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行方不明

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第四章

「元気でな」
「何処かでな」
「生きていて欲しいな」
「俺もそう思うよ」
「馬鹿でもいい奴だったからな」
「明るくて前向きでな」
「向こう見ずだけれどな」 
 それでもとだ、友人達も言う。彼等はそれぞれの昼食を食べながらそのうえで匠のことを心配していた。
 彼等がいるその席にだ、不意にだった。
 一つのプラスチックの盆が来た、その上には一杯の和布うどんとカツ丼がある。
 その盆を持って来た者は頂きますをしてからうどんと丼を一口ずつ食べた、それからこんなことを言った。
「やっぱりこの大学の飯美味いな」
「?その声は」
 その声を聞いてだ、直希は。
 驚いた顔になってだ、声の方を見た。彼の隣の席だったが。
 そこにいたのは匠だった、無精髭を生やして髪の毛はぼさぼさに伸びていてだ、やけに日焼けしている。
 その彼を見てだ、直希は言った。
「御前、何でここに」
「えっ、何でって?」
「何でここにいるんだ!?」
 幽霊か怪獣を見た様な顔で言ったのだった。
「一体」
「いや、今日ここに帰って来たんだよ」
「ここに?」
「昨日日本に帰ってきてな」
「おい、日本って何だ」
 平気な顔でうどんと丼を食べつつ応える匠にだ、直希は言い返した。
「御前何処に行っていたんだ」
「いや、お金がいるって言ってたよな」
「金?」
「言ってただろ、スポーツカー欲しいってな」
「そうだったか?」
「何だよ、忘れてたのかよ」
 匠は平然とした態度のままいぶかしむ顔になった直希にまた言い返した。
「俺そう言って席立っただろ」
「そういえばそうだったか?」
「それでだよ」
 まさにというのだ。
「確実にかつかなり稼げる仕事って思ってな」
「日本を出ていたのか?」
「マグロ漁船に乗っていたんだよ」
 そうだったというのだ。
「そこでずっと乗り込んでな」
「お金稼いでたのか」
「ああ、大変だったぜ」
 明るく笑ってだ、匠は直希に話した。
「日差しはきついし仕事もハードでな」
「それは聞いてるけれどな、俺も」
「けれどかなり儲かったぜ」
 匠はにかっと笑ってまた言った。
「スポーツカー買える位にな」
「じゃあ御前スポーツカー買う為にか」
「維持費も含めてな」
「あの時からいなくなったのか」
「思い立ってな」
 そしてというのだ。
「マグロ漁に出ていたんだよ」
「そうだったのか」
「それで昨日日本に帰って来てな」
「大学にか」
「今来てな」
「飯食ってるのか」
「久々にここの飯食いたくなってな」
 相変わらず無闇に明るい顔での返事だった。
「いや、美味いな」
「おい、家に帰ったのか?」
 友人の一人が匠に聞いてきた。
「それで」
「家か?」
「そうだよ、帰ったのか?」
「いや、昨日は帰ったのが夜で港町で野宿でな」
 日本に帰ったその日はというのだ。 
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