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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第94話 終焉

 原城が崩れ去ったの同時に薩軍も最後の戦いを繰り広げていた。が、すでに負け戦は確実で多くの兵士たちが命をおとしていた。
(最早、これまでじゃの)
 差烏合は仲間の静止を聞かず、まるで、銃弾飛び交う戦場の中を散歩してるかのような姿だった。そして、一人の女がその後を追うかのように歩いていた。
 その女は、この戦争が始まることにちょっこりと西郷の前に現れた。
 西郷は、その女を見たとき、琉球で出会って、愛を育んだ愛加奈の面影をみた。それ以来、西郷は戦場でありながら、その女とともにした。が、始めは危険だから家に帰れと言ったのだが、ずっとついて来るものだから、致し方がなく連れてきたのだが、今は妙に放っておけなくなってしまっていた。
(まさか、こんな戦場真っ只中でもついて来ようよは)
 西郷は後ろを気にしながら歩いた。その時、一人の男が近づいて来るのを見た。
 その男は、新撰組隊服を羽織っていた。
「西郷隆盛殿とお見受け致す」
 男はそういうと一礼して刀を抜いた。
「いかにも、西郷でごわす。久しいの、土方君」
 西郷の前に立ちはだかったのは、確かに正真正銘の新撰組副長・土方歳三であった。
「まさか、おまさが、俺ぃにとどめをさしにくるとは思いもよらんかった」
 西郷は、土方に満面の笑みで微笑んだ。
「西郷さん、お命頂戴いたしまする」
 土方は、すらりと刀を抜くと西郷に向かって切っ先を示した。
「おまさに討たれるのも俺ぃの運命なんでごわそう」
 西郷は自らの剣を抜くことなくにこりと微笑んだまま土方を見つめているだけだった。
「西郷さん、御免!!」
 土方が、西郷に斬りかかると同時に西郷の後ろを歩いていた女が西郷を庇うかのように手と広げ、西郷の前に立ちはだかった。
「おまさ、何をしちゅるかぁ!!」
 急に目の前に現れた女の行動に西郷は動揺して叫んだ。が、すでに遅く、女は土方に斬り伏せられたいた。
 女は、ゆっくりと地面に倒れ行った。
「土方!!貴様!!」
 女が倒れていく姿を見て、西郷の顔は凍りつき、みるみるうちに土方に対して怒りを露わにした。
「落ち着いてください、西郷さん。その女をよく見てください」
 土方は、西郷と違ってあくまでも冷静だった。
「こ、これは・・・・」
 西郷は驚愕した。なぜなら、地に倒れた女の姿がみるみるうちに干からび、土と同化していったのだから。
「この女は、おそらく天草の傀儡でしょう。貴方のその懐の物を使って貴方を転生させるための」
 土方は、知っていた。だから、わざと西郷に襲い掛かろうとしたのだった。
「ですが、西郷さん。貴方は転生されないでしょう。今頃は、天草も倒されている頃でしょうから」
(天草四朗。沖田総司を復活させた男でごわすな。
 この西郷も復活させる為の演技だったということか、あの時は)
 西郷は、沖田が転生したときにその場にいた。
 あの恐怖の場所で沖田復活を目のあたりにしていた。そして、その場にいたのが、土佐の武智半平太と天草四朗だった。
 もしかしたら、沖田も天草の指を斬ったのは演技だったのかもしれないと西郷はそう思えた。
 西郷は、胸元に隠していた天草の指を握ってみた。
 すると、その指は粉々に砕け砂のようになって西郷の掌から崩れ落ちていってしまった。
「土方君、天草はこの西郷に何をさせたかったのであろうか?」
 立ち去ろうとしている土方に向かって西郷は問うた。
「さぁ、今となってはどうでもよいことだと、私は思います」
 土方が言い終わると、銃声が後ろに聞こえた。
 銃弾が数発、西郷を貫いていた。
「うぐっ」
 と篭ったうめき声をあげて西郷が片膝をついて倒れかけていた。
「どうやら、ここまでのようでごわすな。一つお願いがあるのだが、土方君、昔の誼で介錯を頼まれてくれまいか」
 西郷の眼に薄く涙がにじんでいた。が、その顔は、晴れやかでにこりと微笑んでいた。
「わかりました、私でよければ介錯仕る」
 土方は、西郷の背後に立ち、刀を振り上げた。
 西郷は、来ているものをはだけ、その恰幅のある腹を露わにして、静かに脇差を抜いた。そして、躊躇いもなく自らの腹に突き立て、腹を割り始めた。
「土方さ、介錯を」
 西郷の苦しそうな声を上げて土方に介錯を頼んだ。
 土方は、一気に刀を振りおろし西郷の首をはねた。
 西暦1877年9月 享年51歳。
 幕末から明治へと活躍した巨星・西郷隆盛は、戦いの中で死んでいった。そして、土方は、西郷の最後を見届けると風のように消えて行ってしまったのだった。
 大山は後悔していた。
 よもや、魔界衆全てが全滅し、天草まで倒され、原城まで崩れ去った。
 大山は、原城崩壊のどさくさに紛れて脱出をはかったが、なんなく政府軍に捕えられた。
 もちろん、極刑は免れることはなかった。
(西郷さんについたのが間違いだったのか?)
 大山綱良。世が世なら剣豪として生きることが出来たかもしれなかった。

 そして、西郷の乱が収まり、その約1年後に大久保利通が紀尾井坂で暗殺された。また、その4年後、幕末の怪物・岩倉具視が、日本初の憲法・大日本憲法成立前に病死した。
 伊藤博文もハルビンにて暗殺された。
 幕末を駆け抜けた志士たちは、天に地に散り、時代の彼方えと伝説を残して去って行った。
 そして、日本という国は、幾度となく起こった天災や戦争を乗り越えて今に至っている。が、そこに天草四朗と柳生十兵衛との戦いが、あったことは誰も知る由はない。
 
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