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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
二人目の騎空士
  進行度 2/7

 
前書き
上手に焼けました! 

 
 暫く走った後、私たちは島民以外の人間を見つけた。一人は鎧を着た女性騎士で、もう一人は少女だ。年齢は、私と同じか少し年下程度だろうか。
「どうしたんですか」
 女性騎士に尋ねれば、彼女は焦った様子で私達を眺める。
「帝国軍、には見えないな。お前たちは?」
 質問に質問で返してくるとは、余程焦っているのだろう。
「島民のジータです。彼はグラン。そこで浮いてるのがビィ」
「私はカタリナ。カタリナ・アリゼという。この子はルリアだ。早速で何だが、この島の港は何処だろうか。後、出来れば騎空艇の融通をしてくれるとありがたい」
 退っ引きならない状態なのは彼女の焦りから伝わるが、それでも騎空艇の融通となると私は眉を潜めなければならなかった。あんな高価で運転にも知識が必要な品物、おいそれと貸し出すわけにはいかない。そもそも私自身で保有していない。
「港の位置はお教えできますが、一体何があったんです?」
「言えない。言えば君たちを巻き込むだろう」
 余程の大事なのだろう。
「先ほどの帝国の騎空艇に関わる事ですか?」
「見られていたか……そうだ。あの艇に関わることだ。だがそれ以上は――」
 グランがカタリナの会話を遮り強く踏み込みながら鞘から剣を抜く。向かう先はルリア。突然の事態に私もカタリナも対処出来ない。
「グラン!」
 グランはルリアを押し倒し、そして剣を何もない空間で振るう……否、彼の剣は何かを弾いた。弾かれたのは棒状の、矢、だろうか。
「カタリナと実験体を発見した! 他に二名の協力者もいる!」
 近くの林の方から声が聴こえる。今の弓を放った誰かか。
「今の声は」
「帝国軍の弓兵だ。くそ!」
 悪態をつきながらカタリナはルリアの手を握り駆け出す。私たちはそれに急いで連なった。
「何故ついてくる!」
「俺達も協力者って言われちゃったもんですからね」
 気楽そうに答えるグランにいつもの余裕の笑みはない。事態が把握できていのだから当然と言える。
「何故仲間だと疑われるような真似をしたのかと問い詰めたいが、ルリアを助けてれたから何とも言えないな……」
「ここまでくれば事情を話すも話さないも一緒です。一体何があったんですか」
 私の言葉にカタリナは暫く悩む表情を見せてから、語り始める。
「ルリアは、不思議な力を持っていてな。それに目をつけた帝国軍はルリアを実験体にしていたんだ」
「そういえば、さっきの弓兵も実験体と言っていたな」
 ビィの言うとおり、確かに弓兵はカタリナと実験体、と言っていた。
「ああ。奴らは研究材料であるルリアに人道的扱いをしなかった。私は帝国軍内ではルリアの護衛という名の監視を命じられていてな。ルリアの扱いに耐えきれなくなってまあその、脱走してきたわけだ」
「それの、どこまでが本当ですか?」
 私がそう問えば、カタリナは自嘲的に笑う。
「証明できるものはないが、全て本当のことだ、としか私は言えない。無論、協力を申し出るつもりもない。私は私が出来ることを為す」
 カタリナの言葉に揺らぎはない。故に、嘘をついていたり、決意がぶれていることも恐らくはないだろう。
「七時方向から何かくるぞ!」
 ビィが叫べば、いち早くグランがそれに反応する。
「止まるな、走れ!」
 グランは叫び、そうして立ち止まった。私は振り返ろうとした顔を止め、前を向き直す。彼がそう言ったのだから、彼の言うとおりにした方が良い。カタリナも振り返らなかった。だけれどルリアは振り返り、そうして立ち止まってしまった。
「ルリア!」
 カタリナが焦って声を張り上げるが、ルリアに気にする様子はない。ルリアはただ、後ろを振り返っているだけ。致し方なく私とカタリナが振り返れば、そこにいたのは、竜だった。
「ヒドラ」
 傍でルリアが小さく呟く。何のことかと考えた時、ふと、この竜の名前なんじゃないかと思い至る。ヒドラ。確か、嘗て星の民が作ったと言われる古代兵器、星晶獣の内の一体の名前。
 ヒドラは暴れまわっていた。それこそ無差別に、帝国軍だろうがグランだろうが、目の当たりにした者に攻撃を加えていく。グランは避けて生き延びているが、帝国軍は一人、また一人と体を裂かれ、焼かれ、潰され、無意味に命を消費していく。
「可哀想」
 ルリアのその呟きは、死んでゆく帝国兵に向けたものか。自分たちを逃してくれたグランに対するものか。――それとも、暴れまわるヒドラへと投げられたものか、私には判別がつかない。
「行くわよ!」
 私はグランの行為を無駄にするわけにはいかなかった。とにかくこの場を離れなければ。
「難しそうだな。帝国軍は死にすぎた。やつは次に此方へ来るぞ」
 カタリナの言うとおり、既に動く人はグランのみで鎧を着た帝国軍兵士は皆地に伏している。グランの動きも、普段に比べて緩慢だ。午前いっぱいを私の稽古に付き合ってくれて、その後すぐに実戦なんだから当然だ。
「グラン、下がって!」
 グランは私達を確認すると、一歩前へと踏み出す。何で、何で下がってくれない。
「意地っ張りめ。加勢しよう。どうせやつを倒さなければ逃げおおせない」
 カタリナの言葉にハッとする。そうだ、彼は言ったじゃないか。止まるな、走れと。彼が殿となると言ったのだから、引くことはないという事か。
 私とカタリナがグランに合流し、ヒドラに攻勢をかける。――だが。ヒドラの厚い鱗は剣を弾き、魔術を防いだ。私たちは少しずつ消耗し、後退し始める。敗走は出来ない。ヒドラのほうが移動は速いだろうから無意味に背中を見せるだけになる。しかし、ヒドラには勝てない。どん詰まりの状況。刻一刻と悪化していく戦況。……それが、致命的な焦りを、油断を生む。
「あっ」
 間抜けな声が自身の口から漏れる。ヒドラの尻尾が眼前にあるが避けられない。戦いの途中に無駄な事を考えたからだ。尾は私を強かに打ち、弾き飛ばす。魔術で体を保護したが、無傷なんてわけには行かず、何米だかを飛翔した後受け身も取れないまま私は地面を転がった。
「が、あっ、ご」
「ジータ!」
 尾が直撃した腹部が痛みを訴える。まともに呼吸が出来ない。転がったせいで平衡感覚すら狂い天地の方向さえ分からない。焦って握った手には剣すら無い。
 そんな私を、抱き締める者がいた。
「グラン……?」
「私は、何も出来ないんですね」
 目は霞んでろくに働きやしないけど、声からするに私を抱きしめている人物はルリアなのだろう。
 竜の声が近くから聞こえる。――嗚呼。私は、死ぬんだろう。グランとカタリナではあの竜を抑えきれない。ならば、せめて、この少女だけでも守ろう。
 私は半ば無意識に魔術を行使した。守護の魔術。私とルリアを守る盾を。……そんなものでヒドラの攻撃から身を守れるわけないけど。
「ルリア!」
 カタリナの緊迫した声。最期の時も、近いってことか。
 漸く回復してきた視界の中で、カタリナはルリアに寄り添った。視線を動かせば、ヒドラが魔術を行使している。巨大だ。私が貼った魔術よりもずっと緻密でずっと強力な魔術。ここいら一体を焼き払う程の業火を生む魔術。私の魔術じゃもって数秒。
 ヒドラが魔術を行使する間際、グランも私に寄り添ってくれた。そうして彼も魔術を使う。私よりも少しばかり複雑で、ちょっとばかり強力な盾。グランはそれで四人を包んだ。
「グラン」
 呟く私にグランは笑顔を返してくれる。その盾をグラン一人に貼れば彼は生き延びれよう。しかし四人に貼るとなると耐えきれないだろう。けれど、彼と私の盾を合わせて使えば私とルリアは生き残れる。つまり、グランは死ぬつもりなのだ。私とルリアを残して。
 ――ああ、もう。団長だけが生き延びれられるかっての。
 私が自身の盾の範囲を私からカタリナに代えてすぐに、一体は業火に焼かれた。グランが貼った盾に亀裂が入る。そこからすぐ熱気が中に入る込む。
 熱い。熱い。熱い。
 外の業火が弱まり初めた頃、とうとうグランの盾は割れた。一拍遅れて、私とグランを業火が包む。
 熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い苦しい止めて熱い痛い助けてグラングラングラングラン、グラン!―― 
 

 
後書き
Q,魔術?
A,原作内で魔導だったりしましたけど細かい点は見逃してください。 
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