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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica2-B特殊機動戦闘騎隊~Clue~

†††Side????†††

幼馴染のイリスが設立した脅威対策室直轄・特務零課、特殊機動戦闘騎隊。戦闘を担当する前戦組はみんなベルカ式の使い手の騎士のみで構成されている。私セレスもイリスのスカウトを受けて、この部隊に入隊することを決めた。最初は騎士団の仕事もあるから乗り気じゃなかったけれど・・・。

・―・―・回想ね~・―・―・

「部隊設立~?」

「あなたが? 局内に?」

ザンクト・オルフェンの実家で、お姉ちゃんと一緒にリビングでくつろいでるところに遊びに来たイリスが、局内に新しく自分の部隊を造るって言ってきた。それだけなら驚きはするけど、おめでとうってお祝いの言葉を贈るつもりだった。

「そう! でねでね! フィレスとセレスに、戦闘組として参加してもらいたいの!」

「「え?」」

イリスの造りたい部隊っていうのはガチ戦闘部隊らしく、慢性的な人手不足の所為で大事件の対処にも時間が掛かる局の現状を打破するためのものだってことみたい。各管理世界の地上・航空部隊で対処仕切れない大規模だったり強力だったりした事件の場合、脅威対策室が対処できる部隊の設立を行うんだけど、それだと時間が掛かり過ぎる。イリスはそれをどうにかするため、即座に動ける特務機動隊を造りたい、とのことだった。

「動機としては実に素晴らしいと拍手ものよ。だけどイリス。あなた、ロート・ヴィンデ隊はどうするの? さすがに両組織の部隊長を務めるなんて、余りにも無謀よ?」

「あー、うん。そっちは除隊するつもり。フリーの教会騎士をし続けながらパラディンを目指しつつ、局の特務隊を引っ張っていこうって考え・・・かな」

イリスがお姉ちゃんの問いにそう答えた。今まで隊長を頑張って努めてきた隊を除隊しても、それでも局の部隊を造りたいって意志は応援したいけど・・・。チラッと隣に座るお姉ちゃんを見る。とりあえずお姉ちゃんが参加するっていうなら、私も参加するつもり。

「それでどうかな? フィレスとセレスの戦力って本当に貴重なんだよ。それをプライソンみたく世界規模の馬鹿事をやろうとする連中を狩る事に使いたいの! お願いします!」

「・・・ごめんなさい。あなたのスカウトには応えられないわ」

脚の短いテーブルを挟んだソファに座るイリスが頭を下げてすぐ、お姉ちゃんもまた参加できないって頭を下げて謝った。しょんぼりするイリスが「やっぱり忙しいから・・・?」って訊ねる。

「というよりは、私、これからは騎士団1本に絞っていくために管理局を辞めるのよ」

「「え?・・・ええええええええ!?」」

私とイリスが同時にソファから立ち上がって叫ぶと、「いや、なんでセレスまで驚いてんの!?」なんてイリスが訊いてきた。だから私も「私だって初耳だし! お姉ちゃん、局員やめるの!?」って訊ねる。

「ええ。私ももうアラフォーだしね~。親からも、結婚しなさい、孫が見たい、なんてコソコソ言われる始末。親は局員より聖職者や騎士団員との結婚を望んでるからね。もっと出会いの場と時間が増やせる騎士団1本にすることにしたのよ」

ガーン。頭の中でそんな音が轟くと、私はガクッとその場に崩れて四つん這いになった。何とかしてお姉ちゃんとこれからも一緒に過ごすための打開策を考える。

「セレス・・・?」

「おーい。生きてる~?」

お姉ちゃんはソファに座ったまま、イリスは側までやって来てしゃがみ込んだ。そんなお姉ちゃん達を尻目にうんうん唸った後、「ハッ!」私は天啓を得た。

「そうだ! お姉ちゃん、私も局を辞めて、お姉ちゃんと一緒に同じ人に嫁ぐ!」

「あーえっとぉ~・・・シスコンもそこまで拗らせると、ちょっと恐い・・・」

「あのね、セレス。何でもかんでも私に付いて来るのは良くないわよ、もう」

バッと立ち上がった私は、グッと握り拳を作った右腕を高く掲げてそう宣言すると、イリスがそう言って引いた。別にどう思われてもいいもん。けどお姉ちゃんも頭を抱えて、大きな溜息を吐いてしまった。

「セレス。お姉ちゃん命令。セレスは局に残って、イリスの隊に参加すること。あと、私と一緒に嫁ぐなんておバカな事は二度と言わないこと。セレスはセレスで、自分だけの恋人を見つけて結婚しなさい。いいわね?」

「よっしゃぁぁぁーーーー! フィレスも欲しかったけど、セレス1人でも十分!」

「はーい・・・」

お姉ちゃんにそう言われた以上は、私だけイリスのスカウトを受けることにした。

・―・―・終わり~・―・―・

そんなイリスの部隊・特騎隊設立直後はまぁあんまりやる気は無かったけど、今じゃ誇りを持ってこの隊の任務に従事している。で、今回の私の役目は、プライソンの忘れ形見の1つである海洋艦隊の1隻であろう軍艦。アレの無力化。最悪破壊しても良い。恐ろしく大きな砲台がいくつもあって、アレらが軌道エレベータ・イーシャを破壊するんだろうね。

『セレス。残りカウント20秒でこちらは活動開始するから。それに合わせて軍艦の無力化をお願い!』

「了解! いっちょう派手にやるよ!」

特騎隊の氷神セレスとまで謳われるようになった私に、凍り付かせられないモノは無い。小さく深呼吸を繰り返して、『――5、4、3、2、1、突入!』っていうイリスの号令と同時、私は待機してた浜から飛び立って一直線に軍艦へと突っ込む。

「シュリュッセル!」

両刃剣型の“シュリュッセル”の柄頭が上方にスライドして、5連装シリンダーが飛び出した。そして回転した後に今度は下方にスライドして柄の中に戻った。カートリッジを用いて剣身に魔力を付加させる。

(おーっと。砲身がこっち向いた・・・!)

副砲って呼ぶらしい砲門8門が私に向いたのを視認。直後に魔力じゃないエネルギー砲撃が発射されたんだけど、直撃コースは1つとしてないのが判る。つまり「威嚇射撃・・・」ということ。けど止まったり引き返さなかったりすると、「今度は直撃コース」になった。

「ハズレ~♪」

特騎隊はその任務の性質上、本当に強くないといけない。だから日々部隊内で模擬戦をやるんだけど、もうルシルが射砲撃が変態的に厭らしい。いろんな射砲撃を見てきたけど、ルシルの射線は酷い。誘導操作弾と直射弾の混成弾幕で、しかも視覚できないステルス弾まで使ってくる始末。

「(だから見えてる上に遅い砲撃なんて・・・)障害にすらならない!」

――氷柱弾雨(セリオン・エクサラシオン)――

高度を上げることで砲撃の弾幕を避け、高度100mのところで魔法を発動。全長40m級の六角柱型の氷柱を6本と軍艦の側に落とす。砲撃は迎撃の為に発射されるようになったことで私はフリーに。

極雪轟嵐(ベンティスカ・レモリーノ)・・・!」

氷柱を穴だらけにはしたけど完全には破壊できなかった軍艦は、海上に落着した氷柱が起こした大波に呑まれた。そこに私の周囲に発生させた球状の吹雪3基を “シュリュッセル”の腹で打って、「シュート!」の号令と共に竜巻状の砲撃として発射させた。

「よぉーし、着弾♪」

グラグラと波に揺られている所為で迎撃は出来なかったみたいで、私の攻撃を全て受けた軍艦が急速に凍結していく。そんな中でも砲台を私に向けようと悪足掻きをしてきた。だけど射角が合わせられず、結局は何も出来ずに完全凍結された。

「とりあえず砲台をへし折って、攻撃能力を完全に無力化しておこうか」

完全に動きを止めた軍艦に近付こうとした瞬間・・・

――スナイプレールガンVersion 2.0――

「っ・・・!?」

目の前を何かが通り過ぎて行って、その衝撃に「ひゃあ!?」後方に弾き飛ばされた。急いで体勢を立て直そうとする中でも「ちょっ、待っ・・・!」問答無用で何かが飛来して来て、遅れて轟音が連続で耳に届く。これは「レールガン・・・!」なんだと察する。

「(弾体は小さい。ガジェットⅡ型の小型レールガン・・・か?)とにかく!」

軍艦から無理やり距離を取らされた。彼我の距離は約100m。その位置まで来るとレールガンでの攻撃がピタッと止んだ。つまり砲撃手か、その指揮官は、私の撃墜じゃなくて軍艦を護るのが目的なわけだ。

『こちらナイト4! 特騎隊全隊に通達! 現在、謎の戦力と交戦中。敵攻撃手は視認できず! しかし攻撃方法は小型レールガンと思われる!』

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

『シャーリーン了解! ナイト2から現在、軌道エレベータ・イーシャ内にてスキュラ暗殺犯の1人との交戦を開始した、と連絡を受けました! ナイト4も警戒を怠らないでください!』

『こちらナイト1! ナイト4、敵の狙いが何か判らない? ナイト2の元に現れた暗殺者の目的は、どうやら本事件の首謀者の殺害らしいの!』

イリス達や母艦シャーリーンへと通信を入れると、ブリッジとイリスからそんな報告が返って来た。だから『軍艦の接収と思われる!』と答える。現に通信しながら放った角型の氷結射撃弾・ディアブロ・クエルノ20発が、レールガンによって迎撃されたし。

『じゃあ軍艦は一時置いておいて、砲撃手の確保をお願い。念のために応援としてルミナを寄越すから』

『別に応援は要らないけど、とりあえず了解。シャーリーン、敵の位置は?』

『はい! ステルス魔法かスキルか、もしくは装備機能なのかは判りませんが姿は視認できません。ですが熱源発生点は初弾が北東2700。次弾から北に向かって行っていますが、距離は変わらず2700ジャストです!』

この遮蔽物の少ない広い空で肉眼で捉えられないとなれば、報告通りステルスかなんかを使っていると見てもいい・・・。こういう場合は狙っての一点攻撃じゃなくて広域攻撃で叩き落とすのがベストなんだろうけど。さすがに「むぅ。広域で撃ち込むことは無理かぁ、エレベータが近くに在るし」と結論付けて、もう1つ思い付いた案を採用する。

「さぁどこに居るのかな・・・!?」

――雪花飛刃(ペタロ・アリリョ)――

変換資質を利用して剣身に付加していた魔力を氷結系へと変え、“シュリュッセル”を薙いで氷の花弁を8枚と軍艦目掛けて飛ばす。軍艦を護るなら、さっきみたく迎撃に打って出るはず。

『シャーリーン。砲撃手が必ず姿を見せるはず。しっかり捉えてね!』

『了解です!』

――スナイプレールガンVersion 2.0――

ハイ、来た。目にも留まらない速度で飛来した砲撃。でも花弁を粉砕されるより早く、「もう1発!」と言いつつ、12枚の花弁を連続発射した。レールガンも負けじと迎撃してくる。

(思ったより連射されて来るな~)

レールガンは砲身なり銃身の冷却が必要だって聞いてる。レールガン持ちは複数機か複数人いるって思っていいのかも。

『こちらシャーリーン! 敵砲撃手の姿を確認しました!』

前面に展開されたモニターを見て、私は「何コイツ!?」って驚いた。全長2m近い大砲のようなデバイス?2門を両脇にそれぞれ挟み込むようにして構えてる男が1人、宙に展開したミッドチルダ魔法陣上に佇んでいた。暗殺犯共通の防護服と思われる仮面に目出し帽に帽子に黒衣姿。完全に連中の関係者ね。

――トランスファーゲート――

「あ・・・!」

暗殺者が背後に発生した空間の歪みの中に後退して消え去った。ああやって転移と出現を繰り返しながら、私の攻撃を迎撃していたんだって判る。

『砲撃手のシグナル・・・ロスト! どこに転移するのか不明なので、警戒をお願いします!』

「どこに転移するか判らないなら、釣り上げればいいでしょう・・・! 周囲のリアルタイム映像モニターを用意して」

『了解です!』

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

周囲に複数のモニターが展開されて、映し出される景色に注意を払いながら、カートリッジをロードして魔力を増加し、その分の魔力を氷角50本へと変化させる。どこから襲撃が来ても即カウンターが出来るように角先を軍艦へ向けて展開。さらにもう1発カートリッジをロード。

「シュート!」

まずは、レールガンの連射で全弾が迎撃されないように、直射じゃなくて曲線・直角軌道でバラバラに向かうように射出する。

「さぁどう出る!?」

スタンバイしている術式をいつでも発動できるようにしながら砲撃手の出現を待つ。そしてそれはすぐに訪れた。1枚のモニターに映り込むのは、軍艦を挟んだ向こう側――前方600mに発生した空間の歪み。そこから砲撃手がスッと出て来て・・・

――ブラストディセミネーター――

左脇に挟んだデバイスの砲口から放射状に発射される光線、その数はおよそ20弱。光線は軍艦の周囲にまで伸び、そしてドォーン!という轟音と一緒に球状に炸裂。角弾の全てを呑み込んで迎撃して来た。

「レールガンの他にもあんな攻撃手段もあるわけか・・・!」

――穿ち止める氷杭(エスタカ・クアルソ)――

スタンバイしてた術式を即座に発動。攻撃じゃなくてバインド効果のある冷気の槍1本を高速射出。砲撃手は迫る槍を迎撃するでも防御するでもなく、背後の歪みの中へ消えることで回避した。

「ほらほら、逃げてばっかりで軍艦を護れると思わないでよ!」

――氷奏刃(イエロ・コラソン)飛刃(アギラス)――

離れた所からコソコソと砲撃を撃ち込んで来るだけの腰抜けをあぶり出すため、私も軍艦の周囲を飛び回りながら軍艦へと攻撃を加えていく。砲撃手も負けじと迎撃して来るんだけど、「武装が変化してる・・・!」ことが判った。両脇に挟み込んでた大砲型デバイスは持って無くて、右手には拳銃型のデバイスを持って、左手はスナイパーライフル型デバイスのグリップを持ち、長い銃床は脇に挟んでる。

――クロスファイアシュート――

――ブレイクチェンジャー――

魔力弾の連射と、射線が途中で変わって曲線を描く砲撃による弾幕で、私の攻撃を完全に迎撃して来る。ここまで完璧に防がれると「なんか腹立つ」けど、奴の撃破はもう譲るよ。

――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――

空間の歪みから何度目かの出現をした砲撃手の頭上、ルミナが超高速で急降下して来た。ここで砲撃手の背後に在る空間の歪みから腕が2本と出て来て、彼を無理やり歪みの中に引っ張り込んだ。でも・・・

「直撃!」

ルミナの振り下ろされた左拳が砲撃手の頭部に直撃して、帽子や目出し帽がビリビリに破れて、仮面も粉々になった。そのおかげで砲撃手の素顔を捉えることが出来た。若い男性だと思う。曖昧なのは、ルミナの一撃の所為か頭から出血していて、顔が赤く染まっていたからだ。あれ、殺してないよね・・・。

『ナイト3、現着! シャーリーン、次の転移先はどこ!?』

『シグナルを完全にロスト! 新たな出現も確認できません!』

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

とのことだから、試しに「シュート!」と軍艦に角弾を放ってみれば何の迎撃もされずに着弾した。さらに「えいっ、えいっ」撃ち込んでも迎撃は無かった。

「完全に撤退したっぽい」

『ああもう。せっかく来たのに・・・。ここで逃げるとはどういうこと?』

そりゃ逃げたくなるって。闘神と謳われる近接最強の騎士だもんね。とりあえず砲撃手は去ったことだし、「で? 軍艦は破壊して良いの?」って問う。

『あ、はい。ナイト1より破壊指示が出ました。ナイト4、ナイト3、軍艦の破壊をお願いします』

『了解!』

「了解。ナイト3。私が周囲警戒するから、破壊はあなたが行って」

『ん、判った』

あれだけの巨体を誇る軍艦を、いくら凍結しているとは言え完全破壊するには結構な魔力と威力が必要。なら魔法じゃなくて魔力消費の無いスキルで圧倒的な破壊が行えるルミナに任せる方が省エネで確実だ。

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

カートリッジをロードして魔力を増加させて、その分の魔力を氷角50本へと変化させる。念のためにどこから襲撃が来ても即カウンター出来るように角先を全周囲へ向けて展開。

「エクスィステンツ・ツェアレーゲン!」

ルミナがスキルを発動して、「ツェアレーゲンシュラーク!」大きく振り上げてた右拳を凍り付いてる軍艦に打ち込んだ。一瞬の静寂の後、ガシャァン!と大きな音を立てて軍艦は大小様々な破片となって周囲に舞い散り、海面に落ちる時には素粒子レベルにまで分解された。

「こちらナイト3と4。軍艦の完全破壊を完遂。暗殺者の妨害も無く、エレベータ外の暗殺者は撤退したと思われる」

†††Sideセレス⇒イリス†††

ルシルやセレスから襲撃を受けたとの報を貰ったことで、セレスの元にルミナを、ルシルの元には私自身が応援に向かった。本来はリニアレールで被疑者連中を連行して、エントランスホールから堂々と帰る予定だったけど、被疑者全員をクララのスキルでシャーリーンの護送室へ転送させた。護衛としてクララ本人とクラリスとミヤビを同行させた。

(これでシャーリーンに敵が侵入しても、そう簡単にスキュラのように暗殺される心配はないはず)

そしてわたしは、ルシルの張った結界へと突入。ルシルが相手にしているのは“スキュラ”姉妹の長女・アルファの殺害犯と思われる風を操る騎士。航空空母“アンドレアルフス”を寸断した、その圧倒的な切断力は未だ忘れていない。

「3年前の借りは、今日ここで返す・・・!」

だからと言って感情で動くわけにはいかない。ルシルからの報告によれば、暗殺者――風の騎士(仮)は槍を使う騎士。推定魔力ランクはS+。エレベータの崩壊は連中も望んでいないようで、例の転移スキルによる離脱を試みているようだけど・・・。

(ルシルがガチで捕まえようとしてる以上、まず相手は逃げきれない)

だだっ広い半月上のステーションホールには、ルシルの魔力光であるサファイアブルーに光り輝く魔力スフィアが何十基と展開されてる。

――舞い降るは(コード)汝の雷光(パシエル)――

「ジャッジメント!」

周囲に発生させた雷撃の槍を雨のように降らせて風の騎士を追い込んでくルシル。騎士は2m弱の槍型デバイスを振るって、回避しきれない雷槍を弾き飛ばしてく。それだけであの騎士のレベルが高いことが判る。アレで犯罪者だなんて勿体なさすぎる。

――トランスファーゲート――

捌き切ったところで例の空間の歪みが騎士の背後に出現した。彼はすかさず入ろうとするけど・・・

「何度も言っているだろう、逃がさないと!」

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

ホールの各所に展開されてた魔力スフィアから砲撃が数発と発射される。離脱しようとしてた騎士と空間の歪みの間に撃ち込まれて、床への着弾時に発生した魔力爆発に騎士は「・・・っく!」吹き飛ばされた。そんな彼の向かう先にあの歪みが発生した。

――光牙閃衝連刃――

ルシルの遠隔砲撃が発射されるより早く、わたしは“キルシュブリューテ”の刀身に付加した魔力を槍のように4本と放つ。2本は騎士へと直撃コース、2本は歪みコースだ。彼は宙で槍を振るって私の光槍2本を弾き飛ばして、残り2本は歪みの中に消えた。その直後に歪みが消失して、歪みが元あった地点に彼が降り立った。

『シャル、伏兵への警戒を頼む』

――闇よ誘え(コード)汝の宵手(カムエル)――

『んッ、任せて!』

わたしの存在に一瞬気を取られて隙を見せた騎士の足元にある影から複数の触手が伸びて来て、「っ・・・!」彼を拘束しようとした。それを横目に、彼を助けようとするであろう伏兵の迎撃を行うべく、わたしは“キルシュブリューテ”を正眼に構えたところで・・・

――グレンツェ・ゲヴィッター――

「「っ・・・!」」

騎士を覆うように球状の暴風が吹き荒れて、影の触手がミキサーに掛けられたように粉砕された。ルシルは“エヴェストルム”の2つあるシリンダーカートリッジを同時にロード。

――破り開け(コード)汝の破紋(メファシエル)――

――舞い降るは(コード)汝の無矛(パディエル)――

魔力槍を1本創り出すと、バットみたく構えていた“エヴェストルム”を振るって魔力槍の柄頭を打ち、騎士が閉じこもる暴風の結界へと射出した。魔力槍は一筋の光となって飛んで結界に直撃した。穿たれた暴風は一瞬の内に消滅して、魔力槍にお腹を貫かれた騎士の姿が丸見えになった。

「ぐほっ・・・!?」

――公正たれ(コード)汝の正義(ザドキエル)――

さらに魔力槍2本で形作られた十字架に磔された騎士の喉元に1本の魔力槍の穂先が突き付けられた。ルシルは「まずは名前と出身世界を教えてもらおうか」って歩み寄って、天狗の仮面に向かって手を伸ばしたその時・・・

「王よ。無垢なる我らを楽園へ誘いたまえ・・・!」

騎士がそう告げたと同時、彼の鎖骨から上がドォン!と爆発を起こして吹っ飛んだ。まさかの「自爆・・・!?」に、わたしとルシルは驚愕した。黒煙を上げつつ騎士の死体はガクッと膝を付いて、ゆっくりとうつ伏せに倒れ込む中、「あいた・・・!」頭に何かがぶつかった。

「いった~い。なに~・・・って――」

体の前にその何かが落ちて来たから左手でキャッチ。

「~~~~っ! 目、目、目玉ぁぁぁぁぁぁ!? きゃあああああああーーーーーーッ!!!!」

それは騎士の目玉だった。ゾワッと全身総毛立ったわたしは目玉をポイした。ルシルは涙を流しながら叫んでるわたしを気にする風もなく、騎士の死体に近寄って「シャル! 脳を探せ!」って指示してきた。

「の・・・!? 脳!? そんなのNoooooooooo !! 馬っっっ鹿じゃないの!? 乙女に脳を探せって!? 鬼ぃー! 悪魔ぁー!」

さすがに怒る。グロに耐性があるって思われてたことに怒る。心霊は大丈夫だけど、やっぱりグロはダメなのだ。わたしだってちゃんと乙女なんだよ、こんちくしょうー。

「この騎士、首から下が機械なんだよ! ひょっとすると・・・暗殺者集団は、プライソンの手によって生み出されたサイボーグからも知れないんだ!」

「へ・・・?」

判明していたプライソンのアジトはもう調べ尽くした。その過程で人造魔導師やサイボーグの素体だった人たちを救出・保護した。調査の結果、素体予定だった人は全員保護したのは確定していたはず。

「そしてもし、生体部品が1つも無かった場合、それはサイボーグではなくアンドロイドだという可能性にもなる。正直、これほどの実力を持つ騎士が量産されているかもしれないとなると、末恐ろしいぞ」

「っ・・・!」

これまでの暗殺犯の仕出かしてきた事を思い返して、別の意味でまた悪寒を感じた。グロは嫌だけど、「判った。脳みそ探すよ!」って床を見回す。それで今さら気付いたんだけど、床に散らばってるのは機械部品ばかりで、さっきの目玉もよく見れば本物じゃない人工物。
それからアンバー地上本部の事後処理班が到着するまで、ルシルと2人で何か暗殺者集団の手掛かりが無いかを調べてみたけど、脳みそのような生体部品は欠片すら発見できなくて、AIチップの破片も無かった。

「ナイト1・イリス、ナイト2・ルシル。これよりシャーリーンに帰艦する。転送お願い」

『了解です。お疲れ様でした。転送ポートを開くので、そのままでお待ち下さい』

「了解。・・・ルシル、お疲れ」

「ああ。お疲れ様、シャル」

隣に立つルシルとコツンと拳を突き合わせた。転送の光に包まれたわたし達は、シャーリーンのエントランスポートへ転送完了。そして「進路、本局」ってブリッジに居る操舵手に指示を出して、ブリーフィングルームへ。

「はい。みんなお疲れ様~!」

角の丸い長テーブルに着いてる戦闘組のルミナ、クラリス、セレス、ミヤビに労いの言葉を掛けて、ルミナ達からの「お疲れ様でした」を受けつつ上座の席にわたしは座って、右隣の席にルシルが座る。

「みんなのおかげで、今回も後続隊が設立される前に事件を解決できた。んじゃ、デブリーフィングを始めようか」

今回の軌道エレベータ・イーシャの占拠犯グループは無事に全員逮捕できたし、人質もみんな救出に成功。でもここで、例の暗殺集団の内2人が姿を見せたわけだけど・・・。

「――アンドレアルフスをバラバラに斬り捨て、スキュラのアルファを殺害した暗殺者が、まさかプライソン製のサイボーグかアンドロイドだったなんて・・・」

1人はルミナの言うように圧倒的な戦闘力を誇ってた暗殺者・風の騎士。でも彼は、ルシルに捕縛されると自分から他の暗殺者の情報が漏れないようにするためか、頭を吹っ飛ばすっていう自爆を図った。これは結構な痛手だ。

「もう1人の暗殺者は、スキュラの次女ベータを殺害されたと思われる砲撃手ね」

「素顔はバッチリ捉えることが出来たし、ミッド式の魔導師であることも確認できた。騎士がそうだったように、コイツもサイボーグかアンドロイドかな」

セレスがテーブルの中央にモニターを展開し、砲撃手の素顔が露わになったシーンの映像を流した。真っ先に反応したのは「なんだと・・・!?」って席から勢いよく立ちあがったルシルだった。わたし達の視線が一斉にルシルに向けられる。

「ルシル副隊長。もしかしてお知り合いなのですか・・・?」

ミヤビの問いに・・・

「間違いない、・・・ティーダ・ランスター一等空尉・・・。ティアナの兄だ」

ルシルが信じられないって目を見張って、ミヤビへの返答じゃなくうわ言のようにそう言った。
 
 

 
後書き
死体無き死亡描写は生存フラグ。というわけでして、クイント・ナカジマに続いてティーダ・ランスターにも再登場してもらうことになりました。クイントだけを生かしてティーダを死んだままにするのは哀れなので、前作からずっとこうしようと考えていました。 
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