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提督はBarにいる。

作者:ごません
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多摩は煮込みで温まる?・その1

『今日は温かいのを多めに仕込んどくか……』

 艦娘を相手にしてこんな事(料理の振舞い)をやってると、虫の知らせか解らんが、そんな風にピーンと来る事がある。そしてそれがまた当たるんだ。

「うぅ……寒かったにゃ」

「おぉ、多摩か。お疲れさん」

 ガタガタと震えながら店に入ってきたのは球磨型軽巡の次女・多摩。あの震えている様子を見る限り、北方海域からの帰りらしい。

「護衛の依頼で偉い目にあったにゃ」

「どこまで行ってきた?単冠湾辺りか?」

「にゃあ……ウラジオストクまでにゃ」

「それはそれは。長旅お疲れさんだったな」

 そんな会話を交わしながら、今宵のお通しの『カレー味卵』を出してやる。殻を剥いた半熟の茹で卵を、カレー粉を加えためんつゆの漬け汁に半日以上漬けておいた代物だが、こいつがまた飯にも酒にもマッチする一品だ。漬け汁の比率は次の通り。

《カレー味卵》

・茹で卵:3個

・めんつゆ(3倍濃縮):50cc

・水:100cc

・カレー粉:小さじ1



「飲み物は何にする?」

「いつも通り、熱燗にゃ」

「燗の付け具合は?」

 俺がそう尋ねると、今更それを聞くのか?とでも言いたげにフンスと鼻を鳴らし、

「勿論とびきり燗だにゃ」

「いいのか?猫に刺激物はマズイだろ」

 と、いつものからかい文句を投げかけてやる。するといつもの返事が返ってくるのだ。

「だ~か~ら~、多摩は猫じゃないにゃあ!」

 顔を真っ赤にして憤慨しているが、にゃあにゃあ言い続けている奴に『猫じゃない』と言われても、説得力が皆無だ。しかもウチの多摩は熱燗とか辛い物等が大好きな上に、猫舌でもない……猫のクセに。しかし、こんなイジられキャラ全開な多摩ではあるが、ウチの鎮守府では『稼ぎ頭』の一人なのだ。




 以前にもチラッと話したが、ウチの鎮守府はその巨大さも相俟って、特殊な業務形態を執っている。艦娘が主な決め事や事務処理を行っているだけではなく、運営資金も自力で稼いでいるのだ。

 普通の鎮守府では大本営から送られてくる予算で鎮守府を運営し、資源等は所謂『遠征』で稼ぐのが一般的だ。しかしウチは政府からも認可を得て、企業からの護衛任務等の申し出を、遠征とは別口の『依頼』と称して、独自に契約を結んでその業務の報酬を得ているのだ。当然ながら企業からの報酬は莫大であり、鎮守府の財政の大きなパーセンテージを担っている。何せ敵は深海棲艦、太刀打ち出来るのは艦娘しかいない。大企業としては利益が目減りしても安全を金で買った方がまだ得なのだ。言ってみれば『ボロい商売』である。

 値段交渉もピンキリで、護衛対象の規模・到着予定地・運ぶモノ・借り受けたい艦種及び数によってその価格は変化する。当然燃費の悪い上に鎮守府の大きな戦力である戦艦や空母は報酬が跳ね上がり、逆に低燃費の軽巡や駆逐艦は低コストでの護衛が見込める。特殊な例としては水上機母艦も護衛任務には人気で、索敵も対潜戦闘も、ある程度の砲雷撃戦までこなせる『何でも屋』な彼女達は引っ張りだこである。ウチの鎮守府でも瑞穂・秋津洲の他に甲標的を運用可能な艤装の千歳・千代田姉妹を3人ずつ確保し、護衛依頼をこなしている状況だ。

……話が大分逸れたな。多摩の話に移ろう。今までの話を統合すると、当然軽巡に護衛依頼の旗艦のお鉢が回ってくる事が多い。駆逐艦を指揮する能力があり、速力も快速で低燃費とくれば、依頼主からすれば必然的な選択だ。その中でも多摩は群を抜いて護衛依頼の旗艦に据えられる事が多い。凄い時には名指しでご指名を受ける事もしばしば。それが何故かと問われれば、軍艦時代の経験豊富さと、俺の鍛え上げた戦闘力を買われての事だろう。

 軽巡『多摩』は戦前、駐日米大使の遺体を本国まで届けたり、戦中には北は千島列島南はラバウルまで縦横無尽に駆けずり回っていた艦である。そんな前世の影響か、日常会話位ならこなせる程度の英会話力と広い海域の知識が備わった艦娘として生まれて来たのだ。そこに俺が直々の戦闘訓練である。普段は姉の球磨と共にペットというかマスコットというか、アニマル的な扱いをされている多摩だが、一度スイッチが入るとその暴れっぷりはアニマル(動物)というより、ビースト(野獣)という表現がしっくり来る位の大暴れを見せる。そんな所を買われてか、多摩は遠征や直接的な海域攻略というよりは、財政的な面で鎮守府を支えているのである。



『まぁ、普段はどう見たって気の抜けた猫丸出しなんだがな……』

 そんな事を考えていると、ジト目の多摩がこちらを睨んでくる。

「むぅ、何だか今とっても失礼な想像をされている気がしたにゃ」

「いや、そんな事はないぞ?……ほれ熱燗が温まったぞ」

 こいつめ、やっぱり野性の勘が働きやがる。やっぱり猫じゃねぇか。俺のそんな想像は露知らず、多摩は熱くなった徳利をおしぼりで包んで傾け、猪口に酒を注いでいる。猪口の淵ギリギリまで注ぎ、くいっと煽る。途端に顔がキュッと歪むが、直ぐにほどけてとろ~んと蕩けた表情になる。とびきり燗まで燗を付けてしまうと、アンモニア臭いのとキツい口当たりでとても飲めたモンじゃないと思うのだが……

「そんなに美味いか?とびきり燗」

「美味しいにゃ。この鼻にツーンとくる感じと、喉がキュッとなる感覚が堪らんのにゃ」

 まぁ、好みは人それぞれという事か。

「で、つまみはどうする?」

「そうだにゃ……温かい煮込みとかスープがいいにゃ」

 ほら来た。予想がどんぴしゃだ。

「あいよ。直ぐに支度すっから、ちょっと待ってな」

 そう言うと俺は、予め仕込んでおいた一品目の煮込み料理を温めるべく火を入れた。……おっと、どっちから食うか聞いてからにしねぇとな。

「多摩、『どて焼き』と『もつ煮込み』……どっちがいい?」

「にゃ!?きゅ、究極の選択だにゃ……う~…どっちも食べたいにゃ」

 だろうな、そう来ると思ったよ。

「心配すんな、ちゃんとどっちも食わしてやっから、順番の問題だ、順番の」

「にゃ?そうなのかにゃ……ならもつ煮込みがいいにゃ」

 さて、じゃあ温めるとしますかね。

《居酒屋の十八番!もつ煮込み》※分量10人前

・豚モツ又は牛モツ:500g

・木綿豆腐:1丁

・こんにゃく:1枚

・大根:1/2本

・人参:1/2本

・ゴボウ:1/2本

・ネギの葉:2本分

・生姜スライス:2枚

※煮汁※

・水:1リットル

・味噌:大さじ4

・酒:大さじ2

・醤油:大さじ2

・みりん:大さじ2

・砂糖:大さじ1

・にんにく:2片分

・生姜:1片分

・ごま油:大さじ1



 さぁ、作っていこう。今回は分量が多いが、こういう煮込みってぇのはある程度の纏まった量で作らねぇと美味くねぇからな。そこは了承してくれ。ゴボウはささがきにして、大根・人参は銀杏切りにする。こんにゃくも食べやすい大きさにカットして、熱湯で3分程下茹でしてアク抜きと臭み消しをしておく。豆腐も食べやすい大きさにカット。

 モツはネギの葉、生姜スライスと共に熱湯にドボン。アク取りをしながら強火で10分下茹でする。茹で上がったら、ザルにあけて流水で軽く洗い、ぬめりを取る。この時、モツの脂身を落とさないように気を付けて洗うように。モツの旨味の殆どは脂の旨味だからな。脂っこいのが苦手ならここでしっかりと洗って脂を落としてくれ……まぁ、ここは好みだな。

 鍋に水(煮汁の分量分の)を張り、モツ、大根、人参、ゴボウを入れて煮込む。野菜が柔らかくなったら、煮汁に使う調味料全てと豆腐、こんにゃくも入れて煮込む。合わせ調味料を予め作っておけば楽だぞ。後は煮汁が2/3位になるまでコトコトと煮込む。適宜アク取り等はするようにしてくれ。

 煮汁が煮詰まって来たら味見して、微調整。これで完成だが、煮込み料理ってのは出来立てよりも寝かして暖め直した奴の方が、味が具材に染み込んでて美味いんだ。出来る事なら一晩くらい寝かして、食べる前に温める。盛り付けて、上に刻みネギと七味でも振ってやりゃあ、もう堪らんね。

「はいお待ち、『提督特製もつ煮込み』だ」

「待ってたにゃ……ん~!このしょっぱさで酒が進むにゃ」

 嬉しそうにはぐはぐともつ煮込みにがっつく多摩。さて、お次はどて焼き……じゃあ味の濃いのが続くから、別のを作りますかね。 
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