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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の休日・2nd-後編-

「ごめんなさいね提督、騙すような真似をして」

 申し訳なさそうな顔をしながら、間宮がコーヒーを持ってきた。俺は今タピオカプリンを堪能中である。

「別に構わねぇさ。外食の目的の1つでもあるしな」

 元々俺が外食をする目的は主に2つ。1つは馴染みの店でゆっくりとしたい。もう1つは自分の料理のレパートリーの増加である。知らない店、知らない国の料理。馴染みの店だって新たなメニューや食った事の無いメニューを食えば、新たな発見があり、それが自分の引き出しになっていく。さっきのクリームパスタだって、パプリカをソースに溶かし込むというのは目から鱗だった。トマトやほうれん草なんかではやった事があったが、パプリカのような仄かな苦味のある野菜ではやった事が無かった。試してみたいとウズウズしていたりする。

 今食ってるタピオカプリンだってそうだ。タピオカってぇのは暑い地方で採れるキャッサバって芋から取れるデンプンの粉から作られててな。よくアジア系の料理屋なんか行くとミルクティーとかのそこに入ってるモチモチしたボール状の奴だ。アレを混ぜ込んで作るカスタードプリンと、タピオカの原料になる粉をゼラチンの代わりに凝固剤として使用して作る2通りの作り方がある。これはどうやら後者らしく、プリンらしいプルプル感もありながら葛餅みたいなネッチリとした感触もあって歯触りが面白い。これも俺は作った事の無い未知のメニューだ。

「でも……それじゃあ私の気が収まりません」

 そう言うと間宮が俺の隣に腰掛け、右腕に抱き着いてきた。エプロンの下に納まった巨大マシュマロ2つが俺の腕に押し付けられ、ムニュッと変形する。おいおい、随分と積極的だな?

「どうです?お詫びはカラダ払いというのは」

「おいおい、そりゃあ……」

「私には魅力、ありませんか?」

 無い、なんて事は無い。寧ろ是非ともお相手願いたい所ではある。……が、ダメだな。

「忘れた訳じゃねぇだろ?ウチのルール。ケッコンしなけりゃ肉体関係は無しだ」

 そう。半ば俺のハーレムと化してしまっているこの鎮守府の絶対的な掟。俺とそういう関係になれるのは、ケッコンカッコカリを果たした者だけ。それはある種のステイタスであり、頑張りに対するご褒美となっているからこそ、ウチの鎮守府は目立った争い等は無く平和を維持していると思っている。恐らくだが、俺が節操無しに艦娘に手を出していたら嫌がる者は居なくても俺を巡って内戦状態になりかねない……というか確実になるので止めてくださいね?と大淀他嫁艦連中に釘を刺されている。

 元々間宮は給糧艦、自衛用の単装砲も積んではいるが基本的には非戦闘艦の類いだ。艦娘になってからもそれは変わらず、艦隊に編成する事すら出来ない。つまりは錬度を上げる事は出来ず、ケッコンカッコカリは仕様上不可能。そんな事は間宮も重々承知の筈だが?




「あら、ご存知ないんですか?本土の方では既にケッコンした間宮がいるんですよ?」

「なぬ?」

 初耳だぞ、そんなの。というか間宮とケッコンするってどんな無茶をしやがったんだそいつは。

「で、どこの馬鹿野郎だよそんな真似をやらかしたのは」

「大坂の吉野中将です」

「よりにもよってアイツかよ……」

 名前を聞いた途端にズキズキと痛み始めたような気がするこめかみを抑えながら、俺は溜め息を吐いた。その名前なら俺もよく知っている。ウチに飯を食いに来た事もある奴だが、あの当時は中佐だったってーのに、いつの間にやら中将に成り上がっていた。よっぽど裏で悪どい事をしていたに違いない、ウン。ウチは健全経営で業績を積み上げての今の地位だからな?汚い事は……あんまりしてない。

 そんな奴の名声……というか悪名の中には、中々凄まじい物がある。例えば、本部勤めの明石と大淀、間宮を引き抜いてったとか、夜な夜な艦娘達にコスプレさせてプレイを楽しんでるとか。そんな中でも、『所属する艦娘全員とケッコンしてる』というのは聞いた事があったが、まさか非戦闘艦の間宮と伊良湖まで含まれてるとは。

「ですから、前例もある事ですし何ら問題は……」

「いやいや待て待て、俺の心の準備は」

「70人も嫁を抱えていて、今更2人増えるのに怖じ気付くんですか?」

 おい、何で2人増える事になってんの?

「前に言いましたよね?私を頂く時には伊良湖ちゃんも一緒にって」

「寧ろこの状況下だと喰われる立場なの俺だと思うんだが?」

「て、提督さん……あの」

 声のした方を見ると、顔を真っ赤にした伊良湖が立っていた。いや、何で赤面しながらモジモジしてんの君。

「ふっ……ふつちゅか者ですが、宜しくお願いしますっ!」

 と勢いよく頭を下げられた。そして俺の傍らには勝利を確信したドヤ顔の間宮。あぁ、これはイエスかはいしか返答できない奴ですね、わかります。俺はケータイを取り出し、明石に電話する。

「あ~、明石?急で悪いんだけどよ、ケッコンカッコカリ用の指輪2つ配達してくんね?執務室に」





 その後も引っ付いて来ようとする間宮をどうにか振り切って、演習場の傍に設置された喫煙所にやって来た。酒以外にも煙草を嗜む奴が多いウチの鎮守府、多くの喫煙者(俺も含め)の要望に沿って、屋外に屋根付きの喫煙所を何ヵ所か設置していたりする。今は海でも眺めながら煙草でも吸って心を落ち着けたい。そんな気分だ。

「あら提督、今日は非番でしたっけ?」

 おっと、喫煙所に先客がいたらしい。

「あぁ、まぁな。お前も非番か?夕張」

「えぇまぁ。演習を眺めに来てました」

 好きだねぇ相変わらず。夕張は喫煙所内に設置された椅子に腰掛け、缶コーヒー片手に煙草をふかしつつ演習の様子を眺めている。何とも堂に入った姿だ。まぁくわえてる煙草は細く、いかにも女子が吸いそうな見た目ではあるが。

「バージニアか?その煙草」

「え、よくわかりましたね」

「まぁな。いかにも女子っぽい煙草だし、特徴的だからな」

「バージニアのメンソールです。徹夜明けとかに眠気覚ましになるんですよ」

「ま、徹夜も程々にな」

 俺もポケットから煙草を取り出し、1本くわえて火を点ける。ゆっくりとふかしつつ、演習の模様を眺める。演習している艦隊の陣容は……互いに戦艦1、空母1、重巡1、軽巡1、駆逐艦が2。同じ編成で戦略の違いを確かめよう、ってトコかな?こうしてみると同じ編成でも戦術の違いが見えてきて面白い。

 俺から見て左側の艦隊は、堅実な攻めだ。戦艦・空母・重巡が距離を取り、遠距離からの砲撃と航空攻撃でダメージを重ねていく。軽巡と駆逐艦が前に出て攪乱して砲撃の着弾点に追い込もうとしている。

 対して右側の艦隊は、駆逐艦を先頭に空母以外の艦が全員敵の戦艦に突っ込もうとしている。敵の前衛なぞ目もくれず、狙うは敵の大型艦のみ。中でも先頭に立って斬り込んでいく駆逐艦……ありゃ夕立か?すげぇな、ギリギリで敵の砲弾をかわして、最短距離を駆け抜けていく。砲撃か雷撃かと思ったら、砲撃していた敵の戦艦……ありゃ長門だな、その懐に潜り込んで顎先にフック打ち込んでやがる。それで脳を揺らされたのか、長門の奴め白目剥いて気絶して倒れた。あの作戦は肝が冷えるな……指揮官としては止めてもらいたいが、格闘戦を仕込んだのが俺だってんだから立つ瀬がない。

「あれ?提督もう行くんですか」

「あぁ、ちっとその辺ぶらぶらしてくらぁ」

 全く、休みだってのにちっとも休まらねぇ。ウチの鎮守府はカオスだぜ。 
 

 
後書き
 はい、という訳で話の中だけですが特別出演の方がおりました。まぁ作者のzeroさんにはSNSの方で承諾頂いて書かせて頂いている訳ですが。

そしてめでたく(?)『提督はBarにいる。』400話を迎えました。当然ながらいつもの如く企画も準備しております。アンケートの方にご参加頂けますと幸いですm(_ _)m 
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