| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三十九話 手懸かり

ゲームクリアから二ヵ月後。 桐ケ谷家

~直葉 side~

額の汗を拭いながら竹刀を振り下ろし、日課となっている朝の稽古を終わらせた。
竹刀を下ろし、くるりと振り向いた。

直葉「あ。」

家に目をやった途端、私はぴたりと立ち止まった。
いつの間にか、スウェット姿のお兄ちゃんが縁側に腰を掛け、こちらを見ていた。
目が合うとニッと笑い、口を開く。

和人「おはよう。」

言うと同時に、右手に持っていたミネラルウォーターのミニボトルをひょいと放ってきた。
左手で受け止め、言った。

直葉「お、おはよ。 やだなぁ、見てたなら声をかけてよ。」
和人「いやぁ、あんまり一生懸命やっているからさ」
直葉「そんなことないよ。 もう習慣になっちゃっているから。」

この二ヵ月で、これ位の会話なら自然に出来るようになった。
お兄ちゃんの右隣に微妙な距離を開けて座る。
竹刀を立てかけボトルのキャップを捻り、口を付ける。
よく冷えた水で喉を潤す。

和人「そっか、ずっと続けているんだもんな。 俺も今スグと試合やったら負けるかもな。」
直葉「そんなことないよ。 お兄ちゃん、あっちで剣ばっかり振ってたんでしょ? 勘は前以上じゃ無いの?」
和人「はは。 かもな。」

お兄ちゃんは立てかけてあった竹刀を握ると、座ったまま竹刀を軽く振った。

和人「軽いな。」
直葉「ええ?」

私はボトルから口を放し、お兄ちゃんを見た。

直葉「それ真竹だから、けっこう重いよ。」
和人「あ、うん。 その、イメージというか、比較の問題というか。」
直葉「何と比べたの?」
和人「SAOで俺が握っていた剣と。」
直葉「重い剣を振っていたんだね。」
和人「なぁ、ちょっとやってみないか。」

私は、お兄ちゃんの言葉に唖然とした。

直葉「やるって。 試合を?」
和人「おう。」

お兄ちゃんは当然とばかり頷く。
私は表情を改め、

直葉「体の方、大丈夫なの? 無茶しないほうが、」
和人「大丈夫だ。 毎日ジムでリハビリしまくっている成果みせてやるさ。」
直葉「リハビリって言うより、もう筋トレな気がするんだけど。」
和人「そうか?」

そして、道場。

直葉「そ、それなぁに、お兄ちゃん。」

お兄ちゃんの構えを見た途端、私は思わず吹き出してしまった。
珍妙、としか言いようがない。
左足を前に半身に構え、腰を落とし、右手に握った竹刀の殆んどは、床板に接するほどに下げられている。
左手は、柄に添えられているだけだ。

直葉「審判がいたらむちゃくちゃ怒られるよそんなの~。」
和人「いいんだよ、俺流剣術だ。」

試合結果は、お兄ちゃんが勝った。
剣の振られる速度、キレ、狙う場所が以前より正確になっている。

直葉「やっぱり、スゴいね。 たった二ヶ月でここまで筋力付けて。 体力も戻ってきてるし。」
和人「そうでもないさ。 同学年の奴とやったらまだ負けるよ。」
ユージオ「あ、やっぱりここにいた。」
和人「おう、ユージオ。 それにアリスも。」
直葉「こんにちは~。」
アリス「和人、早く行きましょう。 今日は久し振りに会えるんですから。」
和人「分かってるよ。」
直葉「お見舞い?」
和人「あぁ。」
直葉「私も行って良い?」
和人「あぁ。 龍也も喜ぶと思うぞ。」

龍也先輩。
別に同じ学校だった訳では無いけど、道場は同じだったからこう呼ばせて貰ってる。
私が剣道で目標にしてる人だ。
だけどその人はまだ目を覚ましていない。
いや、その人だけでなく三百人ものプレイヤーが目を覚ましていないと聞いている。

~side out~

~キリト side~

俺が覚醒したとき、SAOの中で何があったのか問い詰める為に、俺の病室を強襲して現れた人物。
彼は《総務省SAO事件対策本部》の人間だと名乗った。
俺は、現れた黒縁眼鏡の役人に条件を出した。
SAO内部で起きたこと可能な限り話す。
その代わりに俺の知りたい事を教えろと条件を出した。
それは、俺の最愛の人、そして仲間達が居る場所を聞き出すことだ。
さらにそれから一週間も経たない内に茅場が俺の病室を訪ねてきた。
ニュースでは死んだことにされていた。
その時、茅場が言ったのは

茅場『三百人のプレイヤーが未だに覚醒していないのは知っていると思う。』
和人『あぁ。 眼鏡の役人から教えて貰った。』
茅場『その三百人の中にアーサー君、アヤノ君、そしてアスナ君が含まれている。』
和人『な、どういうことなんだ。』
茅場『私も分からない。 その事についてはこちらで調べておく。 君はリハビリを出来るだけ早く終わらせたまえ。』

そう言って茅場は出ていった。
俺はその通りにして、一ヶ月がたつかたたないかくらいでリハビリを終わらせた。
そして、今日、茅場と眼鏡の役人によって『円卓の騎士団』の主だったメンバーが集められた。
龍也の入院している病院に。

今、俺とスグ、ユージオ、アリスは、病院のエレベータに乗っている。
龍也が居る場所は、此処の病院の15階にある個室だ。
最上階には、俺の最愛の人、結城明日菜が眠っている。
数秒で15階に到着し、エレベータの扉が滑らかに開く。

和人「じゃあ、行くか。」
直葉「うん。」

長い廊下を真っ直ぐ歩き、突き当たりに扉が見えてきた。
扉の横には、ネームプレート。
朝霧龍也様、という表示の下に、一本の細いスリットが走っている。
俺は、受付窓口で受け取ったパスをスリットに滑らせる。
微かな電子音と共にドアがスライドする。
中に一歩踏み込む、まず中央に設置させているベットを見ると痩せ細った龍也の姿があり、次にベットの隣を見やると、見知った顔が集まっている。
と、思いきや知らない奴もいた。

シンタロー「よう。」
キリト「久しぶり。 こっちは妹の直葉だ。」
直葉「初めまして。」

その中のシンタローが挨拶してきたので返し、ついでに直葉を紹介する。

シンタロー「後ろにいるのは俺の友達とその関係者だ。 まぁ、全員アヤノの事心配してるから連れてきたんだ。 左からキド、セト、マリー、カノ、ヒビヤ、ヒヨリに、アヤノの父親の研次郎先生、で俺の妹のモモだ。」
茅場「さて、全員集まったようだし、本題に入ろう。」

茅場が仕切る。
スグには説明しているので取り乱すことは無いが、やはり納得いかなそうな顔をしている。

茅場「SAO、及びそのプレイヤーはアーガス社が無くなってからはレクト社によって管理されてきた。 そこで私達はそのレクト社に目を付け、徹底的に調べ上げた。 その結果、私の後輩の須郷君がVRMMOの〈アルヴヘイム・オンライン〉、通称ALOを作ったことが分かった。」
直葉「えっ、私、それやってます。」
茅場「そうか。 では世界樹で撮られたこのスクリーンショットについては知っているかな?」
直葉「あ、多段ロケット式で世界樹の枝に届きかけたときのやつですか?」
茅場「その通りだ。 もっとも、その方法はすでに封じられたらしいが。」
和人「ちょっ、ちょっと待ってくれ。 そのALOって言うのはどんなゲームなんだ?」
シンタロー「確かソードスキル無し、魔法アリでプレイヤースキルを重視したPK推奨ゲームだったはずだ。」
貴音「付け加えればレベルは無しで各種スキルは反復してやることによって上がって行くらしいわ。」
和人「良くそんなキツいゲームが売れたな。」
遥「それが空を飛べるかららしいよ。」
和人「空が飛べる?」
直葉「そうそう! あの感覚は一度味わうと忘れられないよー。」
拓真「話がずれてるぞ。」
茅場「それについてはゲームに入ってから話そう。 今はこの写真についてだ。」

そう言って何枚かあった写真の中から一枚の写真を取り出し、見せる。
そこには鳥籠の中に二人の少女が入っている写真だ。

和人「・・・アスナに、アヤノ?」
茅場「恐らくその通りだろう。」
和人「じゃあ、警察に連絡、」
茅場「したところで信じると思うかね? 物的証拠が無いのに。」
和人「ぐ、じゃあどうするんだよ。」
茅場「幸いなことにこのALOはSAOのコピーによって出来ている。 そのため少し弄ればSAOのデータがそのまま使える。 もちろんユイ君もストレア君も展開できるだろう。」
和人「!!」
茅場「その気になれば私のGM権限も使えるはずだ。 よって、君達が彼等を助けるならこのゲーム内から須郷君を揺さぶってくれ。 私達はその間になんとかして証拠を集めよう。」
和人「分かった。」
直葉「でも、種族はどうするの? みんな同じのにしたらバランス悪いし、かと言って別々の種族にしたら会うのに時間がかかるよ。」
茅場「その点もこちらで何とかしよう。 装備も出来るだけ再現する。 だから各々が好きな種族を選んで貰って構わない。」
佑真「やってやりましょう。」
アリス「もう一度笑顔で再会するために。」
ユージオ「そうだね。」
和人「あぁ。」
拓真「決まり、だな。」

全員が返事、または頷き、決意を決めた。

茅場「パッケージはここにある。 私の呼んだ人数分しか無いが。」
研次郎「足りない分は俺が帰りに買おう。」
茅場「では全員、決まった時間にログインして欲しい。 そうすればスタートの場所を変えて一ヶ所に集められる。」

その後、ログインするのは明日の十時に決まった。
ログイン後はシルフ領の首都のスイルベーンという街の近くの森に集められることになった。
直葉がシルフだからだ。

その後俺達はアスナの部屋にも行こうと言うことになったが流石にこの大人数ではまずいので代表として俺と直葉、桜が行くことになった。

俺達は、『結城明日奈 様』と書かれたネームプレートの下のある、一本のスリッドにパスを滑らせる。
微かな電子音と共にドアがスライドする。
俺と直葉と桜は、病室の中に足を踏み入れた。
中央に設置されているベットには、血盟騎士団副団長で俺のアスナが眠っていた。
俺達は明日奈の隣まで移動し、明日奈を見た。
背後でドアが開く音がした。
振り返ると、二人の男が病室に入って来た。
前に立つ恰幅のいい初老の男性が、言った。

彰三「こんにちは、和人君。 今日もお見舞いに来て貰って悪いね。 そちらは?」
和人「俺の妹の直葉と明日菜の親友で俺の親友の彼女の桜です。」
直葉、桜「「初めまして。」」

この人は結城彰三と言って総合電子機器メーカー《レクト》の最高経営責任者だ。
それと同時に明日菜の父親でもある。
背後に居た男が、俺達に自己紹介をしてきた。

須郷「こんにちは、須郷伸之です。」

さっき話に出た男が急に目の前に出てきたのだ。
無表情を装っているのが難しい。

和人「初めまして、桐ケ谷和人です。 よろしくお願いします。」
須郷「こちらこそ、よろしく。」

この会話が終わった後、俺と須郷は手を離した。
須郷は、彰三氏に向き直った。

須郷「社長、あの件のことなんですが、来月にでも、正式にお話しを決めさせて頂きたいと思います。」
彰三「そうか。 しかし、君はいいのかね? まだ若いんだ、新しい人生だって、」
須郷「僕の心は昔から決まっています。 明日奈さんが、今の美しい姿でいる間に、ドレスを着せてあげたいのです。」
彰三「そうだな。 そろそろ覚悟を決める時期かもしれないな。」

何の話をしているんだ?
あの件って何のことだ?

彰三「では、私は失礼させてもらうよ。 和人君、直葉君、桜君、また会おう。」

一つ頷いてから、彰三氏は大柄な体を翻し、ドアへと向かい病室から出て行った。
後には、俺達と須郷が残された。
俺は須郷の本当の顔を見た。
細い眼からは、やや小さい瞳孔が三白眼気味に覗き、口の両端を上げて笑うその表情は、酷薄という以外に表現する言葉を持たない奴であったのだ。
これがこいつの本性か。

須郷「桐ケ谷君。 確か君はゲーム内では明日菜と結婚していたんだってね。 それが本当なら君と私は少しややこしい関係と言うことになるだろう。 ところでさっき私が彰三さんと話していた、話の内容を知りたくないかい。」

須郷はニヤニヤ笑いながら言った。

和人「ああ。」
須郷「僕と明日奈が結婚するという話だよ。」

俺はその言葉に怒りを覚えたが、それを何とか抑え、言った。
 
和人「出来るはずないだろう。 明日奈の意思確認が必要だ。」
須郷「確かに、この状況では意思確認が取れないゆえに法的入籍は出来ない。 書類上は僕が結城家の養子に入ることになる。 実のところ、この娘は、昔から僕のことを嫌っていてね。」

須郷は明日奈が眠っているベットの隣まで移動し、左手の人差し指を明日奈の頬に這わせた。

須郷「親たちはそれを知らないが、いざ結婚となれば拒絶される可能性が高いと思っていた。 だからね、この状況は僕にとって非常に都合がいい。 当分眠っていて欲しいね。」

須郷の指が明日奈の唇に近づいていく。

和人「止めろ。 お前、明日奈の昏睡状態を利用する気なのか。」

『覇気』で牽制しながら静かに、それでも出来るだけ怒りをのせて言った。
須郷はすぐに手を引っ込めたが、俺の質問にこう答えた。

須郷「利用? いいや、正当な権利だよ。 ねぇ桐ケ谷君。 SAOを開発した《アーガス》がその後どうなったか知っているかい?」
和人「解散したと聞いた。」
須郷「うん。 開発費に加えて事件の補償で莫大な負債を抱えて、会社は消滅。 SAOサーバーの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術研究部門さ。 具体的に言えば、僕の部署だよ。 つまり、明日奈の命は今やこの僕が維持していると言っていい。 なら、僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか? 式は来月この病院で行う。 君たちも呼んであげるよ。 それじゃあな。」

俺が黙っていると須郷はそれで満足したのか病室から出ていった。

桜「か、和人君?」
和人「あのクソ野郎。 絶対に泣かせてやる。 首を洗って待ってろ。」

今、俺はあの場で殴りかからなかったのが不思議なくらい怒りで震えていた。

そして、俺達が部屋から出ると、

拓真「大分、怒ってんな。」

拓真達が待っていた。

佑真「外まで殺気と覇気が漏れてましたよ。」
シンタロー「何があったかは聞かないけど、さっさと助け出してエギルの店でSAOクリアの打ち上げしようぜ。」

それである程度怒りが収まり、

和人「あぁ。 そうだな。」

そう答えられた。

~side out~

~アーサー side~

誰かが来る気配を感じたので顔を上げる。
そこにいたのはオベイロンだった。
現実では須郷という名前らしいが。

オベイロン「まったく、君も諦めて茅場先輩の居場所を教えたまえ。」
アーサー「だーかーら、知らねぇって言ってんだろ。」
オベイロン「まったく、強情だな君も。」
アーサー「人の話聞けよ。」
オベイロン「今日も拷問、と行きたいところだが、研究が忙しくてね。 また明日にしよう。」
アーサー「そのまま帰ってくんな。」

オベイロンは嫌らしい笑いを残して消えた。

アーサー(ったく、来るなら早く来いよ。 暇で暇で仕方がないんだからよ。)

~side out~ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧