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提督はBarにいる。

作者:ごません
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冬はやっぱりおでんだね。

 金剛達が幹部会で何とも生々しいやり取りをしていたのと同じ頃ーー…

「さ~て、ボチボチ作りますかねぇ」

 金剛の注文を受けた提督が、その仕込みを始めようとしていた。まずは、おでんの汁を作る為の出汁を取りつつ作れる、煮豚ならぬ煮鶏……鶏の煮付けを作っていく。

《汁は捨てないで!秘伝のゆで鶏》

・鶏モモ肉:300g

・出汁昆布:7cm分(無ければ昆布茶大さじ1.5)

・醤油:大さじ3

・酒:大さじ6~8

・水:1リットル



 まずは下拵えとして、鶏肉を霜降りにする。霜降りというのは表面だけに火を通すという調理法で、この後更に煮込んで味を染み込ませる為、表面に火が入ればいいのだ。その間に、別の鍋に水1リットルと昆布を入れ、出汁を取っておく。水出しだと時間がかかるから、お湯に浸けた方が早いぞ。

 鶏が霜降りになったら、表面に浮いている余分な脂等をサッと洗う。軽く洗って落ちる程度で良いので、脂は全て落とさない。

 洗い終わった鶏肉を昆布を入れてる鍋に入れ、醤油、酒を加えて火にかける。強火で加熱し沸騰して来たら、アクや余分な脂を掬い、弱火で30分、時々引っくり返しながらコトコト煮込む。その間も脂は浮いてくるので細かく掬おう。

 30分煮込んだら鍋から出汁昆布と一緒に引き上げて、食べやすい大きさにカットして完成。そのままでもいいし、食べるラー油と醤油を1:1で混ぜたタレをかけても美味い。……さて、ここからが本番。鶏を煮込んだ煮汁を使って、おでんを仕込んでいく。


《ゆで鶏のスープを再利用!鶏だしおでん》

・ゆで鶏のスープ:約1リットル

・醤油:大さじ1

・みりん:大さじ1弱

・お好みのおでんの具



 スープは既に味付けしてあるので、醤油とみりんを少し加えて味を整える程度でいい。ウチのおでんは家庭のおでんだから、その日の仕入れと俺の気分で中身が変わるから、毎日食っても飽きないと好評だ。……ただ、絶対に欠かせない具材もあるけどな。今回の具材は

・大根

・蒟蒻

・昆布

・厚揚げ

・がんもどき

・はんぺん

・ゴボウ巻き

・ちくわ

・さつま揚げ

・なると

・卵

・ウィンナー

・じゃがいも

・巾着3種(餅巾着、月見巾着、五目巾着)




 以上だ。ちょっと意外な食材もあるかも知れんが、そこは家庭の味という事で、1つ。ウチだとあとは銀杏とか、小ぶりの玉ねぎ丸ごと、湯剥きしたトマトを丸ごと入れる事もある。後は白滝とか、焼き豆腐とか、ロールキャベツとか……ホントに気分で具材が変わる。

 さて、具材の下拵えと行こう。大根は皮を剥き井の字に隠し包丁を入れて、塩を入れた熱湯で下茹で。少し芯が残る程度がベストだな。大根の下茹では大根を柔らかくして味が染み込みやすくするのと共に、下茹でしておかないとせっかくのおでんつゆが大根臭くなってしまう。蒟蒻は厚みを半分にして、表面に味が染みやすくなるように格子状の隠し包丁を入れてから下茹で。……よく『蒟蒻って下茹で要るの?』と聞かれるが、美味い蒟蒻が食いたいなら必要だ、と答えておく。

 蒟蒻はご存知の通り、蒟蒻いもという特殊な芋を固めて作られている。その時に凝固剤として加えられる水酸化カルシウムが(昔は灰だった)蒟蒻の中に残っているし、加工の時の水分が中に閉じ込められている。こいつが曲者で、蒟蒻独特の生臭さ等の原因になっている。だからこそ灰汁抜きの意味も込めて下茹でするのさ。まぁ、下茹ですると味も染み込みやすくなるしな。灰汁抜きには他にも塩揉みするか、電子レンジでチンする、という方法がある。ただし、電子レンジだと加熱しすぎて蒟蒻が爆発、なんて笑えない事が起きる可能性がある。注意しよう。

 お次はがんもどきと厚揚げ、巾着用の油揚げも下茹で。余分に吸ってる揚げ油を抜く為にな。……おっと、ゆで卵も作っとかねぇとな。それにじゃがいもも蒸かすか電子レンジでチンして、と。

 油抜きが終わった油揚げで、巾着3種も作っておこう。油揚げを半分に切り、中央から裂いて袋状にし、餅巾着は切り餅を小さくカットして7割程に余裕を持たせて中身に詰め、口を干瓢で縛る。五目巾着は鶏挽き肉か豚挽き肉に人参、椎茸、長ネギ、生姜、ゴボウ等をみじん切りにして練り込み、油揚げに詰める。月見巾着は油揚げの中に生卵を落とすのだが、油揚げから白身が染み出してしまうので、入れる寸前に詰めてそのまま鍋に放り込む。



 さて、具材の下拵えが終わったら煮込んでいく訳だが、煮る順番というのにも気を遣う必要がある。長時間煮込んで美味しい具材と美味しくない具材が存在するのだ。個人的な分析による物だが、味の染み込みにくい具材から煮込んでいき、魚肉の練り物は食べる20分くらい前が投入のベストタイミングだと思う。練り物は煮過ぎると折角の魚介の旨味がつゆに溶け出し過ぎて、スカスカな味になってしまう。しかしその旨味が大根などに染み渡り、美味しくしてくれるのもまた事実。このジレンマを解消する方法も実はある。

 俺は弱火で温め直しているおでんつゆの中に、冷凍庫から取り出した茶色い氷を鍋の中に放り込んだ。こいつが秘密兵器で、その正体は前回作ったおでんつゆの残りだ。こいつには練り物の旨味もたっぷり染み出してるからな。100cc程の少ない量だが、これで劇的に味が変わる。これは『元だし』と呼ばれるテクニックで、やり方は多少違うがプロのおでん屋等でも用いられているテクニックだ。

 おでんつゆが温まって来たら、大根、じゃがいも、昆布、卵、蒟蒻を入れて弱火で煮込む。気を付けなければいけないのは絶対に沸騰させない事。じっくりコトコト煮込んでやるのが美味しさの秘訣だ。大根が柔らかくなっていい感じになってきたら、一旦火を止めてウィンナーと厚揚げ、がんもを入れる。おでんだけでなく煮物ってぇのは、冷めていく時に味が染み込むからな。置いておけるなら5~6時間、デキレバ半日程は置いておきたい。

 そして仕上げる20分前、もう一度火にかけて温め始めたら、ちくわやさつま揚げ等の練り物と、巾着をを投入して煮込む。練り物を入れてからは蓋をしてはいけない。練り物が膨張してしまう。……特に、はんぺんの膨張率はビビる。こうした手間暇をかけて提督特製おでんは完成するのだ。




『いただきま~す!』

 幹部達が一斉に挨拶をして、ワイワイと宴が始まる。提督も金剛の隣にどっかりと腰掛け、熱燗片手におでんをつつく。提督の皿に盛り付けられているのは、大根、じゃがいも、ウィンナー、がんも、さつま揚げだ。

「まずはがんも、と」

 たっぷりと汁を吸ったがんもにかぶりつくと、じゅわっと熱々の汁が溢れ出す。

「あつつつつ……」

 熱がりながらも一度、二度と咀嚼すると、出汁の旨味とがんもの味が合わさって幸せが口に広がる。大根もたっぷりと汁を吸って、ホロホロと口の中で崩れる。ウィンナーは皮がパリッと中から肉汁と出汁のミックスジュースの洪水だ。さつま揚げもふわふわでありながらしっかりとした歯応え。

「さて、お楽しみのじゃがいもだ」

 実はおでんの中で一・二を争う程じゃがいもが好きだったりする。つゆの染み込んだホクホクしっとりとしたじゃがいもは、そのまま食べても美味いが辛子をベッタリと付けて、大きく箸で割って口に放り込む。熱々ホクホクのじゃがいもに、旨味たっぷりの出汁、そこに辛子がつーんと鼻に抜けていく。そこに熱燗をグッ!と流し込む。

「かぁ~っ!たまらんなぁこれは!」

「随分美味しそうですね、darling」

 見るとジト目の金剛が此方を睨んでいる。

「どした?随分と不機嫌そうだが」

「そうです、私怒ってマス」

 はて?何か怒らせるような事をしただろうか?

「何か怒らせるような事をしたっけか?」

「当たり前デース!なんで私よりも加賀と赤城の回数の方が多いんデスか!」

 回数……あぁ、あれか。

「仕方ねぇだろ、お前が気絶してんのに俺に襲えってか?」

 金剛が回数が少ないのは、俺もハッスルし過ぎて途中で金剛が気絶してしまうからだ。流石に気絶している相手を襲うような趣味はない。

「なっ、ななな……何を大声で言ってマスか!?」

「おめぇが始めたんだろうがこの色狂い戦艦!」

「……二人とも、仲が良いのは宜しいけれど、ボリュームは抑えた方がいいと思うわ」

 背後に振り返ると、呆れた顔をした加賀が立っている。周りを見ると、全員がこっちを向いて聞き耳を立てている。畜生、赤っ恥だ。俺は残っていたじゃがいもを口に放り込み、

「辛っ!」

 辛子に思いっきり噎せた。 
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