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異世界に転生したら、強くてニューゲームでした。(編集中)

作者:イリア
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天使と燕尾服

 
前書き
異世界チートから、ちょっと流れが変わります。

でも、ちょい出しなんで、もうしばらくは異世界チートが続きます(笑)

お付き合い頂けたら嬉しいです(*^^*)

2017/9/12 細部を編集しました。

2017/8/30 題名を「天使と燕尾服」へ。 

 
『カイくんの転生する異世界には、人間族、獣人族、妖精族など、多様な種族が存在しています。その中から、ランダムに転生することになります。

転生後の種族は選ぶことはできませんが、こちらからのせめてもの償いということで、あなたの容姿や魔力、知力についてはこちらで少しばかり干渉させていただきます。

しかし、干渉できる範囲は少なく、転生先の家庭は選べませんので、お知りおきください。

言語は下界とは異なりますので、不便のないよう、初期スキルとして添付しておきますね。』

僕にそう説明しながら、天使は地面(?)に、何か記号を描いていた。説明と同時に書き終える。複雑な形をした文字のようなものが丸く円状に連なっているそれは、アニメやマンガで見ていた魔法陣そのものだった。

気になって見ていると、急に光りだす。最初は淡く光っていたんだけど、だんだん眩しくなった。最後に、一瞬だけものすごい光りを放って、輝きを失う。その後、そこに残っていたのは、綺麗な魔法陣じゃない。底なしに感じられる、大きな穴だった。ーー穴?

見ているものが信じられなくて、僕は天使に視線で訴えた。

『………?(微笑)』

美しい微笑でスルーされる。え、これ何?話の流れからして、多分僕が落とされるか、飛び込むかするんだよね!?心の中に浮かんだ叫びに、「穴に入る」という選択肢しかないことに気づいて、その場で頭を抱えた。

『どうしました、カイくん?』

いかにも心配そうなその顔を見上げ、睨んだ。背と体格の差がありすぎるせいで、多分効果はないんだけど、僕が不機嫌なのは伝わったらしい。

『すみません、説明がまだでしたよね。転生は、この穴を使って行います。穴の下には、転生先の世界の座標が広がっていて、そこからランダムに飛ばされます……もしかして、怖いんですか?』

穴を使って転生する、と聞いて、僕は本格的に頭を抱えた。地面(?)にうずくまる。白い床は、近くで見ると少し透明で、頼りない。そこに、不安そうな顔をした僕が映るのを見て、立ち上がった。笑って誤魔化す。かっこ悪いし。

「い、いや?怖いとか、そんな訳ないじゃん?(汗)」

軽く口笛を吹く感じで嘯く(うそぶく)。僕としては必死なんだけど、やっぱ天使って反則だ。変なノートを取り出して、ページを開いた。え、それ、今どこから出した?

『ああ、高所恐怖症でしたね』

多分、そのページは僕のプロフィールなんかが書いてあるんだろう。こいつ相手に誤魔化すとか、無理な話だった。人間じゃないもん。天使は、イケメン顏にはあんまり似合わない仏のような微笑を浮かべて、なだめるように言う。

『ご心配なく。転生するときには眠るようになってますから。』

まるで親と子供だ。腹が立たないこともなかったけど、仕方ない 。敵う気がしないから。



ーー完全に天使側の不注意でこんなことになったんだけど、あっちは忙しいみたいで、説明後すぐに転生することになった。

心の準備、追いついてないんだけど…。

『では、急かして申し訳ありませんが、今から転生を始めます。こちらからの償いとして、先ほどもお伝えしましたが干渉しておきます。

穴に入る前には、眠るようになっているのでご安心下さい。

では、良い人生を……』

その言葉が最後だった。一瞬だけ、穴を見てしまって怖くなったけど、すぐに眠くなった。


ーーー無事にカイが眠り、穴に落ちるのを見届けて、天使は持ち場に戻ろうと踵を返した。
急いで、24時間以内にカイが無事に転生したとの報告書を書かなくてはならない。これを期限内に書いておかないと、カイは、天使からの許しなく転生した違反者とみなされてしまう。

そうなってしまうと、無事転生したとしても様々な不具合が生じ、彼の身に何が起こるか分からないのだ。自分達の不注意で異世界に行くことになってしまったカイのためにも、これ以上悪い方向にいかないようにしなくては…。


ーーしかし、不幸に不幸は重なるものだ。急ぎ飛ぶ天使の後ろに、それは迫っていた。

《トスッ》

『ガハッ……』

白い天界に鮮血が飛んだ。

天使の胸に、黒曜石のような魔剣が突き刺さっている。衝撃で、そのまま前に倒れる。

背後から投げられた魔剣は、30cm程だろうか。長さはないが、背中から胸に飛び出して心臓部分を貫いていた。

『これは…、闇魔法、か…』

天界に住む天使たちにとって、闇魔法は最強にも等しい。息も絶え絶えなその背中に近づいたのは、1人の魔人族だった。

黒い燕尾服を着て、腰までの黒髪を束ねたその男は、柔和な雰囲気を醸し出しているがしかし、目は笑っていない。ふと、その目がカイの落ちた穴に向いているのに気づき、天使は脱力しきった体を強張らせた。

(まさか、転生の妨害に…?)

今までそんなことはなかったが、タイミング的に間違いない。

「…ああ、遅かったようですね。もう逝っちゃいましたか。ふむ、イヴ・グレイソン…?探しておきましょう。まぁ、あなたを止めておけば…、妨害くらいは、出来ますかねぇ?」

天使ですら知らないはずの、カイの転生後の名前を呟く。その言葉を聞いて、確信した。

(そんなこと、させる、訳には…いかない、んですよっ!)

力の入らない体を叱咤し、上半身だけ起き上がる。男の頸(うなじ)に指先を向けた。穴を覗き込み、天使の行動には気付いていない。やるなら今しかない。指先が震え、狙いがフラフラと彷徨う。

《ヒュンッ》

光の刃が指先から飛び、男の顔へ飛んだ。パタ、と地面に血が落ちる。衝撃で飛んだ血が一滴、穴に吸い込まれた。白い床と、鮮血のコントラストが美しい。

(はずした、…)

精一杯の攻撃を外した今、天使の死は必至だった。

「………」

頰を拭った手に、多量の血を確認した男が、振り向いた。真っ赤な顔に、凄まじい笑みを浮かべ、手を伸ばした。

《ドスッ》

至近距離で投げられた短剣は、とどめとばかりに頸(うなじ)に突き刺さる。

『……………』

天使が完全に動かなくなったことを確認し、男は消えた。 
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