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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第93話 決着

 十兵衛は、一つ息を吐いた。そして、天草をみようとした。
 その時、風を切り裂き、十本の髪切り丸が、十兵衛を襲った。が、剣と体さばきでなんなくその攻撃をかわした。
「奇襲のつもりか、天草四朗?」
 十兵衛は、天草を睨んだ。
「ははは。お前に今の攻撃が通じるとは思っておらんよ」
 天草は無邪気に笑った。が、しかし・・・・・・・
(但馬を倒したあの技は厄介だな)
 と、内心危機を感じていた。が、そうそう連続することが、出来ないことを知る由もなかった。
 なぜなら、本来、十兵衛は自らの剣気を抑える事は彼自身も難しいと言わしめるものだった。
 そう言わしめる気を抑えるということは、かなりの力が必要になる。ゆえに何度も繰り出せる技ではないのだ。
 が、そんなことは知らないからこそ、天草は早急に勝負をつけたかったのだった。
「天草、もうやめろ。お前の手駒はすべてなくなった。おとなしく冥府にかえるならよし。それでも、まだやるというのなら、俺がたたき落としてやる」
 十兵衛は、天草を睨み付けた。
「ふん。私を甘く見るなよ。地獄に落ちるのは貴様だ、十兵衛」
 天草もまた十兵衛を睨んだ。と同時に、呪文を唱えた。
 「妖術髪切り丸・蜘蛛の巣の陣」
 天草の失った十本の指から大蛇のようにのたくっていた髪切り丸は、細い糸の束となり、天草の周りそして天守閣の壁を伝いまるで蜘蛛の巣のようになっていった。
「フフフフ。いくぞ、十兵衛。この陣形より逃れる術はない」
 天草は、にやりと笑った。と同時に右手の中指であった場所をぴくりと動かした。
 すると、数十本の糸状のものが、すごい速さで十兵衛に襲い掛かった。が、十兵衛は難なくそれを交わした。しかし、天草は次々と指を動かし、その糸を十兵衛に襲い掛からせた。
 十兵衛は、四方八方からの攻撃をかんとか交わし続けてはいだが、ついには追いつかなくなってきていていた。
(これは、厄介!!)
 なんとか薄皮一枚斬られているだけで致命傷は受けてはないが、なんとかしなければと十兵衛は考えていた。
「ははは。どうした、十兵衛?剣豪と言われるお主でもこの攻撃に難儀しているようだな」
 天草はやみなく指があった場所を動かしていた。
「さぁて、そろそろとどめと行こうか」
 天草は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、全ての指があった部分を動かした。それと同時に一斉に十兵衛に糸状のものが襲い掛かってきた。
(これは避けられんな)
 十兵衛は苦笑すると疾風がごとく、天草の元へ走り出した。
「かかったな、十兵衛!!」
 それは天草四朗の巧妙な罠だった。
 天草を取り囲んでいた十兵衛を捉え、まるで繭玉のように包み込んでしまった。
「ははは。どうだ、十兵衛、動けまい。これが髪切り丸・蜘蛛の巣の陣よ」
 天草は狂ったように笑い転げた。
「さぁてどうしてやろうか?このまま窒息させてやろうか?それとも、圧殺してくれようか?」
 天草は、黒い繭玉を覗き込み、十兵衛に言った。が、その時、その暗闇の中から一点の光を見た。
「な、なんだ、この光は?」
 その光はどんどんと大きくなって、ついには光に満ち溢れていった。
「そ、そんな馬鹿な。この光はぁぁぁぁぁ」
 天草の顔が恐怖にゆがんだ。その時、その光の球が破裂した。
 天草は、その爆風に吹き飛ばされ背中をしたたかに壁に打ち付けられた。そして、破裂した球の中から大きな光の羽を広げた十兵衛が愛刀・典太を右手に持ち、現れたのだった。
「その大翼は、もしかして、大天使・ミカエルの羽」
 天草は、右反面を手のひらで隠し、十兵衛の姿をみた。
「そ、そんな馬鹿なことがあるもんか!!お前が.天使長・ミカエルのはずがない」
 天草の右反面は、醜くただれ、最早、美少年とは程遠いものなってしまっていた。
「俺はそのミカエルとやらではない。俺は、お前と魔界のものをすべて斬るだけだ」
 隻眼だった十兵衛の眼はしっかりと両眼であり、天草を見つめていた。
「神々までも私を見捨てるというのか?私は一体何を信じたらいいのだ」
 天草はぶつぶつ独り言をつぶやいていた。
「おのれぇーーーー!!」
 天草は天に木霊するかのように絶叫した。
「それならそれで結構だ。だが、十兵衛、お前だけは許さぬ。お前もいっしょに地獄へ道連れにしてやる」
 天草は、紙切れ丸をめちゃくちゃに振り回し、十兵衛に襲い掛かっていった。が、十兵衛の背中に生えているかのような羽の光の前では全くの無力だった。
 もともと、この髪切り丸という技は、隠れキリシタンだった女子供達の怨念のこもった髪を天草が編み込んだものだ。
 故に神の加護である光を浴びれば、天に召される喜びで消え去ってしまう。現に、十兵衛を襲う武器であるそれは、十兵衛に近づくたびに消え失せ、隠れキリシタンの女子供の姿になって天に召されて行った。
「くそ、くそぁー」
 天草の声に涙が混じっていた。そして、その翼の光を浴びるたびに体が焼かれ、のたうちまわった。
「終わりだ、天草」
 十兵衛はその翼を広げると、天草に向かって飛び、近づいていった。そして、天草をその愛刀で十字に切り裂いた。
「ふふふ、十兵衛。私が死ねばこの城も崩れさる。お前も一緒に道連れだ」
 その声は、老人のものだった。
「いいや、お前だけが地獄に落ちろ。天草を陰で操っていた張本人・森宗意軒」
 すでに天草は消え失せていたが、十兵衛の剣は黒い物体を貫いていた。そう、ちょうど人間でいうところの頭の部分である。
「お、おのれ!!!!!!」
 その黒い物体は断末魔を残し消え失せていった。そして、摩城とかしていた原城は物凄く音を立てて崩れ始めいった。
 
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