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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic10-B機械仕掛けの少女~Team Sycorax~

 
前書き
Sycorax/シコラクス:シェークスピアの『テンペスト』に登場する魔女。 

 
ミッドチルダの北部に存在する廃棄都市区画。4年前、臨海空港で起きた大火災によって街ごと封鎖、廃棄されてしまった区画だ。今、その廃棄都市区画の地下に広がる水路では機動六課のフォワード4名と、メンバーのスバルの姉であるギンガ含めての5名が、広域次元犯罪者プライソンの配下と交戦中。そして地上にたくさん残されている建造物群に、また別の配下が居た。

「あのヘリの中に在るプリンツェッスィンとか言う端末と、レリックを奪い取りゃ良いんだろ?」

どこかイライラしているような雰囲気を纏い、発した声にも苛立ちの色が含まれている少女がそう言う。見た目も活発そうで、赤い髪も短くスポーティだ。右前腕にはガントレット、両脚にはローラーブーツが装着されている。

「つってもどうするっスか~? あたしら、空戦は出来ねぇっスよ」

洋紅色の長い髪を上向きに結っている少女が特殊な語尾でそう言った。彼女は浮遊している大きなボードの上で胡坐をかき、右手で目の上に庇を作ってヘリの方を見ている。

「撃墜すれば良いって、ガンマが言ってた。プリンツェッスィンはあたし程度の砲撃で死ぬような物じゃないって」

身長を超すほどの筒――砲塔を携えていた少女はどこか不機嫌そうに漏らした。長い茶髪をうなじ付近でリボンで結い、後ろ髪は風に靡いて尻尾のように揺れている。

「まぁとにかくっス! あたしら機人――チーム・シコラクスの正式な初任務! ママりんやチーム・スキタリスのお嬢たちからの合図があればミッションスタートっスよ! ノーヴェ、ディエチ!」

「母さん達が地下水路のレリックとプフェルトナーを回収したって連絡が来たら、あたしは砲撃でヘリを撃墜。ノーヴェとウェンディがレリックケースとプリンツェッスィンを回収」

「んで、墜落ポイント付近にあるビルの屋上で合流だな」

赤色の短髪少女の名はノーヴェ、ボードに乗る少女の名はウェンディ、砲塔を持つ少女の名はディエチというようだ。その3人はかつてジェイル・スカリエッティの娘、シスターズ達がプライソンの研究所から一度は連れ出して保護し、しかし奪還されてしまった少女たちの内の3人だ。
その3人の着ている服装は共通で、体にぴっちりと密着して体のラインがハッキリと判るスーツを着ている。これはジェイルのシスターズに採用しているバトルスーツと同じデザインである。この共通点が、後に悲劇を巻き起こすことになってしまう。

†††Sideフェイト†††

海上に出現した3ケタ近いガジェットⅡ型を殲滅するために空に上がった私となのは、それにシグナムとヴィータとリイン。さらにアリサが協力してくれることになった。

『アリサちゃん、よろしくね!』

『なのは、アンタってそんなにテンション高かったっけ?』

『あー、アリサと同じ空を飛ぶなんてかなり久しぶりだから。私も落ち着いているように見えてるかもだけど、すっごくテンション高いよ』

アリサとは年単位で同じ空を飛べていないから、こうやって戦場だとしても一緒に飛べることが嬉しい。アリサも『ま、あたしとしてもこんな形だけど一緒に飛べて良かったわ』なんだか照れくさそう。

『よーし! 張り切ってがんばろー!』

『うんっ!』『ええ!』

というわけで、私たち3人で北西部のガジェットⅡ型の殲滅を開始する。私となのははリミッターを掛けられてるけど、アリサは掛けられてないから『あたしが前に出るわ! 撃ち漏らしはお願い』って、AAAランクの魔力のままでフレイムウィップを発動。

『うりゃぁぁぁぁッ!』

“フレイムアイズ”からの伸びる炎の鞭を横薙ぎに振るって6機1編隊、計5編隊を撃墜した。でも発生した黒煙に紛れて生き残った2機がアリサの防衛網を突破した。

『こっちは任せて、アリサちゃん!』

――アクセルシューター――

『うん。安心して続けて!』

――プラズマランサー――

なのははシューター4発を発射して、その撃ち漏らした2機を撃墜した。一応わたしもランサーを待機させていたけど出番がなかったな~。それからアリサはフレイムウィップや“フレイムアイズ”の銃剣形態バヨネットフォームでの砲撃や弾幕で、ガジェットⅡ型を問答無用で撃墜してく。

『すごいですね、バニングス捜査官! さすがチーム海鳴の一員!』

ロングアーチ01のシャーリーから歓喜の通信が入った。私は「シグナム達やフォワードの状況は?」ここ以外が今どうなってるかを訊ねる。

『あ、はい! 副隊長とリイン曹長は順調にガジェットⅡ型を撃墜していっています。フォワードおよびギンガ陸曹も順調にガジェットⅠ型とⅢ型を撃破。ケースと子供を捜索中です。ただ、ノイズが酷くて通信や念話、映像が一切出力できないのが少し引っ掛かります』

「ガジェットの新機能かな・・・?」

「たとえジャミングがあってもギンガが居れば問題ないわよ」

『了解。・・・レリックはまだいいとして、子供の方は早く助けてあげたいね』

プライソン製のサイボーグが運転していたトレーラーに“レリック”と一緒に輸送されてた2人の子供。普通に考えればプライソン一派に拉致された。穿った考え方をすれば、私やエリオのように誰かのクローンだったりするのかもしれない。

『よぉーっし! とりあえず全機撃墜ね!』

そんなこんなでアリサの協力もあって、私となのはが担当となっていた海上北西部に出現したガジェットⅡ型は全滅。3人で「ミッションクリア~♪」ハイタッチを交わしていると・・・

『あ、待ってください! 南西部と北西部の海上に機影を確認! モニターに出します!』

シャーリーが切羽詰まった声でそう報告してくれて、私たちの前にモニターを展開してくれた。映し出されたのは、さっきまでと同じ光学兵装タイプのガジェットⅡ型、目算でその機数は3ケタ。さらに・・・

「「「シームルグ!」」」

赤黒い塗装をした、双発エンジン・前翼(カナード)付き・外に向かって少し斜めにある2枚の垂直尾翼というデルタ翼機(ルシル談)が10機と編隊を組んで、ガジェットⅡ型を引き連れてやって来た。シグナム達のところにも“シームルグ”10機とガジェットⅡ型の3ケタが接近中とのこと。

『おいおい、どんだけガジェットを造り出してんだよ、プライソンは!』

『ガジェットはともかくとしてシームルグはさすがに多いな。AMFもガジェットとは比べ物にはならん。リミッターが掛けられていては真っ向から戦えんぞ』

シグナムの言うようにガジェットとは違って、純粋に空戦魔導師とのドッグファイトを目的として造られた“シームルグ”との戦闘は、リミッターを掛けられている現状じゃ太刀打ち出来ない。正直そう思ってしまうほどにガジェットとの性能差があり過ぎる。

『っ! シームルグのウェポンベイが開いたわよ!』

『レールガンユニット・・・!』

“シームルグ”5機の機体上面にあるウェポンベイ2基が開いて、そこからレールガン2門が出現。銃口がこちらに向けられたのをモニター越しで確認。すぐにその場から離脱したと同時、私たちが居たところを高速射出された弾丸が通り過ぎて行って、遅れてドォン!轟音が空に響き渡った。

「試しにやってやろうじゃない! フレイムアイズ!」

――フリンジングボム――

“フレイムアイズ”の銃口からバスケットボール大の火炎弾を8発と連射したアリサ。扇状に広がっていく火炎弾が“シームルグ”やガジェットⅡ型群へ向かう。するとさっきとは別の“シームルグ”5機のウェポンベイ2基が開くと、そこにはレールガンユニットとは違う「ミサイルランチャーユニット!」が出現した。垂直発射式のミサイルランチャーから計14発のミサイルが一斉に発射されて、アリサの火炎弾を迎撃した。

「うわぁ、鬱陶しい真似を・・・!」

圧倒的な火力を持つアリサの魔法を物量で迎撃した“シームルグ”。そのまま私たちのところに突撃して来るのかと思えば、追撃もなく私たちの視界内に入るように海上をグルグル回り始めた。けどガジェットⅡ型だけは攻撃を仕掛けてくるから、こちらも迎撃して撃墜していく。

「シームルグだけは仕掛けて来ないわね・・・」

――フレイムバレット――

「ヴィータちゃん達の方も、ガジェットⅡ型しか仕掛けて来ないって」

――アクセルシューター――

ガジェットⅡ型だけは面白いように撃墜できるのに、“シームルグ”はまるで高みの見物状態。これだとまるで「私たちの航空戦力を計っているか足止め・・・!」この2つになる。

――プラズマランサー――

「フォワードは地下へ子供とレリック探し。シャマル先生はヘリに乗って女の子とレリックを輸送中。となると・・・」

――フリンジングボム――

「「どっちかが本命・・・」」

「もしくは両方ね」

アリサの最後の一撃でガジェットⅡ型を殲滅完了。それでも“シームルグ”は海上での旋回行動をやめない。それどころか「え・・・!?」目を疑う光景が。ガジェットⅡ型がさっき以上の編隊を組んでやって来た。さすがにこればっかりは異常すぎる。さっきの襲撃だけで、シグナム達と合わせて200機以上を撃墜した。それなのに・・・。

「ああもう! なのは、フェイト、アンタ達はヘリと地下へ行きなさい! ここはあたし1人で対処するわ!」

アリサがそんなトンデモな提案をしてきたから「えええ!?」なのはと、「そんなのダメだよ!」私はそれを却下。いくらリミッターが掛けられてないとはいえ、あの数を1人で対処するのはかなり無茶をしないといけない。

「フレイムアイズ。レガリア発動して。正午まで10分と無いけど、その10分で決めるわ」

≪応よ! レガリアを発動すんのも3年ぶりだな!≫

――スリーズ・サンズレガリア――

「アリサ・・・!」「アリサちゃん・・・!」

アリサの魔力量が一気に膨れ上がった。レガリアはアリサのブースターのような物で、午前9時から正午、午後3時から6時までの計6時間の間にしか使えないけど、その時間制限が気にもならない程に魔力を強化できる。

「でも、アリサちゃん・・・!」

「時間が無いの! いつまでも囮に時間を費やすのは馬鹿のする事よ!」

アリサが渋ってるなのはにそう怒鳴ったところで・・・

『そんじゃ、その馬鹿な役はわたし達が請け負うか』

『うん。ピエロの如く踊り明かそう』

モニターが展開された。そこに映っているのは「シャルちゃん!?」と「クラリス!?」の2人だった。

『やっほー♪ はやてとルシルから許可は貰ったよ。わたしとクラリスが北西部(そっち)に行って・・・』

『私とルミナでシグナム様たちの居る南西部へ向かいます』

さらに「トリシュ!」と「ルミナ!」までもが別に展開されたモニターに映った。事情を聴けば、シャル以外のトリシュ達は非番で近くに遊びに来ていた。で、シャルはベルカ自治領ザンクト・オルフェンに戻る最中だった。そして、海上でのガジェット騒ぎに気付いてはやてに連絡を取り、こうして協力を願い出てくれたとのことだった。

『そうゆうわけや、なのはちゃん! なのはちゃんはヘリの護衛、ヴィータとリインはフォワード達と合流!』

『「了解!」』

「それじゃあフェイトちゃん、アリサちゃん、シャルちゃん、クラリスちゃん。ここお願い!」

「ええ!」『うん!』『ん』

「なのは、気を付けて」

「フェイトちゃん達も」

なのはと拳をコツンと打ち合って、全速力で離れて行くなのはを見送った。シャルとクラリスはすぐに来てくれた。真紅に輝く魔力の翼を背に空を翔けるシャルと、召喚獣に乗って海上を進んで来たんだけど、「アンタ、ソイツを召喚するのはどうよ」アリサが肩を竦めた。

「海上を進むならこの子、アスピドケロンしか居ないし。それに・・・」

クラリスの乗る召喚獣・アスピドケロンは全長100mを優に超す巨大な海亀だ。正直、空を時速数百kmで飛び回る航空兵器相手に何が出来るんだろうって思っていた。だけどそれは杞憂だったことを知る。

「海の生き物だからって、鳥を落とせないわけじゃない。アスピドケロン!」

クラリスの声に反応したアスピドケロンが長い首をもたげさせて、空を飛び回る“シームルグ”とガジェット群を仰ぎ見た。そして「わっ!?」口から勢いよく水を吐いた。それはまるで砲撃のようで、とんでもない水圧によってガジェットは体勢を崩してぶつかり合ったり、体勢を立て直せずに墜落する機体も出た。それに何より・・・

「幻影が混じってる!?」

ガジェットⅡ型は実機と幻影の混成編隊だったことが今の攻撃で判った。私は「ロングアーチ!」に連絡を入れる。

『はい! 幻術パターンを解析するんですね! お任せを!』

「お願いね、シャーリー!」

偽者相手にチマチマと魔力を使うなんて勿体なさすぎる。なら実機と区別できるように調べてもらうしかない。はやてからの『フェイト隊長。データが欲しい、頑張ってもらえるか?』というお願いに、「了解!」私は応じて“バルディッシュ”の柄を握り締め直す。

「よっしゃ! フェイト、シームルグはわたしとアリサに任せて。1機残して他は海に沈めてあげる!」

――絶対切断(アプゾルーテ・フェヒター)――

「ま、その役回りでも良いわ。フェイト、クラリス。ガジェットは任せたわよ!」

――ブレイズロード――

シャルはそう言って紅翼を勢いよく羽ばたかせて“シームルグ”へと突っ込んで行って、アリサも足元から炎を噴出させてロケットみたく突撃して行った。2人の接近に“シームルグ”も臨戦態勢に入って、レールガンやミサイルランチャーを撃ち放って迎撃。

「クラリス!」

「うん」

私とクラリスもガジェットⅡ型に対処するために動きだす。

†††Sideフェイト⇒エリオ†††

“レリック”のケースは見つけられたけど、行方不明の子供は結局見つけることが出来なかった。そんな中、ホテル・アグスタでアリシアさんを撃墜した女の子リヴィー、その子とはまた別の女の子ルールー、さらにアイリ医務官の実のお姉さんだって言う融合騎のアギトまでが姿を現した。さらに・・・

「お母さん・・・!?」「母さん・・・!?」

もう1人、今度は大人の女の人が現れた。ロングワンピースとロングカーディガンって服装。スバルさんとギンガさんがその女の人を見てそう言った。どことなく似ている気がするけど、でもスバルさんとギンガさんのお母さんはすでに他界してるって、スバルさん本人から聞いてる。じゃあの人は?ってことになるんだけど・・・。

「お母さん!」「母さん!」

「えっと・・・どちら様? 確かに私に娘は居るけど、あなた達じゃないわ」

「「っ!」」

その女の人は冷たくあしらうんじゃなくて、優しく諭すようにスバルさん達に語りかけた。だからスバルさん達はガクッと力なく膝を付いた。スバルさん達のお母さんは「さ。ケースとプフェルトナーを持って帰ろう」ルールーやリヴィー、アギトにそう言って踵を返す。

「でもクイント。プフェルトナーが見つかってない。捜さないとプライソンに怒られる」

「え、そうなの? 困ったな~。管理局員が居るのに。プフェルトナー探しを黙認してくれるかな・・・?」

スバルさん達のお母さん――クイントさんが改めて僕たちの方を見ると、「やっぱやっちゃうか!?」アギトの周囲に火炎球が4基と展開された。ケースを抱えるルールーとリヴィーも、「やる・・・?」こっちに振り返った。僕はキャロを庇うように前に躍り出て「ティアさん!」に指示を仰ぐ。

「スバル、ギンガさん、しっかりしてください!」

ティアさんが“クロスミラージュ”の銃口をクイントさん達に向けながらスバルさん達にそう言うけど、「・・・」お2人はショックから抜け出せないようで両膝立ちでクイントさんを見てるまま。

「ロングアーチや隊長たちと通信も念話も通じないし、これは結構まずいかもね・・・!」

ティアさんの言うように誰かがジャミングをしてるみたいで応援も呼べない状況だ。スバルさんとギンガさんがあんな様子だと、今の僕たちでクイントさん達と戦ったとしてもまず勝てない。ここは悔しいけど退くのが一番なんだろうけど・・・。

「銃を持ってるそこの君。君がリーダーみたいだけど。ここは退いてくれないかな? ここで足掻いても私たちには勝てないってことは理解してると思う。そこの可愛い子たちも、痛い目に遭いたくないでしょ?」

僕とキャロに目を向けてそう提案してきたクイントさんに、「じゃあ、プフェルトナーを探して早く帰ろう」ルールーと、「ん~」リヴィーが賛成して、魔力放出と臨戦態勢を解いた。もうそれを見送るしかないのかって“ストラーダ”の柄を握りしめる。

「すぅ~~~・・・スバル、ギンガさん!」

ティアさんの大声がプール内に響き渡った。僕たちみんなの視線がティアさんに向けられた。

「もしあの人が本当に2人の母親のクイントさんだとしたら、どうして2人の記憶が無いのか! アギトと同じように、記憶の改ざんを受けていると見ていいです! だったら! 記憶が戻るその時まで留置所に勾留しておくのが一番! 違いますか!? ギンガさん!」

「ティアナ・・・」

「アンタの憧れのクイントさんが、プライソンなんていう犯罪者に良いように操られてるのを、そうやって黙って見てるつもりなの、スバル!?」

「ティア・・・」

ティアさんにそう言われたスバルさんとギンガさんは立ち上って「ありがとう!」ティアさんにお礼を言うと、顔を濡らしてた涙を袖で拭い去って力強く構えを取った。

「母さんが生きていたことを喜ぶべきね、スバル!」

「うんっ! お母さんの記憶を取り戻す! その前にまずは、お母さんを捕まえる!」

ティアさんの発破のおかげで気力を取り戻したスバルさんとギンガさん。ティアさんは満足そうに頷いて、僕は「お手伝いします!」“ストラーダ”を構え直して、「サポートはお任せください!」キャロも臨戦態勢に入ると、「キュクルー!」フリードも大きく鳴いた。

「だから。私はあなた達のお母さんじゃないって。でも、はぁ・・・。やる気になっちゃってみたいで。しょうがない、力尽くで退いてもらおうか」

クイントさんが首から提げてたネックレスを手に、「ソニックセイバー」ポツリと漏らした。足元に展開されたのはベルカ魔法陣で、光に包まれたクイントさんはバリアジャケットに変身した。両腕には、スバルさんやギンガさんの物と全く同じ“リボルバーナックル”が装着されていて、両脚にも足首に歯車のようなパーツ――ナックルスピナーがあるローラーブーツが装着されてる。

「ティア、エリオ、キャロ! ごめんだけど、ちょっとの間だけ他の子たちの足止めをお願い!」

「その間に母さんを、私とスバルで止めるから!」

スバルさんとギンガさんからのお願いに、僕とキャロは「はいっ!」力強く応じて、ティアさんは「任せてください!」笑顔になった。対するクイントさんは「お願いね」ルールー達にそう一言だけ告げると・・・

――ケレリタース・ルーキス――

「あなたはわたしが・・・」

――トイフェルファオスト――

僕の目の前に音もなく「リヴィー・・・!」が現れた。すでに振りかぶられていた右拳には魔力が付加されてる。咄嗟に“ストラーダ”を構えてその一撃の防御を行う。そして繰り出された拳を柄で受けたんだけど、「ぅぐ・・・!」両手から体、頭へと衝撃が奔った。だから一瞬、意識が飛びかけた。

「ぐぅぅ・・・!」

その所為で吹っ飛ばされて地面をゴロゴロ転がってしまう。その最中にキャロとティアさんのところにルールーとアギトが行って、スバルさんとギンガさんはクイントさんとの戦闘を開始したのが見えた。そして起き上がったと同時・・・

「大人しくしてくれれば、痛くしないから・・・!」

――ボーデンドンナー――

リヴィーはギリギリ目に見える範囲内の速度で真正面から突っ込んで来た。高速移動魔法だ。瞬間移動と高速移動、両方の移動方法を持ってるようだ。厄介なのは瞬間移動で、効果発生時の前後がまったく察知できない。だから奇襲し放題のはずなのに、どうしてただの高速移動魔法を今、使ったんだろう・・・。

――ラケーテンホルン――

リヴィーは高速移動による勢いのままに魔力を両脚に付加して飛び蹴りを繰り出してきた。直感のままに僕は受けずに横っ跳びして躱した。それが正解だってことをすぐに知る。リヴィーの飛び蹴りは、プール内に林立してる支柱を大きく穿って丸ごと1本をダメにした。濛々と立ち上る砂煙の中から・・・

――ボーデンドンナー――

「避けないで」

リヴィーが高速移動でまた突っ込んで来た。真正面から突っ込んで来るならカウンターを狙って待ち構えれば良い。カートリッジをロードしてカウンターに備える。リヴィーの一挙手一投足に全ての意識を割いて、リヴィーが飛び蹴り状態に移ったのをギリギリだけど目で捉えることが出来た。

(ここだ!)

――スピーアシュナイデン――

――ヒンメルブリッツ――

僕は“ストラーダ”を横薙ぎに振るった。確実に入るタイミングだったはず。でも、僕の“ストラーダ”は空を切った。当たる直前、リヴィーは空中で方向転換をしたんだ、僕の頭上へと。リヴィーは何も無い宙を蹴ったのが僅かだけど見えた。そんな移動魔法も使えるなんて・・・。

「これで・・・」

――ヒンメルブリッツ――

「終わり・・・!」

――ガイストロースラケーテ――

頭上を見上げたと同時、リヴィーは全身から魔力を放出したうえで僕へと突撃していた。すかさず「ソニックムーブ!」を使って後退。直後、砲撃のように地面に着弾したリヴィーが放出していた魔力が大きく爆発した。その威力は地面に直径15m・深さ1mのクレーターを作った。

「こらー! そんな威力が高い魔法ばっかり使わないの! 私だけじゃなくて大事なお姉ちゃんも瓦礫の下敷きになるでしょ!」

どこからか聞こえるクイントさんの怒声。チラッと周囲を見回せば、スバルさんとギンガさん、そしてクイントさんの3人は揃ってウイングロードを発動していて、プールの天井近くで空戦を広げていた。しかもスバルさんとギンガさんの猛攻をクイントさんは余裕で捌いてた。

「そうだぞリヴィー! いくらあたし達でもあんな分厚い岩盤に押し潰されたら死ぬって!」

「ごめん」

アギトにまで怒られたリヴィーはガックリ肩を落としてしょんぼりした。僕は「ソニックムーブ・・・!」そんなリヴィーに向かって高速移動魔法で突撃した。気落ちしてる中に攻撃を仕掛けるなんて男らしくないとか、格好悪いとか、そう思うけど今はそんな悠長に構えていられない。

「はぁぁぁぁーーーーッ!」

「だったら・・・」

――ボーデンドンナー――

リヴィーは両手・両脚に魔力を付加したうえで高速移動魔法を使って、真っ向から僕の迎撃に入った。リーチ的に先制は僕だ。“ストラーダ”による薙ぎ払いを繰り出す。リヴィーは「長柄武器の弱点、知らないの?」そう言って、振るわれてる最中の“ストラーダ”の柄を右手で鷲掴んで、「そんな・・・!?」僕の一撃を防いだ。慌てて“ストラーダ”を引こうとしたんだけど・・・

「トイフェルファオスト・・・!」

「ごぶっ・・・!?」

それより早く魔力付加されたパンチをお腹に受けてしまった。その一撃で僕は大きく殴り飛ばされて、「ぐぁ・・・!」支柱に叩き付けられた。僕はそのまま地面に落ちて、「げほっ、げほっ」咽る。

(まさか柄を掴んで攻撃を無力化して来るなんて・・・)

リヴィーは僕が思わず手放してしまった“ストラーダ”をブンブン振り回して、「わたしの勝ち」ピースサインを僕に向けて来た。まずは“ストラーダ”を取り返さないといけないんだけど・・・。

「一体どうやって・・・」

屈伸や伸脚を始めたリヴィーを見るに、僕から逃げようとしてる。確かにデバイスの無い僕は本当に無力だ。キャロやティアさんも「きゃぁぁぁ!」ルールーとアギトの射撃魔法の弾幕で吹き飛ばされて、スバルさんとギンガさんも「うわぁぁぁぁっ!」クイントさんに殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたりと圧倒されてる。

「そんな・・・」

気持ちが折れそうになっているところで、「ちょ、なんか来る! 魔力反応デケェ!」アギトが攻撃を中断して辺りを見回し始めた。その直後、天井が崩落して砂塵がブワッと広がった。

「リイン!」

「はいです! 捕らえよ、凍て付く足枷! フリーレンフェッセルン!」

その砂塵の中からヴィータ副隊長とリイン曹長の声がして、キャロとティアさんと戦ってたルールーとアギトが氷の塊に閉じ込められた。そしてヴィータ副隊長は“グラーフアイゼン”による「テートリヒ・シュラーク!」を、「ぐふっ!?」屈伸してたリヴィーに容赦なく打ち込んだ。

†††Sideエリオ⇒ヴィータ†††

はやての指示を受けてあたしとリインは、フォワードとギンガの居る地下へ向かって飛行中だ。あたしとリインの代わりに、ルミナとトリシュがガジェットや“シームルグ”の迎撃を担当してくれることになったからだ。

「ですが本当に助かったですね。ルミナさんとトリシュさんが応援に駆け付けてくれて」

「だな。トリシュは長距離攻撃も持ってんし、ルミナのスキルもシームルグ相手にはもってこいだ」

トリシュはオーディンの長距離砲撃や、あたしやシグナムの魔法も結構扱える。ベルカ時代ん時、あたし達がアムルの住民に教えてた魔法が、現代にまで伝えられてるっつうのは実際嬉しいもんだ。

「こちらスターズ2。ロングアーチ、地下水路内の状況を教えてくれ」

今、フォワードの居るのは北部の廃棄都市区画、その地下に広がる放水路だ。あたしとリインはそこへ通じるルートを目指して飛んでるわけだが、ここに来るまでフォワードの現状を聴いてなかったことに気付いた。

『カメラや通信はどうやってもノイズが回復しないのですが、熱源や魔力反応は届くのである程度は、になりますが・・・』

「それだけで十分だ。教えてくれ」

『あ、はい! こちらも現在、ガジェットⅠ型、Ⅲ型を撃破しながらケースのあるポイントへ向かって進行中です。しかしいくつか問題も発生しています。行方不明のもう1人の子供によるものかどうかは不明ですが、ガジェット数十機が撃破されています。そして、子供の生命反応がケースの在ると思われるポイントにて消失しました』

ロングアーチのルキノからそんな最悪な報告が入った。リインが「まさか、亡くなって・・・!?」両手で口を押えて悲しげな顔を浮かべた。

『今は何とも言えません。本当に亡くなってしまっているかもしれません。ですが、ステルス魔法を持っていれば、そう言った反応を一時的に隠せることも可能かと・・・』

「あ、そうですね。後者を信じるです」

「ああ」

それからフォワードとギンガがポイントへと到着して、“レリック”のケースを発見したことを知った。けど、もう1人の子供の方は見つからねぇようだ。

『あ、待ってください! 襲撃です! 魔力反応・・・推定Sランク!』

「な・・・!?」「え・・・!?」

ここに来てSランクの敵が出てくるってマジかよ。いや、本命の1つとして数えられてたんだ。ガチの戦力が送り込まれていたとしても不思議じゃねぇ。が、「まずいな」どの魔法系統を使うかは知らねぇがSランクとなると今のフォワード達には荷が重い。

『待ってください! そんな・・・! さらにSランクの魔力反応! いえ! A+とAAランクもさらに出現!』

「なんだと!?」

「高ランク魔導師が4人もですか・・・!」

完全にこっちが本命だ。あたしは「はやて! あたしのリミッターを解除してくれ!」さすがにリミッターが掛けられてる中でSランク2人を相手にするのは骨だから要請を出す。はやては『了解や。フォワードとギンガのこと頼むな、ヴィータ、リイン』あたしのリミッターをすぐに解除してくれた。

「応よ!」「はいです!」

あたし達はしっかり応えて、アイツらの居る地下水路内のプールへ降りるために急ぐ。すでに交戦を始めてるって話だし、「ここ廃棄都市区画だし、地面ぶち貫いてもいいよな・・・?」って直通ルートを造っていいかって遠回りに提案してみる。

『ヴィータ、それはさすがにいくらなんでもアカンよ・・・』

「ですよ、ヴィータちゃん。廃棄されてるとは言え好き勝手して良いわけじゃないです」

「だけどさ・・・」

それでも何とかしてくれないかって頼もうとした時、「っ!?」足元、正確には地下から馬鹿デカイ魔力反応が発せられたと思った次の瞬間、ズドォーン!って大気や地面が大きく震えた。

「なんかヤベぇぞ!」

「フォワード達に何かあったですか!?」

『Sランク魔導師による魔法の影響かと思われます!』

『ヴィータ! さっきの取り消しや! 地面を貫いて地下へ向かって!』

はやての指示に「待ってました!」あたしは“グラーフアイゼン”のカートリッジをロードして、ギガントフォルムへと変形させた。そんで、アイツらの居るプールの直上へ到着して・・・

「ギガントハンマァァァーーーーッ!」

地面に向かって“アイゼン”の一撃を振りおろして大穴を開ける。そこはプールの天井付近にまで繋がる縦穴だった。あたし達はそこを一気に下りつつ、「リイン、敵の位置をリアルタイムで教えてくれ!」そう言うと、「はいです!」リインはあたしの目の前にプール内のマップデータを出して、フォワードとギンガの魔力反応を青、敵の魔力反応を赤で示してくれた。

「リイン、出鼻で挫く! プールに突入した瞬間にリインはこの固まってるSランクとA+ランクの2人を捕獲、あたしはもう1人のSランクをぶっ潰す!」

「了解です!」

――ギガントハンマー――

そしてあたしは“アイゼン”で天井をぶち抜いてプール内に突入。モニターの表示されてる敵を示す赤ポイントを見て、その場から動いてないのを確認。

「リイン!」

「はいです! 捕らえよ、凍て付く足枷! フリーレンフェッセルン!」

砂煙から飛び出してすぐ、敵の顔やら何やらを確認することなくリインに指示を出して、リインは氷の檻に対象を閉じ込める魔法で敵2人を確保。そんであたしはもう1人のSランク、エリオの“ストラーダ”を奪ったと思われるガキに・・・

「テートリヒ・シュラーク!」

「ぐふっ!?」

手加減を加えた一撃を食らわしてやると、ガキは大きく吹っ飛んでプールの壁に激突した。その際、手放した“ストラーダ”が宙を舞ってあたしんところに落ちて来たからキャッチ。そんで「騎士が得物を手放すんじゃねぇよ」エリオに返す。

「あ、ありがとうございます、ヴィータ副隊長・・・」

「おう。・・・ん? あぁ、あのガキか。手加減した上にギリギリでシールドを張りやがった。骨折はしてねぇだろうが打撲でしばらくは動けねぇだろ」

エリオがガキ、この前の一件でアリシアを撃墜した子供を心配そうに見てたからそう伝える。ぐったりしてるガキを見てたら「ヴィータちゃん!」リインに呼ばれたからそっちを見ると、「クイント准陸尉・・・!?」が居た。

「准陸尉? 私は管理局員だったことなんて一度もないんだけど?」

スバルとギンガが膝をついてるってことは、クイント准陸尉?がやったことになるわけだが・・・。

(外見がそっくりなだけの偽者か? それとも実は生きてて洗脳されてる・・・っつうのがアタリっぽいな)

実際にアギトがレーゼフェアの魔術で記憶の改ざんをされてる。それに信じてぇ、クイント准陸尉は生きてたって事実を。

「ま、とりあえずアンタ達は公務執行妨害含めての現行犯だ。大人しく武装解除して投降しろ」

「それは困るな~。さすがに捕まっちゃうとプライソンに怒られるし、メガーヌの娘たちが捕まると、メガーヌも悲しむだろうし」

「「メガーヌ・・・准陸尉・・・!?」」

MIA扱いのメガーヌ准陸尉の名前がここで出たことにも驚いたが「それに娘だと・・・!?」さっきぶっ飛ばしたガキを見る。メガーヌ准陸尉の子供は確か双子の女の子だったはず。じゃあ、リインが捕獲した2人の内1人も・・・。

「撤退!」

クイント准陸尉がそう叫ぶと同時、あの人のすぐ側にさっきぶっ飛ばしたガキが音も無く現れて2人揃ってまた一瞬で消えた。リインの方も「逃げられたです!」氷の檻を解除、そこには誰も居なかった。やられた。

「とにかくレリックは確保できたわけだな」

気を取り直してあたしがフォワードに向かってそう言うと、「はい、なんとか・・・」ティアナはケースを開けて“レリック”を見せてくれた。問題は子供の方だが・・・。

「まずは地上に出るぞ。レリックだけでも確実に回収だ。子供については他の陸士隊の協力して探してもらう」

「「「はい!」」」

ティアナとエリオとキャロはすぐに返事をしたが、スバルとギンガだけは無言だった。返事をしろ、って普段なら怒鳴るが、死んでたはずの母親が敵として現れりゃしょうがねぇ。が、「スバル。ウイングロードで道を作れ。あたしが殿で出る」そう指示を出す。

「あ、え、はい・・・?」

「ウイングロードだ、スバル。外に出るぞ」

「はい、すいません! ウイングロード!」

あたしが突入して来た縦穴に螺旋状のウイングロードを発動したスバル。そんで最初にスバル、ギンガ、リインと続いて「おい、ティアナ、キャロ、急げ!」少し離れたところでコソコソしてた2人を呼ぶ。その2人が駆け上がって行くのを見届けて、あたしも地上へ向かった。
 
 

 
後書き
ドブリー・イトロ。ドブリー・デン。ドブリー・ヴェチェル。
クイント率いるチーム・シコラクスの登場回となった今話。原作ではノーヴェとウェンディは武装の調整中で出撃できなかったのですが、本作ではクアットロは味方サイドなので早々に出張ってもらいました。
そして、リヴィアはこの時点からぶっ飛ばしてます。ガリューの出番をことごとく奪い去る幼女です。ガリューは無口で技も無くて描写に困る姿なので、ホテル・アグスタ編のように名前だけ登場~ってことになるかもしれません(苦笑
 
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