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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
一人目の騎空士
  進行度 3/3

 
前書き
初めて握るはずの銃で狙撃を成し遂げる男の鑑。
Q,単語の意味は?
A,狙撃眼鏡→スコープ(テレスコピックサイト)。望遠鏡のようなもの→ボアサイター。米=m。粁=km。 

 
「つまり、今はお試し期間中なわけだな?」
 数日前からの動きを説明する内、ククルとシルヴァは慣れた手付きで長銃を組み上げていた。
「はい」
「成る程ねー。この団面白くて好きだから気に入ってくれると嬉しいな」
 ククルはこちらが説明している内から親しげに話しかけてきていた。戦闘を行うという性質上、殺伐としていてもおかしくはない団内でこういった人物はいいムードメーカーとなっているだろう。
「腕利きが増えるのはいい事だ」
 そう言うとシルヴァは長銃を担ぐ。
「調整するから来てくれ」
 本当に作業のついでに私の相手をしているのだなと思いつつ、私は頷いて立ち上がり彼女に連なる。バザラガが言っていたとおり居住区で武器を使える状態で持つのはいけないのだろう、シルヴァは銃と弾薬を別々の鞄に入れてから部屋を出た。ククルは私達には連ならず別の場所へと向かっていたが、騎空艇を離れる頃には大きな鞄を担いで私達に合流した。
 暫く騎空艇から離れた場所にククルは的を設置し、的から百米離れた位置に鞄の中から取り出した銃を固定するための台を置く。シルヴァが取り出した長銃をそれに固定するとククルは銃身に望遠鏡のようなものを固定した。
「何ですかあれ」
「銃身の延長上に的が位置するようにあれで確認するんだ。私の銃の照準器は倍率が高くてな。調整が難しくて困っていたらククルが特注で作ってくれたんだ」
 シルヴァが説明してくれている横で、望遠鏡を覗きながらククルは台を微調整する。ある程度調整が終わると今度は狙撃眼鏡の取付具を調整し、大まかに合わせていく。それも済むと銃身に付けた装置を取り外し、シルヴァの鞄から弾丸一発を取り出して地面に寝そべった。
「射撃準備」
 シルヴァは「了解」と軽く返答し、耳栓を装着し狙撃眼鏡を取り出して的を眺めた。
「耳、塞いでおけ」
 シルヴァの注意に頷き、耳を塞ぐと同時に、魔力で視力を増して的付近を注視する。
「準備完了」
 シルヴァが答えるとククルは耳栓をし、弾丸を徐に薬室に装填する。そうして狙撃眼鏡を覗き込み、引き金を絞った。
 轟音が耳朶を満たす。弾は的へ命中。中心点から四十糎というところか。
 その後、調整を挟みながら五発程を撃つと、ククルは立ち上がった。
「今回は素直だねー。銃身冷えるの待って射撃して今日は終わり、もあるくらいだよ」
 ククルの言葉に感嘆する。かなり調節が上手い。
「済まないなククル。今度手伝うよ」
「いやいや、怪我しているならしょうがないよ」
 ククルの言葉通り、シルヴァは右手の人差し指に包帯を巻いていた。この状態では狙撃なんて到底こなせないだろう。
 その後、銃に関する談義をしながら試射を重ね、満足行く状態になった頃に騎空艇に戻った。
「ああ、シルヴァさん! 先程魔物が出たという依頼が入って来たんです。団長さん達はまだ帰ってこないし、最低限の団員しか艇にいませんしでどうしたものかと」
 帰って早々、ソフィアが私たちに近寄ってきてまくし立てる。
「依頼は受けるな。私は万全の状態ではない」
 きっぱりとシルヴァは言い切った。懸命な判断だ。この場で彼女以外が動けず、そうして彼女自身が万全でないとすれば動かないのが道理である。
 ソフィアはシルヴァに断られてしまったので私を見る。私は目線を逸らさず彼女に言葉を放つ。
「この島人からの依頼であれば全て断ってください。この島は異常です」
「何言ってるんですか、犠牲者が出てしまいますよ」
 私はため息を吐く。その、怒気さえ孕んだ音にソフィアも、ククルも此方を注目した。
「この島人は騎空士に依頼を出すが報酬を踏み逃げするような奴らの集まりです。ならば一度、助けられないという恐怖を与えたほうが事は容易い」
「人命が第一です」
「じゃあ貴方が行けばいい」
 そう答えれば、ソフィアは臆した。正直な話、少し苛立つ。他人に死地に立てと強要する癖に死線を潜る度胸もないのか。
「分かりました。私が行きます!」
 そう言ってソフィアは私達を押しのけ、騎空艇から降りていく。飛んだ莫迦だ。その判断がミスだったと気づくのは死ぬ間際だというのに。
 傍に立つシルヴァは盛大に溜息を吐く。こうなる事を危惧していたのだろうか。
「ソフィアを死なせたとなると大問題だな。私が彼女を追おう。二人は残っていろ」
 シルヴァはそう言うとソフィアを追いかけて行く。残ったのは私とククル。
「取り敢えず待っていましょうか」
「ちょ、ちょっと待って。何であんな事を言ったの?」
 食堂に向かおうとした私の肩をククルが慌てて掴んで止める。
「一、シルヴァさんは万全ではなかったから。二、私はこの団の人間ではないので依頼をこせないから。三、そもそもこの依頼主は報酬を払う気がないから。さて、どれが正解でしょう」
 冗談めかして指を立てながらククルに問いかければ、彼女は困惑しながらも小声で言葉を返す。
「どれも、問題になるような事ではないでしょ……?」
「笑わせんなよ。狙撃手が指を怪我して狙撃が出来るかよ。何で外部の人間が騎空団の看板背負って仕事すんだよ。何で報酬もねえのに人様命がけで守るんだよ。ソフィアは報酬がないことを知ってた。バザラガから聞いたんだろう。あいつはシルヴァに団に全く関係ない私事で死ぬかもしれないような戦いしてくださいって抜かしたんだぞ?」
 ククルに詰め寄れば、彼女はいやいやと首を振る。
「違う、そんなつもりで言ってたんじゃないと思う」
「つもりじゃなかったか。そうか」
 口角を上げて笑みを作る。それだけで、ククルは怯えた。
「まあ待とうぜ、どうせ返ってくる時は棺桶だ」
「そういうわけには、いかないんでな」
 振り返れば、バザラガ此方に近づいてきていた。
「話を聞く限りだが、ソフィアが悪かっただろう。だがな。それではいそうですかと終わるのが騎空団ではないのだ」
 私は肩を竦める。
「で、しょうね」
「それでだ、グラン。俺からの個人的な依頼だ。ソフィアとシルヴァを生きた状態で帰還させて欲しい。報酬は言い値で払おう」
「貴方が行けばいいんじゃないですか?」
「艇には最低限の戦力を残さなくてはならない」
 私は先より笑みを濃くする。バザラガとやら、本当に心労が多い人生を過ごしていそうだ。
「お金以外も要求しますよ。そして、私は報酬の為に如何な手段でも講じます」
「……契約成立だ。早急に依頼を遂行してくれ」
 返事を返さず、私は艇から舷梯を使わず飛び降りて地面に着地し、シルヴァが消えていった方へ走る。数十秒走ったところで、銃声が聞こえた。すぐさまその地点に向かうと、開けた丘にシルヴァが伏射姿勢でいた。銃が向いているのは五百米程先の草原。そこにいるのはソフィアと三体の魔族。どれも中々の強敵だ。
「距離を詰める、手伝え」
 此方が追いかけてきた事への発言よりもソフィアを助けることが重要なのだろう、シルヴァは一切の疑問を挟まず命令をかけてくる。
「狙撃は」
「当たらん」
「俺がやる」
「無茶だ」
 私はこれ以上言葉を重ねず、シルヴァの腕を無理やり銃から引き剥がすとその体を思い切り横へ投げ飛ばした。
 シルヴァが体勢を立て直す前に、長銃を構える。遊底を後退させ排莢し続けて傍に置かれていた弾丸を装填し狙撃眼鏡を覗く。狙撃眼鏡越しに見るソフィアの身長がこの程度という事は倍率は十二倍前後か。先程見た弾薬では、銃口初速は凡そ秒速九百米程だったはずだ。弾着まで秒にも満たぬがそれでも偏差は大きすぎる。
「下の二本目で丁度だ。風はない」
 シルヴァが此方の意図を察し助言してくれる。
「耳塞げ」
 シルヴァに注意を促すと私は軽く息を吸い込み、止めた。左右の目を開いたまま右目の視界に意識を集中させる。シルヴァが言った二本目の狙点を魔族の頭部に合わせ、引き金を絞る。著しい爆音と反動が体を襲うが、構うことなんてない。
 シルヴァに肩を叩かれる。何事かと視線を向ければ新しい弾丸を此方に差し出してきていた。話がわかる女で本当に良かった。
 遊底を後退、薬莢排出。次弾を手で込め遊底を前進。狙撃眼鏡を覗き込めば、先程標的にした魔族は地に伏しており、他二体は発砲音がした此方へ移動を開始していた。既にソフィアには興味をなくしたようだ。
 引き金を絞る。排莢、装填。もう一度狙撃姿勢を取る。片方の魔族は右腕を負傷。なれど進撃止まらず。もう片方も此方へ進撃中。彼我距離三百米。
 もう一度狙撃。排莢、装填。残りは一体。彼我距離五十米。――発砲。最後の魔族は頭蓋を穿たれ死亡した。排莢しまた新しい弾丸を装填し、付近を警戒する。ソフィアと私達の間に魔族の姿は見当たらない。
「新しい魔族は確認出来ない。ソフィアを迎えに行こう」
「……ああ」
 シルヴァは何か言いたげだったが、結局何も口を開くことはなく私と共にソフィアの回収へ向かった。 
 

 
後書き
Q,グラン酷すぎない?
A,一年も帝国軍に追われながら(ジータ編で掲載予定)傭兵で金を稼ぎつつ旅してたのでリアリストにもなります。
Q,ソフィアの扱いがひどくない?
A,悪気はありません。
Q,狙撃が適当すぎるのでは?
A,魔族はとても大きくて当てやすかった。いいね?
Q,クロスヘアだけじゃないの?
A,てっきり補正線の類でもあるかと思ってたんですがLV100の奥義を見る限りレティクルは比較的シンプルなんですね。気づいたのが書いた後でした。
Q,そもそもマスケット銃じゃないの?
A,細かいことは良いんです。リボルバーだって原作内にあるし……。

次回からはジータ目線です。 
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