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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第三十八話 世界の終焉

~アーサー side~

全てが凍りついたような静寂が周囲に満ち、ヒースクリフは無表情のままじっと俺達に視線を向けている。
ヒースクリフは俺達に向かって言葉を発した。

ヒースクリフ「なぜ気付いたか参考までに教えて貰えるかな。」
アーサー「最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。 途中と最後の一瞬だけ、あんた余りにも速過ぎたよ。」
ヒースクリフ「やはりそうか。 あれは私にとっても痛恨事だった。 君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった。」

ヒースクリフは頷き、ほのかな苦笑いを浮かべる。

ヒースクリフ「予定では攻略が九十五層に達するまで明かさないつもりだったのだがな。」

ゆっくり周囲を見回し、堂々と宣言した。

ヒースクリフ「確かに私は茅場明彦だ。 付け加えれば、最上階で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある。」
キリト「趣味が良いとは言えないぜ。 最強プレイヤーが一転、最悪のラスボスか。」
ヒースクリフ「なかなか良いシナリオだろう?  盛り上がったと思うが、まさか四分の三地点で看破されてしまうとはな。 君達はこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは。」

茅場明彦は薄い笑みを浮かべながら肩を竦め、言葉を続けた。

ヒースクリフ「最終的に私の前に立つのは君達二人だと私は予想していたのだ。 全十種存在するユニークスキルの内、《二刀流》スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、《龍爪剣》スキルは最も勇敢な者に与えられる。 この二つのスキルが魔王である私に挑む勇者の持つ能力として考えたのだ。 だが、この想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな。」

その時、凍りついたように動きを止めていたプレイヤーの一人がゆっくりと立ち上がった。
血盟騎士団の幹部を務める男だ。

「貴様、貴様が。俺たちの忠誠を、希望を、よくも、よくも、」

両手剣を握り締め、

「よくも―――――ッ!!」

絶叫しながら地を蹴った。
大きく振りかぶった両手剣が茅場へと―。
だが、茅場の動きの方が一瞬早かった。
素早く左手でウインドウを開き操作したかと思うと、男の体は空中で停止してから床に音を立て落下した。
HPバーにグリーンの枠が点滅している。
麻痺状態だ。
茅場はそのまま手を止めずにウインドウを操り続けた。

アスナ「キリト君」

横を振り向くとアスナも、それに俺とキリト以外のプレイヤー全員が麻痺状態になっていた。
キリトは手に携えていた剣を背の装備している鞘に収めると、跪いてアスナの上体を抱え起こした。
俺はサクラのところに行く。
キリトは茅場に声を掛けた。

キリト「どうするつもりだ。 この場で全員殺して隠蔽する気か?」
ヒースクリフ「まさか。 そんな理不尽な真似はしないさ。」

ヒースクリフは微笑を浮かべたまま左右に首を振った。

ヒースクリフ「こうなってしまっては致し方ない。 予定を早めて、私は最上階の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つことにするよ。 90層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団。 そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっと辿り着けるさ。 だが、その前に、」

ヒースクリフは言葉を切ると、俺を見据えてきた。
右手の剣を軽く床に突き立て、高く澄んだ金属音がドーム内に響く。

ヒースクリフ「キリト君、アーサー君、君達には私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。 チャンスをあげよう。 今この場で私と二対一で戦うチャンスを。 無論不死属性は解除する。 私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウト出来る。 どうかな?」

俺はサクラに視線を向ける。

サクラ「受けるんでしょう?」
アーサー「ああ。」
サクラ「無事に帰ってきてね。」
アーサー「分かってる。」

俺はヒースクリフに視線を向けてから、ゆっくり頷いた。
横のキリトを見るとアスナに止められているが本人はやる気みたいだ。

キリト「受けてやるよ。 此処で全て終わらせてやる!」

奴は、己の創造した世界に一万人の精神を閉じ込め、その内の四千人の意識を電磁波によって殺した。
それに奴は、プレイヤーたちが絶望や恐怖にもがく様をすぐ傍で眺めていたという訳だ。
俺は、そんな奴を許すわけにはいかない。
此処で決着をつける!
俺はサクラに優しく声を掛けた。

アーサー「じゃあ、待っていてくれ。」
サクラ「うん。 約束を忘れないでね。」

俺は、サクラの体を床に横たえて立ち上がる。
無言でこちらを見ている茅場に俺とキリトはゆっくりと歩みよりながら、剣を構える。

エギル「アーサー! やめろっ!」
クライン「キリト――ッ!」

声の方向を見ると、エギルとクラインが必死に体を起こそうとしながら叫んでいた。
俺達はエギルとクラインが居る方向に向き直ると、まずエギルと視線を合わせ、小さく頭を下げた。

アーサー「エギル。 今まで、剣士クラスのサポート、サンキューな。 知ってたぜ、お前の儲けの殆んど全部、中層ゾーンのプレイヤー育成に注ぎ込んでいたこと。」

目を見開くエギルに微笑み掛けてから、顔を動かしクラインに視線を向ける。

キリト「クライン。 お前には本当に感謝してる。 裏で色々と動いててくれたんだろ?」

クラインは再び起き上がろうと激しくもがき、声を張り絶叫した。

クライン「て、てめぇ! キリト! 謝ってんじゃねぇ! 今謝るんじゃねぇよ!! 許さねぇぞ! ちゃんと向こうで、メシの一つも奢ってからじゃねぇと、絶対に許さねぇからな!!」

キリトは頷いた。

キリト「解った。 約束するよ。 次は、向こう側でな。」

キリトは右手を持ち上げ、親指を突き出す。
キリトは最後にアスナを見詰めた。
そしてキリトは茅場に向かって口を開く。

キリト「悪いが、一つだけ頼みがある。」
ヒースクリフ「何かな?」
キリト「簡単に負けるつもりはないが、もし俺が死んだら――暫くでいい、アスナが自殺出来ないように計らって欲しい。」

茅場は頷いた。

ヒースクリフ「良かろう。 彼女はアルゲードから出られないように設定する。」
アスナ「キリト君!! そんなの酷いよ!」

俺達の背後で、涙混じりのアスナの絶叫が響いた。

ヒースクリフ「アーサー君、君は良いのかね?」
アーサー「そーだな。 俺達が勝ったらどうせアンタ死ぬ気なんだろ? 俺が勝ったら生きて俺の病室に来い。 目が覚めてから二週間以内な。」
ヒースクリフ「理由は?」
アーサー「リアルでてめぇの顔面殴りたいから。」
ヒースクリフ「ふっ、了解だ。」

キリトが二刀流での戦闘スタイルで、剣を構え、俺も剣を構える。
茅場がウインドウを操作すると不死属性が解除された。
奴の頭上に、【changed into mortal object】―――不死属性を解除したというシステムメッセージが表示される。

アーサー「キリト、今のお前なら『ゾーン』と『覇気』を使えるはずだ。 全力で行くぞ。」
キリト「分かった。」

俺達は地面を蹴り、ヒースクリフに向かっていく。
ソードスキルをデザインしたのはコイツ。
ならソードスキルを使っては勝てない。
だが、単純な攻撃はすべて防がれる。

アーサー「クソ。」

一旦距離を開ける。

アーサー「キリト、アレの成功率どれくらいだ?」
キリト「だいたい七割。」
アーサー「なら仕掛けるぞ。」
キリト「分かった。」

~side out~

~キリト side~

凄い、これがゾーンか。
体は熱いのに頭は冴えてる。
アーサーと有り得ないほど息が合う。
だが、それでもヒースクリフの鉄壁防御を崩せない。

アーサーが距離を取るので俺も下がる。
その時アーサーが話しかけてきた。

アーサー「キリト、アレの成功率どれくらいだ?」

アレとは俺が考えたシステム外スキルだ。

キリト「だいたい七割。」
アーサー「なら仕掛けるぞ。」
キリト「分かった。」

俺は一回深呼吸をすると覚悟を決めた。

キリト「オオォォォォ!!」

二刀流ソードスキルの最上位技《ジ・イクリプス》を使ったのだ。

もちろんヒースクリフは落ち着いて捌いていく。
そして最後の一撃、これが終われば俺はスキル使用後の硬直で動けなくなり、負けるのは確実だろう。
だが、俺は最後の一撃の前、攻撃の為に出した右手の剣を離す。
これが対人用システム外スキル《剣技偽装(スキルファントム)》だ。 
剣を離した俺はしゃがむ。

アーサー「っらああぁぁ!!」

そこにアーサーが全力で剣を突く。
アーサーの剣とヒースクリフの盾、両方とも耐久値は無限。
そこで起こったのは、
バッキャアァァァン!!
両方の破壊だった。

これが最初で最後のチャンスだ。
俺はヒースクリフに向かって左の剣を出す、が、それをヒースクリフは右手に持っていた片手剣で止めた。

キリト(ここで、ここで諦める訳にはいかないんだ! 行っけえぇぇぇ!!」
アーサー「いい加減に、くたばれえぇぇ!!」

アーサーが俺の落とした拾い、ヒースクリフの剣を攻撃する。
ヒースクリフの剣も砕け散り、そして、
ズバアァァァ!
二つの剣はヒースクリフの体を切り裂いた。

最後の時、ヒースクリフはとても満足そうな顔をして

ヒースクリフ「見事だ。」

そう言って消えた。
そして、現在解放されている全ての階層に始まりの時と同じシステムのアナウンスが聞こえた。
違うのはその空が赤かったかどうか、またはそのアナウンスが示すのが絶望ではなく喜びだったことだろう。
ーー2024年11月7日、アインクラッド標準時、14時55分をもってゲームはクリアされました。 繰り返します。 ゲームはクリアされました。 プレイヤーの皆さんはそのままの状態でお待ちください。 順次、ログアウトを開始します。ーー

アーサー、キリト「「っしゃあああぁぁぁ!!!!」」

いつの間にか麻痺が解けていた攻略メンバーが動き出す。
わずか三十人しかいないはずなのに割れんばかりの歓声が上がった。

ただ、その中に一人だけアスナが黙って俺の方に近付いてきた。

パァン!!

アスナが俺の頬を叩き、そして抱き付いてきた。

アスナ「キリトくんのバカ! そんなことされても嬉しくないよ。」

そして、少し落ち着いた所で、

シンタロー「さて、次はリアルでな。 そこでだ。 マナー違反だが、名前と住所を教えてくれ。 絶対に会いに行く。」

それに賛成した俺達はお互いに名前、住所、年齢を明かした。

アーサー「お?」

俺とアーサーの体が光り出す。

アーサー「どうやらこの中では俺達が最初らしいな。」
シンタロー「あぁ。 少しの間、お別れだな。 名残惜しいが。」
キリト「似合わねー。」
シンタロー「うるせー!」
アーサー「じゃ。」
キリト「またな。」

俺達はお互いに拳を合わせた。

そして、光に包まれて目を開けると、

アーサー「・・・ログアウトするんじゃないのかよ。」
キリト「ここは、アインクラッドの上空?」
茅場「中々に絶景だな。」

後ろからヒースクリフの声がして振り替えると、そこにいたのはヒースクリフではなく白衣を着た茅場だった。

アーサー「よぉ、ナイスファイト。」
キリト「これはエンディングって事で良いのか?」
茅場「そうだな。 そう考えてもらって構わない。 それと、クリアおめでとう、キリト君、アーサー君。」

ふとアインクラッドを見ると第一層から崩れ落ちていく。

アーサー「おい、平気なのか?」
茅場「心配には及ばない、先程生き残った全プレイヤー、6238人のログアウトが完了した。」
キリト「そうか。 で、あれはどういうことなんだ?」
茅場「現在、アーガス本社地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置データの完全消去作業を行っている。 後10分ほどでこの世界の何もかもが消滅するだろう。 あれはそれを具現化してるにすぎない。」
キリト「何で、こんなことをしたんだ?」
茅場「何故、か。 私も長い間忘れていたよ。 何故だろうな。 フルダイブ環境システムの開発を知った時、いや、その遥か以前から、私はあの城を、現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけ欲して生きてきた。 そして、私の世界の法則を超えるものを見ることが出来た。」

茅場は静謐な光を湛えた瞳を俺達に向け、すぐに顔を戻した。

茅場「子供は次から次へと色々な夢想をするだろう。 空に浮かぶ鉄の城の空想に私が取りつかれたのは何歳の頃だったかな。 その情景だけは、何時まで経っても私の中から去ろうとしなかった。 年を経るごとにどんどんリアルに、大きく広がっていった。 この地上を飛び立って、あの城に行きたい。 長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。 私はね、キリト君。 まだ信じているのだよ、何処か別の世界には、本当にあの城が存在するのだと。」
キリト「ああ。 そうだといいな」

俺はそう呟いていた。

茅場「だが、その夢もここまでだ。 私のしたことは犯罪。 アーサー君との約束を破ることは無いが、警察に捕まれば拘束されるだろう。 もっとも、その前に日本政府に捕まり、ある研究に強制参加させられる代わりに死んだことにされるだろうがな。」

最後に茅場は自虐的に笑った。

アーサー「研究?」
茅場「そのうちに嫌でも知ることになると予想するよ。 だからここでは話さないで置く。」
アーサー「そうか。」
茅場「では私は行くよ。 次は現実世界で会おう。」
アーサー「あぁ。 来なかったらぶっ殺すからな。」

茅場は風にかき消されるように居なくなった。

アーサー「さて、和人。」
キリト「何だよ。 龍也。」
アーサー「二年間、副団長として支えてくれてありがとうな。」
キリト「今更かよ。」
アーサー「あぁ。 今更だ。」

そう言うと俺達は顔を見合わせてニカッと笑った。

・・・
俺の意識は何処かの世界で目を覚ました。
ここは何処だ?
俺はもう一度瞼を閉じ、再び開く。
俺は周囲を見回して見た。
今気付いた。
柔らかい物の上に横たわっている。
ジェル素材のベットだ。
上には天井が見える。
此処はアインクラッドでは無い。
体のあちこちに、色々なコードに繋がれていた。
つまり、此処は現実世界。
還って来たのか。

キリト「あっ」

俺は思わず声を上げた。
二年間使われなかった喉に鋭い痛みが走る。
俺が目を覚ましたということは、彼女も目を覚ましたはずだ。
いや、彼女だけでなく、あの城で二年を過ごした仲間達も目覚めているはずだ。
ドアの向こうでは慌しく行き交う足音、キャスターを転がす音が聞こえてきた。
此処の病院で眠っていたSAOプレイヤーたちが目を覚ましたのか。
俺は必死に上体を起こした。
体に絡みついていたコード類を力を振り絞り無造作に外した。
俺は点滴の支柱を握り締めた後、床に足を付け立ち上がった。
点滴の支柱に体を預けて、俺はドアに向かって最初の一歩を踏み出す。

まずアスナを探し、仲間を探すために。

~side out~

~アーサー side~

俺が目を覚ますとそこは予想していた病院では無かった。
周りは暗く、自分の所だけスポットライトのようなもので照らされている。
体を動かそうとしてもジャラジャラと鎖の音が鳴るだけで動けない。
よく見ると鎖が手足に巻き付いている。

???「お目覚めかね? クククククク。」

~side out~

to be continue 
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