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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
Epilogue
  進行度 3/4

 
前書き
君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ! 

 
「今やその点しか論争ではないでしょう? ねえ、団長さん」
 エルーンはそう言うとメーテラと同じように外へ向かう。
「お待ちなさいコルワ」
 団員達の中から声が上がる。確か、フィーエという女性のものだ。コルワと言われた女性は立ち止まる。
「メーテラといい貴方といい、エルーンの方々は背中で語るのが好きと見えますわね」
 エルーン族の伝統的な衣装は、男女問わず背中を大きく出す形状のものが多い。フィーエはさっさと背中を見せて出ていこうとする二人をそれにかけて皮肉っているのだろう。
「格好いいでしょ?」
 コルワが冗談めかして言えば、フィーエもそれを見て軽く笑う。
「ええ、殿方であれば」
 コルワは苦笑し肩をすくめ、改めてジータの方へ向いた。
「私は貴方の元でハッピーエンドを見てみたいと思った。もしそれが叶わないのであれば、この場所を去るのみよ」
 ジータの表情が変わる。見れば、他の団員達もコルワと似たような表情を浮かべている。
「ほう」
 軽く声が出てしまう。皆、彼女の下ではないと騎空士になりたくはないということだ。俺みたいなやつがこんなにいるとは、少し感激。
「それでいいの?」
 ジータが絞り出したような声をだすと、対してコルワは笑みを浮かべて明るく声をだす。
「それがいいの」
 ジータは黙する。ジータが団長を辞めれば、残るのは何人だろう。
 というかそろそろ。
「ジータがどうしたいか、だろう。そこを明白にして欲しい」
 この場に連れられて、初めて俺は声を上げた。拘束されたまま目の前で騒がれ続けるのはあまりにもいたたまれない。
 コルワは此方を睨む。……正直怖い。
「皆そう思っているだろう。それに、責任で辞めるってなんだよ」
 ジータは俺から視線を外す。確かに、あの戦いはジータが罪悪感に苛まれなければ俺は起こす必要はなかっただろう。しかしながら。
「裁かれなければならないのはお前じゃないだろう?」
 視線をシルヴァに向ける。彼女は僅かに目を瞑った。
「団長や私の不手際があれど、それは全て戦闘時における致し方ない失敗であった」
 シルヴァに全員の視線が行く。本当にこの女性は頭が良いというか、機転が利くというか。正直な話尊敬する。彼女くらいできる人間は、あのぶっ飛んだ莫迦者のモニカとやらしか知らない。
「責任、と言われれば取らざるを得ない。かと言って、毎度罰則を設けていては士気に関わるのは道理であろう?」
 コルワを始めとする団員が頷く。皆、団長を辞めさせたくはないのだ。頷く他はない。……分かっているとはいえ、次の言葉を聞くのは緊張する。
「なあなあにするつもりは毛頭ない。然しながら、本当の意味で今回の私闘を作り上げ、且つ皆に直接的な危害を加えた人間がそこにいるだろう? 私達は、彼にこの戦いを仕組まれたのだ」
 部屋を満たす空気が変わる。ジータを庇うような繊細な空気は薄れ、害意と憐憫とが俺に向けられる。ジータがシルヴァを中心にと先言った理由がわかる。ただ単純な言葉回しではなく、言い方や彼女の佇まいが団員達に彼女の言葉を正しいと認識させているのだ。
「団長が辞めたい、というのならば私達は止める術を持たん。然しながら先に決めると言った以上、団長がその任を解けば、我々は民主的に決定した方法でその男を裁こう」
「なっ」
 ジータが俺の前に踏み出そうとするのを遮るように俺は声上げる。
「民主的に、だろう。メーテラを呼び戻すのか?」
「そうしたいが、それは随分と難しい任務だ」
 シルヴァが口角を持ち上げる。
「ジータ、団長としてメーテラを呼び戻してきたらどうだ」
 俺がそう言えば、ジータは皆の顔を見渡しながら迷ったものの、分かったと食堂を出ていった。
 溜息を吐く。これで彼女は少しくらいは考える時間が出来ただろう。皆が彼女を思っていた事を理解してくれた上で、きちんと選択してくれれば良いのだが。
 気づけば団員達が此方を見ている。気まずいことこの上ない。
「何だ」
 吐き捨てるように言えば、大男が此方に近づいてくる。名は、確かガンダゴウザといったか。
 大男が手を俺の頭に乗せる。おいおい、小さな子どもも見ているここでぶち転がすのか。
「お前も難儀じゃな」
 そう言うとガンダゴウザは俺の頭を乱暴に撫でる。戸惑う事しか出来ないのでなされるがまま暫くすると、彼は口を開いた。
「討てと言われたが、我々は討てなかった。お前は我々を殺すべきだったが殺さなかった」
 復讐を演じるならば。もし本当にジータに殺されたにのならば。何人か彼らを殺したほうが都合が良かっただろう。
「それだけのことじゃ。案外どっかの小娘はお前に感謝しているかもな」
 視線を動かせば、カレンと視線が合った瞬間彼女はそっぽを向いた。話す限り、彼女はジータを本気で心配していたし怪我を庇うが構わなかった、というところか。
「しかし、それで終わらぬのもまた重々承知じゃろう」
 声の質が変わる。ああ、このおっさん本当に良い人なんだな。
「あんたも難儀だな」
「……まあな。さて、予め言っておくぞ。耐えろよ」
 ガンダゴウザは俺の腹へ拳を叩き込む。俺は椅子から吹き飛んだ。痛みと吐き気に耐えながら顔を上げれば、コルワもシルヴァも此方から視線を背けていた。痛ましい事には目を向けていられないってか。
「全員見ておけ。目を逸らすな」
 ガンダゴウザは団員にそういうと、俺に近寄ってくる。
 メーテラを連れてジータが戻ってくるまで果たして何分だったか。もしかすれば一分も経っていないかもしれない。
 しかしながら、抵抗しない俺をガンダゴウザがぼろ雑巾のようになるまで殴りつけるのには十分すぎる時間だった。
「何してるの!」
 ジータの声が聞こえてくる。既に瞼は開けられず口も満足に開けないので、ただ聞くだけだ。気絶しないような殴り方を知っているのは流石と言おうか、はたまた呆れるべきか。
「ガンダゴウザ、聞いているの!」
「さて、団長、貴方はやめるか」
 ジータの発言を無視し、ガンダゴウザは語りかける。
「何を」
「皆の者! お前たちを痛めつけた悪鬼はこやつぞ!」
 おそらくガンダゴウザが俺の首根っこを掴み上げて持ち上げた。
「やめて!」
「皆が見ていたように、儂に殴られたこやつは既に死に体よ。こやつを更に痛めつけたいというものはおるか?」
 暫しの無言。
「おらんようじゃな」
 ガンダゴウザの声が聴こえると同時、俺は地面と落とされた。
「アンタも大変ね」
 近くでメーテラの声が聴こえる。大きなお世話だ。
「どういう事よ、これ」
 ジータの困惑した声が響く。それに答えるのはコルワの声だった。
「これで裁かれるべき人間に正しい裁きは下った。じゃあ、団長さん。貴方は今、辞めたいの?」
 ……本当に難儀なものだ。ジータに納得できるような状態を作るまでにこれだけの道のりが必要だった。
「私は」
「辞めるなら結構。団員として残ってもいいわよ」
「私は……」
「その男を連れて何処かへ消えてもいいわ」
「私は…………」
「私達は私達で生きるから」
「私は! 団長でありづつけたい!」
 ジータの絶叫が耳朶を満たす。安心して力が抜ける。
「それでこそ私達の団長よ」
 コルワの嬉しそうな声を聞きながら、俺は自身の意識が薄れていくのを感じた。 
 

 
後書き
Q,グランいつもボコボコにされてない?
A,若いですからね、鉄は熱いうちに叩くに限ります。
Q,シルヴァもガンダゴウザも割りと酷くない?
A,グランの命も救うように努力してますので。
Q,まだ続くの?
A,次で終わります。 
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