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提督はBarにいる。

作者:ごません
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オンとオフ

 ビリヤード台とダーツボードを入れた時、個人的な趣味で麻雀卓を導入した。大概の艦娘はビリヤードとダーツに夢中だが、一部の物好きな艦娘は、俺に教わりながら牌を摘まんでいる。この日もちょうど、酒を飲みながらのお通夜(徹夜麻雀)の最中だった。

「あ、それポン!」

 俺が捨てた白を、対面の艦娘がポンした。これで2副露、それにもう1つは發をポンしたもの。この艦娘の打ち筋なのだが、どうにもこいつは派手好きで全局役満狙いの打ち方になっている。

「ふっふ~ん、提督もこの艦隊のアイドルの打ち回しにタジタジのようだね~?」

 得意満面、と言った様子でニヒヒと笑うのは那珂。川内、神通の妹でありかつては四水戦の旗艦まで務めた軽巡洋艦。今は何がどうしてこうなったのやら、自称『艦隊のアイドル』を名乗り独自の歌や振り付けで定期的にゲリラ的ライブを行っている。

「那珂の狙いは判りやすいからねぇ。大方、大三元か字一色辺りが狙いでしょ?」

 傍らに置いたジントニックを煽りながらそう言うのは川内。川内型の長女にして那珂の姉であり、ウチの鎮守府の警備班・班長。こいつも俺に麻雀を教わってる一人。こいつも割と打ち筋が読みやすい。川内はリーチ大好き、どんな手だろうとリーチをかけないと気がすまない。捨て牌から待ちを読めば振り込む可能性は限りなく低く出来る。

「あら、川内さんもリーチばかりだから読みやすいですよ?」

 そう言いながらホットワインを啜るのは由良。この娘は以前から麻雀のルールを知っていたのだが一番厄介。鳴き麻雀も打てるし早和了りに点数計算、場の全体の流れを読んでの
和了る相手の取捨選択までやってのける。この中だと何をしてくるのか一番読みにくい娘だ。



『手出しで俺の現物……由良がテンパイ気配だが…、さてどうしたものか。』

 俺の手牌は中を切ればテンパイ、だが那珂の奴の手牌に中が対子になっていたら大三元完成となる。捨て牌には中が1枚。揃っていない可能性が高いが、万が一という可能性もある。まぁ当たる可能性は低い、ここは中切りだな。

 中を河に捨てるが、鳴くものはいない。やはり中の対子は無かったか。

「う~っ、揃わないぃ~!」

 苛立ちを隠せない那珂が『亀の尾』のロックをぐいと煽る。普段は可愛い子ぶって「カシオレとかしか那珂ちゃん飲めな~い☆」なんて言ってるが、三姉妹の中では一番酒が強い。

「あっれぇ~?那珂、今日は可愛い娘ぶらなくていいワケ?」

 ニヤニヤと笑いながらジントニックを煽りながらサラミをかじる川内。普段の状態を知る川内だからこそ、こんなからかい文句が出てくる。

「いーんですぅ。今日はアイドルもオフなんですぅ。」

 そう言って胡椒煎餅をバリバリと咀嚼する。普段は可愛いケーキやクッキー、マカロン等が好きだと言っているが、実は彼女はポテチや煎餅、おかきなんかの固くて塩っからいお菓子の方が好きだったりする。煎餅を食べる方に夢中になっているせいか、捨て牌のチョイスが甘い。手牌から場風牌の東が切られる。

「ロン。バカホンで3200。」

 俺の待っていた牌だ。那珂はウゲッ、という顔に歪む。今晩もまた、俺の日だったらしい。

「残念だったな那珂。ま、オリ方なんかを見る限り筋は悪くないんだ。次はも少し賢い打ち方を勉強してから挑んで来るんだな。」

 ムキー!と悔しがる那珂を尻目に勝利の美酒(今晩は『魔王』のロックだ)を味わう。そういえば、いつからだったかな?こうやって卓を囲むようになったのは。 
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