望月はペンを受け取ると、紙にスラスラと式を書き始めた。お?どうやら解き方は解っているらしいな。

この問題の場合、雄鶏の数をA、雌鶏の数をBとするとヒヨコは(100-A-B)という事になる。ただし、ヒヨコの数は3の倍数で無ければならない。この事から、

(5×A)+(3×B)+{(100-A-B)÷3}=100

という式が導き出される。そしてコレを解きやすく整理すると、

(7×A)+(4×B)=100

よって、

7×A=4×(25-B)

この式から、雄鶏の数であるAは4の倍数である事が解る。後はAに4の倍数を当て嵌めて行けば答えが導き出せるんだが……

「出来た、多分あってるよ」

「んで、答えは?」

「雄鶏が12、雌鶏が4、ヒヨコが84」

「正解だ、やるなぁ望月。さぁ好きなのを頼んでくれ、俺の奢りだ」

「あっそう?んじゃ遠慮なく」

 望月はそう言うと、早霜にウィスキーのボトルとグラスを4つ頼んだ。あ、まさか望月お前。

「にっしっし、『グラス一杯』とは言わなかったろ?提督」

「してやられたぜ、まぁ俺のミスだ……しょうがねぇやな」

 ニヤリと笑って見せた望月は、祝杯でも上げるかのように、姉妹達とグラスをぶつけた。




 望月が俺から勝ち取ったボトルが空になると、千鳥足で4人は帰っていった。

「darling、ただいまデ~ス……」

扉を開けて入ってきたのは、やたらとくたびれた様子の我が嫁・金剛だった。

「おぉ、おかえり。随分と早かったじゃねぇか」

 実は金剛を含め、主戦力メンバーのほとんどはヨーロッパ方面に出現したという姫級撃退の為に地中海へと大規模な遠征に出ていた。流石におれまで鎮守府を離れる訳にもいかず、現地の指揮は金剛に任せつつ、テレビ電話でやり取りしながら作戦を遂行。何日か前に作戦完了の報告を受けていた。

「で、首尾は?」

「撃沈0、何人か新しい艦娘も合流する予定だヨ~」

 なんでも、向こうで新たに発見された艦娘が居たらしく、現地の造船所で急遽建造してそのままウチの艦隊が受領。護衛して本土まで届けるようにとの任務を仰せつかったらしい。しかし作戦完遂した途端に居ても立ってもいれなくなり、護衛任務を妹達にほっぽりだして帰って来てしまった、とは本人談だ。

「だったら尚更現地に居ろよ。お前司令官代理なんだからよ」

「だ、だって我慢出来なかったのデス……2週間も離れ離れだったんデスよ?」

 む~っと頬を膨らませてご機嫌斜めな様子の嫁さんの頭をワシャワシャと撫でてやる。

「わかったわかった、とりあえずお前は風呂入ってこい。汗臭いからな」

 相当に無理をして来たのだろう、金剛は汗だくで潮風に長時間当たっていたのもあってかなり臭っていた。


「うぅ……そうします」

 やれやれ。少しは落ち着きが出てきたかと思えば。

「店長、そんなに気になるなら様子を見てきては?」

 ジト目でこちらを見ていた早霜がそう呟いた。

「あ?別に気になんて……」

「なら、何で貧乏揺すりなんてしてるんです?」

 おっと、無意識にやっていたらしい。正直に言うとあそこまでやつれた様子の金剛は見た事が無かった為に心配ではあった。しかしまだ店も営業中だ、投げ出す訳にもいかんだろ。

「私がこのあとの営業は引き継ぎます。司令は奥様を労ってあげて下さい」

 そう言いながらグイグイとカウンターから押し出される。

「……んじゃ、お言葉に甘えるとしますかね」

 店を後にして、金剛が向かったであろう風呂場に足を向ける。このあと、風呂から悲鳴が上がったのは別の話。 
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