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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
  Angel Beats!! ~Phenomenon in Dream.~



ある話をしよう。
すでに忘れ去られ、失ってしまった世界(物語)

これはその世界の、終末へと向かう、ちょっとした話だ。







------------------------------------------------------------








自室のベットの掛け布団にくるまって、俺は頭を悩ませていた。


いや、悩ませていたのではない。苦しんでいたのだ。
一体何にだろうか?


その時はただ漠然としてわからなかった。
今までの事だろうか?今の事だろうか?今からの事だろうか?

将来への不安なのか、勉強に関しての不安なのか、友人関係の不安なのか。



まったくわからない。




なにがなんだかわからない。









今になってやっとわかることだが、この時オレが苦しんでいたのは自分の存在の在り方についてだったんだと、なんとなく思う。

「わかる」と言っておきながら「なんとなく」ってのもおかしなもんだが、本当にそれくらい漠然としかしていないんだ。





その時はわからず、ただ苦しんでいた。
なぜ?どうして?そもそもなんで苦しんでいたのか。思考の渦に取りつかれ、どんなにかもがいても立ち位置の変わらない海中に居るようなものだった。

もしくは、箱にがっちり詰まって身動きのできない、あの苦しさだ。
息苦しくはないが、身体が微塵も動かないあの苦しさ。




頭を抱えて、足をばたつかせ、布団の中でもがき苦しんだ。



もし、その時外に飛び出して、大声をあげて走りまわれたら、きっとスッキリもしたのだろうが、その時の自分にはそれを押さえるだけの理性があったのが幸い、否、不幸だったのだろうかと、夢の中ながら俺は笑う。





そうだ、そして俺のその悶々とした苦しみは、次の日には無くなっているのだからたちが悪い。
消化などできていない。回答など得られていない。ただ、解けないから後回しにしただけだ。

その日の夜にはまた俺は苦しみの渦に飲み込まれていく。





そうやって、俺の日常は回って行っていた。







日中に通っている学校。オレの大学は・・・まあ、ランクは中の下ぐらいだ。

この大学に来た理由は、受験の日に限って元気いっぱいになったインフルなウイルスがどうにもオレの中で暴れたらしく、ここくらいしか残ったのがなかった。
どうせなら「インフル」よか「インテル」の方が良かった。



・・・・訳わかんね。




まあとにかく、そんなこともあった。
今?まあ夢の中で「今」ってのもおかしな話だが、後悔はしてないよ。


この学校は普通に楽しいし、いろんな人間がいるから見てて飽きない。
俺の友人たちのほとんどは高校時代の仲間だったし、こっちの学校でも同じように仲良くできるやつはたくさんいる。



ヤンキー、バカ、頭いい奴、イケメン、オタク(俺もその一人だったりする)、普通、ひ弱



本当にいろんな人がいた。


だがまあ、この学校で何が一番おもしろかったって、こういう人たち見んのもそうだが、こういった人たちがまったく争わないのが面白かった。
と、いうか、微妙に重なり合ってんのが面白くてしょうがなかった。



ヤンキー、と言ってもオタクな俺たちと一緒に混じってそんな話する人もいたし
バカ、って言っても何かと一緒につるんでるのは普通なやつだったり
オタク、って言っても武道系の人達と一緒にマジになって修錬してたし(俺だ)
イケメン、って言っても頭いい奴と合コン行ってたり
頭いい奴、って言ってもバカと一緒になってバカなことしてたし
普通の奴、って言ってもヤンキーと一緒にバイクでドライブ行ってたり
ひ弱、って言ってもイケメンと一緒に酒飲みに行ったりして、愚痴を聞いてた




つまり、巡り巡って皆友達みたいな感じの学校だったんだ。
面白かったな。たぶん、上の学校言ってもこの面白さはなかったと思う。上の学校にはまた別の面白さがあったんだろうけど、俺はこっちで満足していた。




よく遊びにも行ったし、バカなこともやった。
勉強も教えたり教えられたり、そんなこんなで成績も悪くない。




そう、俺の人生に、後にも今にも先にすらも、悩みや考え事なんてあるはずがない。


だからこそ、何に悩んでいるのかもわからず、オレの苦しみは毎晩続いた。






そんな日が何日続いただろうか。






俺の人生はついに転機を迎える。
















それはある十月の事。
木々の葉が黄土色に染まり、西日がきつくなり始める季節。



この街に来た観光客の一人を見たことだった。


オレの住んでいる街は地方都市だ。
そして、すぐ近くに観光名所の五、六箇所は存在する。

つまり、観光に来た人がホテルなどを構えるのには、もってこいの町なのだ。




彼もそうだったのだろう。
地図を持って街を歩き、目印になるような建物を指して方向確認するその一団は、間違いなく観光客のそれだった。

その日、俺は友人と一緒に服を買いに来てて、その一団が目に入ったのは、ほとんど背景としてだけだっのだが・・・・・



だが、意識するしないではなく、視界に入った瞬間に、何かが俺の中で弾けた。
何か、わかった気がした。



その瞬間の事はよく覚えている。
揺らいでいた自分の存在が、わかったような気がした。





「この世界」の自分。
「他の世界」の自分。

あいつ、こいつ。あれらそれら。きみ、お前、貴様、彼、私、一人称二人三人彼女オレわたしそっち主役ヒロインこれあれそいつだれ?わたしだ神?ここ、あそこ、世界世界世界世界。仲間敵悪役味方主要最主要、柱、構築、俺はなんだなんだなんだなんだなんだ?役割?それは?なんだ?誰だ?誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ















                   脇役















・・・・・・・・・・・・


・・・・・その晩から・・・・・・・・


俺はずっと取りつかれたかのように考え続けていた。




世界の構築、物語、主要脇役主人公・・・・・・・・




あいつのことは知らない。
だが、こうして俺が反応したなら、あいつは主人公?って奴なんだろう。


だが・・・・これは本当のことなのか?
俺はただ単におかしくなってしまったのか?

多分、そうだろう。




自分の中に浮かびつつある推論。
だが、推論であろうとも、俺には確実だと言えるだけの自信があった。




そして、それが何より怖い。




精神異常者やトンチンカンな予言者は、自分がイカレテいるという事に気付いていない。
彼らは自信満々なのだ。持論に、何の疑いも無い。


きっと今の自分はそれと同じなのだろう。





だから早くこんなこと早く忘れてしまうのが一番いい。



馬鹿げてる。
アホくさい。
実に現実的でない。



作品(世界)は確かに存在し、それが他世界に電波のように伝わって、それを受信した者が作者となって作品にしているなど。

この世界を舞台にした、あの時見たあいつを主人公とした物語。
他の世界でその物語を見てみると、彼がすべての中心で、自分たちは目にも止まらぬ脇役なのだ、などと言ったことは








すべて、バカげた妄想なのだ。







そもそも(それが本当だとしても)そんな事知ったところで俺たちの人生がどうなる?


俺はしっかりとここにいて、実に楽しく人生を謳歌してるじゃないか。
そこに不満はないし、いまさらどうしようもない。


それにあの時見たあいつだって、もう自分の町に帰っているだろう。顔ももうぼんやりとしか覚えていない。



名前もなにも知らないのに、これ以上どうすると言うんだバカバカしい。



それに本当に今の立ち位置に不満があるなら、自分から彼に会いに行って知り合えばいいじゃないか。
出てきたホテルはわかるから、彼の事を知るのは別に不可能ではないだろう。


だがそうしたところで、もしかしたらあいつは俺にとってはそりの合わない人間かもしれない。
そんな人間と一緒にいてどうする?


オレは今、十分に満足している。
それに何度も言うが、そんなことしても俺は今の人生には・・・・・・・






『不満はないか?そうかそうか。お前は今、自分の人生に満足しているのだな?』







そうだ、その時、そんな声が聞こえてきたんだ。
いつものように布団の中で、苦しみと悩みが払拭され、この議題を自己完結させようとした俺の脳裏に。








『お前の友人達、あれはいい友人だな』


・・・・・・・・・・


『おいおい、無視か?お前に語りかけてるのは幻聴じゃないですよー?』


・・・・・だから何だ。
ああわかったよ答えてやるよ、最高の友人だ。


『お?答えてくれる?そうなのだね。君の友人はいい者ばかりだ。だが、彼らに何かあったとき、皆は彼らをないがしろにするぞ?』


・・・・そんなことはない。皆一丸となって・・・・・


『この世界でじゃない。そうだなァ・・・・もし、全員で旅行に行った時、飛行機が墜落したとする。そして全員の命が失われた』

・・・・考えたくないな。

『だが、その時その事件を知る者はいるのか?いないだろう?あの主人公だって、テレビや新聞で読みながらも、適当に流すだろうさ』

・・・そんなこと言ってどうする。
俺だってそうしてしまうだろうし、そこで「ないがしろにしやがって」とキレるのはお門違いだ。




『それだけじゃない。他の世界では、誰か(わきやく)の死なんざ適当に流されてしまう。考えてみろ。今までお前が見てきた作品で人死にがあったろう?被害何万人ーだとか。そのなかで、すべての人の死が掘り下げられてきたか?』


そんなことをしては・・・・・

『そうだ。そんなことはない。そんなことあったね、だ。最悪、描写すらされないかもしれないな。そんなんでいいのか?お前の仲間の死なんて、だぁれも見向きもしないぞ?無視だ無視。あったってなかったって、同じようなもんなんだよ』


貴様・・・・



『お?お?キレる?この声は幻聴かもしれないのに?そう言ったのはキミなのに?それに向かって切れるんですか?この声の存在を受け入れるんですか?』


・・・・・黙れ、お前はいった・・・・・



『はい、残念。認めましたね。ではさようなら。フェ~ドアウ~~~ト』








------------------------------------------------------------







そこからの事は蜃気楼がかかったようになって、頭の中がはっきりしてない。

普通は「もやがかかったように」だって?
いや、そうじゃなかった。だって頭の中では沸々とした怒りがわき上がっていたから。




あいつらはなくてもいい存在なんかじゃない。
あいつらは決して無視されてもいいような、そんなどうでもいい奴らじゃない。





そんな思いに駆られて、俺は行動していた。
ホテルに聞き込み、住所を割り出し、入念に準備までしてきた。






なんでだ?どうしてこうなる?あいつらがないがしろにされていいはずなんかない。
なぜだ?なぜそうなる?なんでこんな扱いなんだ?



『決まってる。それは主人公がいるからさ。彼がいるから、こっちに誰も目を向けないんだ』




そうか・・・・・




なんだ、だったら簡単じゃないか。




ただ








      そいつを





               ケシテヤレバイインダ











そう思って名前も知らなかったあいつの玄関前に立った。



あれから二カ月。今晩の天気は雪だ。すでに少し降りつもって、足跡がつきそうだな・・・・・・
息が白く、フードをかぶっても耳が少し痛い。



待っている間にもいろいろと考えた。
自分は何をしているのか。これは犯罪だ。しかも、最悪の部類に入る。


そんなことをしていいわけがない。今すぐ辞めて、家に帰ろう。


そんな理性の声がしていたが、脳内でわきあがっていた怒りの感情によって、すぐに、消えた。
あの時、俺が外を走り回って大声を出すのを止めていた理性など、もはやなかったのだ。





そうして待つこと一時間。
夜遅くになって、コンビニにでも出かけようとしたのか、二か月前に見たあいつが家から出てきた。



少し後をつけ、五分くらいして公園を通り抜けようとする。
そこの街灯の明かりであいつの顔がはっきりと見え










その瞬間、俺の頭にすべてが流れ込んできた。


この世界の情報。

他の世界でどう描かれているのか。
主人公、主要、その周辺人物。あらすじ、いきさつ。そのすべてがだ。



そしてその中に、自分と、そして何より一番重要な、自分の仲間の事など、一切なかった。






その直後、胸の中にくすぶっていた怒りに火がつき



俺はナイフを握って突進していた。





その時の俺は、やっぱりどうかしていたんだろう。
まるで、自分のこの感情が自分のものじゃないような感じがしていたのだから。


そう、元は確かに自分だが、なんだか、養殖されたかのような気分で・・・・・・・・










事を為し終えるまで、三秒もかからなかった。



人体の急所は十分に知り尽くしていたし、短刀を使った際の重心の乗せ方も知っていたから、一発だった。



彼はなにが起きたかもわからない顔をしてから地面に倒れて、その目からすぐに光が失われた。







あっという間だった。
そして、自分の手が震えだす。手元に少しだけついた血が、妙に艶やかに光っている。
怖い恐いコワイ・・・・・何がが俺に迫ってきている気がして、ついに全身が震えてきた。
















そしてその瞬間、世界が揺れたんだ。












周囲の景色、否、空間が歪んで自分に雪崩れ込んでくる。
苦しい苦しい。なんだこれは。まるですべてが自分に入ってきているみたいだ。


すべて?・・・・・・・世界だ。



これは世界が入ってきているのだ。
ああ、ならばこの異常なほどの苦しみは納得だ。
すべての幸福と不幸を、未練と達成を、死と生を、すべてその身に受け止めようとしているのだから。



その辛さに大声を出す。
こんなに大声を出して苦しむのなんて、きっと生まれた時以来初めてだ。


『そのとーり。君は今から生まれ変わる。さあ、あとは存分にやりたまえ』




あの声が聞こえる。
でも、答えてなどいられない。だってそうだろう?世界が入り込んでいるのに、思考がまともなわけがないじゃないか。


今のこれ?ああ、これはいいんだよ。これは夢なんだから。客観的に見た、俺の過去なんだからさ。こうして冷静なのも、わかるだろ?




でもまあ、そうはいっても自分は自分、やっぱり苦しい。

汗が次々と流れ出て、口からは涎が垂れている。目の前がチカチカと光って、耳がガンガンと鳴り響く。全身の筋肉が鈍い痛みを訴えて、中から押しつぶされているかのようだ。
その苦しさに、大声は止まらない。

ああ、やばいな。この現場、見られたらいけないのに。


おいおいなに言ってんだよ。世界丸ごとなんだぜ?そんなの気にする奴らがいるもんかよ。
それもそうか。

あれ?今のはオレの思考か?

違うよ俺だよ。

違う私だ。僕だよ。ウチだってワシじゃ自分ですオイラだetc.etc・・・・・





自分の思考がわからない。
自分というものがなくなって行く。

俺はなんだっけ?俺は・・・だれだ?


一体何をすべきなのか・・・・・



そう思った瞬間、周囲が黒に呑みこまれた。
この世界のすべてを取り込んだのか。


数泊してから、目の前に、大切だった仲間たちが映る。


ああ・・・これだけは守れたのかな?




そう思いながらそれを見て、俺は足掻くようにそこに手を伸ばそうとして







瞬間、その姿が砕けて消えた。




そしてそれらはオレの中の世界と共に、ただのそういう力と化した。








「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」









悲鳴に似た叫び声。
そして、俺は自分じゃなくなった。


だが、取り戻さなきゃいけない。


あいつらを
あの世界を





必ずだ。






そのために、さて・・・・・どうしようか・・・・・






世界を再構築するには・・・・更に力が必要だ。
は、だったら簡単だぜ・・・・・主人公ぶっ殺してやればいい。



はは、ウヒ、クフフアヒアハハハハハハハ!!!!!!!



あレ?お化SIいナ?なnだカとっテも・・・・・






「楽しくなってきた・・・・・・」



自分にはない高揚感。
そりゃそうだ、俺は「自分」じゃないんだから。




「さて・・・・・世界を食らおうね。翼人?そんなもんはぶちのめす。そうだな。せっかくだから、取り込んだその世界もその時戻して行こうか。そうすれば・・・世界はもっと良くなる」




そうだ。俺たちだけがいい目を見るんじゃいけない。他の奴も等しく主人公にだ。




「・・・・そのために、すべてを捨てる。俺はもう、一つの世界を取り込んだ。俺はオレではない・・・・・・さしあさっては、名前を捨てよう・・・・・・」





そうだ、俺の名を・・・・・・・・







俺の名は・・・・・・・





























------------------------------------------------------------





「おぉい、起きろ。授業中だぞ?」

「・・・・・・んあ?」





目が覚める。
どうやら授業中に寝てしまったようだ。

にしても、なんでまだこんな授業出てんだろうね、俺は。



・・・・・・おぉう・・・・ブルっときた・・・・・
・・・あんな夢見りゃ当たり前か・・・・まさかあのときの夢を見ることになろうとは・・・・この世界か?未練をなくせって?





バカ言うな。こんなもんは未練じゃねえよ。
確かにあんとき幻聴を聞きはしたが、あの感情は間違いなく俺のもんだ。俺の罪だ。


簡単には戻らないだろうが、世界をいくつも取り込めばいつかはできることだろう?



そうだ、取り戻さなきゃならないものだよ。






・・・・・こんなこと考えるなんざ、俺も落ち着いてきたのか?
俺の中の世界が・・・オレになじみ始めている?



まずい・・・・それじゃあ再構築できなくなる。
あの世界を、取り戻せなくなる。




早くこの世界から出ないと・・・・・いや、あれさえうまくいけばそんなことしなくても・・・・・




「・・・・・次こそ必ずぶっ殺す・・・そうだ、これさえうまくいけば・・・・・」

「ん?どーしたお前。具合でも悪いか?」

「いえ、そうでは・・・・・・いや、そうですね。体調がすぐれないので、少し保健室に行ってきます」

「そうか。大事にな」





まあ・・・その前にこの夢で沸いてきた嫌な思いを、あのくそ野郎を一回ぶち殺して発散してくんのもありかな・・・・・
死なないのは癪に障るけど。










to be continued
 
 

 
後書き

さて、今回は主人公も音無も出ないお話となりました。
ちなみに、私はこの世界(「奴」の世界)の事など一切考えてません。

今後も、書くことは無いでしょう。



彼が訊いたあの声が、彼の内なる本能からのささやきだったのか、ただの幻聴なのか、はたまた第三者のものだったのかはわかりません、という事で。



誰だって、自分に理不尽を感じた。だが、それでもこの世界で生きていくしかない。この話はただそれだけのものです。
そして、その一線を踏み越えてしまった、哀れな男の話、ただそれだけ。



さて、次回には主人公も音無も、ちゃんと出てきますよ。

そしてもしかしたら、次でAB!!は最後かもしれません。








ではまた次回













なら・・・あんた認めてくれんの?このボクを・・・ 
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