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提督はBarにいる。

作者:ごません
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明けちゃったけど正月の騒ぎ・その1

 
前書き
新年の挨拶とはなりませんでしたが、正月ネタとして構想していたネタを投稿していきます。

書けるか微妙ですが、日記風に書いてみたいと思います。 

 
1月1日 提督による海外艦の為のお節講座


 毎年の事ながら、年末年始の休みの期間は騒々しい。日常も任務に仕事にと騒々しいのだが、騒々しいの種類が違う。俺にくっついてくる艦娘が大量に現れるのだ。傍から見れば女を侍らせまくっている助平親父に見えるのかも知れんが、俺が強制した事は無いと断言できる。向こうから寄ってくるのだ……いやはや、モテる男は辛いモンだ。そんな俺だが、昨年末から予約を入れられていたので店を開けている。

「提督、来たわよ」

「おぉ、待ってたぞ。明けましておめでとうさん」

 俺は紋付き袴の新年を祝う正装。……今ヤクザの親分みたいだとか思った奴は、怒らないので後で工廠の裏に来るように。来客は一人ではなく、結構な人数がぞろぞろとやって来た。

 俺とケッコンを果たしたビスマルクを先頭に、グラーフ、プリンツ、レーベ、マックス、呂500の6人。

「初めて着ましたけど……着物も美しいですね」

 その後ろから来たのがイタリア、ローマ、リベッチオ、アクィラの4人。

「Admiral、Happy new year!」

 最後に入ってきたのがアイオワと新顔のウォースパイト。総勢12人の海外組が勢揃いしている。皆晴れ着に着替えており、それがまた美人揃いだから映える。

「さぁさぁ、座った座った。こっちの準備は万端だからな」

 そう言いながら俺は準備しておいた重箱を取り出して海外組の前に並べた。

「さぁ、これが日本の正月の伝統料理……お節だ」

 そう言いながら俺は重箱の蓋を開けていく。中には俺の手製のお節が詰めてある。ビスマルクに頼まれたのは、『日本の文化を学びたいから、お節について教えて欲しい』という何とも海外組らしい依頼だった。


 今回詰めたのは紅白なますに栗きんとん、紅白の蒲鉾に田作り、鰊の昆布巻き、牛蒡の八幡巻きに数の子、黒豆、伊達巻、海老の鬼がら焼きの代わりの海老マヨの10種類。初めて見る奴も初めてでは無い奴も、興味深そうに中身を眺めている。

「お節の謂れは色々あるが、基本は縁起物と保存性の高い物が選ばれている。まずは簡単にそれの説明からしていくか」



《お節の縁起物の謂れ》

・紅白蒲鉾……蒲鉾の半円は初日の出を表しており、新年の象徴として無くてはならない。また、紅はめでたさと慶びを、白は神聖さを表す。

・栗きんとん……黄金色に輝く金銀財宝に見える事から、商売繁盛や家の繁栄を願う。また、栗は昔から「勝ち栗」とも言い、武士の縁起物としても有名。

・黒豆……「まめ」という言葉は元来、丈夫・健康を表す言葉だった。まめに働く、という語呂合わせからも一年間健康で働けるように、との願いから。

・昆布巻き……「喜ぶ」の言葉にかけた縁起物の昆布。一家繁栄の縁起物でもあり、「巻物」を食べる事で学力向上を願う、とする研究者も。

・田作り(ごまめ)……田作りとは片口鰯(煮干の原料)の子供。それを炒って甘辛く煮た物。その昔、干した魚を肥料代わりに田畑に撒いた事から、五穀豊穣を願って食べられるようになった。

・伊達巻……江戸時代に長崎から伝わった「カステラ蒲鉾」が料理の原型。その形状が伊達者(洒落た服装の者達)の服の模様に似ている所から伊達巻と呼ばれるように。黄色い色は黄金を表し、巻物は貴重な文章や絵画を表す物でもあったのでお金に不自由しないように、との意味合いから。

・紅白なます……昔は大根、人参、生魚と酢で作られていた事から鱠(生魚と野菜の酢の物)という名前が当てられている。野菜のみの「精進なます」や「紅白なます」が生まれたのは室町時代辺りの事。紅白蒲鉾で説明した通り、その色がおめでたい事から。それに、冬場の野菜不足を補う為にも、人参と大根を使う紅白なますはうってつけだった。

・牛蒡料理……地中に細く長く根を張る牛蒡。その姿から一族の繁栄と息災の縁起物とされている。今回は食べやすいように牛肉で巻いた八幡巻きにしたが、すりこぎ等で叩いて煮付けたたたきごぼう等もメジャー。

・海老……その姿から「髭が生えて腰が曲がっても長生きし出来ますように」という長寿の願いを表した縁起物。その縁起を担ぐ為にお頭付きで調理される事が多いが、海外組の連中の食べやすさを考慮して海老マヨに。

・数の子……数の子とは鰊(にしん)の魚卵。二親(にしん)から沢山の子供が生まれるように、という子孫繁栄の願いが籠められている。



「……とまぁ、縁起のいい食べ物ばかりで構成されてる訳だな、お節ってのは」

「ふーん……それは解ったわ。けれど、何故保存性の高い料理にする必要性があるの?朝から調理したらいいじゃない」

 黒豆を摘まんでお屠蘇を飲みつつ、ローマがそんな事を聞いてきた。確かに、海外組の連中からしてみれば、態々保存性の高いおかずにする必要性が感じられないだろう。しかし、明確な理由があるのだ。




「昔から日本の正月には、神様を玄関からお迎えして家族総出でおもてなしするって風習があるんだ。だから正月三が日はなるべく台所に立たない方がいいとされている」

 正月に高い山から降りてくるとされている年神様。年徳神とも呼ばれ、祖先の霊が神となってやって来るとされていた。また、年神様は正月三が日は家に居着いて一年の幸福を置いていくとされている。しかし年神様は家族全員が揃わないと機嫌を損ねてしまい、三が日の途中でも帰ってしまう事があるらしい。だからこそお節は保存性の高い物にして、なるべく台所で作業せずに済むようにしているのだ。※諸説あります

「それに、いつも家事で忙しい主婦を正月くらいは休ませてあげようという心遣いからも来てるらしいな」

「成る程ね、家事をこなすのも中々の重労働だもの」

 アイオワがそんな事を言いながらお屠蘇を煽る。最初は日本語もたどたどしかったが、今はあまり違和感がない。上達したもんだと感心する。

「でもでも、このダーテーマーキ?甘くて美味しいよ!」

 さっきからリベッチオは伊達巻ばかり口に運んでいる。どうやら甘くてフワフワ食感がお気に召したらしい。

「昔は砂糖が貴重品だっからな。甘い物=ご馳走だったのさ」

 それに、伊達巻には白身魚のすり身が加えられており、普通のだし巻きや卵焼きよりも腐りにくく拵えてある。お節料理が極端にしょっぱかったり甘かったりするのは、保存性の向上とご馳走感を出すためだったりもする。




「あ、そうだ。これ提督にあげるわ」

 お節を大分食べ進めた頃、マックスがこちらに皿を差し伸べて来た。中身は数の子。何か気に食わない点でもあったのだろうか?

「どうした?マックス。お前確か魚の卵好物だったろ?」

 そう、頻繁にはウチの店にやってこないのだが、マックスは生物……特に、イクラや白子、からすみ等といった魚卵系のツマミが好物らしくある時には必ずと言っていい程注文していた。

「いえ、大した意味は無いのだけれど」

「あぁ、そっか。提督にはお嫁さんが沢山いるもんね」

 納得がいった、といった具合に声を上げたのはレーベ。要するにアレか?マックスは嫁さん達との子作りに励めと言いたいのか?

「えへへー、マックスは子供が大好きなんですって!」

「ちょ、ちょっとロー!?」

 おっと、思わぬ所からのカミングアウト。成る程なぁ、マックスが子供好きとは意外な一面かも知れん。

「そうね、子供は宝と言うし」

「提督のお子さんでしたらきっと可愛い子が産まれますよ♪」

「そうだな、Admiralの子供なら叔母代わりになるのも吝かではない」

 そう言って海外組の連中が皆こちらに数の子を差し出して来る。そしてその中で唯一のケッコン艦であるビスマルクが顔を真っ赤にして両頬を手で抑えている。

「あ、あの……頑張るのは良いけど…優しくしてね?」

「何を頬を赤らめとるんだビス子ぉ!新年早々からこんな話させんじゃねぇよ!」

 やれやれ、ウチの連中は新年になっても相変わらずらしい。何がどうしてこうなった。 
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