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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
二人目の騎空士
  進行度 1/7

 
前書き
一人目の騎空士と同時刻、団員と買物に出かけていたジータ達視線から。 

 
「団長さんって好きな人いるのかな」
 曲がり角の先から聞こえた声にどきりとする。声の主は私の団の団員であるカレンだ。
「買物の途中だからって呑気な話題だな。それで、何でまたそんな話を?」
 答える声はラカムのもの……どうやら団員同士の他愛のない会話のようだ。
「いやー、団長さんって凄い強いじゃん? しかも見た目も綺麗でさ、団内では狙ってる男もいるとかいないとか」
「女ってやつはその手の話が好きだねぇ」
 ラカムが呆れたような調子で返せば、「それだけじゃない」とカレンは真剣な声を上げる。
「同じ質問を以前団長さんにした時、彼女はいないって答えたんだ。それで、私は何気なく恋の一つ二つしたほうがいいよーなんて言ったんだけどさ、団長悲しそうな顔して私にそんな資格ないって」
「あー」
 ラカムが呻くような声を上げる。……ラカムは、彼を失ってすぐの私達と会い、そして彼の事を話してしまっているから、私が言った言葉の意味もわかってしまうのだろう。
「資格がないって話じゃないさ、あれに関してはジータは悪くない」
「なになに、何があったっての?」
「うっせ、人様には聞かれたくない話があるんだよ」
 ラカムがこれで話は終わりだと切り上げようとするが、カレンは尚もせがみ続ける。
「しょうがない、少しだけ教えよう」
 突然聞こえてきたのは、またもや団員のカタリナのものだ。彼女も、彼の事を知っている。
「あれは、ジータが、私が、ルリアが、初めて空に漕ぎ出した日の事だ。私たちはあの日、一人の男を見殺しにした」
 ……あれは一年前の事。
 その日、いつものように私とグランとビィ――小さな赤竜らしき生物であり、見た目は翼の生えた蜥蜴そっくりなのだが、蜥蜴と呼ぶと怒る妙な生物――はザンクティンゼルにある草原で稽古していた。いつものようにグランは私の本気の攻撃を軽く往なし、射撃では私よりも遥か先の的に当て、私よりも遥かに精度の高い魔術を行使した。だから、私はいつものように意地になって、へとへとになって体が動かなくなるまでグランに稽古に付き合ってもらっていた。
 私には夢があった。イスタルシアと呼ばれる空の果てにある伝説の島へ到達することだ。その場所にたどり着き、そこで待つという父親と再開するのが私の夢である。これはその為の修行。いつか自身の騎空艇を持ち、仲間とともにこの大空を旅する時に困らないように強くなるため、毎日グランと共に切磋琢磨していた。
 グランはと言うと……良くわからない。グランはいつもにこにこしていて、いつも私の言う事を聞いてくれていて……だけれど自身の夢が何かは教えてはくれなかった。幼馴染の私がイスタルシアを目指すと言ったときもただ一人応援してくれて、強くなりたいと言えば一緒に強くなろうと約束してくれ、いつか空へ旅立つ時は共に征くと言ってはくれたが、それでも彼の夢は分からない。何度か尋ねた事はあるが、困ったような笑みを浮かべてはぐらかされるだけで、私は追求を諦めていた。
「今日も精が出るなぁ」
 昼頃、私とグランの稽古を見ていたビィが関心半分、呆れ半分といった具合に声を上げる。朝食後初めた稽古は殆ど休むことなく続けられていて、私とグランは肩で息をしていた。
「それだけジータが本気だって事だろ」
 グランが笑ってそう言えば、ビィは「お前も大変だなぁ」と関心したように呟いた。まあ確かに、毎日稽古に付き合ってくれる彼も凄いと思う。
「しかしまあ二人も強くなったよなあ」
「そうだな、ジータは強くなったよ」
 グランが感慨深そうにビィに同意する。稽古を初めたばかりの頃は、それはそれは悲惨だった。剣を数振りしただけで握力は保てなくなり、構えた銃は動作不良、長物を振るった暁には尻もち必須と言っても過言ではなかった。しかし、今は違う。グランと二人でここまで強くなったのだ。……強くなっていたらいいなぁ。グラン以外と手合わせ出来ないから分からない。それに、グランと行うときでも怪我が無いように実際の剣は使えないので、実戦となるとどうなるかはわからなかった。
「言うぜ、グランもそんじゃそこらの大人にゃ負けないだろ」
「俺なんてまだまださ。ジータの団で働くなら、もっと強くならないと」
「グランが強くなりすぎたら私の立つ瀬がないよ。……既に、かもしれないけど」
 団を率いる人間が団の中で一番強くないといけない、という道理はない。だが、それでも私よりも強くて、こんなに優しい人間を差し置いて私が団長の座に就く、というのは居心地が悪い。
「何言ってんだよ。お前が団長じゃなきゃ騎空士になんてならねえっての。お前が俺に言ったんだろ? 二人で騎空士になるんだよ、って」
 ……こんな風に。こんな風に私を気遣うような言葉を投げかけてくれる度、思うのだ。私のイスタルシアに向かうという我儘に彼が付き合ってくれているだけなんじゃないかと。私の幼馴染という重荷が彼の本当の夢を封じているんじゃないかと。
「どうしたんだ?」
 黙ったままの私を心配しているのか、グランは私の顔を覗き込む。
「ちょっと疲れちゃって……休憩しようよ」
「ああ、そうだな。もうへとへとだよ」
 言い訳のように疲れたと言ったけれど、実際に体は疲れ切ってどうにかしそうだった。膝はとっくの昔に笑い始めていて、魔術の行使も難しいほどに疲弊していた。
「ご飯、偶にはごちそうしようか」
 私が何気ない風を装って提案すれば、グランは顔を綻ばせた。
「おお、誘ってくれるってことは上達したってことだな?」
 自身の顔が赤面するのを自覚する。
「うるさい! 上達したのが剣や銃の腕前だけじゃないって事思い知らせてあげる!」
 声高らかにそう言えば、グランとビィは顔を見合わす。……初めて彼らに振る舞った食事は、作った私が言うのもあれだけど不味かった。もっと美味しくする努力をしてもよかったのではないかと後で自責する程度には不味かった。しかしそれを笑いながらグランとビィは食べてくれた。ようは、そういう人間とトカゲなのだ、彼らは。
「楽しみにしとくよ」
「楽しみにしとくぜ」
 グランとビィが屈託なく笑う。んー、なんというか、凄い有り難い反応ではあるんだけど、これで美味しいものが出来なかったら格好が付かないじゃ済まさそうだ。……しかし! 私に抜かりはない。今日はシチューだ。失敗する可能性が低い料理だし、既に下準備も完璧に済ませてある。あれ、よく考えたら時間がかかる料理を作ったら彼らに準備して居たことがバレてしまうのではないだろうか。
「ん、なんだあれ」
 悩む私の横で、ビィが空の一角を指差して言う。私もその方向を伺えば、大型の騎空艇がこちらに向かって来ていた。フライパス、という進入角ではない。墜落……?
「何ぼーっとしてるんだ、逃げるぞ!」
 グランに肩を叩かれてはっとする。先に駆け出す彼の後を追いかけるように急いで移動すると、先程まで立っていた場所に騎空艇が胴体着陸し、底面を擦りつけながら滑っていった。
「何だあれ」
 グランの呟きを聞きながら、過ぎ去っていく騎空艇を眺める。あの軍旗、確か。
「エルステ帝国軍の大型騎空艇? 何故こんなところに」
 私達の住むザンクティンゼルは通称「閉ざされた島」と言われる程に島外から来る者は滅多に居ない辺鄙な島だ。そんな場所に凡そ似つかわしくない艇。
「どうしようか」
 ビィの発言に悩む。あれを追いかけるべきか、それとも距離を置き避難するべきか。
「どうするよ、団長」
 思わず発言したグランを見つめる。彼は不敵な笑みを返してくれる。例え冗談だとしても、言ってくれるじゃない。
「行くわよ、副団長」
 私は頼もしい副団長さんに笑みを返し、艇が過ぎ去っていった方向へ駆け出した。 
 

 
後書き
Q,ビィくん!
A,カタリナさんには悪いですがビィくんの出番はかなり少ないです。
Q,原作と全く違わない?
A,二次創作ですから……。
Q,グランとジータの口調や地の文がおかしくない?
A,アニメ放送前に書き始めているので……というのは建前で地の文の書き分けが出来ませんでした。 
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