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剣士さんとドラクエⅧ 番外編集

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魔法を使ってみたい!前編

「昔っから思ってたことあるんだけどさぁ……」

 今日も我らがアタッカートウカは軽々と片手で身長ほどもある剣を振り、素早い身のこなしで魔物を翻弄しながら的確に倒していく。

 ふわりふわりと服の裾が翻り、その度じゃらりと重く鎖帷子の音も鳴る。食らいかけた魔法を寸前で躱し、見切った魔物の火炎を飛び越え、剣をキラリと光らせて首を狩る。

 鮮やかな体さばきに、いくら見慣れても思わず拍手しそうになりながら、トウカのちょっと暗い声に耳を傾けた。

 ちなみに、今日も今日とて魔物に囲まれているものだからじっくり話をできる状況じゃないんだけど、そんなの今更なんだよね。

「剣とか素手とかで肉弾戦するのはとーーーっても楽しいんだけど、魔法、使ってみたいなぁって」

 トウカが大きく剣を振り、発生した大きすぎるかまいたちのような剣気が魔物を全部吹っ飛ばす。お見事。……じゃなくて。

「魔力がないのは今更だけどさぁ、ちょっと杖で戦ってみよっかなって!大丈夫、いざとなったら《《杖で戦うから》》。物理的に」
「いいんじゃないの?」
「……止めないのか」

 やったぁ!と眩い笑顔を浮かべて……いると思う、背中しか見えないし……手袋から召喚するごとく杖らしき武器を取り出した姿を見て、ククール止めれるの?無理でしょ?

「トウカのことだからさ、不利になるようなことはしないさ。戦うことに関しては」
「そうね。それで……あれは魔道士の杖かしら?」
「火の玉が魔物に浴びせられているでがすね……」

 おそろしいほどの勢いで振られた杖からぽんぽん飛び出す小さな火の玉。ひとつひとつは小さくてもものすごい勢いで生み出される数の暴力に魔物は次々と丸焼きにされていく。

 ゼシカのメラゾーマの方が威力は上だと思うんだけど、的確に受けたくないところにぶち当てていってる分……タチが悪いな。顔を狙って、顔を守ったところに杖で殴ってるし……あれ、魔法ってなんだっけ。

「魔道士の杖!天罰の杖!雷の杖!マグマの杖!魔封じの杖!ルーンスタッフ!復活の杖!まっだまだぁ!」

 降り注ぐのはただのメラ。ただのバギマ。そんなところなんだけど、近づくのもいつも以上に危険な戦闘区域になってしまい、僕らは半ば撤退して見ていることにした。後ろは任せて欲しいけど、土砂降りのように降り注ぐメラ、どこにいても切り刻むバギマの嵐に巻き込まれにはいきたくない。

 なにより魔物が哀れになるのは……なまじ体力があることだろうね。逃げられない、避けられないのにメラ程度の何発かでは死ねない、と。そしてなかなか倒されないから最終的には杖でザキ()られる、と。復活のの杖とかの、使わなかった杖で。

 ……多分その高そうな杖、そういう用途で作られたんじゃないよね?殴っても使えるだろうけどさ。

 だけども、やっぱりというかどうにもトウカはイライラしてきたみたいだ。うん……魔法ではないもんね。それ、道具で戦ってるだけだし。

「……違う!私の望んだのと!」
「だよね!」

 今日の魔物達はある意味では幸運だった。そうそうに道具に依存した戦いに飽き、理想との違いを嘆いたトウカが剣を抜いたから。

「しゃらくさいよ!」

 自分で始めといてトウカは理不尽だ……。

 ぼそっと加勢にククールの唱えたバイキルトが血煙立ち上る戦場を余計血なまぐさく彩って、晴れた土埃から現れた、むくれた顔のトウカがダンと足を踏み鳴らして地割れを生む。それを見て、魔物が怯えて逃げ出してしまった。

「魔法が使いたいんだよ!」
「……うーん」

 そればっかりは、僕らごときで解決できるならとっくにトウカの両親がなんとかしてるからなぁ……。

 ヤンガスの慰めに、人情スキルなら良かったのにな、とトウカが愚痴っていた。

 そういや……僕は勇気、ヤンガスはそのとおり人情、ゼシカはおいろけ、ククールはカリスマだよね?トウカはなんなの?

「え?何故かバイキルトとかベギラゴンが使える気がするように最近なったけどやっぱり魔法は使えない謎スキルだよ。まともに使えるのは瀕死の時に最高にハイになって痛みがなくなる特技っぽいやつ」
「それは脳内麻薬のせいじゃないかな……。じゃなくて、名称」
「あぁ、そっち?私の固有スキルは『闘魂』だよ」

 へぇ、とてもらしいと思うよ。やっぱりバトルマスターだったんだね。……バトルマスターじゃ魔法は無理なんじゃって思ったけど、言わないでおく。

・・・・

「あのね、ククール今日のことで協力して欲しいことがあるんだ」
「……おう」

 顔や仕草は文句なしに可愛いと思うが、多分させられる事は微塵もレディではないトウカ。ちなみにエルトの言う「ものすごい笑顔」だ。そして惚れていようが関係ない、逃げたいほどの圧力を感じる。

 そして絶望的なことに俺の退路は他ならぬトウカが絶っている。仁王立ちで、塞がれて……背中は、壁だ。

 ちょっとかがめばキスできそうな距離感だ。手を伸ばせば簡単に抱きしめられるだろう。だが、あまりの純粋にキラキラした……不穏な目を見れば俺はそれどころではなくなっちまった。たとえやったとしてもザオリク沙汰はごめんだ。

「魔力を一切持っていない人間は存在しない!そこらの石ころも、数値にしては魔力は持っていなくても少しは魔力を宿してる。空気にはうっすら魔力が篭っているし、生物は個人差はあれど比較的濃厚に魔力を宿している!だよね?」
「あ、あぁ」
「だからさ、ちょっとマホトラしてみてほしいんだ!もしも取れるなら魔力があるってことでしょ?私、魔法にはすっごく弱いから簡単に奪えるはず。それがどれくらいあるかでいろいろ試してみたいことも変わるんだよね!」

 そりゃあもうトウカはキラキラした目で俺を見上げている。腕を壁に付けば壁ドンが成立する体勢で。ちなみにエルトがこの件の監督者なのか……それとも唯一のストッパーのつもりなのか、なんとも申し訳そうな顔でこちらを伺っている。

 そんな顔するぐらいなら止めろよ。宿屋で人様に迷惑かける気か。トウカ絡みなら爆発ぐらいなら起こっても俺はなんも不思議じゃねぇと思ってるんだが。壁が爆発したらどうするんだ。物理的に。

「今日もククールのベホマで沢山助けられたよ、いつもありがとう。って事は魔力も減ってるよね?出来るよね?」
「あー……まぁ、な」
「もちろんタダとは言わないからさ、何かして欲しいことがあったらやってあげるよ!私のマッサージとか効くよ!」
「いえ遠慮します」
「そう?」

 マッサージ、と聞いた瞬間に部屋の入口にいるエルトが真っ青になってものすごい勢いで首を振った。つまり「効く」とはそういうことなんだろう。砕け散るのは俺の方だろう。主に骨が。死んじまう。

 トウカが俺の背に跨り、乗っかって……とピンク色の妄想の世界に羽ばたく前に俺にも簡単に背骨をへし折られる想像ができてしまった。えいっと可愛い掛け声とゴシャァ!という効果音の組み合わせ、教会での目覚め……そこまでは余裕だった。

 ……やれやれ、こんな相手に一目惚れとは、恋愛とは恐ろしいもんだな。

「差し支えなかったらでいいんだが……」
「ん?」
「その、声を変えずにちょっとばかり喋ってくれたらそれでいい」
「そんなんでいいの?」
「俺にとってはマホトラなんてその程度のことだからな」

 いつの間にかエルトのとなりに現れたゼシカが紙にいい調子!と書いて応援してくれているが、ちょっとでもそちらに意識をやったらどうなるかわからないので、すまないがスルーさせてもらう。……面白がるのはやめて欲しいんだが。俺の心臓と胃が壊滅的なダメージを負ったらどうしてくれる……。

 するとにっこり頷いたトウカがしゅるりと首に巻いていたチョーカーを外した。そういえば、傷跡が露出するんだったな、レディに対して迂闊だったか。だが心配する前にただの布の、代わりを巻き付けた様子を見て安堵する。

 しっかし……何の変哲もない布だ。もう少し可愛げのあるものでも贈るべき、だろうか。

「……あ、あー。これでいいかな?」
「ありがとうございます」
「なんでさっきから敬語なのさ?」

 これだ、これ。可愛い。甘い声、高い声。ほんの少し年下とは思えない柔らかい声だ。腰に手を当ててむくれる顔は十八歳には見えないし、年下のゼシカよりも幼く見える。そしてこの高い声。声だけ聞いたら間違いなく俺はロリコンになってしまう。

 なんというか……こうしてみたら、可愛い、よな?俺の目は間違ってないよな?まだ剣を置いてきただけでいつでも戦地に舞い戻れる服装のままだが、こういう感情豊かに接すると行動は小動物、みたいだよな?

 それこそ今のトウカはエルトのトーポを見てるような可愛らしさで、そして海千山千のククール様にしてはダサいことに心臓がわかりやすく高鳴る。顔に出るのだけ必死に阻止した。……ゼシカにはバレているようだ。なにが、深呼吸だ、レディ。

「じゃー、マホトラお願い!終わったらゆっくりお話しよ!」

 普段トウカと一番長い時間を共にしているのは戦闘だ。宿屋の部屋も当然というか、最初から彼女はなるべく個室を望んでいた。やむを得ない場合……でも意識して気にしてなかったからそんなにゆっくり喋った記憶はない。

 つまりこの上のないほど、グッときた。ただでさえ、身長差のせいで上目遣いで期待の目で見上げる恋しい人、だ。

 ……そのお望みはマホトラだが。

「……マホトラ」

 その、まだ戦装束のままの肩に手を置いて小さく唱える。……爆発はしないよな?魔力のないトウカなら、ないよな?と不安にいまさら思ったが、幸いにしてそんな事はなかった。

 幸い、そういうことはなかったが。

 マホトラは、間違いなく効いた。魔法の耐性のないトウカには本人の予想通りがっつりと効いて、通常よりも遥かに多くの魔力が吸えた、はずだ。なにしろ、ほぼ枯渇していた俺が……ちなみに杖を装備しているから魔力はさらに多い……魔力が全快になったのだから。

「……」
「どうだった?なんか初めて受けるけどマホトラって面白いね!紫の光で何かがちょっとばかり減った感じ!あ、減ったって事は効いたんだよね?」
「……あぁ」
「数値の上では私、魔力なしってことになってるけど実のところ測れるもんでもないでしょ?使える魔法とか特技……メラとかホイミとかで計算するじゃない。私なーんにもできないからなしってだけでさ!」

 俺の魔力から考えると二百五十以上は、回復したことになる。……一体どういうことなんだ?それだけ魔力があるならどう考えても何か魔法が使えるだろ?トウカは実家が実家だ、理論を知らないはずがない。本人もやったと言っていた。それでももし、壊滅的に魔法の才能がなくても……あのバトルセンスだ、特技で何かしら魔力の片鱗を見せたっていいだろう。

 それに俺は、たまにトウカがエルトがヤンガスかの真似をして意図的に会心の一撃を出そうとしているのをこの前見た。失敗もするが、あれだけ試していて発動しないなら……できないってことだろう。

 ……ありえるか?そんなこと。

 さて、これを言うべきか……言わないべきか。成功したとは言っちまったしな……。

「感覚的に、でいいんだよ?そんなに考え込まないで気軽にさぁ!」
「あ、あぁ。……まぁ、そこそこあるような、といった感じだな」
「あるの?!」
「それは、間違いなく」

 嘘でも真実でもないことを言った瞬間後悔した。ぶわっとトウカの大きな目から、ボロボロ涙がこぼれたのを見て、うろたえた。だが、爆発に備えていた俺はドニにいた時のようにスマートにハンカチを差し出し、少しかがんで目を合わせる。そして最高にかっこよく見える角度で笑いかけることに成功した。

「嬉しいなら泣くんじゃなくて笑ってるほうがいいぜ?」
「うん……えへへ、嬉しくて」
「そりゃあ良かったな」

 トウカはなんとも嬉しそうに微笑んだ。いつものような好戦的な笑みでも、純粋に楽しそうな笑みでもなくて、はにかむような、そんな笑顔だった。

 その時俺は気づかなかったが、エルトが信じられないような顔をして立ち尽くしていた、らしい。

 この、いつも誰よりも勇ましいトウカは、ただの一度も泣いたことがなかったらしい。それこそ、トロデーンが滅んだ日も。

・・・・ 
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