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提督はBarにいる。

作者:ごません
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オトコ持ちのから騒ぎ!?・その4

「うわぁ、乙女だねぇガラさん。ちょっと意外」

 そんな感想を呟きながら生チョコを摘まんで茶を啜る鈴谷。意外性は鈴谷に負けると思うのだが、今は突っ込まないでおこうと胸の奥に留める他の参加者達。

「でも……そうね、今までの足柄の態度を考えると少し意外ね」

「ちょっと、姉さんまで!?」

 忌憚の無い意見でバッサリとぶった切ったのは実の姉である妙高。普段の言動が問題だから仕方がない、とは言わないでおこう。

「そ、そんな事を言うなら姉さん夫婦はどうなのよ!」

「え、私ですか?」

 確かにちょっと気になるかも、と金剛は素直に思った。この鎮守府では初の結婚を果たした艦娘・妙高。その伴侶はとても落ち着き払った男性だったと記憶している。個性的な四姉妹の長女としてリーダーシップを発揮していた妙高との、穏やかそうな夫婦生活。参考に出来る所が沢山ありそうである。

「是非聞きたいネー!」

「私も、今後の夫婦生活の為の後学に聞きたいですね」

 金剛と霧島にも求められ、じゃあ……と口を開く妙高。

「私達夫婦の場合は、そんなに特別な事も無いんですが……」



     《妙高夫妻の場合》

 18:00。提督が執務を終えて店を開ける頃、妙高は鎮守府を後にして家路へと急ぐ。夜間の任務や長距離の遠征等が無い時には、いつもこの時間に帰宅の途に着く。途中で夕食の買い出しをして、日本人が多く住む住宅街にある一軒家を目指す。鎮守府から真っ直ぐ帰れば20分程だが、買い出しを済ませて帰るといつもすっかり辺りは暗くなっている。

「お義父さま、お義母さま。ただいま戻りました」

「あらあら、お帰りなさい。今日もお勤めご苦労様」

 出迎えてくれたのは妙高の夫の母ーー今、妙高夫妻は夫の両親と同居していたのだ。

 元々日系企業に出向する形でブルネイに来ていた妙高の夫だったが、妙高との結婚を機にこの国に骨を埋めようと決意したらしく、一軒家を購入して日本に居た両親を呼び寄せたのだ。朝の早い息子夫婦に代わり、日中の家事を受け持って貰い、妙高が帰ってからはそれを引き継いで残った家事をこなす。よく聞く嫁・姑戦争なんてのは微塵もなく、2世帯4人の生活は順風満帆である。

「では着替えて来ますね、お夕飯はお任せ下さい」

 ペコリと頭を下げ、2階にある夫婦の部屋へと向かう。制服姿のままで家事をこなすのは流石にまずいだろうと、パタパタと階段を上がる。

「しかし……本当に和臣(かずおみ)の奴には勿体無い出来た嫁さんだ」

「本当にねぇ……」

 したから義理の両親の会話が聞こえ、真っ赤になってしまう妙高。真っ赤になりながらも夕飯の支度が待っているので、急いで着替えを済ます。紺を基調としたカッチリとした制服から、黄色のタートルネックにジーンズ、ピンクのエプロンとラフな格好になると、艦娘から主婦へとスイッチが切り替わる。

「ただいま~……お、今夜は肉じゃがかな?」

「お帰りなさい和臣さん。相変わらず鼻が利きますねぇ」

 帰ってきた夫の和臣が鼻をヒクつかせながらキッチンに入ってくる。玄関から漂う匂いだけで今晩のおかずを当ててしまう夫の鋭さに、思わず苦笑する。

「もう少しかかりますから、先にお風呂済ませちゃって下さい?」

「あぁ、そうさせて貰おうかな……っと、忘れる所だった」

 キッチンを出ていこうとした和臣が、振り返って妙高の唇に己の唇を軽く重ねる。

「お帰りのキスを忘れると、君は後から拗ねてしまうからね」

「も……もう!からかってないで早く入って下さい!」

 顔を真っ赤にして怒る妙高の頭を、愛おしそうに撫でて和臣はキッチンを後にして行った。もう30も半ばを過ぎた夫の手練手管に、手玉に取られていつも赤面してしまう。そんな様子を陰から見守る義両親は、生暖かい視線でニコニコと笑っていた。

 その後は風呂から上がった和臣と両親、4人で食卓を囲んで和やかな夕食。その日あった事などを情報交換しながら食べる夕食は、鎮守府に住んでいた頃の賑やかさとはまた違う趣があって妙高は好きになっていた。朝の早い両親が先に床に着き、洗い物を済ませた妙高がリビングに戻ると、夫がウィスキーを楽しんでいた。

「どうだい?君も」

「では……少しだけ」

 和臣の隣に座り、置かれていたグラスに氷を入れる。そこに琥珀色の液体を和臣が注ぎ、カチンとグラス同士を軽くぶつけ合う。

「いやぁ、会社で毎日からかわれて大変だよ。『お揃い眼鏡の馬鹿ップル夫婦』ってね」

 ウィスキーをグイと煽ってから、照れ臭そうに苦笑いを浮かべる和臣。聞けば、会社の机の上に結婚式でのツーショット写真を乗せて毎日眺めてはニヤニヤしているらしい……本人に自覚は無いそうだが。

「大丈夫ですよ……その通りですから/////」

 先程よりも更に真っ赤になりながら、俯いて妙高がそう答えると、和臣の方も赤面して黙り込んでしまう。その顔の赤みは照れのせいなのか、はたまたウィスキーの酒精のせいなのか。




「そういえば、母さん達からはせっつかれてないかい?『孫はまだかー』って」

「いいえ、そんな事は……」

 艦娘も女性としての機能が備わっていない訳ではない。しかし、妊娠・出産・子育てによる戦線の長期離脱を妖精さん達が良しとしないのか、現役の艦娘の妊娠確率は限り無く0に近い。それでもやはり、愛した男の子供を身籠るというのは女性にとってみれば望みであり、願いであろう。妙高も他聞に漏れず、いつかは……と思っていた。

「けれど、今の状況ではまだ難しいと思います」

「そうだよね……君の身体は僕一人の物じゃない。人類を守る為の盾であり、矛なんだ。けれど、無理だけはせずにちゃんと僕の元に帰ってきてくれ」

 そう言って和臣は妙高を抱き寄せ、その日何度目かの口付けを交わす。しかし妙高も離れたくないとでもいうかのように、舌を絡ませ、情熱的なキスを求めた。

 互いが互いを求め合っている。言葉は無いが、本能がそれを察知する。

「……ベッドに行こうか」

「そうですね、お義母さまにリビングを掃除して頂くのは恥ずかしいですし」

 2人は微笑み合うと、静かに2階へと上がり寝室へと入った。結局2人が眠りに就いたのは、夜も更けて明け方近くになってからだった。




「……うわぁ、ロマンチックだねぇ」

 鈴谷は顔を紅潮させ、うっとりとしている。

「正にオトナの恋愛って感じでしょうか」

 霧島も珍しく顔を赤らめて、ほわんとしている。

「……なんかズルいデス」

 軽くジト目になりながら、怨嗟の声を呟いたのは金剛だ。年上の旦那、という同じような境遇でありながらこの夫婦のメロドラマ感は何なのだろう。自分と提督がイチャついても、こんなにしっとりとした感じにはなりそうもない……もっとラブコメっぽい感じになるだろう。断言できる。

「それはお姉様の性格と提督の性格が落ち着きを求めていないからでは?」

 妹である霧島からの冷静且つ的確な指摘。何となく解ってはいたが、指摘されるとイラッとする事もある。

「じゃあ何デスか!?ワタシとdarlingは落ち着きが無いと言いたいんデスか霧島は!」

「いえ、別にそこまでは……」

「じゃあさぁ、新婚の霧島さん夫婦はどんな感じなの?」

 静観していた足柄が、霧島へのキラーパスを放つ。

「確かに気になるかも!霧島さんのダンナ様って、青葉にパパラッチされたイケメンの憲兵さんでしょ?」

 足柄に乗っかる形で鈴谷も霧島を責める。この流れで夫婦生活を語らない訳にはいかないだろう。

「わ、わかりました。お話しますね……」 
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