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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
  Angel Beats!! ~Next Door~


「にしても・・・・・」

「どうした?蒔風」

「いや、ちょっとした興味なんだけどな?」





ある晩、寮の自室で、蒔風が音無に話題を振る。
すでに寝る準備はできていて、あとは布団をかぶればそれでいい、といった状態だ。



「お前がこの世界に残ってんのってさ、どんな未練があるからなんだ?」

「え?」

「いやだってさ、この世界にいるのは生前に何かやり遂げられなかった人なんだろ?でも、お前を見ててもなぁ・・・・なんだろう、そういったものが見えてこないんだよな」


そう、この世界にいる、ということは、何かしらの未練を持っているということだ。
そしてこれまでの長い時間、この世界に居続けているということは、音無にはまだ吹っ切れていない「なにか」があるということだ。


しかし、ここまで一緒にいても、蒔風は音無にそういった未練を見出すことはできなかった。
時折、何かを懐かしむような顔をしているが、それは懐かしさであって未練ではない。

だから、聞いた。
蒔風は相手に遠慮して聞かない、なんてことはしない男だ。
聞くだけ聞いて、相手が本気で嫌がるようならやめる、それでいいじゃん、というのが蒔風のやり方。





「俺の・・・・・未練か」

「そ。お前もこんな閉塞された世界から出て、次の人生を歩んだらどうだ?いやまあ、ここは楽しいけどさ、次ってのは絶対にない世界じゃん?」

「そう・・・・かもな」



この世界から成仏すれば次の人生、つまりは来世がある、と言われている。
言われている、というのは実際にそうなるのかはわからないからだ。

まあ、当然か。行って戻ってきた人はいないのだから。



「でも・・・俺は次に来る奴らを、ちゃんと導かなきゃならないからな・・・・・」

「お前はどうなる?ってか、お前の仲間だった奴らは、お前がここに残ってることを、本当に良しとしてんのか?」

「・・・・・・・」


そういって、音無が机のわきに立て掛けられている黒い筒に目を向けた。
何かの賞でももらったのだろうか?この世界にそんなものあったのだろうか?

それは何かにおいて行かれた感じを醸し出していた。




「これは・・・俺の卒業証書だ」

「? ああ・・・・確か言ってたな。一回だけ卒業式があったって。そんときのか?」


そういって、蒔風が卒業証書を手に取って開いてみる。
そこに書いてある文章は、決して大仰なものではなかった。
ただ、一生懸命頑張った、そのひたむきな姿が大切だったということが、書かれてあった。



「その時な、俺は残ってこの世界でやることを見つけたんだ。そして・・・・」

「おい、音無・・・・・」

「俺はこの世界に残って、みんなを救い続ける。それが・・・・・俺の」

「何言ってんだ音無」


音無の言葉を蒔風が遮る。
まるで、それは許さない、と言わんばかりに。




「おいおいおいおい。待てよ音無。それじゃ何か?お前はいったん納得しておきながら、それでもこの世界に執着してんのか?」

「・・・・・そうだ」

「・・・・音無。お前の仲間だって、この世界には未練を抱えてやってきた。多分、それは生半可なものじゃないんだろう。とんでもなく大きなものだったんだろう。多分、生きることが嫌になるくらい、生きることが苦しくなるくらい、大きなものだったはずだ。そんな彼らにとって、また「生きる」という選択肢は、きっと辛いものだったと思う。確かにそうだ、生きることは辛い。でも、彼らはそれを乗り越えて、それでも生きようとして、来世に向かっていったんじゃないのか?お前はその場にいて、一緒に行こうと言ったんじゃないのか?」

「それは・・・・」

「その時の思いは嘘だったのか?生きることは素晴らしいということは、戯言だったのか?音無」

「・・・・・・・」



蒔風の言葉に、音無はあの時の光景を思い浮かべていた。
皆が順番に旅立っていき、その顔はすべて、次への希望に満ちていた。そんな、あの時のことを。



「音無・・・・おまえは、生前に未練はないな?あるのは、この世界への執着だ・・・・」

「・・・そうだ」

「やり遂げなきゃならないことがあるのか?」

「・・・そうだ」

「これから来るやつらが心配か?」

「・・・そうだ」

「誰かがまた来るのを・・・・・待っているのか?」

「・・・・・・・・・そうだ」




その答えだけで、十分だった。
蒔風はよいしょと音無の肩に腕を回し、そこからその体を担いでベットに投げ飛ばした。





ソォイ!!である。



「よいしょォ!!!」

「ぶわっ!?な、なにすんだ!!」

「お前さんよ、それはいけねえよ。みんな一緒に旅立って、次の世界で逢おうぜ、って言ったんだろ?お前にありがとうって、言ってくれた人がいたんだろう?だったら、お前はその人のために生きなきゃならん。次に進まなきゃならん。お前の世界は、ここから始まるんだ」

「・・・・でも・・・次の世界で会えるかなんて・・・」

「お前の親友は、そう思ってこの世界から去ったのか?60億分の1の出会い。それを信じて、旅立ったんじゃないのか?」

「お前・・・なんでそれ・・・・」



蒔風の脳裏に、知らないはずの事が流れてきていた。
きっと、これはこの世界での彼らの記録、記憶、出来事だ。

その「彼ら」がどんな人間だったかなんてことに、蒔風は興味はない。彼らはもう、ここにはいない。


ただ、その最後はどんな奴らでも、満足し、そして次なる希望へと胸を躍らせていた。
それだけは分かったし、それだけで十分だった。


「いいか、音無。お前は、その待ってる人を置き去りにしているんだぞ?次で逢おうと、その人が思わなかったわけないじゃないか。お前は行かなきゃならない。だろ?」

「お、俺は・・・・でも・・・・」

「だーーーもーーー・・・・・卒業生がいつまでも学校にいるんじゃないの!お前は、今までに不満があったか?」

「・・・ないさ。オレの人生は、満ち足りていたんだ」

「じゃあ、この世界に来てからはどうだった」

「それもないさ。ここでのオレの人生は・・・まあ、騒がしかったけど、楽しかったし、大切な人に出会えたから」

「じゃあ、次の世界には、不安はあるか?」

「・・・それは・・・・・」


そこで、音無の言葉が詰まる。
次の世界。そこに向かえば、自分は彼女に対するこの想いを忘れてしまうだろう。


それが、何より怖かった。
せっかくここで出会えたのに、なんで別れなければならないのか。

ああ・・・生前に不満などなかった。


だが、この世界での人生で、俺は神を呪った。
この理不尽さを呪ったんだ。



「だったら、願え、音無」



不安に駆られる音無に、蒔風が言葉をかける。
安心しろ、大丈夫だ、と。その言葉に根拠はないが、なぜだが確かなものがある気がした。



「大丈夫だ、音無。そりゃたしかに、この世界に絶対なんてことはないさ。でもな?願いがあるなら、それは現実にできる」

「願い・・・・・」

「・・・・もし、お前に、この世界の先に行く勇気ができたら、体育館にこい」

「・・・・ってあ、おい、蒔風・・・・・」

「では、おやすみ」


最後に一言言って、蒔風はベットに潜ってしまった。
音無が二段ベットの梯子を登ってみると、蒔風はすでに眠っていた。



それをみて、音無は考える。






自分は今、この世界に居るべきなのか、先に行き、大切なあの人に会えるかどうかもわからない世界を生きるのか。




青年は考える。そして、願った。あらん限りに。



「奏・・・・オレに、お前の勇気をくれないか・・・・・・・・」








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そうして、その話をしてから三日後。

音無は体育館の前に立つ。



今まで悩みつくしてきた。
今まで頭から離れなかった。



それを、彼は振り切って、この体育館までやってきた。


ふがいないこの自分に、ケリをつけるために。












そうして、体育館の扉を開いた。






だが、いくら探しても蒔風はいない。
そこで音無はハッ!と気が付いた。



ずっと悩み、考え、俯いてきたから気付かなかったが、蒔風が体育館で待つと言ってから今まで、あいつが授業に出ているのを、俺は見ていない。
そして今思うと、ベッドの上の段は膨らんではいたが人の気配がなかった気がする。



つまり、まさか蒔風は・・・・・・・






そう思って、音無は体育館の用具倉庫の重い扉を開いた。








そこにいたのは・・・・・・・




「・・・・・・・何時だと思ってんだ・・・・・このバカ・・・・・まだ寝てるよ・・・・・」




マットの上で、抱き枕にしがみついて眠っている蒔風だった。


隅の方にはごみ箱があり、そこには今まで食べた分であろうビニールゴミがあり、蒔風が寝ているすぐ横にはまだここにいるつもりだったのか、パンやらなんやらが積まれていた。




「お前・・・・本当にいつまでもここで待つつもりだったんだな・・・・・」





蒔風を見て、苦笑する音無。
と、そこで蒔風が眠気眼をこすって起き上がった。

そして、眼をしょぼしょぼさせて、目の前の人物を見る。




「ん・・・・・・・・・お?・・・音無・・・・来たか」

「ああ・・・・」

「こんなとこまで俺を探すとは、しっかりと決心はついたんだな?」

「ああ」

「胸を張って、自信を持って、次の世界に、希望は持ったか?」

「ああ・・・・!!!」




それを聞いて、蒔風が音無の肩を叩いき、用具室の外へと出る。




「さ、始めようか」

「ああ・・・少し遅れた、本当の卒業式だ・・・・・」










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「って言っても、やるのはほとんど音無、お前だけどな」

「え?・・・・ああ。まあ、そうなるな」







「えーー、では・・・・・・・・・音無結弦」

「はい」

「今までの人生に、悔いはないな?」

「ないな」

「この瞬間に、思い残すことなないな?」

「ないよ」

「これからこの先に、不安や恐怖はあるか?」

「それはある」

「だが、君の胸にはそれに打ち勝つ溜めの、大切なものがある!!」

「ああ!」

「希望は持ったか!?」

「あるさ!!沢山ある!!!」

「会いたい人は!?」

「まずは奏に!!そして日向とユイもからかってやりたいし、ゆりに振り回されんのもいいし、直井は俺がいてやんないとダメなやつだからな!!みんなに会いたい!!また、次の世界で!!!」




そこまで一気に、最後には大声で叫ぶように言った音無に、蒔風が祝福を込め、そして願って、音無に言葉を贈る。




「願いを胸に!!勇気を一歩に!!!さあ、向かうがいいさ!!!この先へ!!君の願いは聞きとどけられた!!大丈夫。この翼が保証する!!!」





               ―――開翼―――




            【Angel Beats!!】-WORLD LINK-






「願いの先には、幸福を。これまでの人生に悔いはなく、しかしここに来てしまったという稀有な迷える魂よ!!!希望の光に導かれ、存分に!!!生きる苦しみをその身に受けて、生きる幸せを噛みしめてゆく!!!人よ!!!」




バサァ!!!




「そう、人よ!!ただ、幸福に生きよ!!!!それだけが、君たちに与えられた、たったひとつの義務なのだから!!!!」





音無が、目の前に翼を持った蒔風を見る。
その姿はさながらに天使だ。


だが、彼は知っている。



天使なんていない。神もいない。




たとえいたところで、自分たちに差しのべてくる手なんてないだろう。
そうだ、いつだって人生を歩んでいくのは、他でもない自分自身なのだから・・・・・・






音無の視界が、翼から噴き出してくる羽に覆われる。
なにも見えなくなって、周りが銀白に包まれた。



その中を、必死になってかき分けて、音無が先へと進んでいき





そして・・・・・・・





その翼の先に、大切な彼女を見た気がした。


















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蒔風がその翼で音無を優しく包み込み、そしてその中からその存在が消えたことを感じとってから、静かに涙を流した。



決別の涙ではない。


彼が勇気を以って旅立ったこと、そしてその先の幸せを想ってこその、涙だった。






蒔風がその余韻に浸る。



が、そこにその雰囲気をぶち壊してくる男が一人、乱入してきた。




「ここにいたのか・・・・やぁっと・・・・何とかいけそうだ・・・・・」




「奴」だ。
体育館の扉を開け、羽根の舞い散るその中を蒔風に向かって歩いてくる。



「音無はどうした」

「残念だったな。次の世界へ行ったよ・・・・」

「・・・・成仏か。まあいいさ。この世界さえ出れれば、どうにかなるからな。この世界は諦めよう」





そういって、「奴」が蒔風に向かって走り出す。
その手には魔導八天が握られており、思いっきり蒔風に向かって振り降ろされた。



が、振り下ろしたのは、蒔風までまだ十五メートルも離れた位置でだ。
それもそのはずである。「奴」は蒔風を切ろうとしたのではなく、魔導八天を投げつけただけなのだから。




「!?そんなことしてもッ!!!」



そう言って蒔風が魔導八天を避けようとする。
そしてそれと同時に、十五天帝を出して「奴」に応戦しようと構えた。

今の奴は剣がない。
この気持ちのいい場面に突入してきた「奴」に対して、イラついていたのだろう。
ボコボコにしてやる、という思いの蒔風が、飛んでくる魔導八天の延長線上から身体をずらして、「風」と「林」に手をかける。





その瞬間





「汝が主、マイカゼシュンが命じる!!主の元へ、その手に剣を!!」




走り止まって、「奴」が叫んだ。









直後、二人の剣に、変化が起きる。




蒔風の元へと飛んで行っていた魔導八天は止まり、十五天帝は蒔風の元を離れていった。



そしてその二剣は、まるで蒔風と「奴」という二人の磁場に押されあっているかのように、ちょうど真ん中で停滞してしまったのだ。





その二つの剣が蒔風や「奴」の方にグラグラと揺れ、ぶつかり合うたびに巨大なエネルギーを生み出していく。
そのエネルギーは球体状となって、まるで竜巻のように周囲の空気を巻きこんでいっていた。



「な・・・・・・お前!?」

「このために、Angel Prayerをずーーーっといじくってたんだ!!!」








これまで、「奴」がやっていたこと。
それこそ、今回この現象が起こったことの原因だ。




蒔風と、「奴」




二人の持つ剣は、「天剣」と「反天剣」
反する存在の二振りの剣。




そしてその担い手は、世界は違えど、同じ人間。
異世界での同一人物。



だからこそできたことなのだが





「奴」はこの世界での蒔風と自分の境界線を薄めた。
二人をある程度まで同一人物ということにしたのだ。

故に、「奴」のあの言葉に剣が今、暴発しようとしている。



蒔風に向かえばいいのか、「奴」に向かえばいいのか。
一体どちらが担い手なのか。

どちらも同じ人物だ。しかし、どちらも違う人物だ。




二人の剣には意思が宿った物もあるが、このようなバグを起こしては意味のない事だろう。





しかも、この剣はただの剣ではない。「世界四剣」と、その反剣だ。
更に言うならば、そのうちの一本と、ちょうど反対に位置するモノがぶつかっているのだ。



そのエネルギーは計り知れない。










そして、その暴発が今、巨大な球体となって二人を飲み込んだ。




「な・・・ぶぉッ!?」

「はははは!!うまく行った!!これで爆発すれば、世界の外まで弾き出される!!」

「きさま・・・・これが・・・・・」

「そうだ!!安心しな、この世界は諦めた。だがな、次の世界で、俺はお前を殺す!!!暴発することがわかってりゃあ、その方向性もどうにかできるからなぁ!!!」



「奴」が叫ぶ。次こそ終わりだと。
何度も聞いたその言葉が、何故だかいやに耳に残る。




「どういう・・・・ウアぁッ!?」

「「お前」を殺すんだよ蒔風!!!消してやる・・・・次の世界で、絶対に殺してやる!!この世界で死んだ方がましだったって思わせてやるからなァ!!!!!」






「奴」の笑い声が聞こえる。



目の前が光に包まれ、その光が光として見えなくなったころ







それが爆発して、世界から二人を弾きだした。












------------------------------------------------------------








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








・・・・・・・・・・・・・・







・・・・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・

・・・
・・

















ここは・・・・どこだ・・・・・・・・






蒔風が目を覚ます。
いや、正確には意識が覚醒しただけで、目はまだ開かれていない。




ただわかるのは、自分は今、ベッドの上で眠っているという事だ。







目を覚ます。
まあ当然だが天井がある。




周囲を見渡す。
この世界は・・・・情報が流れ込んでくる。




記憶をたどる。
・・・・・・だめだ、薄ぼんやりだ。世界のはざまで何かあったことは覚えているが、その内容が思い出せない。






だが、少しずつ思い出してきた。
だからまあ、すぐに記憶は戻るだろう。








とりあえず、現状を確認しよう。




今わかっていることは














この世界は、”no Name”である、ということだ。
















to be continued
 
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