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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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エピローグ 因果は巡る

 右手に木刀を持ち、大柄ではあるが、太ってはいない。そして、纏う雰囲気は、他人を寄せ付けないような感じではあるが、飄々とした掴みどころがない雰囲気も醸し出している。
 顔つきは精鍛であるが、左目に刀のつばのような形をした眼帯で覆われている。
 彼の名前は、柳生十兵衛。と書いて「やなぎお じゅうべい」いう。
 その隣には、その男にはまったくにつかわない可憐な少女が、まるで恋人のように寄り添って歩いている。
「十兵衛!!」
 十兵衛の後ろから少女の声がした。
「おぉ、サナ」
 十兵衛は、追いかけて来た少女に振り向いて挨拶代わりに手を挙げた。
 その少女は息を切らせて十兵衛に追いつき、じゃれるように十兵衛の脇腹を軽くたたいた。
「あんた、聞いたわよ。また、やったんだって?」
 サナと呼ばれた少女は、十兵衛を見上げるように顔を覗き込んだ。
「なんの話だ?」
 十兵衛は、まるで自分のことではないように、その少女から目を離した。
「しらばっくれても無駄よ。あんた、また試衛館ともめたんだって?」
 少女がいう試衛館とは、天下に名だたい武術剣術で有名な高校だった。
「俺じゃないぞ。それにお前には関係のないことだろう?」
 十兵衛は、にやりと微笑んだ。
「あんたねぇ、試衛館とはもめるなって、あれ程、宮元先輩に言われてたでしょ?」
 少女は、十兵衛に怒鳴った。
「言っておくが、俺は剣道部じゃないぞ。それに、たけぞう先輩には迷惑かけたつもりはない」
 宮元武蔵は、十兵衛の一個上で3年である。
 十兵衛が入学した当時、一騎打ち寸前にはなったが、宮元にほうが引いたのだった。
 彼曰く、彼と試合ったら、どちらかが大けがするだろうと。
「あんた、宮元先輩に言われたばかりじゃない。試衛館とはもめるなって」
 少女は十兵衛の脇腹を軽く叩いた。
 彼らの話題になっている試衛館とは、武術に特化した高校で毎年彼らが通う江幕高校と全国を争うライバル校である。が、その試衛館高校には、生徒会所属の自警団があり、その自警団の名前が「新撰組」という集団だった。
 そして、十兵衛とよく揉めているのが、その新撰組なのだった。
「茜ちゃんも大変ねこんな馬鹿兄貴がいて」
 十兵衛の隣に寄り添うように歩いていた少女にサナと呼ばれていた少女がため息交じりに話しかけた。
「いいえ、大丈夫です。兄さんはこういう人ですから」
 顔を赤らめて十兵衛を見ていった。
 十兵衛は、後頭部を軽く掻いて茜という少女の視線を交わした。
「本当によくできた妹よねぇ、茜ちゃんは。十兵衛じゃなく私の妹になる?」
 さなは、茜に抱き着いた。
「おい、サナ。その位にしておけよ。茜が困ってるだろう」
 十兵衛は、茜の表情をみて言った。
「そんなことあるわけないじゃん。ねぇ、茜ちゃん?」
 サナは茜を覗き込んだ。が、茜は顔を赤くしたまま下をみていた。
「そういえばさ。うちらのクラスに転校生が来るらしいよ」
 サナは茜に抱き着いたまま十兵衛に言った。
「ほう。初耳だな」
 十兵衛は、興味なさそうに答えた。
「どんな人だろうね?イケメンだったらいいなぁー」
 さなは、茜から離れ、ウキウキしたかのようにくるりと回った。
「お前、坂元はどうするんだ?」
 サナには、坂元竜馬という彼がいたのだった。
「ば、ばか。それとこれとは別よ」
 サナは、顔を赤らめ両手を払うかのように振った。
「素敵ですよね。坂元さん」
 茜は、にっこり微笑んだ。
「はいはい。じゃあ、茜ちゃんにあげるわ」
 サナの方が上手で茜の表情をうかがった。
「えっ。そ、そんな・・・・」
 茜は頬を染めて下を向いた。
「冗談よ。あっ、こんなことしてる場合じゃないわ。十兵衛、茜ちゃん、急ごう」
 サナは、そういうと走り出した。
「全く、誰のせいだと思ってるんだ」
 十兵衛はため息をついてサナの後姿を見た。
「兄様。私たちもいそぎましょう」
 茜と十兵衛はサナを追って走り出した。

 1時間目の前のフォームルームのチャイムが学校全体に響き割った。と同時に担任の女教師である春日が教室に入ってきた。
 学級委員の号令と共に生徒たちが、朝の挨拶をする。
「今日からこの教室に転校してきた生徒を紹介します。天地君、入ってきなさい」
 春日の呼びかけに一人の男が入ってきた。
 体形はすらっとしていて、肌の色は白く、髪は肩口くらいあるだろうか。
 その男が入ってくるなり、男も女も目を見張り、その美しさにため息をついた。
「天地時貞です。よろしくお願いします」
 と生徒たちに一礼した。
 この教室には十兵衛もサナもいたが、目惚れているサナとは反面、十兵衛は外を見つめていた。が、四朗のすがすがしい声が聞こえた時、黒板をみた。
 四朗が十兵衛を見つめていた。
 その時、十兵衛は感じた。
 この天地とは、何か因縁めいたものがあると。
 何故なら、十兵衛を見つめた目が、十兵衛には金色に輝いていたようにみえたからだった。

魔界転生(幕末編) 完
 
 

 
後書き
2年ちょいかかりこの作品を愛してくれて読者の皆様にお礼奉仕上げます。
ありがとうございました。
初めは1週間毎に更新しようと意気込んでみたものの不定期になってしまいました。
最初にこの作品を書こうと思った経緯は、今では縁遠い友人との話でした。
格闘家や武術家の中で一番強いのは誰かとか。
どの武術格闘が一番強いのかという話からでした。
その時、脳裏に浮かんだのが、山田風太郎先生の「魔界転生」でした。
二天一流の宮本武蔵。
十兵衛の父・柳生但馬上。
鍵屋の辻の荒木又衛門。
田宮流抜刀術の田宮坊太郎。
錚々たる剣豪を頭脳と腕で倒していく柳生十兵衛とその仲間達。
映画版はたった一人で立ち向かっていく姿が恰好よくてわくわくしたものです。
それを幕末・明治に以っていこうとしたのは、ちょっと無謀だったかもしれません。
ですか、幕末・明治の偉人たちが魔界転生したらどうなっていただろうと思いあえて挑戦してみました。
誤字脱字あったり、戦闘シーンも陳腐なものなってしまってがっがりしてしまったと思います。
史実上でも時間もずれていたりと思う人もいると思います。
私自身もすべてに反省しております。
ですが、最後まで楽しんでくれてありがとうございました。
次回作は少なくとも誤字脱字はなくそうと思っております。
よろしくお願い申し上げます。
では、これにて「魔界転生 幕末編」は終了いたします。 
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