| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

提督はBarにいる。

作者:ごません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

明石さん@自重しない

「大体何ですかコレ!ローテーションて、事務作業か何かですか!?しかもこの週の日曜!今週“は”休みって……“は”って何ですか“は”って!下手すりゃ一週間毎日搾り取られる週もあるって事ですか!」

 明石の暴走は止まらない……というより、先程よりも勢い付いている。

「ちょっといいかしら?」

 そんな明石に対して、淡々とした語り口で挙手をするのは雲龍。正規空母の中でも提督への執着心No.1と噂される彼女が、何を語るのか。

「そのローテーション表は提督も納得の上で作られた物のハズ。だったら、明石が口を挟むのはお門違いじゃないかしら?」

「うぐ……だから、私は提督を含めて皆さんの体調管理を任されている者として…」

「それなら、私達は心配要らないわ。提督からの栄養補給(意味深)で元気だもの」

 援護射撃をしてきたのは、まさかの加賀。提督から搾り取っておいて栄養補給も何もないと思うのだが、そもそもアレは栄養分足り得るのか?という突っ込みはともかく。

「一番搾り取ってる回数が多い加賀さんがそういう事言ってたら台無しですよもう!ですから、私はアンタ等よりも提督の体調を心配してるんですっ!」

 更にヒートアップしていく明石に対して、まるで闘牛士のようにそれを往なす加賀と雲龍。

「でもさぁ、実際のトコ検査では異常無いんでしょ?」

 瑞鶴もそこに口を挟んだ。確かに、明石本人が検査をして『異常無し』と太鼓判を押している。それなのにこの反応というのは少し妙な物がある。

「そうよねぇ、さっき自分で異常ありませ~んって言ったのに」

 陸奥もそこに疑問を持ったのか、疑いの眼差しを明石に向ける。何しろ、トンデモギミックを鎮守府中に仕込んでしまうようなマッドサイエンティスト・明石である。提督の検査にも手抜かりがあろうはずがない。

「もしかして……明石も提督にホの字だったりして?」

 飛龍の一言が核心を突いたらしい。途端に真っ赤になってそっぽを向く明石。対して飛龍はからかいのつもりで言っていたらしく、地雷を踏んだとばかりに『やっちまった』という表情をしている。




「えぇそうです、そうですともっ!私も提督に惚れてるんです!でも私は工作艦……錬度を上げる機会なんて演習くらいしか無いんですよ!?それで私がケッコンする頃には枯れてたらどうするんですか!」

「だったらそれを何とかするのがメディカルスタッフの貴女の仕事じゃないのかしら?」

「枯れる一番の原因になってそうな加賀さんに言われたくないです!」

「私だけじゃないわ、赤城さんもよ」

「なんですか、提督のジョイスティックで協力プレイですか!?私は触った事すら無いのに……ズルい!」

 とんでもない会話をしている気がするが、明石の暴走は止まる気配が無い。何とも生々しい会話に、こういう話に耐性の無い娘は真っ赤になって俯き、プルプルしている。

『ヘイ那珂ちゃん、貴女平気なんデスか……?』

 金剛は隣に座っていた、最近ケッコンしたばかりの那珂に小声で話しかけた。

『あ~、だってこんな下世話な話なんて前世で散々聞いてるじゃないですか。流石に慣れてますよ』

 艦隊のアイドルを自称する娘がこんなにスレてていいのだろうか?なんて事を思った金剛だったが、これもある意味個性にはなるのか。姉2人は恥ずかしさで丸くなってしまっているが。さて、このカオスな状況下をどう納めるかと思案し始めた時に動き出した娘が1人。

「あの~、結局提督の負担軽減の為の話し合いがしたいんですよね……?」

 おずおず、といった感じで手を挙げてその場を制したのは、照れ屋さんで知られた金剛の妹・榛名だった。最近何かが吹っ切れたらしいとは聞いていたが、以前はこんな場面で発言出来るような娘ではなかった。

「あ~……榛名もこう言ってる事デスし、一旦落ち着くね2人共。OK?」

 渋々、といった様子で着席する明石と加賀。ちょうどそのタイミングで金剛の携帯が鳴る。

『ハーイ、どうしましたdarling?』

『お~、注文されてた料理が出来たんでな。届けに来た』

『了解デース。今会議室のドアを開けますヨ』

「……というワケで、今darling本人が来ましたから直接聞くとイイネ」

 瞬間、会議室に緊張が走る。先程までは女性のみだからこそ出来たような下世話な話、議題の張本人の前で出来る訳がない。

「よぅ、会議お疲れさん。大分白熱してたようだが、一体何の話だ?」

 会議室の扉が開かれると、大鍋を抱えた提督が入ってきた。その顔には、明石が言うような疲労の色は見えない。周囲を心配させまいと、気遣っているのだろうか。

「実はdarlingの事について話してたんデスよ」

「あん?俺の事?」

 金剛は包み隠さず、最近疲れが取れないとボヤいていた提督の疲労の原因は、多すぎる夜戦(意味深)のせいではないかと議論していたと伝えたのだ。

「なんでぇ、そんな事か。ありゃ俺の勘違いだ」

「へっ?」

 途端に目が点になる明石。

「丁度明石にサプリメント貰いに行った辺りなぁ、他の鎮守府との調整やら何やらが立て込んでてよ。馴れねぇ上に嫌いなデスクワークやったモンだから、それで疲れちまってよ」

 いや~、歳は取りたくないモンだ!と豪快に笑う提督。夜戦(意味深)の方は特に問題なかったらしく、今までと大差ないペースだったのに疲れるワケ無いだろ?というのが本人談。それをサラッと言ってのける辺りが提督らしいと言えば提督らしいが、要するに……

「え、もしかして私の勘違い?」

「……明石さん、ちょっとお話があります」

 青ざめていく明石の肩を、絶対に逃がさんと言わんばかりに掴む加賀。明石がその後加賀を含めた数名に引き摺られて何処かへと連れ去られたのを見送りながら、それはそれとして幹部会参加者の興味は提督の料理に移っていた。

「それで提督、今日のメニューは?」

 めちゃくちゃキラキラした顔で聞いているのは、蒼龍だ。

「『特製鶏の煮付け』と『鶏出汁おでん』だ」

「やった、提督のおでん!」

 見ると提督の店の常連は皆嬉しそうにガッツポーズをしている。それもそのはず、提督の仕込むおでんは『Bar Admiral』の秋から冬にかけての定番メニューで、毎日切らさないように仕込まなければならない程の人気メニューなのだ。

「さぁて、熱燗も支度できてるし、これで一杯引っ掛けようじゃねぇか!」

 提督の掛け声と共に、歓声が上がる。さぁ、宴会のスタートである。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧