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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§XX-新年と元旦と魔王様

 
前書き
ホントは三が日に更新するつもりだったんです(滝汗
デート・ア・ライブとぐだおのせい。
俺は悪くねぇ!(殴

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「兄さん、朝だよ。元旦の朝だよ」

 ゆさゆさと、身体を揺らされる感覚。揺すられる感覚が心地よい。

「ん……」

 それにぬくいからもう少し布団の中にいたい。寝正月。最高じゃないか。

「早く起きて。母さんがご飯出来たって」

 ……前言撤回。そういうことなら話は別だ。是が非でも起きねばならない。自分が惰眠を貪りたいがために、皆の朝食を遅くするのは論外だ。さらば安眠の地。ご飯食べたら戻ってくるよ。そしたら二度寝と洒落込もう。

「んあ……」

 布団の誘惑を撥ね退けて、起き上がる。義妹と目が合い、彼女が安心したように微笑んだ。

「良かった。兄さん朝弱いからもう少し時間かかると思ったけど……」

「褒めてくれてもいいよ?」

 例年なら常駐している巨大掲示板と大規模MMOで年越しするところだが、今年の黎斗は年越しそばを食べて即就寝だった。数日前のイベントで不眠不休で狩りをしていたのが祟ったか。おかげで日付変わる瞬間にはもう夢の中だった。

「何馬鹿なこと言ってるの?」

 馬鹿な事言ってる自覚はあるので真顔でマジレスやめてください。思わず口から出かけるも堪える。オタク界隈に疎い義妹のことだ。おそらくマジレスなんて単語知らないに違いない。

「……まぁいいや。しかし晴れたか」

 朝日が眩しい。目を細めて外を眺めれば、雪が降り積もっている。そういえば寝る直前から雪が降り始めていたっけか。

「あ、そうだ。あけましておめでとう」

 一瞬きょとんとした義妹が笑って。

「はい、あけましておめでとうございます。兄さん」

 周囲を素早く確認。人の気配が無いのを確認して、

「はい、お年玉」

「え? え? 兄さんそのお金どこから……」

 いつもの如く狼狽える義妹にいつも通り"葡萄の誘惑(マイナデス)"を発動しようとして――失敗。

「あー……」

 魚野郎の封印をすっかり忘れてた。どうやって誤魔化すか。悩んで目覚まし時計が目に入る。

「兄さんの気持ちは嬉しいですけどバイトで学費を稼ぐ兄さんにそこまでしてもらうわけには……」

 枕元から目覚ましを引き寄せ、義妹に見せる。

「兄さん?」

 後ろのつまみで時計の針を回しながら義妹に囁く。

「大丈夫。いつもの事。僕は大丈夫だから、お前の好きなものを買いな? 無駄遣いはしないようにね」

 途端、義妹の目から光が失われ、焦点が外れる。虚ろな瞳で、黎斗の言葉に了承の意を示す。

「はい……わかりました……」

 これなら大丈夫だと安心した黎斗は目覚ましを定位置に戻し、手を叩く。

「!」

「すぐ下に降りるから、義母さんにも伝えといて」

「うん、りょーかい!」

 駆け足で下に降りていく義妹を見て、一安心。

「あっぶねぇ。すっかり洗脳出来ないの忘れてた」

「傍から聞くとその台詞問題ありまくりですよね。マスターの好きなゲームとかにありそうじゃないですか? 義妹を洗脳して煩悩にまみれたことやるようなやつ。……まぁマスターにそこまでやる勇気ないの知ってますけど」

 バスケットから呆れたようにエルが顔を出す。しかし酷い言い様だ。

「そんな洗脳系は持ってないわ。普通の純愛ものだわ」

「真顔で返されてもドン引き以外のリアクションとれないんで私」

 本当に酷い。

「それにしても……シスコンですねぇ。洗脳まで駆使して毎年お年玉って何考えてるんですか?」

「うっさい」

 多少自覚はある。多少だけど。

「まぁいいですけど。目覚まし時計の針で洗脳って出来るんですね。私そんなの初めて見ました。あと、あけましておめでとうございます」

「あー、あけおめでした。今年もよろしく」

 このやりとりもう何百回目だろう。そう思えば

「……このやりとり何百回目ですかね?」

 同じことを返してくるキツネに笑いながら答える。

「さぁ?」

 キツネの含み笑いを背に下に降りていく。ご飯食べた後で二度寝するつもりなので着替える気は毛頭無い。リビングでにぎやかな声。これは自分が一番最後か。

「……あけましておめでとうございます。いつもお世話になってます」

 リビングを素通りして、仏壇と神棚へ。手を合わせて、祈る。今年もこの家族が幸せでありますように、と。余計なお世話だ、なんてこの家族のご先祖様から叱られるかな、などとうっすら笑いリビングへ。

「あけましておめでとうございますー」

 リビングを開けながら挨拶をし、自分の席に座る。向かいに義父、左隣に義妹、義妹の向かいに義祖母。義母はコンロの前で雑煮を盛っている。右隣に恵那がいるから恵那の向かいが義母か。

「はい、れーとさん」

 右から渡されたお茶を飲んで一息。

「ふぅ。あ、ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして」

 感じる違和感。

「…………ん?」

 なんか一人家族じゃない人がいるような?

「どしたの? 黎斗さん?」

 不思議そうにこっちを見やる恵那。

「なんで恵那いるの!?」

「……兄さんうるさい」

「黎斗、元旦から元気だな」

「お父さん、黎斗の場合元気なんじゃなくてうるさいだけよ。ホント中学までは大人しかったのに……」

「いやいや、元気なのは良いことじゃて」

「いや待って僕の疑問は正当だ間違いなくってゆーかなんでみんな受け入れてんの」

 黎斗の記憶が正しければ昨晩はいなかった筈だ。年越しそばを食べて布団に潜りこんだ時点では家族しかいなかった。だいたい恵那は清秋院家のうんたらこうたらとかいって帰った筈では無かったか。

「……やっぱ聞いてなかったかー」

 肩を竦めながら義妹が雑煮をつつく。

「初詣の手伝い終わったられーとさん家に行くからって、ビアンキさんに伝言頼んだんだけど……」

「ダヴィデぇえええええええええええええ!!!!!!」

「恵那姉さんが大荷物しょってきた時は思わず寝てる兄さん蹴り飛ばそうかと思いましたよ」

「そうだそうだ。こんな良い子ほったらかしてゲームとか情けない……恵那ちゃんごめんなさいねうちのドラ息子……いえ馬鹿息子が」

「いえいえ、伝言頼んだだけで黎斗さんに直接伝えなかった私にも問題ありますし」

 すげぇアウェーだ。でも、話を聞いていると自分が確実に悪い。

「……ごめんなさい」

 言ってくれれば迎えに行ったよ?ホントだよ?、なんて言っても言い訳に過ぎない。でもせめて。

「せめてメールで連絡ください……」

「あ! その手があったか!」

「忘れてたんかい!」

「いやー、ほら恵那最近ケータイを携帯してなかったし。……てへっ☆」

「どっちにしろ爆睡してた兄さんには何も言う権利ないと思います」

「…………」

 新年の計は元旦にあり、とは言うけれど。初っ端からこんなオチか。

「あー、雑煮うめぇ……」

 人参と大根、いくらとなると。これだけで何杯でもいけてしまう。

「れーとさんれーとさん。あーん、ってしてあげようか?」

「あらあら、若いわねぇ……」

「恵那姉さん大胆ですね……」

「家族の前でとか恥ずかしすぎるわ!!」

「あらあら照れちゃって。……それならお母さんたち席外しましょうか?」

 ニヤニヤ笑いの家族を前に、顔が真っ赤になるのがわかる。

「~~ッ!!」

 これ以上ここに居れない。一刻も早く立ち去らねば。口の中に無理やり雑煮を押し込んでいく。味も何ももうわからない。案の定、熱々の餅で舌が火傷した。

「----!!」

「あぁ、もう。ハイお水」

 恵那が差し出してくれた水を脇目も振らずに飲む。

「……ん、ありがと。死ぬかと思った」

「黎斗、餅は喉に詰まりやすくて危ないんだからよく噛んで食べなさい」

「……はい」

「母さんとお婆ちゃんが兄さんをからかい過ぎるから……」

 すまし顔できな粉餅を食べる義妹に白目をむける。目を逸らされた。

「くっ……」



―――



「で、初詣、と」

 ぶっちゃけ羅刹の君が初詣、ってのも面白い話だよなぁなどと現実逃避をしているのは予想外の事態に頭がついていかないからだ。人生初の家族以外との初詣だ。

「何遠い目してるの?」

「なんでもない」

 言えない。「まさか女子と二人で初詣とかいうギャルゲ的イベント、僕がする日が来るとは思わなかった」なんて口が裂けても言えるわけがない。空気を読んで後から行くといって義母と義妹とは別行動になってしまった。正直女子と二人っきりとか恥ずかしいんですけど。コミュ障系引きこもりオタ神殺し風味舐めんな。

「変なの」

 そう言って隣で笑う恵那。雪の降る中、二人以外に歩く人はいない。それが黎斗の緊張に拍車をかける。とりあえず冷静になろうと車道を見れば渋滞する車の列。黎斗達の目的地まで、ご丁寧に繋がっている。

「歩けばいいのにねー」

 その光景を見ておかしそうに恵那が笑う。自宅を出た時に自分たちを追い越した、と思しき車を神社手前(ここにきて)で追い越してしまったのだからさもありなん。というかどんだけ混んでるんだこの神社。

「まー田舎は車社会だからねー。車使う癖がついちゃってるのさ。第一こんな雪で歩くのなんて僕らくらいでしょ」

「そうかな?」

「そうだって」

 くだらないやりとりで笑ってしまう。少し、緊張が抜けた気がする。

「大体なんでコートの下、巫女服なのさ」

「一応初詣に行く以上はね。ぴったりでしょ?」

 確かに。似合っている、という意味でもTPO的な意味でもあっている。

「……いや、ある意味あってないのか?」

 主に本職と間違われる的な意味で。なお、この場合の本職とは初詣運営側の巫女、というニュアンスであり媛巫女とは別物であるとする。

「……わかんなくなってきた」

「だいじょーぶ。れーとさんが意味不明なのは今に始まったことじゃないから」

「さり気にひでぇ!?」

 黎斗の叫びが空に響く。うるせぇよ、と言わんばかりにコハクチョウが飛んでいく。粉雪が舞って、太陽が射した。なんとなく良い一年になる。そんな予感のする、新年一日目の昼の出来事。 
 

 
後書き
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ま、まだ一月だから……(震え声
なんかネタしか更新してない気がする今日この頃。
ラブコメとかやっぱ無理ですわ、うん。
あけおめでしたー、今年もよろしくお願いします。 
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