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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第四章 RE:BIRTH
  外道技術



街の外

そこから見える街は、薄紫のバリアに覆われた不思議空間になっていて、ポールの間をバリアが覆い、上も幕でふさがれていた。

その光景を、外から一人の女性が見ている。

偶然この場を通ったようで、ローブにもマントにも見えるような感じで羽織った布から地図をだし、確認を取っている。

そしてどうあってもあれは異常だと思ったのか、武器を構えて街へと走り出した。

その両手に、一対のブーメランブレードを握って。


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街中から上がる、巨大な影。
それは人だった。

正確に言うならば、人でできた人型だった。
構成しているのは、街の住人達。
それらの体がグシュグシュと融合し、一つの巨人となって立ち上がってきている。



「なんだあれは・・・・・」

それはよく見ると、一人一人の姿がよくわかる。
まるでいったん粘土で人間をつくり、それを張り合わせて大きな人を作った感じ。

気持ち悪い。
なんという醜悪な姿。

そして、それを構成しているモノが、あまりにも人道に悖る。



「お前・・・・人間を何だと思っているんだ!!!」

その大きな敵に、エリオが叫んだ。
しかし返答よりも先に、巨人の攻撃が始まり、それどころではなくなった。


巨大な拳が蒔風たちを狙い、叩き潰そうと振り下ろされてきたのだ。
それをバラバラに回避し、巨人を囲むように立つ四人と、フリードに乗って空から全貌を見るキャロ。

男の方を見ると、彼と共に来ていた四人の住人も巨人の脚に取り込まれていってあれを構成する一部分になってしまった。


「人?そんなもの、最初からいないさ!!そいつらはただの人形だ!!!」

男が嗤う。
そうしていると、巨人の目であろう位置がガァッ!と光り、周囲の蒔風たちに電撃のようなビームを発してきた。

それを転がって回避し、男の元へと走り出す蒔風。
巨人はそれを防ごうと拳や脚で踏みつけようとするが、蒔風はそれを回避する。



空からはフリードの火炎、地上からだってエリオやキックホッパーたちが飛び掛かっているにもかかわらず、軽くはねのけられる始末。

大本を絶つ。それしかない。
と、そこでビームが蒔風を包み、周囲を爆発させて吹き飛ばす。


その攻撃自体は回避する蒔風。
しかし、そのうちの一本が崩壊した瓦礫へと伸びて行ったのを、彼は見た。



「ッッ!!!」

ドォン!!!



蒔風がとっさに飛びつき、その瓦礫から少女を引っ張り出して腕に抱えた。
あと数秒遅ければ、瓦礫の代わりに少女が吹き飛んでいただろう。

「おい・・・あの人たちを元に戻せ!!」

「無駄だな。もうああなればただの兵器だ。単体ずつに取り分けるのは無理だ」

「テメェ・・・・・!!!」

ドンッッ!!




男に怒りを向ける蒔風だが、巨人の攻撃は蒔風たち五人を的確に狙っている。
大きな体ゆえの死角がないのだ。

どういうわけか、この巨人は背後を飛ぶキャロにも、脇の下に攻撃を仕掛けようとするキックホッパーにも気づいていた。



そのことを影山が疑問に思っていると、目の前の肉が動いた。
巨人に取り込まれた人の、それぞれの顔。
その顔にある目が、一斉にギョロリと開いたのだ。

そのおぞましい姿に、皆が目を見開く。
キャロは叫び声も上がらず、強く歯をかみしめた。


「必死だねェ。翼人はこんな物かい?」

「黙れ!!」

少女をそこらへんに置くわけにもいかず、蒔風が左手で抱えながら、男を右腕で殴ろうと突っかかった。
しかし、男はそれをひらりと回避して少女を指さして笑う。



「その女を抱えたままじゃ、俺に勝てんだろ!?はは、厄介だねェ。まさかあれも人だから殺せないとか思ってんじゃないか!?何度も言うが、あれは人じゃねェよ!!」

「・・・どういうことだ」

「そのまんまの意味だ。なにもオレの感性が、人を人と見ないからってわけじゃねェ。あれはホントにモノなんだっつの!!」


男が言う。
あれは本当に人ではない、と。

だったらロボットか?
いや、それはない。
街中で見たあの姿は、動きは、明らかに人間の物だ。

とてもではないが、命のないモノの動きとは思えない。
しかし、男はそれを聞いて馬鹿にした笑いをした。



「脳味噌の中身ってのは電気信号の塊よ。じゃあもし「死体の脳みそいじってそれをもとに動く」ように改造したら、どうだ!?」

その言葉に、目を見開いた。
この住人達は、すでに死人。
街中で動いていたのも、祭りではしゃいでいたのも、すべて。

問われれば答える。
動けば反応する。

しかしそれは脳と体に残った、生前の電気信号データをもとに構築されたプログラムで動くだけのものだ。
だから同じ問い掛けや反応には、同じようにしか動けない、反応しない。

死後すぐの死体をもとにし、さらにその記憶をもとに行動を設定しているなら、気配があっても当然だ。
しかもデータは、死んだ直後にいじらなければ失われる。

つまりこいつらは、この街の住人が死にいたるその瞬間まで待機していたのだ。
否、むしろそれよりも、この街を壊滅させたのがこいつらだったとしたら?
あの通報の電話は、決して日常の一風景ではなかったのだ。
非日常からの、助けを求める声だったのだ。




「お前らは・・・・この街を・・・」

「おぉっと、俺は見てただけだからな?指揮とったのは別の奴、実行犯はそいつの持つ実験体さぁ」


こいつらはこの街を壊滅させ、住人を皆殺しにして、使えそうな死体に処置を施して偽りの街を作り出したのだ。
使えないほどに破損した死体は地中に埋めた。
損壊した町は処置を施した死体を総動員で修復させた。


その後、訪問者が来た時の対策マニュアルを作り上げ、やってきたものを捕えるシステムを作り上げたのだ。
そこで初めてやってきたのが、蒔風たちだった。


よく考えると、この街を囲うポールの話も、最初からおかしかったのだ。


少女は言った。
昔、この街を怪鳥から護るためにネットを張っていたものだと。

しかし、ポールは街の外壁をしっかりと囲っていた。
この街がここまで大きくなったのは十数年前だ。そんな昔には、まだこの街はこんなにも大きくない。

この街は、来たその時から偽りであり、すでに死んだ街だったのだ。



「じゃああの人たちは」

「だから、もう死んでる。昼に見せたのは、生前の記憶をもとにしたもの。今は、忠実に動く兵士で、混ぜればあのとおりよ」


そういって巨人を指さす男。
直後、真面目な顔をして蒔風にこう言ってきた。


「で?買ってみるかい?」

「なんだと?」

「死んだとしても、その者の力をそのままに再生!しかも反抗しないし、いざとなればスイッチを切れば元の死体。そんな兵士、いかがでしょうか?」


男は、なんとここにきてセールストークを始めてきた。
これだけの兵器、買うのは手だぞ、と。


「お前の組織は・・・・」

「兵器開発を主軸としたもんでね。死の商人、っていったらわかるかい?」


そういって、値段やらなんやらをべらべらと話し出す男。
これだけしゃべっても組織のことは大して言ってないのだから、大したものだが・・・・

と、そこで蒔風が腕に抱えた少女にハッと気づき、首元にそっ、と手を当てる。

そして、感じた。




静かな脈
上下する胸





生きている





「ああ?あーそうそう、そいつね。そいつだけは生きてるよ」

その男の言葉に、蒔風の顔が少し緩んだ。

よかった、と

しかし、直後その表情は、男の言葉で変化していった。


「「あの実験体」の知り合いらしくてよ、うちの施設まで乗り込んできたんだわ。こっちも「最終実験」の前日で面倒だったからな。「これに耐えられたら解放してやるよ」って言って地獄のような鍛錬をさせたのよ。耐えられたらいつもの日常を返して、とか言ってたな。どうせ死ぬかと思ってた実験だが、ところがどっこいそいつは死ななかったのよ。うちの組織は約束は守るもんでな。お望み通り「日常」ってやつを返してやったよ」

そして、腕を広げて笑った。


「あっはっは!!とうに死体の人間に話しかけて、元気に応えるそいつを見んのは楽しかったぜ!!ま、どうせ気づいてもその首輪でコントロールできるしな!!」



それをきいて、蒔風が無言で少女の首輪を掴み、破壊した。



「ん?あ~あとっちまいやがってんの。そいつにとって現実を知る方がずっとずっと残酷なんだぜ?それをわかってやれよぉ~」

「だまれ」

「それによ!!コンソールをちょちょいといじればその女もこの街も、一発で粉々に吹っ飛んで」


ボト・・・・


「・・・・へ?」


「黙れと言っている」




男の間抜けな声と、蒔風の言葉が静かに聞こえた。
見ると、蒔風が少女を腕に抱えながら、男の左腕を刀で見事に切り落としていた。

血がプシューと噴き出して、その数秒後になって男の脳がやっとそれを認識した。




「ぎゃぁぁアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「ベラベラベラベラと・・・・実に不快なことを言ってくれる口だ」

「ぐぅぅぅうううあ!!!」

ズンッッ!!

男の言葉に反応してか、蒔風の背後に巨人が立つ。
拳を振り上げ、即座に蒔風をつぶそうとするが、振り向きもしないで蒔風は叫んだ。




「こんなにタダで貰えませんよ!!お金払いますって!!!!」

そしてその叫びに、巨人はビタッ!と、揺れて止まった。


「あらいいのよ」「そんなん気にすんなって」「じゃあもらおうかな、あはは!」「お客さんなんだからもらってもらって!」「そっちがそう言うならしょうがないね」「いらんいらん!!」「持ってちゃいなよ」「おにーさんあげるー!」「いらねぇって。もってっとけ!」

直後、巨人を構成する人々が一斉にしゃべりだした。
どうしたことかと目を見張る男だが、蒔風は当然だと言って鼻で笑う。




「これだけの人数を一つにまとめて動かしているんだから、各人の意志が統一されてなきゃまともに動けんだろう?バカかお前」

そういって電王に少女を預け、バサァ!と翼を広げて男にコツコツと歩み寄っていく蒔風。
コンソールが離れたせいか、翼人の力を押さえている磁場は消えていた。
ただし、まだ街を包むバリアは消えていない。



「さて・・・何だったかな?」

「ヒィッ!!」

男が小さな悲鳴を上げる。
肘から先のない左腕を必死に握りしめ、それでも喚かないのは目の前の恐怖が大きいからか。

バリアからのうっすらとした光の逆光で、男には真正面にいる男が真っ黒に見えた。

開かれた翼が斜め上に向かって広がり、内側にギシギシと湾曲している。
男の正面はすべて逆光の陰で黒く染まってよく見えない。


ただそんな中で、見開かれた眼光と、怒りに哂う口元だ下が、はっきりと見える。




「どうした・・・・もっとしゃべれよ・・・・」

ジャリ

「う、うぁ・・・・」

ザ、ジャリ

「あれだけ得意げだったじゃないか。あの子をどうするかとか、街を何かするとか。面白いからもっと聞かせてくれよ」



蒔風が一歩歩むごとに、男の表情が恐怖に歪んでいく。
男は今、「死」という物を目の当たりにしていた。


「わかるか?それが「死」だ。なに、わからなくても気にするな。これは軽い予習だから」

「な、なん・・・・」

「今から、お前が体験することだよ。じゃあな」



そして、蒔風が腕を振り上げ刀を振りおろし・・・・・





「そこまでだ、兄貴」

その腕をキックホッパーが止めていた。

「矢車さん」

「それ以上はいいだろう。この男に地獄なんぞもったいない」

「・・・・・・ああ」

そういって、蒔風が腕を静かにおろし、キックホッパーが腕を放す。


「悪い・・・」

「気にすんな」


そう短くやり取りし、翼をしまって男を視界から外す蒔風。
それをみて男が気でも抜けたのか、一気にべらべらしゃべりだそうとしてきた。


「はは・・・結局やらないの。あんだけ怒ってたのに、あっさり下がるの!つまりあんたにとってその程度だったとッッ!!!」


が、その言葉が途中で詰まって止まる。


理由は、殺気。
蒔風の物ではなく、矢車によるものだ。
背中を向けるキックホッパーが、首だけ回して男に問いかけた。


「今・・・・兄貴を笑ったか?」

「ぃ・・・・」

「笑ったよなぁ・・・だったらよ・・・・俺のことも」

「う・・・」

「一緒に笑ってモラオウカ?あ?」

「ぁ・・・・あ・・・・」


キックホッパーのマスクが凄まじい殺気を発し、男がついに放心する。
その場に膝をつき、ぺたりとしゃがみこんでしまった。




「見苦しいとこ見せた。すまん」

「い、いえ・・・・」

エリオやキャロにそう声をかけ、蒔風が疲れたように顔に手を当てた。
ジーク、矢車、影山も変身を解き、大丈夫かと蒔風を案じた。

あれだけの殺意を飲みこんで、そして何もしないというのはかなり堪えるはずだ。
心に重くのしかからなければいいが・・・・

と、そこで地面に落ちた男のコンソールがカタカタと動き出した。



「!」

それに反応した時には、すでにコンソールは機能を発揮していた。
男の腕を離れ、ポーンと飛び上がるコンソール。
高さは人の胸くらいか。

と、そこでクルクルと回転し、全方位に人差し指くらいの針が全方位に発射された。


「畳返しッッ!!」

バンッ、ズカカカカカカカカカカカカカカッッッ!!!!


その無数の針の猛威を、蒔風が畳返しで地面を起き上がらせて壁にして防ぐ。
その向こう側から、ズシャリという何かが地面に倒れる音がした。



「な、なにが・・・」

「見に行かない方がいい」


エリオが一体何なのだろうと壁の向こうを見ようとするが、矢車がそれを制して向こう側へ行き、男の死体にそこら辺の布をかぶせた。


すると地面に落ちたコンソールが再び光り、一人の男をホログラムで映し出した。


『やあ、「EARTH」の諸君かね?』



その男が、話しかけてきた。

罠か?
矢車はすでに民家の影に隠れ、蒔風は畳返しの壁から様子をうかがっている。


『突然の攻撃は失礼した。しかしこちら側としてもそいつの口は封じなければならなくてね』


しかし、男はそれにもかかわらずそのまま話を進める。



『こうしてばれてしまった以上、その街はもう不要だ。好きにしていい。君らにしても、「EARTH」のデータはもういらないのだよ。まあ、銀白の君のデータは不十分なのだがね』

「どういうことだ」


そこで蒔風が応えるが、男の姿は消え、代わりに助手らしきショートヘアの女性が現れてきた。


『データはすべて破棄したので何も残ってないと思います。ご了承ください。あと、バリアはこちらからもそちらからも解除は無理ですので、外からの救助が来るまで我慢してください』

「おいふざけんな!!テメェら一体・・・・」

『では』

プツン




一方的にそれだけ述べて、ホログラムは消えてしまった。
蒔風がコンソールを拾い上げてみるが、プシューという音がして中の回路が焼けてしまった。



「手がかりは消されたか・・・?」

「どうする?」

「バリアの起動装置は街の外だし・・・・」




これからどうするか、と話し合う一同。
キャロは疲れてしまったのか、フリードの背中で少女と一緒に眠っている。


このバリアの起動装置が外にある以上、やはり救援が来るのを待つしかない。


ポールを破壊しようにも、一本破壊するとそこをすっ飛ばしてバリアが張られるので意味がない。

しかもバリアはパッ、と変わるのではなく、ズズズ、とずれて収まるのでどうやっても最終的に潰されてしまうのだ。



だから、待つしかない。
あと数日間はここにいなければならないと霹靂する彼ら。



が、そこでウゥゥゥゥウウウウウン・・・・・という何かがダウンする音がして、街を覆うバリアが消え去っていた。




「お?」

「バリアが消えたーよ?」

「停電でもしたか?」



そんなことを言う彼らだが、そこに一人の少女が走ってやってきた。



「蒔風さん!エリオさん!キャロさん!」

「「セッテさん!」」

「セッテぇ!!どうしたこんなとこで?」



そこに現れた少女、かつてのナンバーズ7のセッテが、このバリアを破壊してきてくれていたのだ。

彼女の持つ武器「ブーメランブレード」には、バリア破壊機能がついている。


各地を旅する彼女は偶然にもこの地を通りかかり、そこであのバリアを見たのだ。
何かあったと思い駆けこんで来れば、この有様である、というわけだ。





そんなこんなで蒔風が車をだして、皆を乗せて荒野を走らせる。

見張りに獅子天麟の三人を置いたので、おそらく荒らされることはないだろう。





この街での一件は終わった。



彼らはいったん、帰っていく。



次の戦いに備えるために。




to be continued

 
 

 
後書き


なんだかナァナァになってしまった気がするが大丈夫だろうか・・・・
相手の外道技術、そして唯一の少女救出


男に関しては名前も何も決めてません。


とりあえずクソ野郎ということは解っておいてください



あれだけ武器、技術を持った敵とは一体何なのか。


彼らの目的は兵器開発です。
だからこうして「EARTH」にも勧めてきたんですね。

まあ無論無駄でしたが



少女の身に何があったのか、組織は一体何をしようとしているのか。


それは追々、説明していきたいと思います。



ちなみに「あの実験体」というのは日常編の最後に街を焼いていたあれです。

ホログラムの男は例の男ですね。





ではまた次回で

 
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