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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic21聖王のゆりかご~Awakening of Legend~

†††Sideなのは†††

地上本部と機動六課が襲撃を受けて壊滅してから、そしてヴィヴィオとフォルセティが拉致されてから、2日目の朝。司令部として機能を損失してしまった隊舎の代わりに、はやてちゃんやクロノ君たちが用意してくれたのはなんと「アースラ!」だった。

「チーム海鳴が局に入りたての頃にお世話になっていた、とっても思い出深い艦なんだよ」

フェイトちゃんがエリオとキャロにそう話してるのを背中越しで聞く。アースラは今、海上シミュレータ近くの海上に停泊中だ。でもアースラが大気圏外にあるのって何か違和感というか異様というか、不思議な感じだ。
そんなアースラに、隊舎が再機能するまで寝泊まりすることになった私たち機動六課。そういうわけで、みんなで生活に欠かせない物資を搬送することに。ルシル君が、襲撃の際に怪我をして入院することになってた隊員みんなを治癒してくれたおかげで、誰1人として欠けることがなかったから、問題なく済んでいった。

「――さて。みんなも朝早くからお疲れ様やった。お疲れのところやろうけど、今から隊長会議を行わせてもらうな」

お昼を回る頃には寮からの物資搬送を終えて、みんなでアースラの食堂で昼食を摂った後、六課の隊長陣、それとアリサちゃんとルシル君の7人がここミーティングルームに集まった。昨日は結局、1日中ずっと事後処理に追われていたからね、ミーティングがほとんど出来なかったから。ちなみにすずかちゃんは、シャーリーと一緒にフォワードのデバイスを調整中で、シャマル先生やアイリは医務室の整理中だから、ここには居ない。

「つい先ほど、地上本部から各方面に声明が出された。本事件は地上本部への攻撃という事もあり、今後の調査は地上本部のみで行うと強行に主張してる。そうゆうわけで調査にて判明した情報は、本局・聖王教会へ公開はしない、ってな。機動六課も本局所属ってゆうわけで同様や」

「はあ!? あたしら機動六課も襲撃を受けて、ボロクソにされちまってんのに!」

「そうよ! ヴィヴィオやフォルセティだって拉致されてんのに・・・!」

悔しげなはやてちゃんからの報告内容に、ヴィータちゃんとアリサちゃんが怒った。私だって「どうして・・・? 協力してたのに・・・」言いようのない虚無感に襲われた。地上本部は、プライソン一派の襲撃に備えて本局や聖王教会からの応援に応じてくれた。それなのに・・・。

「そうやな。・・・考えられるんは、ゲイズ中将とプライソンが繋がってるかもしれへんってことでな。ひょっとしたら圧力を掛けられてるのかもしれへん。ゲイズ中将にはミッドチルダ地上本部の防衛長官って守りたい肩書きがあるからな。そうやんね、ルシル君?」

そう言ってルシル君の方を見るはやてちゃん。私たちの視線もルシル君へと向く。はやてちゃんを上座に、右側にスターズの私とヴィータちゃん、アリサちゃん。左側にライトニングのフェイトちゃんとシグナムさん、そしてアリシアちゃんとルシル君。そんな席順だ
今のルシル君は、調査官としての赤い制服じゃなくて、私たちみんなが着てる陸士隊の制服だ。特務調査官として機動六課に出向していたルシル君だったけど、六課襲撃に伴って正式に戦力として動けるようになった。制服は別に着替えなくても良いんだけど、ある理由ですぐに用意できた陸士隊制服を着てもらうことに。

「隊長陣みんな、ゲイズ中将への疑惑は知ってるから。ルシル君が知ってる情報、開示してもらってもええやろか?」

「・・・判った。ゲイズ中将とプライソンが関わっているのは確定している。列車砲などの兵器も、元はゲイズ中将や最高評議会付きの本局将校が依頼して造った、地上防衛兵器だ。こんな事件が起きなければ、アインヘリヤルと一緒に陳述会の議題に挙がっていただろうな」

ルシル君の口から語られる衝撃の事実。それははやてちゃんやクロノ君たちが疑っていた通りの話だった。さらには、プライソンが最高評議会によって人工的に生み出された存在で、生みの親として利用していたのに今は反逆を受けて大慌て。だからプライソンを逮捕させて、その技術力を「ドクターに引き継がせる・・・?」とのことだった。

「犯罪者の技術を、現役局員に引き継がせるなぞ、ドクター自身が許さんだろう」

「普通はな。しかしドクター、ジェイル・スカリエッティもまた、最高評議会によって生み出された人工存在で、プライソンとは兄弟関係に当たる。評議会からの命令や指示にもドクターは応じないだろうが、言うことを聴かすためにどんな手も使うだろう」

ルシル君の話に「えっ!?」みんなが驚いた。一体どれだけルシル君に驚かせられるんだろう。この話もそうだし、ルシル君の本来の身長の事もそうだし。

・―・―・回想だよ・―・―・

事後処理もようやく終わって、片付けが終わった寮の食堂で一息吐く。検査を含めての入院を余儀なくされていたアリサちゃん達も、重体で意識不明だったルシル君が目を覚まして、自分も含めて治癒魔法で完治させたってことらしくて、医療院からタクシーを使ってこっちに向かってるって話だ。

「良かった、ルシル君も目を覚ましてくれて・・・」

フォルセティもきっと、大好きなパパに助けに来てもらいたいはずだから。ヴィヴィオだって、私のことを待ってくれてるはず。ヴィヴィオの笑顔が脳裏に過る。けどすぐに胸の内に去来するのは、ヴィヴィオが痛い目に、辛い目に、苦しい目に、遭っていないか・・・って。

「ヴィヴィオ・・・」

不安で押し潰されそうになる。そんな時に、「心配すんな、なのは」パシンと背中を叩かれた。振り返れば、そこには「ヴィータちゃん・・・」が居た。地上本部警備で撃墜されかけちゃったけど、シャルちゃんのおかげで今はピンピンしてる。

「お前がそんなんでどうすんだよ。不安なのは仕方ねぇよ。でもな、それでも今は強がってでも胸を張ってなきゃならねぇんだ。ヴィヴィオのためにも、フォルセティのためにも、な」

人差し指で目を拭って、「・・・うん」頷き返した。折れそうな心を、私を待ってるヴィヴィオのために、って奮い立たせる。照れくさそうにそっぽを浮いてるヴィータちゃんに「ありがとう」ってお礼を言うと、「おう」頬を掻いて頷いた。それから「お疲れ様や、みんな」はやてちゃんやシグナムさんとも合流して、フェイトちゃん達を待つ。

「ただいまー!」

フェイトちゃん達が帰って来た。お出迎えをするために椅子から立ち上がって、食堂の出入り口に駆け寄った。そこにはフェイトちゃん、アリシアちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、シャマル先生、ザフィーラ、ヴァイス君、シャーリー達、そして・・・

「ん?」

何か違和感があったから、瞬きを繰り返してよ~く見る。そしてヴィータちゃんが「小っさ!」声を出した。それでようやく自分の目が間違っていないことを知る。ルシル君の身長が、異様に縮んでるって・・・。

「ちょっ、え、どうしたん!? ルシ――えええ!?」

はやてちゃんは特に驚きを見せてる。今まではルシル君を見上げていたけど、今じゃ身長差はほとんどないし。私は「変身魔法じゃ・・・ないよね?」そう訊いてみた。でもわざわざ魔力を使ってまで身長を低くするわけもなく。だから違うって解ってるのに。

「ああ、これが本来の俺の身長だ。俺の成長は11歳の頃に止まってしまったんだ」

「11歳・・・!? そんな昔から・・・!」

「小学校の頃からずっと、変身魔法を使ってたってことかよ」

「どうしてまた・・・」

はやてちゃんとヴィータちゃんの言葉に、私も不思議に思う。わざわざ魔力を使ってまで・・・。しかも私たちが8年近くも気付かなかったってことは、はやてちゃんの家で過ごしていた間でも発動していたわけで。そこまでしてどうして・・・。

「・・・男としてのつまらないプライドだよ。親しい女の子より背が低いって、やっぱり格好つかないと言うか情けないと言うか・・・。ギリギリではやての身長より低くないのは救いだがな」

そう言ってルシル君ははやてちゃんと向かい合って、左手で自分とはやてちゃんとの身長を計るように掲げた。はやてちゃんは「なんや、顔が近なってドキドキするわ~」って、頬を赤らめてはにかんだ。

「でも他の娘たちには全員追い越されているんだよな。フェイト、アリサ、すずか、それに・・・なのはと――」

私に振り向いたルシル君が上目遣いで私の顔を見上げた。うわぁ、本当に小さいよ。なんか可愛いって思えちゃう。まぁそんな事を言ったらルシル君の心を折っちゃうことになるんだろうけど。

「アリシアだな。くっそ。アリシアがはやてや他の娘たちより大きくなった時は、それはもうマジか~って思いだったよ」

「私もやよ~」

「えっへん♪」

アリシアちゃんが大きな胸を張った。私だって、アリシアちゃんがフェイトちゃんクラスの高身長になるとは思いもしなかったよ。そういうわけでルシル君は、私たち女の子より背が低いのが嫌だってことで、変身魔法で高身長に見せてたみたい。

・―・―・終わりだよ・―・―・

「しかし随分と詳しい情報を持っているのだな、ルシル。それも調査部の一員としてのものか?」

これまで黙ってたシグナムさんがルシル君に問うた。確かにドクターやプライソンが最高評議会によって人工的に生み出された存在だっていうのは、いくら調査部のエリートな調査官でも知れるような情報じゃない。

「まぁそこは、俺のステガノグラフィアのおかげ、ということで納得してくれ」

ルシル君のその返答に、私たちは「あぁ」納得できた。ステガノグラフィアは、たぶん次元世界屈指の電子戦最強の魔法。本局のデータバンクにすら一切感知されることなく侵入できるレベルだし。

「・・・なんやまだ隠してるっぽいけど、まぁええか。・・・そんでルシル君。プライソンの正体はもう判ってるんか?」

最初にボソッと何か呟いたはやてちゃん。上手く聞き取れなかったけど、プライソンの正体についての話の方に興味がいってスルーした。みんなの視線を一手に引いたルシル君は「すまない。以前、不明だ」首を横に振った。

「ルシルのステガノグラフィアでもダメなんだ」

「ああ。向こうには優秀なサイバー・キーパーが居るようだ。ゼスト・グランガイツ一尉の隊に同行してアジトに侵入した際にも、ステガノグラフィアでもクラッキング出来ないシステムに拒まれたことがある」

「電子戦ではこちらが若干分が悪いってわけね。でもま、アンタが戦線に立てるってだけで十分過ぎるわよ」

アリサちゃんにはみんなが同意見。対人やガジェットなどの戦力なら大して問題ないけど、列車砲クラスとなるとこちらもそれ相応の戦力を集めないといけないと思うし。ルシル君は「まぁ期待に応えられるように頑張るよ」微笑んだ。

「ただ、もしかして・・・と思う奴はいる」

「ホンマか?」

「ああ。最高評議会と協力関係にある一般人の中に、貴族風の少年が居るんだが。コイツの目が気になっているんだ」

「でもドクターの兄だっていうなら、その背格好も大人じゃ・・・?」

アリシアちゃんが小首を傾げた。ルシル君は「俺みたいな奴もいるんだから、背の小さい大人や魔法や施術で体格を変えている奴もいるだろう」って、自分の手を見詰めながらそう言った。

「一先ず、その人の名前を教えてもらってええか?」

「本名は判らない。自称でトリックスター」

「トリックスター・・・。確かに本名じゃないね」

「だがソイツかもしれない。ゲイズ中将は、トリックスターが発言するだけでも嫌悪感を表していた。ああいう態度を取るのは・・・」

「犯罪者に対して、か」

「そういうわけだ」

ゲイズ中将は武闘派で、犯罪者に対しては一切の容赦がない。そのトリックスターって人がただの一般人なら、ゲイズ中将もそんな態度は見せないはず。となれば、トリックスターは犯罪者で、プライソンかもしれない、ってことになる。プライソンは最高評議会と繋がっているんだから、可能性はかなり高い。

「なるほどな。・・・トリックスターについては留意しておこうか」

「話は変わるが・・・。はやて。昨夜、寮でチラッと聞いたが、地上本部を攻撃した巡航ミサイルは、南部地方から飛来したというらしいが・・・」

「うん、そうや。六課だけやなくて、他に陸士隊舎からも報告が挙がってるからな。そやから今朝から局と教会騎士団がそっち方面を捜索中や」

「巡航ミサイルということで、南部方面に列車砲があるのはおそらく間違いないだろうな」

「ミッドへの攻撃の要としての列車砲なんだから、その警備もすごいんじゃ・・・」

「そやけど、地上本部は本格的に本局と教会への協力関係を閉ざしてしもうたからな。ミッドに残存してる応援部隊以外での増援は見込めへん上やろ」

そんな応援部隊も地上本部警備の際、大多数が撃墜されてしまった。だから実質、本局の戦力は当てにならないと思っていい。ミッドの陸士部隊も一緒に戦ってくれるけど、ガジェットの搭載してるAMFに対抗できるだけの魔導師が少ないのが困りもの。ガジェットと戦えるレベルの魔導師は、本局にスカウトしたり本人の希望で転属したりするから少ない。

(ゲイズ中将がプライソンと手を組んでまで造った兵器や、アインヘリヤルを運用しようとしたのも、それが原因みたいだし・・・)

「問題は、南部にプライソンのアジトかあるかどうかだ。推測だけでそちらに戦力を回したが、別の地方からもプライソン一派が出現しては後手に回らざるを得ない」

「今、使えるミッドの戦力をどう分担するか。それが本事件の鍵となるんだね」

機動六課。本局航空武装隊。ミッド陸士部隊。聖王教会騎士団。それがプライソン一派に対抗できる現状の勢力だ。その勢力を、列車砲・装甲列車・戦闘機・巡航ミサイル・ガジェット・スキタリス・シコラクス・アルファ達、プライソンの逮捕、それぞれに分けないといけない。

「かなり難しいね。というより、戦力差が違い過ぎる・・・」

「我われ隊長陣も分散しなければなるまい」

シグナムさんがそう言った。となれば、誰がどの兵器を担当することになるのか、になるんだけど。フェイトちゃんとアリシアちゃんが真っ先に「だったら・・・」って手を挙げた。

「言わんでも判ってるよ。2人はプライソンの逮捕に動いてもらうつもりやよ。アジト発見の報を受けたら、フェイトちゃんとアリシアちゃん、あと・・・教会騎士団からも応援を借りようか」

「「ありがとう、はやて」」

プライソンはプロジェクトF.A.T.Eの生みの親でもある。フェイトちゃんとアリシアちゃん、エリオとも因縁があるからね。それに長年追い続けていた相手だ。逮捕するのなら2人が一番の適任だって思う。
それから私たちは、それぞれが担当する兵器などを決めた。まぁ、あくまで状況が許せばだから、確実じゃないけど。ただ、フェイトちゃん達はプライソン逮捕。私はヴィヴィオ、ルシル君はフォルセティの救出。フォワードとギンガはクイントさん率いるシコラクスの撃破、という風に確定したものもある。

(待っててね、ヴィヴィオ。必ず迎えに行くから・・・!)

ヴィヴィオの笑顔をまぶたの裏に浮かべて、膝の上に置いてる両拳をギュッと握りしめた。

†††Sideなのは⇒イリス†††

地上本部、機動六課。襲撃された2つの施設を教会騎士団の代表として見てきたけど、酷いものだった。特に六課の隊舎と敷地なんて、爆撃に遭ったかのようにボロボロだった。けどそれでもルシルが戦線に出張ったからあれだけで済んだ、ってアリシアから連絡貰った。そんなルシルも、調査部から戦闘許可が出たって話だし。こちらの戦力(てふだ)はジョーカーばかりになったようなものね。

「さて、と・・・」

カリムの預言の中にあった、聖地より彼の翼が蘇り、っていう単語。聖王教会は“聖王のゆりかご”だと正式に判断した。そういうわけで、教会に残された資料や本局の無限書庫に残された資料を基に、ゆりかごを丸裸にする調査が行われてた。

(聖王のゆりかご、か・・・)

フライハイト家と六家が仕えていた聖王ゼーゲブレヒト家。その一族は皆、艦内で生まれ、育ち、そして死んで逝った。そのことから“聖王のゆりかご”なんてしゃれた名前が付けられたらしい。

――イリス。聖王教会は正式に、聖王のゆりかごの破壊を決定したわ。おそらく管理局も同じ判断を下すと思う。フライハイト家の代表として、イリス、あなたがゆりかごの最期を見届けて頂戴――

――はい。母様。しっかりと見届けます――

ザンクト・オルフェンの議会が下したゆりかごの破壊。なんか惜しい気もするけど、調査で知り得たゆりかごの危険性を考えれば、破壊するのは至極当然の結論だった。あんなものが残っていると、せっかく終わった戦乱時代にまた逆戻りしそうだもん。

「久しぶり~、ユーノ」

『うん、久しぶり、シャル。なのはからも連絡を貰ったけど、ミッドは酷い状況のようだね』

「まったくだよ。もうちょい労って、ユーノ」

『あはは。お疲れ様、本当に・・・』

聖王教会本部の敷地内にある騎士団隊舎の1つ・東方聖堂。わたしの率いる朱朝顔騎士隊(ロート・ヴィンデ)や他2隊の隊舎であるそこで、わたしは隊長室から本局へと通信を繋げた。相手はユーノ。本局の無限書庫の司書長を務める、私たちチーム海鳴メンバー共通の幼馴染だ。無限書庫にある“聖王のゆりかご”の資料の調査や、カリムの預言解釈にも一役買ってくれてる。確か、ホテル・アグスタのオークションでも何かしらやってたって話。

「ありがと♪」

『おーい! あたしも居るぞ~!』

『『私たちも居るんだけど』』

ユーノの頭の上から「アルフ!」がひょこっと顔を出して、ユーノの顔を挟むように「セレネ、エオス!?」がモニター外から顔を覗かせた。アルフは、フェイトの幼少からの使い魔で、今は引退してクロノとエイミィの子供である双子の兄妹の子守りをしてる。

「どうしてまた、あなた達が・・・?」

セレネとエオスは、スクライア一族の一員でありユーノの幼馴染であり義理の姉でもある双子の姉妹だ。チーム海鳴とは、ユーノと同様に“ジュエルシード”を巡るPT事件で一緒に戦った仲で幼馴染。確か今は、ザンクト・ヒルデ魔法学院の教員になるために、学院の教育学部に進学して勉強中のはず。

『あたしはちょくちょく手伝いに来てたぞ』

『『私たちも手伝いのためにね』』

『嘘を言わないでよ、セレネ、エオス。2人は無限書庫の一般区画で僕を見掛けて、そのまま尾行して来ただけじゃないか』

『『しーっ!』』

モニターの向こう側でわいわい騒ぐユーノ達の姿は本当に微笑ましい。けど「コホン。そろそろ本題に入ろうか」って伝える。今にでもプライソン一派が仕掛けてくるかもしれないし。ま、ゆりかごが起動する前に鍵となるヴィヴィオを救出すれば、今かかえてるゆりかご問題は綺麗サッパリ解消するんだけどさ~。

無限書庫(そっち)教会(こっち)で知り得たゆりかごの情報を纏めよう」

『うん。それじゃあ僕から報告するよ。えっと、無限書庫に残されてた情報は、先史時代である古代ベルカの時代にですらすでにロストロギア級の古代兵器で、失われた世界アルハザードからの流出物だとも言われていたみたいだね。その――』

『その性能がこれまた恐ろしいね。聖王のゆりかごは、衛星軌道上の到達して2つの月の魔力を受けられる位置に到達すると、その性能を完全に発揮できるようになるみたい』

『うん。極めて高い防御性能を発揮して、艦載砲クラスの攻撃でも容易く突破できないくらいになるようだし。攻撃法は精密狙撃や魔力爆撃といった、対艦だけじゃなくて対地対空にも出来るものばかり。さらには次元跳躍攻撃や次元空間内での戦闘できるようだね』

セレネとエオスが、ユーノの話を横から掻っ攫ってった。ユーノの眼鏡が怪しくキラン☆って光ったようにも見える。というか、「なんか詳しいね。ひょっとしてセレネとエオス、前から来てるの?」って思えるくらいに詳しかった。

『違うよ、シャル。ついさっき僕が2人に話したことを、そのままシャルに伝えただけだよ。というか、もう帰りなよ、セレネ、エオス』

そう言って呆れるユーノに、『ええー! もう少し一緒に居ようよ~!』2人が文句を言う。好きな男の子の側に少しでも長く居たいって気持ちは痛いほど理解できるから、「まぁいいじゃない」フォローしておく。

『シャルがそう言うなら。でもこれも大事な仕事なんだから、邪魔しないでね。セレネ、エオス』

『『は~い♪』』

『もう。・・・それで、そんなゆりかごの性能が完全に発揮されたら、本局の艦隊とも真っ向から戦闘が出来て、さらには勝てるほどだって僕は睨んでる。万が一にも起動した場合、止める方法は起動と運用の鍵となる聖王・・・、ヴィヴィオの奪還』

「そう、うん、やっぱりね・・・」

六課で起こった事情も聴いてる。フォルセティが敵になってしまった事、そして一度は捕まえたメガーヌさん達を解放した事。ヴィヴィオはゆりかごに必要な存在だから悪いようにはされないと思う。フォルセティも、プフェルトナーってコードネームが付けられてる以上は、戦線に立たされそうだけど酷いことはされないはず。

『僕からは以上だけど。シャル、教会に残された資料には何か他の事が書かれていたりしてない?』

「あー、うん。性能についてはユーノ達から聞いたものと同じだね。それと、こっちには魔力を受ける前に起動できる武装の資料もあったよ。ゆりかごの側面には左右それぞれ21門の42門、艦上部に14門、計56門の砲門があるみたい。精密射撃っていうのはコレのことかな」

『『56門・・・!』』

『とんでもない数だねぇ。近付くことすら出来ないんじゃないかい?』

不安そうなセレネ達に『でも下部や後部には無いから、そこを攻めれば・・・』ユーノがそう指摘した。確かにそうだけど、「その弱点をカバーするための戦闘機隊じゃない?」って思うわけで。プライソンだってゆりかごの欠点くらい百も承知のはず。だから直掩戦力を用意すると考えられる。

『確かに・・・。そうなると、いよいよ航空戦力が重要になってくるね』

「そうなんだけどさ~。ゲイズ中将が、本局や教会の介入をまた拒み始めたわけ。だからミッドに降ろした武装隊以外に新たな投入は出来ないの。ったく、あの熊さんめぇ・・・!」

『『ぷふっ、く、くまさん・・!』』

ゲイズ中将を皮肉ったニックネーム。元はルシルが、自分の仕事をゲイズ中将の秘書であり娘でもあるオーリス三佐から邪魔されたってブチキレた時(はやて談)に漏らしたモノらしい。ルシルが言ったのはえっと・・・クマ髭オヤジ、だったかな。言い得て妙だよね~。

「あとそれと、ゆりかご内の見取り図も発見できたよ」

『ホント!? もしヴィヴィオがゆりかごに移された後だってなれば、それほど重要な情報はないよ!』

「救出作戦時には確かに役立つね。えっと、あとは・・・内部の防衛戦力もチラホラと」

ユーノ達に画像データを送る。歩行型の自立型兵器で、古くからゆりかごを護る防衛戦力。他にもゆりかご内部はどこもかしこも高濃度のAMFが常時展開されていて、普通の魔導師じゃ魔法を使うことすらままならない。

「だからベルカ時代、乗艦していた人たちはみんな、対AMFの訓練を積んで自分たちは普段と変わらずに魔力を使い、AMFに慣れてない侵入者たちの魔力運用を阻害させ、有利な状況を造り出すことで艦内の防衛力を絶対のものにしていたみたい」

『現代の魔導師じゃ返り討ちに遭いそうだね』

「なんとか本局からの増援を許可してもらえるように頑張ってもらわないと。教会からも戦力投入を申請してるしね」

六課は捜査方針を“レリック”の捜査、そしてヴィヴィオとフォルセティ、クイントさんたち洗脳組の救出ってことにして、その途中に立ちはだかるプライソン一派をついでに捻り潰すことにしたみたい。地上本部はプライソンに狙いを絞っているし。まぁ悪くないとは思う。教会も便乗しようか~、って考えだ。

『シャルも出るんでしょ?』

「当っ然♪ あと、トリシュやクラリスにアンジェの部隊も出撃予定かな。戦況によっちゃズィルバーン・ローゼも投入することになったよ」

『最強の騎士が集まった少数精鋭部隊だね。それなら陸戦は問題ないかも』

「ガチの化け物集団だからねホント・・・」

剣のパラディンのプラダマンテ。拳闘のパラディンのルミナ。槍のパラディンのパーシヴァルくん。弓のパラディンのガラガースさん。鎌のパラディンのマドールさん。斧のパラディンのラヴェインさん。打撃のパラディンのラヴェインさん。騎兵のパラディンのガリフットさん。みんな馬鹿みたいに強いから、まず敗走はない。うん、断言できる。

『あー、シャルですら勝てない相手が隊長だしね~』

『トリシュ達も昇格試験後はヘコみっぱなしだし』

『学生の頃は、残念会とか開いたりして』

『『楽しかったよね~♪』』

『まだ学生じゃないかい、アンタ達・・・』

過去に思いを馳せてるセレネとエオスに、そうツッコミを入れるアルフ。学生時代って単語に、わたしも聖祥の初等部と中等部に通ってた思い出を振り返る。って、そんな場合じゃなかった。かぶりを振って、「まぁとにかく、知り得た情報は六課と本局、教会にも提出しないと」そう伝える。

『それは僕がやっておくから、シャルはいつでも出撃できるように準備しておいて。セレネ、エオス。どうせ暇してるんだろうから、このまま情報の纏めを手伝って』

「ありがとう、ユーノ。お言葉に甘えさせてもらうよ」

『『オッケー♪』』

そういうわけで「じゃあまた後で~」手を振り合いながら通信を切ろうとした時、『イリス! 緊急出撃です!』切羽詰まった様子の「トリシュ・・・!?」から通信が入った。その内容は、「プライソンが・・・!?」今まさにミッド全域に対して声明を出してるってものだった。

『――ていた男、プライソンだ。今日は次元世界に新たな記念日が生まれる日となる。ゆえに俺はこうして姿を見せた』

別モニターに映るのは、古い貴族風の衣服を身に纏った10歳前半くらいの男の子だった。見た目は幼い半面声は大人っぽい。でもまさか「あの子が、プライソン・・・!?」なの。予想すら出来ないその外見に、かなり困惑してる。

『俺たちの準備は済み、今日これより偽善の象徴であるミッドチルダ地上本部および聖王教会に対して、改めて宣戦布告をする。さぁいよいよ祭の始まりだ。俺のスポンサーである最高評議会、そしてヴァーカー・ホドリゲス大将、レジアス・ゲイズ中将、リチャード・フォーカス少将。観ているか?』

プライソンがある局員の名前を名指しした。どの人も将校クラスで、しかも最高評議会なんてトンデモない名前まで出した。そしてプライソンの映るモニターが別の映像に切り替わる。どこかの森林地区かな。かなり広大なんだけど、その中で巨大な昆虫っぽいのが何匹と崖や谷間に張り付いてるのが判る。

『そして聖王教会の諸君。観ているか? お前たちも捜していたのだろう? 残念だが俺が先に手にさせてもらった』

「森が・・・!」

広範囲の森がせり上がっていって、「まさか・・・!」分厚い地盤の下からソレがゆっくりと姿を見せ始めた。二等辺三角形状の全長数kmに及ぶ巨大な艦。間違いない。たった今まで、ユーノ達とソレについて話をしていたんだから・・・。

『旧暦の時代。一度は世界を席巻し、そして破滅を齎した絶対の力の象徴。古代ベルカの悪夢の叡智!』

「『『聖王のゆりかご・・・!』』」

トリシュとユーノの声とハモる。2人も目を大きく見開いて、モニターに映る“聖王のゆりかご”を見詰めてる。そんな中で『無論、俺の力はこれだけではない。見ろ、これが俺の全力だ』プライソンの嬉々とした声が聞こえてくる。ゆりかごの後方の森もまたせり上がり始めた。

『ゆりかごは恐ろしく強大な力を秘めている。だが発揮するには少々面倒な工程が必要だ。そのためには護りが要る』

その護りっていうのも姿を見せた。ゆりかごよりかはサイズは小さいけど、それでも局の最新鋭艦船XV級以上はある巨大な艦だ。外見はマンタ(オニイトマキエイだっけか、正式名・・・)っぽい。そのマンタ艦が、ゆりかごを先導するように高度を上げながら前進を始めた。

『聖地より蘇る彼の翼・聖王のゆりかご。ゆりかごを護り地上に畏怖を与える親鳥・アンドレアルフス』

プライソンが預言に記された単語について語り始めた。ゆりかごを先導してるマンタ艦は“アンドレアルフス”って名前らしい。確かルシルの情報の中にあった名前だったと思う。その“アンドレアルフス”の中央(マンタで言えば口の部分にあたるところ)には大きな穴があって、そこから「戦闘機・・・!」が続々発進して行ってる。

(あそこは滑走路になって・・・――っ! メガーヌさん!)

滑走路となってるそこに、メガーヌさんとルーテシアとリヴィア、そして小さな融合騎アギトの姿があった。それに地上本部を襲った、セッテ、オットー、ディードの姿もある。

『共に翔けし子鳥・ナベリウス、シームルグ、アンドラス、シャックス、マルファスが、地上に戦火を齎す』

見慣れてる戦闘機4種とは別に、新種の戦闘機が姿を見せた。

『そして、地を這う鋼の龍・ケルベロスとオルトロス、咆哮たるディアボロス』

映像が切り替わる。草木1本と無い荒野地区に不自然な物がデカデカと存在してた。一目で地上本部を襲撃したミサイルを発射したのがアレだって判った。巨大な砲台を2門と備えた列車砲。アレが“ディアボロス”。そして牽引している4台のツルッツルな表面と小さな砲台を何門も備えた装甲列車。アレらが“ケルベロス”と“オルトロス”。

「クイントさん・・・」

さらにはクイントさん、それにノーヴェ、ウェンディ、ディエチの姿もある。そして再びプライソンの映る映像に切り替わった。奴はコツコツと足音を鳴らして歩く姿を、わたし達に見せつける。アングルは左側から後姿へと変わっていって・・・

「ヴィヴィオ!」

プライソンの向う先、背もたれがかなり高い玉座と思われる肘掛椅子に座ってるヴィヴィオが居た。けどフォルセティの姿は無かった・・・。

 
 

 
後書き
ソブ・ベヘイル。サラーム・アレイコム。
とうとう聖王のゆりかごが起動し、他の兵器もその偉容を管理局・聖王教会に見せつけました。まぁまだ出してない兵器もありますが、それはまぁ次の次から登場になりますかね。次話は、少し時間を巻き戻して、声明を出す前にプライソンは何をしていたか、の話になります。そして次からプライソン一派との開戦となります。
 
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