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提督はBarにいる。

作者:ごません
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ブルネイ第一鎮守府・戦力考察

 
前書き
 ※注意!※

 今回から数話はメシテロ要素が皆無です。そして深夜テンションで書いたのでかなりグダグダの可能性があります。読み飛ばしても今後の展開に殆ど影響はありません。それでもいい、という方だけどうぞm(_ _)m 

 

 時刻は総員起こしには僅かに早い、05:50付近。場所はブルネイ第一鎮守府・錬武道場。まだ起きていなくてもいい時間だというのに、その道場の中は異様な熱気に包まれていた。この鎮守府に所属するほぼ全員が、そこに集まっていたのだ。しかし大声で騒ぐのではなく、ザワザワと周囲と話してざわつく程度の声。まるで今から、何かが起こるのを待っている……そんな雰囲気だ。その道場の中心には一人の艦娘が正座して黙想する形で待ち人を待っていた。傍らには愛刀を置き、目を伏して集中力を高めている。彼女の名は木曾、この鎮守府に所属する重雷装巡洋艦である。何故彼女がこんな事をしているのか?その答えを語るためには、数日前まで話を戻さなくてはならない。

 夏の大規模作戦も終了し、さてお次は毎年の行事になりかけている秋刀魚漁だろうか?と鎮守府が穏やかな日常を取り戻しつつあった頃、新たに10人のケッコンカッコカリが発表された。面子としては隼鷹・飛鷹・千歳・千代田の軽空母が4人、神通・川内・那珂の軽巡が3人、夕立と綾波の駆逐艦が2人。駆逐艦からは初のケッコン者が出たと祝福と怨嗟と憤怒の声が上がったらしい。そんな面子の中に木曾は居たのだ。

 元々球磨型の軽巡だった木曽は直ぐ上の姉2人同様、過去に重雷装巡洋艦への改装案があった事と、この鎮守府の提督が戦艦や空母の火力同様、雷撃等による先制攻撃を重視していた為、着任早々から集中的に鍛えられ、第二改装への時間はそれほどかからなかった。その後は姉の大井・北上らと分担しつつ雷巡としての任務を果たして多数の大規模作戦に従事、先日の大規模作戦に於いて錬度が限界値に達した。

「まずは作戦完遂と錬度限界値達成、おめでとさん」

 作戦完遂祝賀会の翌日、執務室に呼ばれた木曾はこの鎮守府の主・金城零二と対面していた。

「さてと、めんどくせぇ話は無しだ。ウチの慣例通り、お前さんにゃこれを受け取る権利がある」

 そう言って差し出された小箱の中にはシンプルなシルバーのリングーーケッコンカッコカリの指輪が入っていた。その指輪を身に付ければ錬度の限界が引き上げられ、更なる高みへと昇る事が出来る。

「勿論受け取らない選択肢もある。俺も強制はしない。代わりの特別ボーナスも準備できる物なら支度するが?」

「なぁ親父、指輪を受け取る事に異論はねぇ。その代わり条件があるんだがーー……」

 その際に木曾が提示した条件、それは『提督への挑戦』だったのだ。その思いに至ったのには、ある一冊の報告書の存在があった。




 ブルネイ第一鎮守府。南方にあるブルネイ王国に設置された日本海軍の拠点『ブルネイ泊地』の纏め役を担う鎮守府である。この鎮守府の艦娘には一貫して特徴があり、それは

『通常の戦闘行動に加えて、所属する艦娘全員が、最低一つは何らかの武術・及び刃物等の近接武器による戦法を修めている』

 という点である。通常の艦娘は砲撃・雷撃といった、軍艦の戦闘方法に依存した戦い方しか出来ず、ごく少数ではあるが刀槍等の近接武器を使用する者がある程度で、まず殴り合いをしようとする者はない。元々が艦である、それが当然と言えよう。しかしそこに異を唱えたのがこの鎮守府の提督である金城だった。着任当初は『普通』の艦隊運営であった彼は、沖ノ島海戦で空母を轟沈させるという失態を犯した際に方針を転換。『艦娘個人の戦闘能力を高めて生存性を高める』事にしたのだ。

 元々柔術の選手であり格闘技マニアでもあった彼は当時所属していた艦娘達を鍛え直す為の1ヶ月間のカリキュラム、通称『提督'sブートキャンプ』を策定、所属艦娘の必修課目とした。内容は徹底した基礎体力作りと筋力トレーニング、更に人体の効果的な動かし方と格闘術、刃物等の近接武器の扱い方である。最初は反発や抵抗があったものの、金城提督はそれを『力』で捩じ伏せた……文字通り、実力行使である。

 完膚無きまでにボコボコにされた艦娘達を前にして、

「お前らの実力ってぇのはその程度だ、敵陣のど真ん中で弾切れ起こした、装備が壊れた、敵に捕まった……武器もねぇ、そんな状況下に陥った時にお前らはもう無理だと生きる事を諦めて”死“を受け入れるのか?そんな物は俺が許さねぇ。生き恥を晒そうが泥水を啜ろうが、生き残って帰還する事を最優先にしろ。死ぬ事が美徳なんてのは糞喰らえだ、生き残る為の体力であり、格闘術・武器術だ。俺が教えられる全てを叩き込む……お前らにとっちゃ地獄を見る事になるだろう。俺が憎けりゃかかってこい、俺をぶっ殺せるだけの力を付けて見せろ」

 そう言って煙草をふかしながら不敵に笑ってみせたという。そこからの一ヶ月間は金城提督の言う通り、正に生き地獄だったという。その苛酷さは鎮守府No.1の空母・加賀をして

『あの地獄よりはどんな海域もマシ』

 と言わしめる程で、一ヶ月間後には通常の戦闘に加えて近接戦闘にも対応可能な屈強な古参兵が50人誕生したという。そして何よりも、提督自身への絶対的な信頼ももたらされたのである。




 更にこの鎮守府には、大規模な工廠設備と3度の飯より悪ノリが好きだという明石と夕張、そして妖精さんが揃っていた。……いや、揃ってしまっていた。一ヶ月間にも及ぶ苛酷な訓練へのお祝いとして、工廠部隊は提督と深い繋がりのあったラバウル技研に協力を要請。新開発の鋼材を作り上げ、それを元にして彼女らと提督の為に接近戦闘用の武器を作り上げたのだ。刀や槍、ナイフに始まり、果てはメリケンサックやトンファー等々……中には両手で取り回せるサイズの錨を注文した駆逐艦もおり、その娘は多数の敵艦を撲殺したとの非公式記録が残っている(青葉調べ)。その後も提督の作り上げたカリキュラムは鎮守府の『伝統』として残り、新人の艦娘を漏れなく阿鼻叫喚の地獄へと叩き落としている。

 そんな艦娘達の戦う様は、『軍隊』というより『砲撃や雷撃の出来るヤ〇ザ』の様だと恐れられ、いつしか提督は元ヤ〇ザの組長だったのでは?という不名誉な噂まで立ったという。いつのまにかそんな噂は立ち消えになったが、代わりに『金城提督を悪く言うと、夜な夜な金属バットを持った鬼に追いかけ回される』という都市伝説が発生していた。


 話を戻そう。ブルネイ泊地に所属する艦隊の纏め役である以上、金城提督の艦隊は部下の艦隊の教導や演習に『胸を貸す』事もしばしばである。その際にも身体に染み込んだ戦闘方法は劇的な効果を発揮し、

『戦艦を投げ飛ばす駆逐艦ってそれ駆逐艦?』

『球磨と多摩はもっとこう、アニマル的な感じだと思ってた。……あれは違う、アニマルじゃなくてビーストだ』

『ウチの長門が駆逐艦を見る度に怯えるようになった』

『アイエエ……ニンジャ?ニンジャナンデ!?』

『おい、砲雷撃戦しろよ』

 ……等々、演習を行った艦隊に多大な影響を与えたのである。それに対して金城提督本人は、

「寧ろ人の形してんだから、格闘戦に持ち込まれる可能性を考慮しないのが悪い」

 と一蹴して見せた。大本営でもかなり議論が紛糾したらしいが、それを納得させる以上の戦果を叩き出していた為に、不問とされたらしい。以前、我が鎮守府に訪れた吉野三郎大佐率いる『第二特務課艦隊』の面々を『クレイジーな連中』だと金城提督は評していたが、金城提督が率いる艦隊の面々も大概であったのだ。




 そんな脳筋という言葉だけでは片付けられない超武闘派の鎮守府である。当然の流れながら『最強は誰か?』という話題がよく出てくる。新任の多くは金剛・加賀・武蔵等のケッコン艦……所謂嫁艦の中でも錬度が高く、古参の艦娘を推す者が多いが、大概古参の艦娘達は

『陸上で艤装無しならば提督が最強』

 と口を揃える。その辺りを追究する為、筆者は何人かの有力な艦娘に話を聞いた。

《戦艦・武蔵の話》

「提督に勝てるか、だと?」

 昼下がり、取材への協力費として間宮のデラックスパフェを奢りつつ戦艦武蔵に話を聞いた。ケッコン勢としては後発である彼女だが、その大火力と堅牢な装甲は他のケッコンを果たしている戦艦達に見劣りする物ではなく、寧ろ勝っている者が殆どだろう。

「愚問だな。海上なら艦娘である私に勝ち目が有ろうが……陸上では艤装があっても勝てる気がせん」

 苦笑いを浮かべながらそう語り、アイスを頬張る武蔵にその理由を問い詰めた。

「実際な、私も提督に挑んだ事があるのだ」

 なんと。筆者の知らない所でそんな面白……失礼、意外な戦いがあったとは。

「ケッコンカッコカリの指輪を貰う際にな。『私より強く無ければ夫として認めん!』と言ってな?」

 懐かしむように左手の薬指に填められた指輪を眺めながら語る武蔵。

「ボコボコにされたよ。艤装は無しのタイマンだったがな、あの化け物め、私を軽々と投げ飛ばしおったのだぞ?」

 提督は既に四十を越えた中年……下手をすると壮年に近い位の年齢のハズである。そんな人物が怪力を誇る武蔵を圧倒する……俄には信じ難い話である。これはもう少し追跡調査が必要であろう。



《駆逐艦・夕立の話》

「え、提督さんに勝てるか?それは無理」

 鎮守府内のトレーニングジムでサンドバッグを叩いていた夕立を見つけ、直撃してみた。口癖が『っぽい?』であるせいで曖昧な答えが返ってくるかと思ったが、あっさりと断言されてしまった。

「今もたまにミット打ちさせて貰うけど、未だに怒られるっぽい。防御が甘いと提督さんのミットが飛んでくるし」

 夕立の格闘技のベースはキックボクシングらしいが、それを仕込んだのは提督だとの事。重巡リ級ですら殴り倒す夕立の粗を見つけ出して、更に攻める?嘘を吐いているようには見えないが、武蔵の話も相俟って騙されている気さえしてきた。今度は視点を変えて、提督にどんな指導を受けたのかを調べてみようと思う。




《軽巡洋艦・神通の話》

「提督……ですか?はい、今もたまに稽古を付けて頂いてます」

 鎮守府の中に併設された陸上競技用グラウンド。目下新人教育の真っ最中だという神通を見つけて話を聞く事が出来た。今は基礎体力作りの為のマラソン中らしく、トラックを死にそうな顔をして新人の艦娘達が走っている。

「ホラそこ~、私に追い付かれたら2km追加だよー!」

 新人達の後ろを嬉々として那珂ちゃんが走っており、追い付かれまいと必死に足を動かしている。

「今はまだ軽く10km位ですね。これから日程が進むに連れて、徐々に距離を伸ばします」

 あぁ、そういえばこんな感じだったなぁ……と当時を思い出しつつ、新人の艦娘達に心の中で合掌しておく。これはまた準備運動の段階だ、地獄はこれからなのだから。

「そういえば、提督について聞きたいのでしたよね?」

 そうだった、メインの目的を忘れていた。提督にどのような指導を受けたのかを聞いて廻っている、と言うと

「技術面は格闘技を一通り。後は刀やナイフの扱い方、それにそれを使った組み手等の実戦訓練が多かったですね」

 提督本人から柔術の有段者だとは聞いた事があった。しかし剣術等は素人なのではないだろうか?

「いえ、剣術に関してもこの鎮守府では一番の使い手だと思いますよ?私も未だに勝てた事がありません……」

 目を伏して、悔しそうな表情を浮かべているのかと思ったが、どちらかと言うと憧れているというか、何かを思い出してうっとりとしている……そんな感じだった。

「この刀も提督から頂いたんですよ、かなりの業物だと思います」

 神通は嬉しそうに、腰に挿してある刀に触れて、愛おしそうに撫でている。筆者も訓練終了時にナイフを貰ったが、個人の力量や戦い方に合わせた物を贈られているらしい。

「そういえば、剣術に関しては師匠が海軍の中にいると聞きました。加賀さんか金剛さん辺りなら詳しい話を知っているのでは?」

 去り際に有力な情報を得た。早速どちらかを探して話を聞いてみようと思う。





《戦艦・金剛の話》

「darlingの剣の師匠?……あぁ、三笠お姉様の事デスか」

 いたくアッサリと、その名前が出てきた。しかし戦艦三笠とは。筆者も直にお逢いした事はないが、その名前はよく聞いた事がある。

 海軍が海軍の形をまだ成していなかった頃、砲の1つも持たずに刀だけで深海棲艦と渡り合った女帝。今は第一線を退き、大本営の新任提督を育てる為の部署で教鞭を執っていると聞き及んでいるが。

「最初はdarlingに暇潰しの相手を頼んでいたらしいネ。けど、筋がよくて途中から本気で教えてたらしいよ?」

 そう言って紅茶を楽しむ提督の妻は、三笠本人からそれを聞いたのだというから事実なのだろう。あの無尽蔵にも見えるスタミナに、戦艦三笠から引き継いだ確かな技術、そしてあの超ドSな性格……強いハズである。なので筆者は新入の艦娘に忠告したい。提督の強さに疑問を持つこと無かれ。例え昼行灯のように見えても、その中身は想像以上の存在である。

《編集者:ブルネイ第一鎮守府所属・重巡洋艦青葉》





 あの報告書のファイルを読んだ時から、木曾はウズウズしていたのだ。あの武蔵や神通、夕立があれほど強いと語る提督は、一体どんな強さなのか。いつかは挑んでみたいと、常々そう思っていた。しかし提督は自ら新人教育をする事は無くなったし、普通に頼んでも本気の勝負はしてくれない。だからこそ、『出来る範囲でなら何でも望みを1つ叶える』という条件を出されるケッコンカッコカリのタイミングまで我慢して、己を鍛え上げたのだ。そして今日、その時は訪れる。 
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