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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic8-Aきっと分かり合えたなら~Rusylion & Subaru~

 
前書き
うちのブァカな妹が、姪っ子と甥っ子を連れて家出して来ていたので更新が遅れてしまいました。まだ居座るつもりみたいですので、次回もひょっとしたら遅れるかもしれません。
それ+でベルセリアのサントラをYOUTUBEにUPしてました。今回は涙腺にくるBGMもあって良かったです。

というか、うちの地方・・・「Vivid Strike」が放映されねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!orz 

 
†††Sideティアナ†††

両親を事故で亡くしたあたしを育ててくれてた兄ティーダも、管理局の任務中に殉職した。違法魔導師でありながら密輸物を運搬する運び屋だった犯罪者の追跡中、密輸していたロストロギアが暴走、発生した爆発に呑み込まれて・・・。そのすさまじい火力によって、兄の遺体は犯罪者ともども一片すらも残らなかった。
地上本部の上層部はそんな兄の最期の仕事に対して、役立たず、無意味どころか無闇に被害を増やした愚か者、そんなヘマをした奴は死んだ方がマシ、そう評価を下した。もちろん世論はその問題発言を徹底的に叩いて、発言者だった局員は辞職に追い込まれた。

(でも、兄が死んだことに変わりはなくて、その発言が取り消されることもない)

大好きだった兄を貶されたその悲しみ、恨み、悔しさは消えない。だからあたしは決めたんだ。兄の不名誉を晴らすため、あたしが管理局に知らしめると。ランスターの弾丸は全てを撃ち抜けるんだってことを。だからまずは兄が生前語っていた夢である執務官を目指すことにした。士官学校や空隊試験に落ちようとも、執務官の夢への足掛かりとして陸士部隊で頑張って来た。

(そんな中、あたしは・・・八神部隊長たちからスカウトを受けた・・・)

年下なのに素晴らしい魔導師であるなのはさんに出会い、そして戦技教導を受けてもっと強くなれたことが自慢だって兄から聞かされてた。だからそんななのはさんが居るような機動六課へのスカウトは、あたしのような凡人に務まるのか不安だった。それでも戦技教導官のなのはさん、あたしが目標とする執務官の道を先駆けるフェイトさんの存在が、あとスバルの後押しが、あたしに六課への参加を決意させた。

(強くなれると思った。でもチームメイトとの才能の差を見せつけられると、あたしの凡人さが際立って・・・辛かった)

フォワードのリーダーに選ばれて、一番年上だってこともあって、才能に溢れたスバルやチビッ子たちにあたしの非才さを、情けないところを見せられない。そう思ってた矢先、あたしはスバルを誤射しかけた。アリシアさんが居なかったら、あたしの攻撃はスバルに当たってた。

(ヴィータ副隊長に怒られて当たり前なミスショット・・・)

シャーリーさんに無茶だって言われても、あたしはその忠告を聴かずにクロスファイアを撃った。その結果がミスショット。焦って無茶をやって相棒を撃ちかけた。スバルがあたしを庇おうとするたび、慰めてこようとするたび、自分が情けなくて、惨めに思えて、あの子を突き放した。

(ホントあたしって嫌な奴・・・)

陸士訓練校で、あたしとコミュニケーションを取ろうと構ってきたスバルに言い放った言葉。それでもあの子はあたしの元から離れないし。うざったいところもあるけど、ホントは嬉しかったりもする。
スバルを突き放した後、あたしは逃げるように地下駐車場の方へと向かった。そこで遭ったのが、キャロくらいの小さな女の子。普通なら客の子供で迷子、って思うところだったけど、キャロの“ケリュケイオン”と似た手袋を両手をはめていることで、すぐに魔導師だって気付いた。それに警備員が地面に倒れ伏しているのを見たら、あの子が敵だってことは嫌でも判った。

(あの時、ちゃんとヴィータ副隊長たちに連絡を入れていれば・・・)

あたし1人で確保しようとした結果、アリシアさんがあたしを庇って女の子の砲撃をまともに食らった。壁に叩き付けられるアリシアさん、目を離した数秒の内に完全に姿を晦ました女の子。

(あたしはまた、ミスを犯して・・・今度は怪我人を出してしまった・・・)

すぐにシャマル先生とアイリ医務官を呼んで、アリシアさんを治癒魔法で救ってもらった。そして応急処置を受けたアリシアさんはシャマル先生とアイリ医務官と一緒に一足先に隊舎に搬送されて、あたし達フォワードや八神部隊長たちはホテル・アグスタでの事後処理を終えてから帰って来た。

「アリシアさん・・・」

「いや~。お恥ずかしいところを見せちゃってごめんね~」

「いえ・・・」

そして今、あたしはひとり機動六課の隊舎内にある医務室へとやって来た。ベッドのヘッドボードに背中を預けて座っているアリシアさんに話しかけると、そう言って微笑みを浮かべた。そんなアリシアさんは左腕と左足を吊ってる。砲撃の直撃とコンクリートの壁に叩き付けられたことで骨折してしまったからだ。

「アリシアさんは、あたしを怒らないんですか。スバルを誤射しかけたこと、アリシアさんに怪我を負わせたこと・・・」

「わたしの事についてなら気にしないで。可愛い後輩を護るのも先輩の務めだし。誤射についてはすでにヴィータやなのはに怒られて、反省もしてるでしょ? 反省してる子にさらに追い打ちを掛けるのは逆効果」

そんな痛々しい姿ながらもアリシアさんは笑って、あたしを叱ることなく慰めてくれた。アリシアさんの言ってくれた言葉、アリシアさんが搬送されるのを見送った後、なのはさんもそんなことを言ってた。

「スバルへの誤射未遂。今回のことで判ったと思う、焦っちゃうとこんな大変な事になっちゃう、って。それにしても、ティアナはホントにわたしに似てるよね!」

アリシアさんはそう言って声を出して笑った。あたしと同じように仲間との才能の差に劣等感を抱いたり、強くなろうって焦ってたこともあるって聞いたけど、正直笑い事じゃない。あたしはそれに悩んでるんだから。

――ティアナは時々、一生懸命になり過ぎるんだよね――

なのはさんにもそう言われた。でもそのくらいじゃないと、あたしは強くなれない。

「大切な人を誤射するのまで一緒って。こんな変なところまで似なくても良いのにね♪」

だから少し不機嫌になってると、「え・・・!?」アリシアさんが耳を疑うようなことを言った。

「あー、違う。ティアナは未遂だよね。うはぁ、わたしの方が酷い! ティアナは未遂だったけど、わたしは実際に直撃させちゃったしね」

「あの、アリシアさんも・・・ミスショットを・・・?」

「そうだよ。ティアナとおんなじ焦りから、大切な妹フェイトをこの手で撃った」

「フェイトさんを・・・!」

「えへへ。恥ずかしい話でしょ。わたしの魔力が低かったおかげで、フェイトはそんな大きなダメージは負わなかった。でもやっぱり恐かったよ。手が、全身が震えた」

アリシアさんが無事な右手を眺めて、ギュッと握り拳を作った。アリシアさんの言うことをちゃんと聞いていれば。そんな後悔が溢れてくる。

「ティアナ。あなたはすでに失敗しちゃってるわたしと違って、まだ踏み止まれてる。いい? 強くなろうとする気持ちは悪い事じゃない。でもね。独りで出来ることなんて高が知れてる。今はフォワードの仲間を信じて、一緒に強くなっていってほしい。ティアナはまだ16。個人的な強さを得るには遅い、なんてことはないよ」

「ですけど・・・! それだとあたし、スバル達に置いていかれてしまいます! ただでさえ、スバル達と違ってあたしは訓練の成果が出てないのに! そうなったら足手まといで、あの子たちと一緒に居ることも出来なくなって・・・」

スバル達は元からある才能に、訓練で鍛えられた実力が伴って強くなってる。数歩分遅れてるあたしが、あの子たちと同じスピードで成長していっても追いつけない。遠く引き離されてその結果お荷物になる可能性だってある。

「そもそもその考えがアウトなんだけどね。わたしだってチーム海鳴最弱・・・は、リインか? あー、やっぱわたしか。こんな弱いわたしでも、チームのみんなに愛されて、支えてもらって、ここに居る」

「でもそこには妹のフェイトさんが居て、付き合いも10年です。けどあたし達はまだ1ヵ月も・・・」

まだ出会ったばかり。あの子たちは優しいから、あたしを迎え入れてくれるのは間違いない。そこには同情もないことも理解できる。けど、それだとあたしが耐えられない。

「はぁ・・・。判った。でもせめてスバルと組んで自主練すること。あなた独りで攻撃バリエーション増やしても、スバルがついて来れなきゃ意味が無い。それは解るよね?」

「はい・・・」

スターズとして同じ戦線に立つスバルと一緒。そんな条件が出されたけど、それなら大した問題じゃない。スバルも一緒にレベルアップしつつ、あたしはさらにレベルアップすればいいだけだ。

「ティアナ。そろそろ」

あたしとアリシアさんの2人だけで話せるようにって医務室の外に出ていたシャマル先生とアイリ医務官が戻って来た。あたしは「ありがとうございました」2人に一礼をした後、「今日は本当にご迷惑をお掛けしてすみませんでした」アリシアさんにも頭を下げてから医務室を出たら・・・

「っ・・・!」

「あっと、ティアナ。アリシアと話せた?」

「あ、はい・・・。あの、すみませんでした。アリシアさんの事・・・」

フェイトさんとぶつかりそうになった。この機会だからあたしはもう一度フェイトさんに謝った。事件後、アリシアさんがあたしを庇って重傷を負ったと知ったフェイトさんは、あたしに怪我がないことを真っ先に心配した。

――ティアナはそんなに酷い怪我は負ってないみたいだね。良かったよ――

――どうしてあたしなんかよりアリシアさんのところへ行かないんですか・・・?――

――あたしなんかって・・・。そんなこと言ったらダメだよ、ティアナ。・・・アリシアはね、魔導師としても局員としてもみんなの先輩だから、可愛い後輩を護りたいって言ってた。特にアリシアはそういう気持ちが強いんだ。ほら、執務官の仕事ってこういう部隊単位で動かないでしょ? だからアリシアは後輩が出来たのが嬉しいんだよ――

だから、アリシアさんがあたしを護って怪我をしても、それはアリシアさんの責任ってことでフェイトさんはあたしを責めなかった。それに、“クロスミラージュ”と“フォーチュンドロップ”に記録されてた女の子へのあたしの対応にミスはないってことで、シグナム副隊長やヴィータ副隊長からの叱りの言葉も無かった。

「アリシア自身が許したと思うんだけど?」

「はい」

「だったらもうこの件について謝らなくていいよ。・・・今日はいろいろ大変だったからもう休むようにね」

フェイトさんはあたしにそう言って、入れ替わるように医務室に入って行った。そしてあたしはフェイトさんには悪いと思いつつも、その足でロッカーに向かう。早速あたしのレベルアップをするために。その道中、「ティア・・・!」スバルがあたしに駆け寄って来た。

「こんなとこで何してんのよ、あんた」

「え、あ、う~ん・・・。偶然だよね!」

「下手な言い訳ね」

「あぅ・・・。アリシアさんと話し出来た・・・?」

なるほど。ただでさえヘコんでるあたしが、アリシアさんにまでヘコませられたかもしれないって思ったわけね。あたしは「ええ」そう一言だけ返して、「ちょっと自主練してくるわ」改めて歩き出す。アリシアさんの条件を考えるとスバルも一緒じゃないといけないけど、あの子も今日は疲れてるでしょうし、今日はあたし1人だけで良いわよね・・・。

「あ、そうなんだ。じゃあ、あたしも一緒にやるよ!」

「アンタも今日は大変だったでしょ。大人しく休んどきなさい」

「そう言うティアこそ、今日は大変だったんだから・・・あ・・・」

そこまで行ったところでスバルが口を閉ざして俯いた。あたしのミスショットに触れたって思ったんでしょうけど・・・。

「スバル。今日の事、悪かったわね。誤射しかけたことも、怒鳴ったことも・・・」

「ティア・・・。ううん、気にしてないよ♪」

「何よ、ニヤニヤして」

「べっつに~♪」

薄気味悪く笑ってるスバルを連れてロッカーへ向かって、そこでトレーニング服に着替えた。そして隊舎裏に向かったところで、「それで、具体的にどんな練習するの?」スバルに訊かれた。

「そうね。とりあえずあたしの戦術の選択肢を増やすのが一番だと思う。あたしは精密射撃(シャープシュート)をメインとする射撃魔導師。でもそれしか出来ないのが問題なのよ。だから近接系の魔法と技術が必要なの」

取り急ぎあたしに課す課題は、あたしの技数を増やすこと。あたしの幻術は切り札になるほどの練度は無いし、中距離から撃ってるだけじゃ今日みたく接近されたら手も足も出ない。

「なるほど。それじゃああたしは、ティアに格闘戦を教えれば良いんだね!」

「組手の相手は確かに欲しいわね。でも、あたし1人じゃまだダメなのよ。アンタとのコンビネーションも要るわ。上手くいけばさらにコンビネーションの幅も広がるだろうし、エリオとキャロのフォローにももっと回れるはずよ」

「おお! それは俄然やる気になるよ!」

そういうわけで、あたしとスバルはなのはさんの教導の他に、自分なりのやり方も取り入れて強くなることを決めた。

†††Sideティアナ⇒スバル†††

ティアの考えた自主練メニューの通りに練習をして3日目。今日も練習するために朝5時起き。あたしの身体はちょっと特別で、寝起きはかなり良い。けどティアは「寝てる・・・」ぐっすりスヤスヤ。朝早くから自主練、日中はなのはさんからのトンデモなく厳しい教導。疲れない方がおかしい。

(う~ん。やっぱり起こさないと後で怒られるよね・・・)

目覚ましのアラームが鳴り続ける。あたしは「ティア~」を起こすことにした。アラーム音を止めて、「起きて、ティア。時間だよ」体を揺する。すると「ぅあ? あー、ごめん。世話かけるわね」もそもそとティアが体を起こした。

「今日はやっぱりやめとく? 毎日朝練やってるし、ティアの身体が心配なんだけど・・・」

「これくらいやんなきゃ足らないもの。アンタはどうなの? 体調崩してない?」

「平気平気♪ 知ってるでしょ、日常行動なら4~5日は寝なくても大丈夫だって」

「日常じゃないでしょう?」

「だいじょ~ぶだって。・・・あれ?」

ティアと一緒にトレーニング服に着替えるために部屋を明るくしようとしてカーテンを開けると、「シミュレータが動いてる・・・?」あたし達の訓練用になのはさん達が造ってくれた空間シミュレータが稼働しているのが見えた。

「は? こんな朝早くからそんなわけ・・・、あ、本当。誰が使ってるのかしら?」

ティアもあたしの隣から窓の外を見た確認。あたしは「行ってみる?」って訊いてみた。ティアは「そうねぇ・・・」少し渋ったけど、あたしは「行こうよ~」強引に向かうことを決めた。

「またアンタの強引さが出て来たわね・・・」

「えへへ♪」

何か知らないけど直感が、行け、って言ってる気がする。寮から静か~に出て、シミュレータへと向かう。その途中で、誰がシミュレータを使ってるのか判った。ビル群の間を飛び交う綺麗な蒼色の魔力が奔るのを見たから。間違いなく「ルシルさん・・・」のものだ。お母さんとルシルさんが任務に行く前日、ギン姉と模擬戦をしたルシルさんが蒼い魔力を発したのを憶えてる。

(アリシアさんからルシルさんの事情を聴いて早3日。ルシルさんとは結局話が出来てないから、これはチャンスかも・・・)

ルシルさんは基本的に八神部隊長の執務室に居るから、顔を合わせることがかなり難しい。でもこれからティアと自主練だし。う~んって唸ってると、「いいわよ。ルシルさんに会いに行きましょ」ティアからそう言ってくれた。

「いいの?」

「いいわよ。アンタが話してる間、あたし1人で自主練やってるから、終わったら合流しましょ」

「ティア・・・。うん、ありがとっ♪」

そうしてあたしとティアはシミュレータへと足を踏み入れた。そこにはガジェットⅠ型とⅡ型とⅢ型、100機以上と真っ向から戦って余裕で殲滅してるルシルさんの姿があった。12枚の剣のような蒼い光の翼を背中に展開した姿。左手にはルシルさんの身長を超す長さのアームドデバイス(確か槍だったはず・・・)の“エヴェストルム”。

「うわ、すご・・・」

「うん・・・。空戦SSランクってすごいね・・・」

その圧倒的な火力に、あたしとティアは呆気にとられた。そんなあたしとティアに気付いたのか、ルシルさんはあたし達の側に降り立って、剣の羽を解除した。

「おはよう、スバル、ティアナ。早いな。朝練か?」

「「え? あ、おはようございます・・・?」」

フレンドリーに話しかけられて戸惑うあたしとティア。ルシルさんは「今の時間くらい素でいさせてくれ」そう言って、人差し指を唇に当てて苦笑した。この時間だけルシルさんは、内務調査官じゃなくてルシルさんなんだってことみたい。

「それで? 朝練なのか?」

「あ、はい。そうです。セインテスト調査官もそうなんですか?」

「まあな。24時間ずっとデスクワークだから全身が凝って仕方ないんだよ。だからこうして週一で、シミュレータを借りていろいろ発散させてるんだ」

ティアとルシルさんがお互いの質問に答えたところで、「どうせなら2人も使っていくか? このシミュレータ」ルシルさんが提案してくれた。

「え、いいんですか?」

「なのはの教導が始まるまでの間だけどな。それまでは自由に使っていいとシャーリーやなのはから許可は貰ってる」

「ぜひ!」

ティアが目を爛々と輝かせてルシルさんの提案を受け入れた。明日のなのはさんとの模擬戦の為の復習をイメージトレーニングでするつもりだった。だけど実際に戦闘フィールドを使えるなら、ただのイメージより完成度が高くなる。

「あ、ありがとう・・・ございます」

あたしもお礼を言うんだけどやっぱりぎこちなくなっちゃう。ルシルさんはあたしを少し見た後、「ティアナ。どのフィールドでいい?」ルシルさんと、「あ、このまま廃棄都市フィールドでお願いします」ティアが話し始めた。

(逃げるなスバル! もう、あたしは子供じゃない! ルシルさんを苦しめてるあの過去(ころ)のあたしの言葉を、現在(いま)のあたしの言葉で晴らさないと!)

――こら、スバル。八神部隊長やリイン曹長から聞いたけど、あなた、まだルシルさんとまともに話していないらしいじゃない。まさか手紙に嘘を書いてくるなんて――

ルシルさんと未だに話してないことが八神部隊長とリイン曹長伝手にギン姉にバレて、それはもう怒られた。

――スバルよぉ。お前にもいろいろあると思うが、ルシリオン(ぼうず)もお前と同じくらい苦しんでると思うんだ。出来るだけ早く坊主の苦悩を晴らしてやってくれや――

お父さんにもそう言われた。判ってる。判ってるけど、どれだけルシルさんと話そうと思ってもダメだったんだ。でも、アリシアさんから聞かされたルシルさんの事情を知って、ようやく決心が固まった。ここで逃げたら、また何日も話せなくなると思う。

――2人で話すのが気不味いなら、私も一緒に謝るから――

ギン姉もルシルさんに謝りたいって言ってた。でもここでギン姉に頼るような真似は出来ない。一番罪深いのはあたしだもん。あたし1人で謝るべきだって判ってるから、ギン姉のその提案は断った。

(お父さん、ギン姉。あたし・・・しっかりするから・・・!)

空間シミュレータの操作を行うルシルさんと、ルシルさんの側で操作が終わるのを待つティアを眺める。そして、ルシルさんの操作が終わったのを見計らって「ル、ルシルさん!」意を決して名前を呼んだ。

「お、お話ししたいことがあります! おじ、お時間を頂けませんか!」

「・・・・。ああ、大丈夫だよ」

「『あたしは先に行って自主練やってるから、アンタはしっかり伝えるのよ』それでは、お言葉に甘えて使わせていただきます」

『うん。ありがと、ティア』

ティアが1人離れていって、あたしとルシルさんを2人きりにしてくれた。ティアを見送った後、「君から話をしてくれて嬉しいよ、スバル」ルシルさんがとっても優しい声であたしの名前を呼んでくれた。鼻の奥がツンとなる。一瞬でルシルさんと初めて会った時のことが脳裏に過ったから。

「あたし、ずっとルシルさんに謝りたかったんです!」

そう口にしたら堰を切ったようにこれまで伝えたかったことが溢れてきた。

「お母さんが死んだこと、全然ルシルさんの所為じゃなかったのに! ルシルさんだって大変な目に遭ったのに! あたしはルシルさんに酷い事ばっかり言って!」

――うそつき! 一緒に帰って来るって言ったのに! おかーさんは大丈夫って言ったのに! 約束したのに!――

「ごめんなさい!」

――だいっキライ! うそつきなんてだいっキライ! うそつき!――

「ごめんなさい!」

――かえしてよ! おかーさんをかえしてよっ! かえしてよっ! 約束したんだからかえせ!――

「本当に・・・本当にごめんなさい!」

――おかーさんの代わりに・・・ルシルさんが・・・死ねばよかったんだ!――

「ルシルさん! あたしは! あたし・・・あたし・・・!」

涙が溢れてくる。深く頭を下げて何度も謝る。

「クイントさんを守れなかったのも、スバル達との約束を果たせなかったの事実だ。だから恨まれて、憎まれて当然だって。これまでずっと思ってきた。だけど・・・。こうして許されると、やっぱり嬉しいな」

「ルシ・・・っ!!」

顔を上げてルシルさんを見ると、ルシルさんの目から涙が流れてた。あぁ、あたしは本当に馬鹿だった。もっと早く、ルシルさんと話していれば良かった。ルシルさんの涙と嬉しげな表情を見て、「今まで本当にごめんなさい!」あたしの涙がさらに溢れてきた。

「ありがとう、スバル。俺を許してくれて。ありがとう」

「っ! あ、あたしの方・・・こそ! あたしのこと・・・! 悪く思わないでくれて・・・! 優しく・・・話してくれて・・・! ありがとう・・・ございます!」

ルシルさんの優しさが嬉しい。もし他の人だったらここまであたしを大事に思ってくれなかったはずだもん。自分だって大変な目に遭ったのに、いくら幼いからと言って、代わりに死ねばよかった、なんて言われたら普通は怒ったり、冷たい態度を取っちゃったり、今後絶対に関わらない関係になるはず。

「あの、ルシルさん」

涙を袖で拭いながら、「今度、お母さんのお墓参り、一緒に行ってくれますか?」そうお願いしてみた。ルシルさんは毎年お母さんのお墓参りをしてくれてる。だけど一度も顔を合わせることがなかった。お父さんからは、ルシルさんがあたしのことを気遣って意図的に時間をずらしてる、って聞かされた。

「ああ、ぜひ。ナカジマ三佐やギンガとも一緒に行ってみたいな」

「はいっ! お母さんもきっと喜びます!」

だけどもう大丈夫。お母さん、今日までごめんね。今度の命日には、お父さんやギン姉と一緒にルシルさんも連れて行くから。

(朝練が終わったらギン姉にメールしておこうっと♪ ルシルさんと一緒に映る写真データを添付すれば、今度は嘘じゃないって判ってもらえると思うし)

こうしてあたしは、ルシルさんと仲直り出来た。機動六課の稼働中は、内務調査官としての立場があるルシルさんと親しく出来ないけど、「何かあれば念話で話しかけてくれ」口での会話じゃなければ、ある程度は素のルシルさんと話せるっていうのが嬉しい。

「それじゃあ、改めて・・・これからもよろしく頼むよ、スバル」

「はいっ! こちらこそよろしくお願いします、ルシルさん!」

これで残る問題は今回の事件の首謀者として捜査されてる、お母さんや所属してた部隊の人たちの死の要因になった広域指名手配犯、プライソンとその一派との決着だけだ。ルシルさんとの関係を修復できたことに喜んでると、「俺としても嬉しいことだが、ティアナは放っておいて良いのか?」ルシルさんに言われた。ハッとしてビル群の奥を見る。ティアは、あたしとルシルさんがちゃんと話を出来るように気遣って、先に自主練をやってる。さすがにこれ以上待たせるのはまずいよね。

「あの、ルシルさん! あとでもう一度時間くれませんか? ギン姉とお父さんに、ルシルさんとちゃんと話が出来たっていう証拠を送るために写真を撮りたいんです」

「それはまぁ、構わないよ」

「ありがとうございます♪ あ、ティア~! お待たせ~!」

ルシルさんとの約束を取り付けて、ひとり自主練をやってたティアと合流。ティアはあたしの顔を見て、「さ、始めましょ」何も言わないでくれた。あんだけ大声で泣いちゃったんだし、今のあたしの目は腫れてるかもしんない。その気遣いに心の中で、ありがとう、お礼を言って、パンッと両頬を叩いて気合を充填。

「あ、ルシルさんはこれからどうします?」

「そうだな・・・。邪魔じゃなければ少し見学していても良いか?」

「構いませんけど、ルシルさんほどの魔導騎士にとっては結構地味で、つまらないものになるかもしれませんが・・・」

「仕事開始まで部隊長室でぼけっとしているのと、朝から自主練に励んでいる後輩を見守るのと、どちらが有意義だと思う?」

ルシルさんにそう訊かれて「後者です」ティアと一緒にそう答えた。あたしだって時間があれば、ぼけーっとしてるよりか少しでも自主練とか誰かの戦闘訓練を見ていたいもん。ルシルさんは「邪魔だと思ったら遠慮なく言ってくれ」って言うけど、絶対にそんなこと言えない。そんなわけで、なのはさん達以上にすごいって言われるルシルさんの目の前で練習を始めるんだけど・・・。

『なんか緊張する・・・』

『え、ええ。ルシルさんってガチの戦闘のプロだし、今のあたし達の動きを見て内心どう思ってるのかも合わせて緊張するわ』

ティアの組手の練習に付き合ってるんだけど、そんなに近くない位置にルシルさんが居るだけで動きが硬くなっちゃう。でもルシルさんが邪魔って言いにくいし。どうすればいいかを考えながら、ティアと新しく組んだコンビネーションの練習に入るところで・・・

「あの、ルシルさん。良かったら模擬戦の相手をお願いしても・・・?」

あたしはそう提案してみた。ジッと見てられるよりかはマシになるかな~って思ったからなんだけど、「アンタね・・・」ティアが呆れを見せた。あれれ、結構良い提案だと思ったんだけどな~。

「ルシルさんは、こうしてあたし達と普通に喋ってるだけでも結構際どいのよ? そこに、さらに模擬戦の相手になってほしい、なんてそんな首を絞めさせるような真似、ルシルさんがいいって言うわけ――」

「いいぞ、やろう」

「ほら、いいぞって言ってるじゃない。すいません、ルシルさん。今の聴き流して・・・って、ええええええええ!? いいんですか!? これ、あたし達にとっての利ですよ!? 調査官は、出向先の人たちの利になる事をしてはいけないんじゃ・・・!?」

ティアが1人で騒いで百面相してる。あのティアがここまで振り回されてるのを見るのって初めてかも。

「俺の利でもある。なのはの教導の成果を直に見れて、それに魔導師との実戦は心地よい緊張を与えてくれる」

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

「もちろん教導時のなのはに合わせて魔力や戦闘行動も抑えよう」

ルシルさんの背中から12枚の剣の羽が展開されて、ふわっと宙に浮いた。それがルシルさんにとっての臨戦態勢だと察したあたしは「お願いします!」頭を下げてから構えを取って、遅れてティアも「ありがとうございます!」お礼を言って、“クロスミラージュ”の銃口をルシルさんに向けた。

「君たちに変な癖を付けたら後でなのはに怒鳴られるから、なのはの動きを参考にさせてもらう。手を抜かれたと思わないでくれ」

「はいっ! スバル! 行くわよ!」

「うん! ウイング・・・ロード!」

魔力で空中に道を作る魔法ウイングロードを発動した。ルシルさんは剣の羽12枚を背中から展開して、宙に佇んだまま。訓練時のなのはさんと一緒だ。ティアは近くのビルへと入って行って姿を隠した。あたしも、ウイングロード上を走ってルシルさんから一定の距離を取る。

『ティア、コンビネーションはどうするの?』

『クロスシフトAで行くわよ。どのシフトでもルシルさんを出し抜けるとは思えないけど、手堅く攻めていくわよ』

『了解!』

クロスシフトAは、あたしが相手を撹乱してる間に、フリーになってるティアが決めるコンネーションだ。そういうわけで早速あたしは撹乱するためにルシルさんの周りを駆け回る。

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

ルシルさんの側に強く発光する魔力の槍が12本と展開されて「ジャッジメント」その号令で、あたしに向かって槍が射出されてきた。かなり速い所為で掠ってけど、回避はし切れた。

第二波(セカンドバレル)・・・装填(セット)

また魔力の槍が12本と展開。そして「ジャッジメント」あたしに向かって射出されてきたんだけど、「うわっ!?」今度は全部が足元に集中して着弾して来た。スピードに乗ってただけに勢いよくバランスを崩した。

『ティア、あたしピ~ンチ!』

『待ってなさい!』

――クロスファイアシュート――

ルシルさんに向かって放たれる15発のティアの魔力弾。ルシルさんは「撹乱も済んでいない中でのこれはダメだろ」ベルカ魔法陣タイプのシールド、古代ベルカ式だからパンツァーシルトって言う防御魔法を発動した。次々とシールドに着弾して爆発を起こしてく。

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

黒煙の中から蒼く輝く砲撃が飛び出して来て、ティアの居るビルに向かって行った。そして着弾したから「ティア!!」あたしは足を止めてビルを見る。

『けほっ! あたしはいいから、自分の心配をしなさい!』

ティアから無事を知らせる念話が入ってホッとしたのも束の間、「よくそんな暇があるな、スバル」ルシルさんの声が聞こえた。ルシルさんの居る方を見れば、すぐそこにまで魔力の槍が接近して来てた。

「っつ・・・!」

その場で上体反らしすることでなんとか回避した。体を起こしながらウイングロードを伸ばして宙を駆け抜ける。ルシルさんから『不格好な避け方だったが、やるじゃないか』お褒め?の言葉を貰った。

「あ、ありがとうございます!」

『スバル! 配置し直すから、少しの間耐えて!』

『う、うん!』

ティアがビルの間を移動するのを援護するために、敢えてルシルさんの視界に入るようにしてウイングロードを伸ばす。ルシルさんは「え―っと、こういう場合は・・・」思案顔をした後・・・

「君らの策に乗るのが良いんだろうな」

そう結論付けて「さぁ、しっかり避けろよスバル・・・! ジャッジメント」また魔力の槍を、今度は20本近く放ってきた。あたしは必死に避け回りながらティアからの指示を待つ。

『スバル! もう一度クロスファイアで集中砲火するから、ルシルさんの足止めお願い!』

『ん!』

ルシルさんに接近しつつ、「ジャッジメント」放たれてくる槍を避けて、ティアの準備が整うのを待つ。どれだけ時間が掛かってもって覚悟したすぐに『いつでも行けるわ!』ティアからゴーサインが出た。“リボルバーナックル”のカートリッジ1発をロード、ナックルスピナーを高速回転させたうえで右腕を振りかぶる。

「うぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」

「来るがいい」

そう言ってルシルさんは“エヴェストルム”を振りかぶって、あたしの迎撃態勢に入った。“エヴェストルム”は2mちょっとあるし、ルシルさんの身長も180cmくらいあるし、リーチ差は結構ある。半端な避け方じゃまず体のどこかを引っ掛けそう。

「リボルバー・・・シューット!」

先制はもちろんあたしで、右拳をルシルさんに向かって突き出す。放つのは射撃魔法に分類される衝撃波。ルシルさんは「せいっ!」“エヴェストルム”を大きく薙ぎ払ってリボルバーシュートを真っ二つに裂いたけど、「っく・・・!」完全に無力化できなかったみたいで、体勢をほんの僅かだけど崩した。

「どりゃぁぁぁぁぁ!『ティア!』」

『オッケー! 巻き込まれんじゃないわよ!』

そんなルシルさんに向かってあたしは突撃を続行。もう一度“リボルバーナックル”を装着してる右腕を振りかぶる。そして体勢を整え終えたルシルさんももう一度“エヴェストルム”を振りかぶった。

「『うんっ!』ナックル・・・ダスタァァァーーーッ!」

「ふんっ!」

あたしの迎撃のために横薙ぎに振るわれる“エヴェストルム”だったけど、「っ!」タイミングを見計らって大ジャンプして回避。右脚に少し痛みが走ったことから、やっぱり完璧に避けれなかったみたい。それでも十分ルシルさんの注意をあたしに引き付けることが出来た。

――クロスファイアシュート――

あたしがルシルさんの頭上を飛び越えているその最中、ティアの制圧射撃が飛んで来た。あたしの行動に意識を割かれてたルシルさんが「ほう」感嘆の息を漏らした直後、魔力弾が次々に着弾していって爆発を起こしてく。その爆風に煽られたあたしは「おわっと」ウイングロードから落っこちそうになったけど、なんとか別のウイングロードを発動したことで無事に着地。

「ルシルさん・・・?」

「これがクロスシフトAか。なるほど」

濛々と立ち上る煙を見ていると、ルシルさんのそんな声が聞こえた。
 
 

 
後書き
ヒューヴェーフォメンタ。ヒューヴェーパィヴェ。ヒューヴェーイルテ。
原作で言うスバティア暴走回の今話。次話である後編と今話の前編を纏めての1話にする予定でしたが、あれよあれよと文字数が増えて行ったことで断念。途中から次話に使う内容が減ることのないように引き伸ばしをやり始める始末。ええ、スバルサイドは基本的に引き延ばしです(殴
 
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