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提督はBarにいる。

作者:ごません
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幹部会?いいえ、女の戦いです。

 
前書き
※注意!※

今回、ボヤかして直接的な単語は出していませんが、かなりシモの話が出てきます。嫌いな方は読み飛ばしませう。 

 
 ブルネイ第一鎮守府・筆頭嫁艦にして提督の正妻というポジションにある金剛は、頭を抱えていた。新たな深海棲艦が見つかった訳ではない。かといって、鎮守府の運営に大きな問題が起きた訳でもない。……いや、ある意味大問題ではあるのだが、他の鎮守府では普通起こり得ない問題である。

「だから、このままだと提督の提督の寿命がヤバいんですってば!」

「……あら、それを何とかするのがメディカルスタッフ兼任の貴女の仕事じゃないのかしら?明石さん」

 目の前で睨み合いを続けるピンクヘアーとジト目のサイドテール。明石と加賀が先程からギャーギャーと怒鳴り散らしながら揉めているのが、『提督との夜の生活』に関しての事なのだ。



 話は数時間前に遡る。その日、鎮守府での通常業務終了後、月に一度の『幹部会』が開催された。幹部会、とは名前が付いてはいるが、参加者の殆どはケッコンカッコカリを果たした者……つまりは嫁艦に加え、鎮守府内部を運営する為に重要なポジションに就いている艦娘を交えて、鎮守府の潤滑な運営の為に議論を交わす場なのである。主な参加者は、

・嫁艦全員(但し、参加は自由意思)

・大淀(総務担当)

・明石(工廠、資材管理担当)

・間宮(主計科担当)

・川内(警備班班長)

でほぼ全員。但し、嫁艦については随時増えていくという『最早これ幹部会でもなんでもなくね?』という代物である。しかしこの場で大きな意思決定などが為される場合も多く、この鎮守府では重要視されている催しでもあった。

「え~、それでは今月の幹部会を始めたいと思います。まずは先月の収支報告から……」

基本的には議長は大淀。筆頭嫁艦である金剛がやるのが本筋なのだろうが、そこは適材適所。自分がやると話が進みにくくなるのは金剛自身が一番よく解っていた。金剛の役割というのは、揉めた際に提督代理として仲裁をして、最終的判断を提督に仰ぐ、という物だ。そもそもこの鎮守府の運営理念は『独立自治』であり、一から十まで提督の意思が介在するという事がない。艦娘達に運営の殆どを任せ、本人達の自主性を促し、誤った方向に向かおうとした時のみ修正舵をくわえる。そうやってこの巨大鎮守府は成り立ってきた。それこそ月毎に様々なイベントは許可されるし、一部地域では認められる事も少ない鎮守府外への外出もバンバンOKが出る。他の鎮守府から演習にやってきた艦娘には『ここは楽園のようだ』と言われる事もしばしば。……まぁ、この自由は走馬灯が何度か見えるようなドS提督特製の苛烈な訓練を乗り越えてこその物なのだが。

 そんな事に思いを馳せている内に、幹部会は滞りなく進行していたらしい。収支も大儲けに近い黒字、新海域の攻略も順調。備蓄も間もなく倉庫の容量最大に達するとの事で、問題など全くない。

「さて、報告しなければならない内容は以上です。後は皆さんの中から特に問題提起したい議題が無ければ、懇談会に移りたいと思いますが?」

 懇談会。このつまらない幹部会の一番の楽しみでもある。会議の後で腕自慢が料理などを持ち寄り、宴会を開くのだ。なんだ、いつもの事じゃないかと読者諸君は思われるかも知れないが、そこは嫁艦という共通項を持った者同士、互いにしか解らない苦労や不満もあるもので、そういう愚痴や不平不満を吐き出す場でもあるのだ。何より、今回は大量のケッコンがあった直後で新規参加者も多い。そこで提督に皆で食べられる料理を、と金剛はサプライズで注文しておいたのだ。ここ最近は揉め事も無いしこのまま会議は閉幕、と思っていたその時、

「ちょっといいですか?」

 と手を挙げた者がいた。工廠と資材管理を任されている明石だ。この明石の挙手が、冒頭の口論の始まりでもあったのだ。




「え~、今回私が発言させて頂きますのは、工廠担当でも資材管理担当という立場でもありません」

 明石は一言目にそう断りを入れた。この明石、メインの業務は工廠と資材の管理なのだが、その他にも艦娘や職員のメディカルスタッフや酒保の仕入れ担当など、他の部署にも片足突っ込んでるような状態で、鳳翔さん並みのワーカホリック状態なのである。本人はその状況を気に入っているようなので、何も言うまいが。

「今回はメディカルスタッフチーフとして言わせて貰います。……アンタ等提督殺す気かいっ!」

 バァン!と机を叩く音に、何人かウトウトしていた艦娘がビクッ、と跳ねる。フゥフゥと顔を真っ赤にしながら荒く息を吐きながら明石は説明に使うのか、ノートパソコンを起動した。

「え~、状況を掴めていない方の為にも、資料を交えてご説明します。事の発端は2週間前、医務室に珍しく提督がやって来ました」

 それは確かに珍しい、と金剛は唸る。あの就寝中心臓に杭でも刺さないとくたばりそうにない提督が医務室に。珍しいどころの話ではない。

「話を伺うと、どうにも疲れが抜けないのでサプリメントか何かを処方して欲しいと。一応検査もしましたが、健康状態には特に問題はありませんでした」

「……ならば、何故提督程の頑強な男が倦怠感を訴えているのだ?」

 そこに疑問を投げ掛けたのは武蔵だ。ケッコンしたのは最近だが、以前から鎮守府内のご意見番的ポジションで、密かに鎮守府内の揉め事を解決してくれたりしていた。

「そうですね……私達姉妹が言うのもアレですけど、提督のスタミナは艦娘と比べても見劣りするどころか勝っていると思いますし」

 そう付け加えて来たのは大和だ。確かに以前、自ら艦娘達を鍛えていた時には、ウェイト代わりだと駆逐艦の娘を2人おんぶして、20kmのロードワークをこなしたりしていた。あの時は本当にこの人は人間なのだろうか?と尋ねたくなったのを金剛も覚えている。

「そこで私は提督に尋ねました。『何か思い当たる原因はありませんか?』と。すると、提督は私に一枚の紙を提出しました。それがこれです!」

 プロジェクターを介して、巨大スクリーンに映し出される一枚の紙。そこには、『提督のメンテナンス(意味深)ローテーション表』と書かれていた。夜のメンテナンス(意味深)とは、つまりそういう事である……そう、夜戦だ。それも、川内大好きな夜戦(物理)ではなく、夜戦(意味深)のローテーション表である。

「そこにあったのは一週間分の提督のお相手と、回数が書き込まれていたした。別にケッコンしている訳ですから、私に止める権利はありませんよ?えぇ。ですけどねぇ……アンタ等サカリ過ぎなんだよ!」

《提督のメンテナンス(意味深)ローテーション表》

・月曜:長門……8回

・火曜:扶桑&山城……12回

・水曜:赤城&加賀……27回

・木曜:翔鶴……4回

・金曜:武蔵……10回

・土曜:金剛:7回

・日曜:今週は休み



 何というか、どこかの業界のチョコボールさんとか加藤さんとかも真っ青な数値である。しかも、提督は夜間Barの営業をしている為、日中などの人目の付かない所などで搾り取られている計算になる。何が、とは言わないが。

「そら疲れるわ!昼は提督業、夜はBarのマスター、その上性欲旺盛なアンタ等にこんだけ搾り取られてたら疲れるわ!っていうか常人ならとっくに枯れて腹上死しとるわ!」

 ギャアギャアと喚き立てる明石に、物的証拠を突き付けられてそっぽを向く者、初めて知った衝撃の事実に愕然とする者、顔を真っ赤にして俯いてしまった者……リアクションは様々だ。そんな中、

「ヘイ明石、数字に間違いは無いんデスね……?」

 金剛はプルプルと震えていた……怒りに。

「えぇ、提督本人にも確認しました」

「何でワタシよりも回数が多い娘がいるんデスか!」

 金剛の絶叫が響いた瞬間、会議室に居た艦娘達全員から『え、そっち!?』という突っ込みが金剛に入った。穏やかに終わるハズだった幹部会は突如として、下世話な話の飛び交うリングというか、女の意地とプライドと何かしらの欲望渦巻く戦場へと変貌を遂げたのだった。 
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