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剣士さんとドラクエⅧ 番外編集

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魔法を使ってみたい!後編

 魔力が、ある。私にもある。そのことはどれだけ嬉しいことだと思う?

 すっかり忘れていてもおかしくないけれど、私には前世がある。愚かで弱い、ただの、ちょっと達観してような可愛くない女の子の記憶がある。私自身、「桃華」なんて泣きわめいてうるさいから殺してしまったし、昔だしで薄れすぎて大した記憶もないんだけれど。

 あの世界には魔法なんてただの空想だったよね。そういう記憶があるからもしかして、と考えないでもなかったんだ。私がとっくに殺したつもりの弱い私のせいで魔法が使えないんじゃないかってさ。

 でも違った!私には魔力がある!

 問題はどんなに完璧に呪文を唱えたってなーんにも発動しないこと、どんなに動きを模倣しても魔力を使う特技が使えないこと!うーん……出力装置が壊れてるテレビとかでアンテナが壊れてないようなもの?違うかな?

 それとも、蓋の開かないペットボトルに水が入ってるみたいな?そもそも蓋がないかも?でもさ、今回わかったよね!私にもその「水」があるって!

「あら、そんなところでどうしたのよ」
「考え事だよゼシカ。どうやったら魔法が使えるんだろうって。今更普通の方法試したって使えないのはわかってるし」
「……アテはあるの?」
「直接魔力の塊をぶちまけるとか……かな。腕切ってさ、傷口から」
「やめなさいね?」
「……最終手段かな」

 正直この方法しか思いついてないけどね。でも自傷なんかわざわざしたくないのは確か。痛いし、自分で流した血は気味悪いほどドス黒いし……。魔物に斬られたりしたら鮮血なのにな。あれだ、動脈血とか静脈血とかいうやつなんだろうね。よくわからないけど。

 他に……他に。思いつくならやってるんだよなぁ。魔力があるという前提でいけば……ほかの方法、あるかな?

「杖を媒介して魔法を唱えるならちょっとはいけるかなぁ」
「あら、杖を?」
「うん。杖って強力な補助効果があるんだよ。ただ、持つだけじゃなくて腹に突き刺して無理やり出力できるようにしたらきっと」
「ダメよ」
「やっぱり?」

 これも要するに血と内部で媒介した手段だし。うーん……。

「あたしはエルトに頼むのがいいと思うのだけど……」
「え、なんで?」
「デイン系には複数人で唱える魔法がある、と聞いたことがあるの。それなら試す価値はあるかもしれないわね」
「……ミナデイン?」
「たしかそんな名前ね」
「あー……それって伝説の勇者様御用達の呪文だよね」

 っていうか、それを言ったらそもそもデイン系が使えるというだけで勇者様認定でいいけどね。……え?私の親友勇者なの?勇者エルトか……普通にいそうな名前だね。

 顔がかっこいいだけじゃなくて高スペックお人好しなエルトが勇者。しっくりくるなぁ。羨ましい!

 でもさ、でもさ!出来るなら既にやってると思うんだよね!やってくれてるっていうか!単に知らないだけなの?

「あとで試してもらおうかな」
「間違っても血だらけでいかないでよ?」
「やだなぁ、痛いのは嫌だよ」
「ならいいんだけど」

 私、信用ないなぁ。そんな無茶なんてしないよ。

 あー!魔力、そこそこあるってククール言ってくれたよね!どれくらいあるんだろうなぁ!バイキルト三回ぐらいできるものかな?唱えられないけど!出来る気はするんだけどね、できた試しはないんだよね!

 ふふふ、あははは!嬉しくって嬉しくって顔がにやけちゃう!

 すっかり武装を解いた私。剣はもちろん服装だって一応まだ食事をとっていないから寝間着ではないけれどただの布の服。一応短剣を隠し持っているけれどそれだけ。手袋はしていたけれどそれを外せば小さくて頼りない見た目の私の手。

 剣の稽古をしても柔らかい子供の手のままっていうのはいつも不思議なんだよね、ちっとも節くれだたないし、タコも豆もない。変なの、そんなのすごくすごく頼りないし。

 今も日にも焼けていないから余計弱そうな手だと思うんだけどね、この手に……あるのはただの力だけじゃないんだって思うとさ。不思議と頼りないという気持ちがなくなっていくんだ。

 この手は前世と違う、りんごどころか岩だって握りつぶせる。それだけだったけど、魔法の力も持ってるんだなって思うとさ。

 魔法を使えないなら力が強くたって前世と何が違うんだろうと思っていたよ。ファンタジーみたいな、ファンタジーそのもので、そんなところで、電子の面影なんて欠片もないこの世界で。

 私、魔法を使えない人間なんて世界にごまんといるのに勝手に疎外感を感じていたのかも。魔力が少なすぎて検知できないなんてざらなのにね。

 魔力がある、なら私は。

 この世界の人間なんだなぁって、思えるんだ。

 まぁ、まだこの手でなにか現象一つ起こせたわけでもないけどね。メラ一つ起こせてないけどさ。

 ……はやいところエルトを捕まえてやってもらおうかな、ミナデインってやつ。

・・・・

「ねぇ、トウカって魔法を使おうとした時どういうふうに感じるのかしら?」
「うーんと。なんか出そうなんだけど何も出ないんだよね。つかえてるっていうか、壁があるっていうか……何かあるような気がするんだけど」

 ……それはマホトーンの症状、というか効果そのものなのよね……。

 あたしはそのときなにか言おうと思ったのだけど、言えなかった。魔法使いのタマゴであるあたしが言ったって、何も無いのよ。

 使えないことに嘆いているのに言ったって。解くことはもちろんできないのだから。

 それより思うのよ。魔法を使いたいという純粋な気持ちは理解できるのよ、好奇心っていうのは止められないもの。

 でもね、トウカ。あなたこれ以上強くなってどうするつもりなのかしら。 
 

 
後書き
トウカ・エルト「ミナデイン!」
トウカ「なーんも起きないね」
エルト「……ごめんね」
トウカ「ううん、私こそ無理言ってごめん。ここでライデインとかで誤魔化されるよりいいし」
エルト「(トウカに嘘つくとか明日の僕が存在しなくなるでしょ)」 
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