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提督はBarにいる。

作者:ごません
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明けちゃったけど正月の騒ぎ・その2

1月2日 寒中稽古とお雑煮パーティ


 昨日はエライ目に遭った。海外組の連中から聞き付けたのか、ビス子以外にも嫁艦達が店に殺到。危うく元旦から搾り取られそうになった。嫁艦の数も30を超えて40に届きそうな所まで増えている。流石に全員を一度に相手するのはしんどい。一日中逃げ回って、どうにか事無きを得た。明けて翌日、早朝の寒い時間帯に鎮守府近くの砂浜にやって来ている。

「うっしゃあ、来い!」

「行くぞぉ!」

 俺の出で立ちは何年かぶりに袖を通した柔道着。腕回りがキツくなっていて動きにくいが、どうにか動ける。相対しているのは日向。剣術だけでなく格闘技も習いたいというので柔道を教えてやっていたら、新年の寒中稽古をやろうと誘われた。久しぶりに運動するのもいいかと了承したら、参加者がどんどんと膨れ上がり……最終的には30人くらい集まってしまった。どうしてこうなった。

「ふっ!」

 懐に飛び込んで来た日向が、体落としを仕掛けてくる。しかし、此方のバランスを崩さずに力業で投げようとしている。これではいけない。柔道の投げは相手のバランスを崩し、不安定になった所で相手の隙を突いてタイミングで投げるのだ。幾ら足場の不安定な砂浜とて、その基本は変わらない。

「甘いぞ日向ぁ!」

「何っ!?」

 わざと投げられたように見せかけて、カウンターで巴投げを仕掛ける。日向の身体がふわりと宙を舞い、ズデン!と砂浜に叩き付けられる。

「まだ『崩し』が甘いぞ日向。よし、次ィ!」

「行きます!」

 次の相手は朝潮か。改ニになってから近接戦闘の訓練に更に熱を上げていると聞いていたが、俺と組み合うのは今回が初めてだ。さて、実力はどんな物か。……なんて考えていたら易々と懐に飛び込まれてしまった。日向の場合はわざと呼び込んだのだが、朝潮は考え事をしていたのもあったが簡単に飛び込まれた。油断はいかんな、うん。

「それっ!」

 朝潮が掛けて来たのは足払い……それも、此方が動こうとしたのを読んで動きの出足を払う出足払いだ。こいつが中々の厄介者で、動き出しの瞬間だから咄嗟の回避がしにくい。小柄な体格ながら崩しも完璧。こりゃまずいと判断して払われた足を外に逃がす。そしてそのまま体勢を崩されないように身体を捻りつつ、無理矢理大外刈りに持っていく。

「えっ……きゃあ!」

 投げた、と確信していたらしい朝潮からしてみれば完全な不意打ち。気付いた時には砂浜の上に横倒しになっていた。

「いや~、ヒヤッとしたぜ。でもまだまだ技のキレが甘いな……次!」

「次は私だぞ、提督よ」

 げ、武蔵かよ。厄介なんだよなぁ……力業もイケるし小技も使いこなす。さてどうしたもんかと思っていたら、レスリングばりのタックルで足を取りに来た。どうやら寝技勝負に持ち込みたいらしい。臨む所だと仰向けになり、互いに寝技のポジションを奪い合う。現役時代は寧ろ投げよりも寝技が得意だったんだ、負ける訳にはいかない。やがて俺が腕を取り、腕ひしぎの形で極めにかかる。

「ほれほれ、タップしねぇと肘壊れちまうぞ~?」

 武蔵相手に手加減はしない……いや、出来ない。少しでも力を緩めれば、こいつは易々と脱出してしまう。

「なんのこれしき……!」

 武蔵の奴も意地になってるのか、青筋をひくつかせながら必死に堪えている。その根性は認めてやるが、流石に嫁さんの身体を傷付ける趣味は無い。腕ひしぎを外すと、武蔵は息を乱しながら立ち上がる。

「どうした提督よ?まさかこの武蔵に手心を加えたのか?」

「まさか。やっぱトドメはビシッと投げの方が格好いいからな」

 俺がニヤリと笑うと、武蔵もフッと小さく笑う。

「なら容赦はしない。行くぞ提督!」

「おっしゃ来い!」

 勝負は一瞬だった。武蔵が飛び込んできた勢いのまま、右腕を取り、そのまま一本背負いで砂浜に沈めた。

「うし、次!」

 それからもかかって来る艦娘達を次々と投げ、極め、落としていった。一時間後、砂浜に立っているのは俺だけになった。

「よし、稽古終了!飯にするぞ!」

 いい汗をかかせてもらったからな。こいつらには正月らしいご褒美を用意しておいたのだ。




「皆さん、寒い中稽古お疲れ様でした。私と間宮さん、それと提督でお雑煮を作りましたのでどうぞ召し上がって下さい」

 倒れている連中の間を縫うように、鍋を抱えた鳳翔と間宮、伊良湖、それに駆逐艦の何人かがやって来た。テーブルとカセットコンロも持ち込んで、この場で餅を焼いて雑煮にしよう、という訳だ。美味い物には目がないウチの連中。先程まで砂の上でへばっていたのが嘘のように起き上がり、我先にと雑煮の前に並んでいる。

「今回は色んな地方のお雑煮を作りましたから、お好きなのを選んで食べてください!」

「お代わりも沢山あるから、心配しないでね!」

 そう。一口に雑煮と言ってもそのレシピは地方によって千差万別。餅の形から味付け、中の具材に至るまで様々な違いがあるのだ。

 例えば、醤油ベースの汁に鶏肉、大根と人参、それにゴボウの千切り、蒲鉾、なると、椎茸、三つ葉、セリ、そして餅は角餅。これはウチの実家の近所の一般的な雑煮のレシピだ。昔神奈川で仕事していた頃、具が多いと驚かれたのが懐かしい。同じ東北でも具が多いという共通点はあるが、入る物は大分違う。青森の津軽方面では鶏肉、人参、ゴボウや椎茸は入るが、大根や蒲鉾等の練り物はあまり入れずに竹の子を入れるらしい。他にも、山菜ミックスが入ったり里芋が入ったりと雑煮だけで満腹になりそうな位のボリュームがあるのが東北の雑煮の特徴と言える。

 関東圏は割とあっさり目。醤油ベースの汁に鶏肉、蒲鉾、ほうれん草に角餅。飾りに柚子の皮を少し。東北のボリューム溢れる雑煮に比べるとかなりシンプルだ。まぁ、地域によっては真っ黒になるくらい海苔を入れたり、肉や魚を入れないで出汁の美味さで餅を食べる地域等、差別化されていて中々面白い。


 関西になると餅は角餅ではなく丸餅。醤油ベースもあるが、白味噌ベースも増えていく。出汁を取る具材も鰹と昆布ばかりでなく、いりこやスルメ、殻ごと焼いた海老から出汁を取る、なんて地方もある。この辺の違いを知っておかないと、正月に結婚相手の実家に帰って赤っ恥……なんて事態が待っていたりする。気を付けよう。

「そういえば、提督はどんなお雑煮を作ったんですか?」

 餅を引っ張りながら朝潮が尋ねて来た。

「俺か?俺は普通のじゃ飽きるかと思ってちょいと風変わりな奴を幾つかな」

《蕎麦にもマッチ♪鶏ごぼう汁》

・鶏モモ肉:200g

・ごぼう:1本

・長ネギ:1/2本

・水:600cc

・醤油:大さじ3

・みりん:大さじ1.5

・酒:大さじ1.5

・塩:少々


 年末年始、蕎麦にも餅にも合うので大活躍してくれるレシピを1つ。鶏モモ肉は一口大にカットし、ごぼうはささがきに、長ネギは斜め切りにする。

 鍋に水を張り、沸騰させたら鶏肉とごぼうを入れて煮る。その際、かなり灰汁が出るので細かく掬う。

 鶏肉の色が変わったら斜め切りにしたネギを入れ、ネギが柔らかくなったら調味料を加え、醤油の角が取れるまで煮込む。

 丼に餅か蕎麦を入れ、汁を注げば完成。



《中華風!サンラータン雑煮》※分量2人前

・切り餅:2~4個

・お好みのキノコ(椎茸、しめじ、えのき等):100g

・干し椎茸:1枚

・卵:1個

・人参:5cm

・鶏ガラスープ:500ml

・醤油:小さじ1

・塩、胡椒:少々

・酢:小さじ1

・ラー油:小さじ1~2

・糸唐辛子、万能ネギ:お好みで

 年末年始の疲れた胃に優しい酸辣湯風の雑煮。まずは干し椎茸を水に30分程浸けて戻す。時間がなければチンしてもOKだ。キノコは同じ大きさに切り揃えて、人参は千切りに。

 鍋に顆粒の鶏ガラスープを溶かした水を入れ、椎茸の戻し汁を大さじ2~3加えて中火で温める。干し椎茸も5mm幅に刻んで鍋の中に。

 人参を鍋に入れて3分程煮たら、キノコを加えて更に煮る。野菜に火が通ったら卵を溶いて回し入れる。

 餅をこんがりと焼き、器に入れたらスープをかけ、酢とラー油をかける。好みで香菜を散らしたら完成。



《意外!?トマ味噌雑煮》

・餅:2個

・水:300cc

・出汁(煮干しの粉末):大さじ1

・ハム:80g

・キャベツ:80g

・トマト:1個

・味噌:70g

・キムチ:40g

・胡椒:少々

・山椒:少々



 意外かも知れないがトマトと味噌の組み合わせのスープで食べる雑煮。鍋に水を張り、出汁を入れて温める。沸騰するまでの間にキャベツとトマトを食べやすく小さな大きさにカットして鍋に入れる。

 ハムを5mm幅にカットして投入。ハムはそんなに火を通さなくていいぞ。ここでキャベツが煮えたら味噌を溶くんだが、あくまでレシピの味噌の分量は目安なので、メーカーや味噌の種類で味は変わる。自分で味を見ながら量は調整しよう。味噌を溶いたらキムチを細かく刻んで投入。これでスープは完成。

 餅をこんがりと焼き、鍋に入れて少し温める。餅が軽くふやけたら胡椒と山椒を振って完成。お好みでピザ用チーズを散らしても美味いぞ。



「あ~……温まるわぁ♪」

「お雑煮美味しいぴょん♪」

「早起きした甲斐あるわぁ」

 うむ、雑煮は好評らしい。ワイワイと楽しむ艦娘達を眺めながら煙草をふかす。爺臭いと言われるかも知れんが、どうして中々、この空気感が心地好い。

「……提督は食わんのか?雑煮」

 雑煮の器を2つ持った武蔵が現れ、隣に胡座をかいて座った。

「あぁ。俺も歳かねぇ……お前らの笑顔を見てたら空腹がどっか行っちまった」

「大丈夫か提督?熱でもあるんじゃないのか?」

「……おい」

 幾らなんでもその扱いは失礼だと思うが。武蔵の持ってきた雑煮を手に取り、汁を啜る。予想外に身体が冷えていたのか、熱い汁が舌を焼く。

「熱っ!」

 危うく溢しそうになった雑煮を、何とか取り抑える。明日は初詣に行かねぇとなぁ……。そんな事を考えながら、餅にかぶりついた。

 
 

 
後書き
 はい、という訳で正月ネタ2回目です。ページ数が次回で300ページ目なので、ハーメルン時代から恒例の『あの企画』を復活させたいと思います。準備が出来次第つぶやき等でお知らせしたいと思いますのでお楽しみにノシ 
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