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提督はBarにいる。

作者:ごません
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オトコ持ちのから騒ぎ!?・その5

       《霧島夫婦の新婚生活》

 私服姿にエプロンを着た霧島が、忙しなくキッチンの中をパタパタと動き回っている。場所は霧島夫婦の新居である2LDKのマンション、お値段もそれなりだがそこは高給取りの2人、特に苦労する事もなく生活に支障はない。

「ご飯……よし、お味噌汁もよし、ベーコンエッグにお浸しもOK、後は…お漬け物に納豆も準備してと」

 準備しているメニューからお察しの通り、時刻は早朝。新妻の霧島は朝食の支度、朝に弱い夫の橘君は朝風呂に浸かって目を覚ましている。

「ぷぁ~、いいお湯だった。これで風呂上がりにビールでも飲めれば最高なんだけどね」

 首に掛けたバスタオルで頭をゴシゴシやりながら、脱衣場から夫である橘 慎二が出てきた。憲兵としてどうなんだという発言ではあるが、お酒大好きな彼らしいといえば彼らしい。

「もう、これから仕事なんですから。お酒は帰って来るまで我慢してくださいね?」

「解ってるよぉ、きぃちゃんの手料理での晩酌は堪らないからね」

 そう言いながら口を尖らせつつ、慎二君は冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、口を付けて直飲みしている。


『うぇうぇうぇ、waitwait!』

『どうしましたお姉様?』

 霧島のノロケ語りの最中だというのに、金剛から物言いが入った。

『霧島は霧島のdarlingから”きぃちゃん“って呼ばれてるデスか?』

『えぇまぁ、お恥ずかしながら……/////』

 そう言いながら赤面する霧島。旦那である橘君曰く、『霧島という艦娘は沢山いるけど、自分の嫁さんである”霧島“は彼女一人ですから、特別な呼び方がしたいと思いまして』だそうだ。聞いているだけで砂糖を吐きそうな台詞である。

『続き話しても良いですか?お姉様』

『あ、どうぞ……好きにして下サーイ…』

 新婚アツアツカップルの破壊力にやられたのか、ぐったりとしながらも続きを促す金剛。



「さてと、今日の朝飯も美味そうだなぁ。いただきます!」

 両手を合わせて挨拶を済ませるや否や、慎二は朝食に挑みかかる。今朝の献立は、

・ご飯

・味噌汁(大根、人参、豆腐、油揚げ)

・ベーコンエッグ

・菊菜の辛子和え

・納豆

・キュウリと蕪の浅漬け

 と、彩りと栄養バランスが考えられた霧島らしい朝食である。慎二はベーコンエッグの黄身を崩してそこに醤油を垂らし、ご飯を載せてかき混ぜて食べている。霧島も最初はビックリしたのだが、ベーコンの旨味が卵の黄身と一緒にご飯に絡まって美味しいそうだ。

「そういえばきぃちゃんさぁ」

「うん?どうしたの改まって」

 慎二は食事を食べる手を止めて、神妙な面持ちになっている。

「最近いやに帰りが早いけど、もしかして大将閣下に気を遣わせてるんじゃないかと思って」

 確かに、最近の霧島は定時になると鎮守府を後にして夕食の買い出しをして、慎二を出迎えるパターンが多い。それまでは慎二よりも帰りが遅いことはザラだったのに、それを不可解に思ったらしい。

「あぁ、そういう事ね。それなら大丈夫よ、今私新人教育カリキュラムの教導担当だから」

「へ、何それ」

 本来、艦娘というのは建造して直ぐにでも実戦投入が可能な姿で生まれてくる。しかし金城提督の鎮守府では、生存能力向上の為に新規着任艦や新たに建造された艦娘は差別なく1ヶ月間の基礎訓練カリキュラムに編入されるのだ。

「うへぇ、あの大将閣下が組んだメニューだろ?かなりキツそうだね……」

「そうかしら、今は私達が教官やってる分優しいと思うけどな」

 あの当時、提督直々に鍛え上げられた艦娘達は今も鎮守府の一軍メンバーとして活躍する面々である。しかしそんな彼女らをしても、『提督の訓練カリキュラムはもう嫌だ』と言わしめる程の地獄だったらしい。神通等は新人を鍛える時に『提督の訓練はこの10倍は厳しいですよ?』とニッコリ笑うらしい……実際事実だから笑えないのだが。

「相当キツかったんだね……」

「まぁね。お姉様もあれだけ提督LOVEだって言ってるけど、訓練の最後の方は顔が能面みたいだったし」

 何食わぬ顔でそう語りながら、目の前でポリポリと漬け物のキュウリをかじる眼鏡の可愛らしい新妻を怒らせる事はすまい、と若き憲兵橘 慎二が密かに心の中で誓った瞬間である。




「あ、もうこんな時間!そろそろ出ないと遅刻するわよ!」

「あ、ヤベェマジだ!ご馳走さまっ!」

 ゆっくりと朝食を楽しんでいた2人は時計を確認すると、慌てた様子で朝食の残りを掻き込み、味噌汁で胃袋に流し込んだ。

 バタバタと着替えを済ませ、2人並んで玄関を出る。戸締まりを終えてさぁ出勤、というタイミングで霧島は忘れ物の有無を確認するのを思い出した。

「忘れ物は?」

「1つだけ」

「ちょっと、鍵かける前に……んっ!」

 慎二は霧島を抱き寄せると、玄関の外だと言うのに唇をチュッと重ねた。所謂『行ってきますのチュウ』という奴だ。隣近所から何やらドスンドスン音がする気がするが、そんな騒音が耳に入らない位霧島はアワアワしている。

「じゃあね、きぃちゃんも遅刻しないようにね!」

 悪戯っぽく笑いながら、慎二はマンションのエレベーターに向かって駆けていってしまった。固まった状態の霧島を残して。その後、霧島が再起動したのはそれから3分後の出来事であった。




「……と、こんな感じですが。皆さんどうしました?」

 キョトンとしている霧島に、他の参加メンバーの返事はない。予想以上のイチャラブっぷりに、皆アテられてしまったのだ。

「な、何ていうか一番意外な姿だったわ……」

 ぜぇはぁと粗く息を吐きながら、ヨロヨロとしているのは足柄だ。

「流石に私達もそこまでは出来ません……/////」

「す、凄い破壊力だったデース……////」

 妙高と金剛はそれぞれ真っ赤になりながらパタパタと手で顔を扇いでいる。

「……てかさ、提督の訓練ってそんなにキツいの?」

 鈴谷が食い付いた所は違ったらしい。その話題が出た途端、鈴谷以外の4人のハイライトが一気に消える。

「あぁそっか、すずやんは最初のメンバーに居なかったから知らないはずデスね……」

「あれはキツかった、という言葉では表せない位キツかったわね」

「頼めば一週間の短期コースで鍛えて貰えるんじゃない?」

「後悔しても責任は取れませんがね……」

 4人が4人、それぞれに思い出したくないような雰囲気を漂わせて口々にそう語る。

「なんか……ゴメン、マジごめん」

 鈴谷はその言葉を絞り出すのが精一杯だった。

「っていうかさ、提督と金剛さんの夫婦生活の方が鈴谷は気になるんだけど!?」 

 暗くなった雰囲気を打ち消そうと、鈴谷が無理矢理話題を変えた。

「え!?私デースか!」

「そうそう、提督って四六時中忙しそうにしてるからイチャコラ出来る時間なんて無いんじゃないの?」

 足柄もいつもの調子を取り戻し、鈴谷に援護射撃をする。

「い、イチャコラって……/////」

「確かに、興味深いですね」

 妙高も眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせる。

「お姉様、お覚悟を」

「霧島ァ!?そこはお姉ちゃんを助けてくれる場面じゃないデスか!?」

4人からの集中砲火に万事休すかと思われた時、

「うぉ~い、金剛いるかー?」

「提督?何かご用ですか?」

「いや、実はよ……今日の打ち合わせで使う予定だったファイルどこにしまったかド忘れしちまってよ」

 面目ない、と襖の向こうで呟く提督。

「全く、仕方ないネー。ちょっと行ってくるからお菓子とお茶は好きに楽しんでて下サーイ!」

 そう言って金剛は迷惑そうに言いながらも、嬉しそうに提督の下へ向かう。

「全く、darlingは私が居ないとダメダメですネー?」

「あんだと!?お前にゃ言われたくねぇわ!」

 襖の向こうからはいつもの調子の夫婦喧嘩?が聞こえる。しかしそんな声を聞きながら、残された4人は苦笑いのような、ニヤニヤとした半笑いのような笑顔を浮かべている。

「あの二人には、あの位の距離感が居心地いいんだろうねーw」

「確かに、一目で解ったもんね」

「あそこまで解りやすいのも珍しいですよね」

「まぁ、男女の付き合い方には色んな形があるということで……」

 そんな彼女達が思い浮かべているのは、金剛の前髪。カチューシャ型の電探の手前から額の直ぐ上位にかけて跳ね上がってから垂れている特徴的な髪の房。

「「「「だって、アホ毛がハートマークだったもんね」」」」 
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