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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
Epilogue
  進行度 2/4

 
前書き
団員達の間に衝撃走る・・・! 

 
 今回の事件の顛末は、俺やジータの証言に至るまでを団員全員に知れ渡らせ、またその上で最終的な俺への処分を決めるようで目覚めたその日中には何もないようだった。
 ジータは俺の証言を聞いて暫くは泣いたり笑ったりで少々情緒が安定しなかったが、一刻程で気を取り直し団長として団員達と話すのを決めたようだ。
 ジ・オーダ・グランデに関しては、まず彼女がこの艇に同乗していることを知っているのは先部屋にいた三人と他少数だけらしい。俺とジータが戦っていたのは艇から離れた位置ということもあり顔は知られていない。故に、全くの新人として次の港に着いた時に仲間になる、という青写真らしい。似ていると指摘されてもそら似で済ませると言っていたが、確かに正対した俺ですらあの覇気溢れる鎧姿から先の普通の人間の服装をされるとまるで別人と思えたのでなんとかはなるだろう。
 また目覚めたその日の内に、カタリナとルリアが会いに来た。二人は一年前の礼と、一年前の事件の事を謝られた。その事について、俺は二人の誤解を解くのに相当難儀した。
 あの日、襲われたことも、あの日ジータ達が俺を残して行ったことも何一つ俺は恨んではいないのだ。そもそも、置いていくように目配せしたのだ。それを何故謝られることがあろうか。事件に際しても、一番最初にルリアを助け巻き込まれたのは俺だ。
 二人には二時間は恨んでいないことを話し、漸く納得してくれたようで出ていってくれた。その後は代わる代わる団員が俺の元へと現れた。団員達の対応は千差万別だった。恐れるように此方を伺ったまま数度言葉を交わし出ていく者もいれば、先日の戦いでの戦闘の仕方について互いに論を講じようと宣うものも居た。ある者は仲間を傷つけたことを許せないと言っていたし、またある者は団長の決定に従うという者も居た。
 結局翌日、俺は拘束されたまま食堂に連れて行かれ、皆の前の席についた。前にはこの団の全員が並んでいるのだろう、数十人が居た。団員たちはひそひそと言葉を交わしている。内容も俺を恨むものから強いと尊敬するものまで雑多だ。
「傾注」
 食堂の入り口に立ったシルヴァが声を上げれば、全員が黙し入り口を伺った。入り口には武装したジータが立っている。彼女は真っ直ぐに私の隣へ移動すると、団員全員へ視線を動かした。
「先日、グランとの戦闘によってこの場にいる大多数が負傷しただろう。皆の中にはグランの処分について一番に考えたい、というものが多数を占めるだろうが、まずはその前に皆に聞いてもらいたことがある」
 そう言うと、ジータは被っていた兜を脱いだ。
「あの戦闘はそもそも、一年前に私が生んだ確執によって生じた戦いだ。それも私の気の持ちよう一つで回避できたのにもかかわらず、一年間後生大事に抱えた罪悪感によって避けることは叶わなかった。グランの証言にあったように、もしあのままであれば、私は死ぬまでグランに怯えて生きる事になった。その事によって皆を危険に晒す事もあっただろう。今は結果として、私はグランに怯えることなく今まで以上に皆を強く導ける団長になったと自覚している。しかし!」
 ジータが大声を出せば、比較的年齢の幼い団員達は震えた。
「私の失態により団員殆どが負傷したのは事実。私自身、私の不甲斐なさに呆れ果てると同時に腹が立つ。故に、この場を持ってして、私は団長をやめさせて頂く」
 団員たちの間に衝撃が走る。しかしジータの言葉は止まらない。
「先語ったように、先日の戦いは私闘であるのだ。それに私は皆を動員した。お前達は私の私兵ではないにも関わらず、だ。これは騎空団としての本質を失ったものである。次の団長はシルヴァを中心に」
「――待った」
 その声は、いやに良く耳まで届いた。
「メーテラ、発言は控え」
「良い。なんだ」
 シルヴァの制止の声をジータが遮る。メーテラとやらは団員たちの合間を通り団長の前まで行くと、少々苛ついた顔で口を開いた。
「何勝手言っちゃってんの?」
「勝手? そうだ、勝手に私兵化したから」
「そういう事じゃないのよ。正論ばっかりの演説なんて聞きたかない。それにあんたら!」
 メーテラは後ろを振り返り、団員たちに活を入れる。
「この中で団長に命を救われたってやつや、団長のお陰で生きる指針見つけたやつだって多いでしょ。なんであんたらが黙ってんのよ!」
 団員たちはばつが悪そうに視線を逸らす。驚くと同時に、少しばかり安心する。ジータは金で団員を集めたりとかそういったことはしていないようだ。
「いい、私の妹はあんたに世話になった。私の村はあんたに救われた。あんたは依頼じゃなくても救えると思ったら戦ってくれた。私兵化なんて言われりゃそうかもしれない。けど、公に生きて金と契約で動いてちゃただの傭兵集団でしょ。あんたの言う騎空団としての本質ってそんなもんだったの?」
「違う! けれど、けれど! 私は貴方達を見捨ててしまうかもしれない! 見捨てられないからこそ被害を増やしてしまうかもしれない!」
 ジータの絶叫こそが彼女の本心だった。見捨てたという自責の念と、見捨てなければ全員死んでいたという免罪符が一年間彼女を苦しめていた。それはずっと俺に対して持っているものだったが、俺が生きていた以上それは俺だけじゃなく仲間全員にも「失う恐怖」として発露する。
「誰にも死んでほしくない、そう考えた時に私は動けなくなってしまった。もしグランと同じようになった時、私は見捨てるのか見捨てないのかが分からない」
「けっ、大層なご高説垂れる割には悩むところはちっさいのね」
 メーテラはジータに尚も近づき両肩に手を置く。
「どっちでも良いわよ。それで私が死のうともね。先にあの世で宜しくやってるわ」
 そう言うとメーテラは入り口の方へ向かい、後ろ手を振りながら出ていった。
「あの様子じゃ、今日の夜は荒れるわね」
 団員達の前の方で、エルーンの女性団員が溜息を零す。俺はその団員からすぐに視線を移した。今、あの団員は何処にでもいる女性のようだが、あの日は違っていた。
 彼女の腕は細く、戦闘に向いたそれではない。武器も特にこれといった名物でもなかった。技術という面で見ても明らかに団内で劣っている。致し方ながら、厄介さ、で言うならば相当なものだった。
 あれは妄執と言っても差し支えなかった。俺の元へ彼女が戦いに来たとき、俺は直ぐ様武器を落とさせた。彼女は直ぐ様武器を拾おうとしたが、俺はその脇腹を蹴り飛ばした。容赦はしたが遠慮はしなかった。加護も見たところなかったから、下手をすれば内蔵にも怪我を負っていただろう。普通の人間であれば立ち上がれなくて当たり前。下手をすれば数日は起き上がれない。
 しかし彼女は数十秒の後、起き上がった。俺は次も遠慮なく顔面を軽く殴り、体制を崩させてから肋を折るほどの力で回し蹴りをした。
 次は十秒も経たぬ内、彼女は起き上がった。あの時、俺はマルドゥークのせいで何も感情を抱いてはいなかったが、もし今改めて対峙しあの妄執を彼女が見せたとしたら、俺は少し臆するだろう。
 結局あの後彼女は左足に短剣を刺されるまで立ち上がった。何が彼女をそこまで突き動かしたかは分からないが、あまり好きになれるような性格ではないことは言えそうだ。
「グランの処分は一存するわ」
 エルーンの女性がいえば、ジータは眉根を寄せた。
「今、その話はしていない」 
 

 
後書き
Q,エピローグが長くない?
A,まだ続きます。すいません(元々は次の部用の物をEpilogueにしているので)
Q,メーテラってこんなやつ?
A,「粧して臨めよ花戦」のせいでコルワとの絡みを書いてみたかったんです。殆どボツになりましたが。
Q,コルワ怖くない?
A,ジータのバッドエンドを回避するために命をかけてたんでしょう。 
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