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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
Epilogue
  進行度 4/4

 
前書き
これにて終了。 

 
 次目覚めたとき、拘束具は既にされていなかった。部屋の中には俺一人。どうしたものかと考えている内、外から扉が二度叩かれる。どうぞと答えれば、入ってきたのはバザラガとゼタだった。
「お目覚めか」
「次は何日間寝てたんだ」
 ため息混じりに問えば、それに答えるより前にバザラガは手に持っていた盆を近くの机に置いた。盆には食事が乗っている。ゼタは部屋の奥までは入ってくるつもりはないようで、扉に寄りかかって俺とバザラガを見ていた。
「六時間程だ。怪我の方は治癒魔法を使える人間が治しておいた」
 ジータの団員に殴られジータ治されたとなれば、お礼を言ったほうが良いか皮肉を言った方いいのだろうか。
「ジータも大変だな」
「団長が? 何故だ」
 バザラガが不思議そうに問うが、俺としては不思議な事なんてない。
「他人からの魔術干渉を防ぐ魔術も体にかけてある。それを壊さずに体を治せる事が出来るのは一緒に特訓したジータだけだろう」
 暗号化してあり何も知らぬ魔術師からであれば干渉し難い術式も、その暗号化の過程を知っているジータであれば難なく突破できるだろう。
「昨日といい、あいつも疲れているだろうに」
「団長がそうしたいと言ったならば俺達が止める道理はない。それより腹が減っただろう。食っておけ」
「ありがとう。それで、どうなったんだ?」
 問えば、バザラガは何を訊かれたのか分からないというふうに此方を見た。
「何が?」
「何がって、俺だよ。皆俺がぼこぼこにされたから本当に良いのか?」
 納得がいったのか、バザラガは答え始める。
「甘いと言ってはなんだが、あれ程一方的に殴られた人間を改めて殺そう、と言えるほど肝が座った人間はこの団にはいない。後はまあ、団長が辞めると言い出したせいで有耶無耶になってしまった部分もある」
 ガンダゴウザが俺を殴ったのは明らかにジータから団長をやり続けるという発言を引き出すためのものだったが、それがこういい方向に転がるとは。
「諦めが良いな」
「殺すと言い出したら団長が辞めかねんかったからな。それに私刑をしてしまえば団内で裁かれる」
 俺が溜息をつきながら「ガンダゴウザは」と問えば、バザラガは「これから半年はトイレ掃除だろうな」と返した。
「可愛い罰じゃないか」
「冷静になれば団長もあの場で起こった全ての事柄が、グランを生かしジータを団長にし続けるのが目的だったと悟るだろうしな。厳しい罰はされないだろう。それよりお前はどうするんだ。これから」
 俺は天井を仰いだ。そうして「あー」と暫く唸ってから、なるべく軽い調子を装って言い放つ。
「飛び降りるか」
 この空に浮かぶ島々から落ちて、何処かは知らぬ空の底、地面に墜ちる。
 冗談ではなかった。一年前において行かれてなんとか生きながらえてから、俺はずっとジータを良き団長にするために生きてきたんだ。死ぬのが本望。これから別のところで生きよう、なんて気にはさらさらならない。
「吐くのなら、もう少し面白い冗談にしとけ。まあ今は良いか。先に依頼について話そうか」
 俺は暫く考えて、そう言えばシルヴァとソフィアを連れ戻すように言われていたことを思い出した。
「報酬はどうするんだ?」
「良いや。どうせ全部ジータに会う為にやってきたんだ。今や何も必要じゃない」
 目的は果たされた。
「そうか。じゃあ団に入るってことは?」
「ああ……次の港に着いたら降りるよ」
「何だ、この団が気に入らなかったか?」
 バザラガが軽い口調で言えば、俺は呆れてしまう。
「入りたくないって言えば嘘になる。けどな、こんなにどんぱちやった後に誰が仲間に入れてください、なんて言って了承してくれるよ」
 そりゃ、俺だってジータが率いる団に入りたい。彼女に明言したことはないが、それが俺にとっての夢だったんだから。
「少なからず、あいつらはそうだろうな」
 バザラガがゼタに視線を向けると、ゼタは溜息をつきながら扉を開けた。そうすれば扉に寄りかかっていたのか、何人もの団員が室内へ倒れ込んでくる。女性はジータやコルワ、ベアトリクスといった所から名前を覚えていない人まで。男もガンダゴウザを始めとする兵どもが折り重なりつつ此方に顔を向け、申し訳なさそうに笑っている。
「何してんだか」
 ゼタがため息混じりに零す。
「そりゃどんぱちやったが、仲間になるとしたら随分とまあ頼もしい奴じゃねえか」
 人の山の下の方からくぐもった男の声が響く。山の間から伸びた腕が声の主であることを主張するように左右に振られている。
「戦闘員が欲しいのか? なら傭兵を雇えば良い」
「そうじゃねえよ。絶対に団長を、ひいては団を裏切らない仲間が欲しいんだよ」
 結構格好いいことを言った腕はその後痛いだとか苦しいなんかと喚いてから動かなくなった。大丈夫だろうか。
「ジータを裏切らないことと団を裏切らないことは違うだろう?」
 それがジータの為であると判断すれば、俺は他の団員を容易に見捨てるだろう。
「じゃあ安心ね。団長さんが私達を裏切ることはないから」
 山の上で小さな少女が声を上げる。齢は十二かそこらだろうか。純粋にジータを信じ切っているようだ。
「団長は団に生きるものじゃあない」
 もしジータが本当の目的を忘れ、ただ自身が作った団に縛られるというのなら我慢ならない。
「御尤も。然しながらこの団は団長によって団たり得ている」
 山の下の方で、右頬に大きな古傷のある青年が声を上げる。
「団に入ったのではなくジータに集ったのか」
 団ありきで人が増えたのではない。確かに団という形となり体系化しているが、本質的は仲間なのだ。団があるから仲間ではなく、仲間が集ったから団となった。というところか。
 思わず涙腺が緩む。一年前まで何処と無く頼りなく、剣や魔術の腕前も並で料理も苦手としていた彼女が今やこれだけ慕われるようになったのだ。成長を喜ばずして何が幼馴染か。
「止めてよ恥ずかしい」
 ジータが山の中で頬を羞恥で赤く染める。これだけ慕われているのだから照れずに堂々とすればいいのに、なんて思うが恥ずかしがるからまた愛されるのだろう。
「それで、いつになったらどけてくんだ?」
 動かなくなっていた腕が弱々しくも動き苦しさを主張する。まああれだけ人間が重なり合えば下の人間は圧死しかねない。
「情けないわねラカム。男なら人の十人二十人片手で持ち上げてみなさいよ」
 山の上でコルワが叫ぶ。随分と男に物を求める。彼女と夫婦になる人間は大変だろう。今のうちから少し同情してしまう。
「無茶言うなよ。重えのなんの」
「冗談言わないでよ。乗ってる半分は女性よ? 半分は羽根みたいなもんでしょ」
「その羽根は鉄ででも出来てんのか?」
 ラカムと呼ばれた腕からの返答に、コルワは溜息をついてから山から飛び降りた。続いて先の少女や女性団員が降りていく。やっとラカムとやらは開放されるようだ。
「と、まあこういう具合だ」
 やや強引にだがバザラガがまとめる。
「他の団員は」
 人間の山にいた人物以外にも、団員は居たと記憶している。
「納得するさ」
「そんな人間に背中を預けられるかよ」
 納得しているのでは駄目なのだ。生死を分ける状況で信じられなければ。
「なら入ってから信頼されるようにするんだな」
「おいおい、待てよ入るとは――」
「――入らないのか?」
 部屋中を見渡し、入り口で屯する団員達を見る。いない。
「どうした?」
「いや……」
 バザラガが突然視線を動かした俺に不審そうに声をかけるが、俺は濁った返事しか返せない。頭に直接響くように聞こえた声は、ジ・オーダ・グランデの少女のものだ。見られている。その上で、入ることを強制しているように聞こえた。
 断れば俺とジータどちらかしか監視出来ないので一緒に居たほうが都合が良い、ということだろうか。断った時は、果たしてどうなるか。
「入るよ、入るさ」
 あの少女の気配が消えた、気がした。 
 

 
後書き
Q,結局グランは団長の仲間になったの?
A,ジータに仕えるのでしょう。ジータはグランを親友として扱うでしょうが。
Q,各キャラの名前は?
A,人の山の上の少女はリリィ、頬に傷がある男はライアンです。
Q,ハッピーエンド?
A,体を槍や銃で穿たれて出血死やショック死せずに平気な顔してるグランくんは、彼自身が気づいていないだけできっともう普通の人間ではなくなってしまっているでしょうね。アルルメイヤやジ・オーダ・グランデ(ゾーイ)はそのことに気づいているでしょう。
Q,続きは?
A,バルツ公国動乱やら各キャラのフェイトエピソードなんかも出来たらいいですね(予定は未定) 
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