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風魔の小次郎 風魔血風録

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110部分:第十話 小次郎と姫子その八


第十話 小次郎と姫子その八

 蘭子は竜魔を見据えている。そのうえで言葉を続けていた。
「はっきり言うよ。あんたに死んで欲しくない」
「俺に」
「・・・・・・どうしてかな」
 言葉を止めた。考えを纏めている。
「こんなことになっちまうなんて。なあ」
「待て」
 竜魔はここで言葉を止めさせてきた。
「何だ?」
「そこから先は言わないことだ」 
 こう言って蘭子の言葉を止めるのだった。
「いいな」
「だがあたしは」
「立場を考えることだ」
 竜魔は頑なな声で蘭子に告げた。
「俺は風魔の長兄、貴殿は白凰の武道指南役」
「それは」
「お互いに相容れないもの。だから言っては駄目だ」
「・・・・・・そうなのか」
「そうだ。だからだ」
 蘭子に言わせないのだった。
「言えば何もかもがなくなる。俺はここに任務で来ているのだからな」
「・・・・・・そうか」
「そうだ。だからだ」
 やはり言わせなかったのだった。あくまで。
「言わないことだ。いいな」
「・・・・・・わかった」
「ではこれで失礼する」
 俯く蘭子の横を通り過ぎた。
「今度の作戦のことがあるからな」
「そうか」
「戦いは間も無く終わらせる」
 二人は背中合わせになった。お互いの背中を見ることはない。しかしそれでも竜魔は語る。あくまで戦いのことを蘭子に対して語るのだった。
「風魔と夜叉の戦いをな」
「わかった。では戦いのことを言おう」
 蘭子もまた振り向かない。俯いた顔をあげてさえいた。その顔で竜魔に語る。涙すら流さずに。
「何だ?」
「死ぬな」
 彼女が言うのはこのことだった。
「死ぬな。私が言うのはこのことだ」
「死ぬな、か」
「自分から死ぬような真似はするな」
 こうも言うのであった。
「決してな。それはな」
「わかっている」
 今の言葉には頷く竜魔だった。
「俺は死なない。風魔の兄弟達もな」
「兄弟達もか」
「誰も死なせん」
 言葉には強い決意が込められていた。
「誰もな」
「そうか、誰もだな」
「これは誓って言う。この竜魔がいる限りは何があろうとも兄弟達は死なせない」
 このことをまた言うのだった。
「絶対にな」
「わかった。なら頼む」
「うむ」
 あらためて蘭子の言葉に頷く。そして。
「それではな。またな」
「・・・・・・ああ」
 竜魔は踵を返し屋敷に戻った。後には蘭子だけが残っている。彼女もここで去ろうとする。しかしここで。屋上から声が轟いてきた。
「どうせ花が咲かぬなら!」
「むっ・・・・・・」
 その声が誰のものであるか。蘭子にはすぐにわかった。
「咲かせてみせよう不如帰!沈むな蘭子!」
「・・・・・・あいつか」
「フレーーーーフレーーーー蘭子!」
 団長だった。彼の声が轟いている。
「春はある!悲しみばかりではない!」
「・・・・・・済まない」
 彼女の声は団長には届かない。しかし静かに礼を述べてその場を後にする。だがその肩は落ちてはいても。泣いてはいなかった。涙は表には出していなかった。
 小次郎はいつもの長ランのまま待ち合わせ場所にいた。テーマパークの前である。
「さて、そろそろだよな」
 ニヤニヤしながら待っていた。
「姫様、そろそろ。そういえば」
 待っている時にふと気付いたことがあった。
「姫様の私服姿って今まで見たことねえな。果たしてどんなのかな」
「小次郎さん」
 その時だった。その姫子の声がした。
「おっ!?」
「お待たせしました」
 声が聞こえた方に顔を向けるとそこに姫子がいた。黄色い上着に白い膝までのスカート、それに白いソックスと黒い靴だった。身奇麗で清楚な姫子によく似合った格好だった。
「うわ・・・・・・」
「?どうしたんですか?」
 自分を見て呆然とする小次郎を見て目を少し丸くさせた。
「私の顔に何か」
「顔だけじゃなくて」
 小次郎はその呆然とした顔のまま答えてきた。
「すげえ。私服も」
「似合ってますか?」
「似合ってるなんてものじゃねえ」
 小次郎は言う。
「最高ですよ、姫様」
「そんな、そんなに言われたら私」
 こう言われては姫子も顔を赤らめさせるしかなかった。
 
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