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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic6-E古代遺失物管理部・機動六課~Intermission~

 
前書き
わっはっは。またサブタイトルがサボり気味。今回六課メンバー、誰1人として出ていないのね! 

 
†††Sideアリサ†††

ミッド北部の第211陸士部隊から、ここミッド西部の第108陸士部隊に転属・・・と言うより戻って来てもう2年ね。元々あたしはここ108陸士隊に所属してた。そして211陸士隊に転属になって、数年ぶりにまた108陸士隊に帰ってきたことになる。

(あの頃と変わらない隊員も多いし、戻ってきたから初めて顔を合わせる新人も多く居たわね)

知った顔が多く居ると仕事もやり易い。今日もかつて一緒に仕事をしていた捜査官とチームを組んで、質量兵器(拳銃とかね)の密輸を企てていた馬鹿どもを牢屋にぶち込んでやったわ。その一件の報告書をオフィスで書いていると・・・

『呼び出しです。捜査部、アリサ・バニングス二等陸尉。至急、部隊長室にまで来て下さい。繰り返します――』

呼び出しを食らった。うちの部隊の部隊長はゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。あたしが所属してた頃は一等陸尉で、部隊長補佐だった。んで、そのナカジマ三佐があたしをこの108陸士隊に呼び戻した。元より自分が部隊長になったらあたしを呼び戻すって公言してたし、あたし自身それでも構わなかった。クラリスと離れ離れになったのはちょっと寂しいけどね。

「あたし、なんか呼び出されるようなミスしたっけ・・・?」

「いえ。アリサさんは別段おかしなことはしてなかったはずですが・・・」

あたしの独り言にそう返したのは、あたしのデスクの隣で同じようにデスクワークをしてたギンガ。ギンガ・ナカジマ陸曹。ナカジマ三佐の実子で、歳は17歳の礼儀正しい出来た部下。捜査官としても戦闘魔導師としても優秀で、この108陸士隊の中で唯一、あたしが気兼ねなく背中を預けられる子ね。
ギンガもあたしと同じ捜査部所属で、午前中の捜査にも参加してた。だからあたしが何かドジったのなら、何かしら指摘をしてくれるはず。そんなギンガが何も無いって言うんだから、あたしに落ち度はなかった・・・と思う。

「とにかく行ってみるわ」

「あ、はい」

ギンガと手を振り合ってからオフィスを出たところで、「部隊長室にまで4人分のお茶ですね、判りました」ギンガが誰か(たぶん三佐ね)にそう応じているのが背中に聞こえた。とにかく部隊長室まで早歩きで向かう。そして部隊長室前に着いてインターフォンを鳴らすと、室内から『おう、入ってくれ』ナカジマ三佐の声で入室を許可する旨が伝えられた。

「失礼します」

スライドして開いたドアの奥、そこには108陸士隊の部隊長のナカジマ三佐が1人。脚の短い長テーブルを挟んだ応接用ソファの上座側に腰かけてる。三佐は「おう、よく来てくれたなバニングス」と言って、三佐の座るソファの向かいにあるソファに座るように促してきた。

「あの、ナカジマ三佐。あたしに何かご用が・・・?」

あたしもソファに座ってそう訊ねてみた。三佐の雰囲気からして怒ってはいなさそうなんだけど。ドキドキしながら何を言われるのかと待っていると、「これから客が来る。お前さんも合い席してくれや」なんてことはない、接待だった。

(だからギンガに4人分のお茶を用意するように指示したのね)

三佐の言い方に、これから来る客って言うのがあたしやギンガの知人かもしれない、って考えが生まれた。まぁとにかく客が来れば判ることだけどね。それから三佐と他愛ない会話をしながら待つこと数分。

『ナカジマ三佐。お見えになりました』

「部隊長室にまで通してくれ」

隊舎ロビーの受付から通信が入ると三佐がそう応じた。音声だけだったから客の姿を見ることが出来なかったわね。一体だれが来るって言うのかしら。それからまた待つことほんの少し。インターフォンが鳴った。

「おう、どうぞ入ってくれ」

「失礼します」

あたしと同じように入って来たのは「はやて!? それにリイン!」だった。2人もあたしに気が付いて「おお、アリサちゃんや!」はやては小さく手を上げて、「アリサさん、お久しぶりですぅ~♪」リインはあたしの側まで飛んで来た。

(あぁ、なるほど)

でもこれで三佐の意図が理解できた。あたしとはやてとリインは親友、ギンガははやてがここで指揮官研修していたこともあって知己だもの。はやてがここに来るってことで、粋な計らいをしてくれたのね。直接顔を合わせるのも久しぶりってことで再会をそこそこ喜び合った後、はやてがあたしと同じソファに座って真剣な面持ちになった。ちなみにリインははやての肩の上ね。

「ナカジマ三佐。今日は時間を割いていただきありがとうございます」

「あぁ、気にすんな。で? 急に会って相談がしたいって言っていたが。お前の造った新部隊も調子が良いみたいじゃないか。この前、スバルからメールを貰ったよ。大変だが充実した毎日を送ってるってな。そんな順調な中でいきなり古巣の上司に相談となると、その内容はどうも想像つかないぞ」

スバルはギンガの妹ね。あたし自身も数える程度しかあったことがないわ。ギンガ伝手で何度か写真を見させてもらってるけど、4年前の空港火災の前と後じゃ目つきが全然違う。今では憧れだって言うなのはが隊長を務める分隊員の一員で、そして日々訓練漬け。

「そうですね、部隊の方は今のところは、です。ですが優秀なスタッフばかりですので、これからも不安なんてありませんが」

「はいっ! 皆さん、とっても素晴らしい隊員です!」

はやての造った部隊・機動六課。正直な話、あたしも参加してみたかったのよね。でもま、あたしが入るより戦技教導官のなのはや執務官のフェイトが入った方が、はやての望む形になるって部隊創設の話を聞いた瞬間に思ったから、あたしは適当に理由を付けて断った。

「そうかい。で、相談ってことだがどんな内容だ? お前も気が付けば俺の上官だ。多少の無茶難題でも聞いてやろうじゃないか」

「あはは♪ 愛弟子から師匠へのちょっとしたお願いですよ♪」

はやてがそこまで言ったところでインターフォンが鳴った。三佐が「はいよ」入室を促すとドアがスライドして、「お待たせしました」トレイを手にしたギンガが姿を見せた。

「おっ。久しぶりやな、ギンガ♪」

「ギンガ~、お久しぶりですぅ♪」

「っ! 八神二佐、リイン曹長! お久しぶりです!」

はやてやリインとの再会に満面の笑顔を浮かべるギンガ。ギンガがテーブルにあたし達のお茶を並べていく中、「ギンガ。お前もこのまま同席してくれ」三佐がそう言ったから、「判りました」お茶を並べ終えたあの子は三佐の座るソファ側に控えた。

「じゃあ聞かせてもらおうか、八神」

「はい。お願いゆうんは密輸物のルート捜査についてなんです」

はやてが展開したモニターに映ったのは赤い結晶体、「レリック・・・!」だった。4年前、チーム海鳴全メンバーが揃った中での最後の任務は、この“レリック”の回収だった。はやてが「うん。六課が担当してるもんや」少し苦い表情を浮かべた。ひょっとして何かしら進展があったのかしら・・・。

「なるほど。そのレリックというロストロギアが通るかもしれないルートの捜査を、俺たちに頼みたいということなんだな」

「はい、そうゆうわけです。詳しいデータはリインが持って来てますので、後で確認して頂ければと思います」

「はいですっ」

三佐は少し考える仕草を取った後、「いいだろう、引き受けた」はやてからの捜査協力の話を受けてくれた。あたしは内心、よっしゃ!ってなった。何故なら・・・

「密輸調査は陸士108部隊(うち)の本業と言えば本業だ、そういった仕事はキッチリ期待以上にやるさ。・・・密輸調査を主とする係の責任者はバニングスで、ギンガはその補佐だ。どっちとも親しいから使い易いだろ」

そう、密輸関連の捜査係の長はあたしで、ギンガはその補佐を担当してくれている。だからはやての機動六課と協力するとなると、必然的に顔を合わせる機会が増えるわけよ。あたしとギンガはチラッと目を合わせて喜び合った。まさかこんな形で、機動六課に関われるとは思いもしなかったわ。

「はいっ、お願いします! アリサちゃん、ギンガ。六課(うち)の捜査主任はフェイトちゃんやから共同捜査でもやり易いと思う」

「ええ、そうね」

「はい!」

あたしは9歳の頃からの幼馴染だし、ギンガは空港火災の際にフェイトに助けてもらったこともあって、スバルがなのはに抱くのと同じようにギンガはフェイトを尊敬してるわ。ちょっと妬けちゃうけどね。部下が別の誰かを尊敬してるのって。ま、誰とも知れない奴じゃないことだけは助かるけど。

「フェイトさんと一緒に捜査・・・。それはすっごく頑張らないといけませんね!」

「ギンガ。気張り過ぎて空回りなんかして、バニングスや執務官殿に迷惑かけねぇようにな」

「解ってます!」

そう返事したギンガに「ギンガ、ギンガ」リインが声を掛けた。リインからギンガへ何を言うのかしら?なんて考えてると、「捜査協力に当たって、ギンガにデバイスを1機プレゼントします♪」とのことだった。

「え、デバイスを・・・ですか?」

「はいですっ。スバル用に造ったローラーブーツ型のインテリジェントデバイス・マッハキャリバーの同型機、その名もブリッツキャリバー! もちろんギンガ用にチューニングするですから、何も問題ないですよ♪」

「あの、えっと、それはとても嬉しいことなんですけど、頂いちゃっても良いでしょうか・・・?」

嬉しい半面困惑してるギンガ。インテリジェントデバイスってかなり高価な物なのよね。あたしやすずか、なのはだってタダ同然で手に入れたからその価値は全然知らなかったけど、管理世界(こっち)に来てからインテリジェントデバイスがどれだけ高価なのかを認識して目を見張ったもの。

「貰っとけ、貰っとけ。くれるって言うんだから、そういう場合は遠慮せずに貰っとくもんだ」

「ナカジマ三佐の言う通りやよ、ギンガ。それを断ったらやる気を持て余してる六課(うち)のメカニックが悲しむわ」

三佐に続いてはやてからもそう言われたことで「はい。ありがたく頂戴します!」ギンガは素直になった。のほほんとした空気の中、「八神」三佐の厳かな声が響いた。

「あ、はい、なんでしょうか・・・」

「ずっと考えてたんだけどよ。どうしてわざわざ俺のところに捜査協力をしに来た? 他の機動隊や本局の捜査部にはしねぇのか?」

「いえ、もちろんそのどちらにも密輸ルートの捜査協力をしてもらってます。それに聖王教会の騎士団とも協力してます。ただ、地上のことはやはり地上部隊の方が地の利もありますし、よく知ってますから」

はやての目を真っ直ぐ見て、その返答をじっくり聞いてた三佐は「ふむ」また考え込む仕草を取った。あたしとリインとギンガは顔を見合わせる。三佐は何を考えて、今の質問をしたのかしら。

「理由はそれだけか?」

三佐からの質問に、今度ははやてが長考する。あぁ、やっぱり何かしらあったのね。だからあたしは「この前、レリックを回収したでしょ。その時に何かあった?」って訊いてみた。

「そうなのか?」

「・・・。はい。数日前、機動六課はレリックを運搬していたリニアレールを襲撃しているガジェットドローンと交戦、コレを撃破。レリックも無事に回収したのですが・・・。その際にある航空兵器が現場に出現しました」

そう言ったはやてがモニターに映る“レリック”画像を消して、また別の画像を表示させた。あたしは「シャックスとマルファス・・・!」すぐにソレが何か判った。三佐とギンガはモニターに映る航空兵器――戦闘機と輸送機を見て小さく首を傾げた。

「数年前。かつてナカジマ三佐の奥さんであり、ギンガやスバルにとって母であるクイント准陸尉を含めた首都防衛隊の1部隊と、査察官として同行したルシル君が、広域指名手配犯・プライソンの秘密工房へと潜入捜査をしました」

「「っ!!」」

三佐とギンガの顔色がガラッと変わった。その潜入捜査でクイント准陸尉を始めとした部隊員の大半は殉職。隊長の騎士ゼストは依然意識不明のこん睡状態。メガーヌ准陸尉は死亡扱い。ルシルも左目の視力と固有スキルを失った。

「この2つの航空兵器は、ルシル君がプライソンの工房のデータバンクから回収した数々の兵器の設計図にあった物でした。この事から今回のレリック事件の首謀者は、プライソンやと判断しました」

掩護機・“シャックス”と輸送機・“マルファス”の映像が流れる。“マルファス”の下部ハッチから、製作者不明とされていたガジェットドローンⅡ型が何十機と召喚された映像が。プライソンの造り出す兵器の中からガジェットが召喚されてきた、となれば十中八九プライソンが首謀者。またはその関係者になるわね。

「そうかい。女房やゼスト隊の死も無駄じゃなかったんだな・・・」

「余計なお世話かもしれへんと思いましたが、クイント准陸尉たちが追っていた事件の延長線にある本件。ナカジマ三佐やギンガにも少なからず因縁があると思いましたので、密輸調査の件と合わせて、こうしてお願いしに来た次第です」

はやてが三佐とギンガに深々と頭を下げた。そんなはやてに「この事をスバルはもう知っているんですか・・・?」ギンガがそう訊く。

「まだや。正直伝えるかどうか迷うてる状況や。普通は教えるべき情報やし、隠しておいても直に知られる話や。そやけどタイミングもあると思うんよ」

スバルはクイント准陸尉の殉職によっていろいろ大変だったものね。葬儀の時にはルシルに、クイント准陸尉の代わりにルシルが死ねばよかった、とも言っちゃってるし。なんて考えてると、「八神。スバルと坊主の様子はどうなんだ?」三佐が訊く。

「スバルからのメールだと、ルシルさんとの事は大丈夫、とだけしか送られて来てないんです・・・」

「「あー・・・」」

困ったような声を上げて明後日の方へと目をやるはやてとリイン。それだけで今のルシルとスバルの状況を察することが出来た。三佐は「そうかい、ダメかやっぱり」溜息を吐いて、「あの子ったら。嘘を吐いてたのね・・・」ギンガは呆れ果てた。

「ルシルさんが六課に居ると知ってすぐ、謝るなら早い方が良いって言っておいたんですが・・・。あ、まさか今日までずっとルシルさんと話していない、とかはないですよね・・・!?」

「おはようございますやお疲れ様です、みたいな短い挨拶はこれまで何度か交わしてるようですけど、スバルはルシル君をどこか避けてるですね」

「・・・」

「次にスバルと会ったら、私から言っておきます。八神二佐。プライソンの件も私に預からせていただけませんか?」

「そうやね。ギンガからならスバルも落ち着いて聞いてくれるやろうし。ギンガに任せするわ」

「ありがとうございます」

スバルはスバルでいろいろあるんでしょうけど、あたしとしちゃルシルの心労を出来るだけ軽くしてほしいとも思うわね。プライソンが事件に関わってくるとなると、絶対に“エグリゴリ”のレーゼフェア、それにフィヨルツェンが出てくるはずだから。

「まぁとにかくだ。会議室を1つ空けとくから、そこで詳しい会議をしてくれや」

「はいっ。ありがとうございます、ナカジマ三佐。アリサちゃん、ギンガ。よろしくな!」

「ええ!」「はい!」

というわけで、あたしとギンガが所属してる108陸士隊も、“レリック”捜査に加わることになった。

†††Sideアリサ⇒イリス†††

「――そういうわけだから、機動六課のフォワードの皆さんは第97管理外世界・地球に行っているから、帰還するまでの間の“レリック”捜査はあなた達、朱朝顔騎士隊(ロート・ヴィンデ)に掛かっているわ。だからそのつもりでよろしくね♪」

「・・・・はい?」

朝起きて、今日も“レリック”捜査を頑張ろうって時にカリムに呼び出され、そして聞かされたのはわたし放置の刑の内容。地球は日本・海鳴市に、“レリック”とは違うロストロギアがあるってことで、カリムははやて達に回収要請を出して、それに応じたはやて達は海鳴市に出張任務・・・という名目の里帰り・・・とかさ。

「なんて日だっ!!」

「っ!?」

なんにも聞かされてないよ、そんな話。その心情を露わした言葉をわたしが叫んだら、カリムがビクッとなった。わたしはカリムの執務室に膝から崩れ落ちた。機動六課には入れないわ、出張任務の話を聞かされてないわ置いてけぼりだわ、もう心が折れた。

「イリス!? イリス、どうしたの!?」

「ねぇ、カリム。わたしって要らない子? 要らない子だよね・・・?」

「え、ええ? 急にどうしたの? イリスは別に要らない子じゃないわ」

「イジイジ・・・」

もういじけてやる。床の絨毯にのの字を書きまくってると、カリムが「どうしましょう。セインテスト調査官に相談してみようかしら」なんて聞き捨てならない名前を口にしたからわたしは「ルシル、居残り?」と漏らした。

「ええ。セインテスト調査官は査察・監査任務に従事するから、隊舎からはあまり離れられないのよ」

わたしはゆっくり上半身を起こして、身嗜みを整えつつスッと立ち上がる。そして「よっしゃ! 今日も頑張るか!」気合充填するために両頬をペチッと軽く叩く。ルシルが隊舎に残ってるなら気落ちしてられない。はやて達が戻ってくるまでにどんな手を使っても良いから“レリック”を確保して、六課の隊舎に居るルシルに褒められに行かなくちゃ。

「ふふ。ルシルさんの名前を出せば元気が出るっていう話だったけど、本当だったわ♪」

「ではでは! 教会騎士団・朱朝顔騎士隊(ロート・ヴィンデ)隊長、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト! 本日もレリック捜査に向かいます!」

口元を押さえながら笑顔を浮かべてるカリムに告げて、わたしはカリムの執務室から出る。“レリック”は教会騎士団として働いてるわたしと管理局員として働くなのは達を結ぶ唯一の繋がり。だから教会騎士団内で捜査を行う隊をどこにするかを決定する会議で、わたしは真っ先に名乗り出た。他の隊の隊長はみんな六課メンバーと繋がりが無い人たちばかりだから、即わたしの隊に決定した。

(最初の頃は捜査担当の隊になる理由は不純だったけど、裏で糸を引いてるのがプライソンとなればもう寝ぼけたことは言ってられない)

六課から回ってきた新情報の中に、ルシルがかつてプライソンのアジトから回収した兵器の設計図、その中にあった航空兵器4種の内2種がなのは達の前に現れた。しかもガジェットドローンがその航空兵器から召喚されてきたというおまけ付き。もうルシルに褒めてもらおう、とか、なのは達との繋がりが欲しい、とか、そんな不純な動機は言っていられない。

(あー、でもやっぱりルシルには褒められたいからな~)

さっきもそれで復活したし。だって好きなんだもん、しょうがないじゃない。世界平和と恋愛、そのどちらも選びたいって話だ。だってわたし、まだ19歳(正確には今年の11月で、だけどね)の乙女だもん。
とまぁそんなことを考えつつ、わたしが隊長を務める朱朝顔騎士隊ロート・ヴィンデの各班長9人(最後の1人はわたしね)と、今日のデイシフトの班と捜査担当区がどこかを通信で確認。ちなみに1つの隊の人員数は50人規定。班は全部で10班ある。うち半数の班、計25人が夜勤――ナイトシフトになるわけだ。

「じゃあ、わたしたち第1班は、西区の第108陸士部隊と合同捜査ということで。他の班は準備ができ次第、順次出動して」

わたしの指示に『了解です、シャルロッテ隊長!』9人の班長が応じた。フライハイト家の当主で聖王教・教皇だった祖母が亡くなったことで、わたしもとうとう“シャルロッテ”を正式に名乗ることが出来る、フライハイト家の次期当主って位置に立てた。お婆様の葬儀の時はわんわん泣いちゃって、2~3日は目の腫れが引かなかったよ。でもやっぱりシャルロッテって名乗れるのは気分が良いよね~。

「さてと・・・!」

わたしたち朱朝顔騎士隊(ロート・ヴィンデ)、そして蒼薊騎士隊(ブラウ・ディステル)翠梔子騎士隊(グリューン・ガルデーニエ)の三隊の詰め所として建つ東方聖堂に到着。それはベルカを表す剣十字型の建物だ。各隊50人が入ってもまだ余裕のある大きさで、緊急時を除く任務前にはお祈りしてから出動というのが暗黙のルールだ。
両開き扉を開け、入口――前室から奥へと続く身廊を進む。十字架で言えば横棒となる袖廊と、わたしが歩いてきた縦棒の長い方である身廊が交わる中央交差部に、わたしが班長を務める第1班4人が整列している。

「ロート・ヴィンデ第1班。集まってる?」

わたしは4人の脇を通り過ぎてその前に立ち、「はっ、ここに!」全員揃ってることを確認。小さく頷いてわたしは回れ右。聖堂の一番奥に当たる礼拝室へと体を向ける。そこには祭壇があって、聖王教が崇め奉ってる聖王陛下の像がある。そして壁面には歴代の聖王陛下の肖像画が飾られている。

「祈願!」

胸に右手を添えて、聖王陛下の像や肖像画にお祈りする。内容は自由で良いけど、基本的には隊員の無事を祈る。わたしも、隊員たちに大きな怪我が無いように祈る。10秒近いお祈りを終えて・・・

「ロート・ヴィンデ第1班、出動!」

「「「「はっ!」」」」

聖堂を出て駐車場へと向かう。各隊にフルサイズバン型の輸送車が10台ずつ与えられてる。それに乗って現場へ向かう。運転は普通は下の者がやるらしいけど、「乗った乗った~」わたしが運転席に乗る。最初は部下たちに・・・

――自分たちが運転しますから!――

――隊長は、自分たちの隊長なんですから助手席に!――

――フライハイト家の次期当主に運転させて、自分たちがのんびりするなんて無理っす!――

――恐れ多すぎます!――

反対されていたけど、頑なにわたしが運転するって駄々こねたら向こうが折れてくれた。今では世にも珍しい騎士隊長兼ドライバーだ。せっかく免許を持ってるんだし、ペーパードライバーだなんて絶対に嫌。乗れる機会があるなら乗りたい

(そしていつか、助手席にルシルを乗せて・・・うふふ❤)

甘い妄想を振り払って車を走らせる。ベルカ自治領のザンクト・オルフェンを出て、ミッドの東西南北を繋ぐハイウェイへと入る。北部から西部へと入ってしばらくした後、通信が入ったことを知らせるコール音が車内に鳴り響いた。

「はい。こちらロート・ヴィンデ第1班」

『こちら陸士108部隊・捜査部、アリサ・バニングス二等陸尉です』

助手席に座るこの班での副官が通信に応じる。通信の相手はアリサだったからわたしは「お疲れ~♪」労いの言葉と、「何か捜査に関係する話?」通信の本題がなんなのかと気楽に訊ねる。

『ええ、お疲れ様。捜査情報についてなんだけど、ガジェットのⅠ型が中央区画で確認されたわ。こちらで確認したところ、ガジェットが向かっているポイントはミッド西部・レンスター地区のハイウェイ付近。真っ直ぐハイウェイに向かっているわね。高速交通警備隊に連絡を入れて、これ以上車が進入しないように、車の避難も行ってもらえるよう要請しておくわ』

“レリック”を狙って出現するガジェットが発見されたって言う知らせだったんだけど、「レンスター地区のハイウェイ・・・って言った?」わたしはそう繰り返す。

『そうよ。あたしの所属してる108部隊の管轄外だから手が出せないんだけど、こっちの管轄内――スメリア地方にもそのハイウェイが通っているから、その時に仕掛けるわ。それでなんだけど、シャルは今どこに居るのよ。運転中のようだけど・・・』

「正しく。そしてわたし達は今、その件のハイウェイを走行中だったりする」

『え゛っ・・・?』

ガジェットが向かってる先であるハイウェイに今、わたし達は居る。ただこれは「ラッキーよ、アリサ」だと思ったから笑って見せる。向こうから来るって言うんだから接敵と同時に斬り刻んであげる。

『そうは言うけど、ガジェットの機影は確認できてるわけ?』

アリサに言われるまでもなく、ガジェットが確認されたって聴いたと同時に後部に座ってる3人が窓から上空を見て索敵に入ってる。

「今だ視認できず、ね。とにかくこのままスメリア地方にまで車を走らせるつもり」

『そう。あたし達もハイウェイに向かってるわ。予定では5thサービスエリアに陣を敷くから。ガジェットと接敵する前に合流できることを祈るわ』

アリサとの通信が切れる。とにかく今はガジェットが確認できるまで車を走らせる。そしてようやくアリサの所属する陸士隊が管轄とするスメリア地方に入った。アリサの居る5thサービスエリアまでもう少しと言うところで・・・

「隊長! ガジェット視認!」

「バニングス二尉に報告します!」

窓から外を覗き込んでる隊員から報告が入った。そして次に「ガジェットⅠ型が・・・大型トレーラーに張り付いてます・・・!」信じられない報告が入った。サイドミラーとバックミラーを見て「うそ・・・!?」目を疑った。
コンボイ型の大型トレーラーの運転席にⅠ型が2機、その体をねじ込ませていた。しかもトレーラーは蛇行していて、前や周りを走る車とドッカンドッカンぶつかって事故らせてた。ぶつけられた車は防護フィールドが機能しているおかげで大破はしてない。たぶん死者も出ていないはず。

「くそっ! 陸士部隊はこうなるまで動けないのか・・・!?」

「局は常に後手に回ってばかりだ・・・!」

「愚痴ってないでどうするかを考えるぞ!」

「救急隊に連絡完了です!」

そう言い合う部下たちに「運転交替! トレーラーに車寄せて!」隣に座る副官にハンドルを握らせたうえで、わたしは窓から出て車上へとよじ登る。そして“キルシュブリューテ”を起動させて騎士服へと変身。空は飛べない。都市部での飛行は原則厳禁。管理局から許可を貰えれば飛べるけどね。

「隊長! バニングス二尉から、今こちらへ向かっている、とのことです!」

「了解! わたしがトレーラーに乗り移ったら車を停め、事故車の搭乗者を救出して! ガジェットはわたしとアリサで対処する!」

「「「「はっ!」」」」

わたし達の前を走る一般車に対して、車を路肩に寄せて停車するように呼びかけるモニターが道に沿って何十枚と展開されていってることで、前を走る車が続々と路肩に寄っていく。これでトレーラーにぶつけられて事故ることは少なくなったはずだ。

「もうちょい、もうちょい・・・っと!」

車上からトレーラーのベッドルーム側の屋根へと飛び乗った。運転席の屋根はガジェットで押し潰されちゃってるからね。とりあえずドライバーは居ないみたい。ガジェットに襲われたことで自力で逃げ出したか、それとも引っ張り出されて落とされたか。

「(ドライバーの安否は気になるけど今は・・・)こっちをどうにかしないとね!」

とにかくこのトレーラーを動かしているのはガジェットだし、まずは破壊してトレーラーの支配権を奪い返さないと。ひしゃげた屋根から大きなお尻を突き出してるガジェットへ向けて“キルシュブリューテ”の刃先を向けた時、「お?」アームケーブルが体中に巻き付いた。

「あっちゃあ。コンテナにも居たんだ・・・」

抱え上げられたわたしはアームケーブルの先を見る。連なるコンテナ2台の内、最後尾のコンテナから別のⅠ型が体半分を屋根から突き出させて、アームケーブルをわたしに伸ばしていた。そう言えばコンテナに穴が空いてるのは位置的に確認できなかったな~。いやぁ、失敗失敗。

――フレイムバレット――

そんな時、わたしを捕らえてたアームケーブルが火炎弾4発によって撃ち貫かれた。晴れて自由になったわたしは先頭のコンテナに着地して、両足に魔力を込める。そして屋根を突き破って完全に姿を露わにしたⅠ型へ突進。Ⅰ型はAMFを展開したけど・・・

「もう遅い!」

突進力を活かした刺突でガジェットのAMFを、さらに装甲を貫いた。AMFが消えたと同時に刀身に雷撃系魔力を付加して「雷牙月閃刃!」そのまま輪切りにして破壊してやった。

『まったく。油断大敵よ、シャル!』

『あはは、ごめん。助かったよ、アリサ』

アリサからの念話にそう返す。トレーラーの行く手、その反対車線側にはこっちに向かって走り来るSUVタイプの車が1台。運転席にはアリサが乗っていて、バヨネットフォームの“フレイムアイズ”を窓から出してた。そして助手席には108部隊の部隊長であるナカジマ三佐の娘の1人、ギンガが乗ってた。

『シャル! 後方から新手のⅠ型4機が迫って来てる! そいつらはあたしが片づけるから、トレーラーはアンタとギンガで対処して!』

『ギンガ・ナカジマ陸曹です! お久しぶりです、騎士シャルロッテ!』

僅かに速度を落とした車からギンガが飛び出して、魔力で道を作る魔法・ウィングロードを発動。足に装着してるローラーブーツでウィングロードを疾走して来た。そして先頭のコンテナから次々と現れるガジェットの1機へ突撃。

「せぇぇ~~~い!」

左腕に装着したアームドデバイス・“リボルバーナックル”の手首部分にある歯車のようなスピナー2つが高速回転。確かナックルスピナーって名前で、魔力を加速、回転の力を加えて撃ち出したり、打撃の威力強化を行うことの出来る機構だったっけ。ギンガはその状態のままⅠ型を真っ向からぶん殴り、その胴体に大穴を開けた。

『ギンガは優秀よ。あんたも安心して背中を預けられるはずよ』

『了解。アリサもヘマをしないようにね』

『Ⅰ型、しかもたった4機に遅れを取るほどあたしはヤワじゃないわよ』

ギンガを降ろしたことでスピードを戻したアリサの運転する車がすれ違って、そのまま去っていった。確かにアリサなら問題なく片付けるだろうし、心配も不安もないわ。

「ギンガ。わたしは運転席の2機を潰してくるから、その間残りのガジェットをお願い。すぐ戻ってくるから無理も無茶もしないように」

「了解です、騎士シャルロッテ」

「出来れば、シャル、って呼んでほしいかも♪」

「あ、えっと、ではシャルさん」

「ん! じゃあちょっとの間よろしく!」

「はいっ!」

ギンガと小さく笑みを浮かべ合ってからわたしはトレーラーの運転席へダッシュ。その際横目でギンガを見たけど、Ⅰ型なんてなんの問題もないって風に蹴り飛ばしたり殴り飛ばしたりしてた。その分コンテナの屋根がヘコんだりひしゃげたりしてるけどさ。ま、確かに安心して背中を預けられるね、あの強さなら。

「わたしも頑張らないとね。後輩に恥ずかしい姿は見せられないし♪」

運転席に頭から突っ込んで、こっちにお尻を向けてるⅠ型2機のそんな滑稽な姿を鼻で笑いながら・・・

「氷牙月閃刃!」

冷気を纏わせた“キルシュブリューテ”を横薙ぎに振り払った。斬り裂いた個所から体内を凍結させて機能停止にさせてやった。助手席の方は放っておいても良いけど、運転席の方は退かさないとトレーラーを停められないから、「あらよっと」追撃の斬撃をお見舞いしたらⅠ型は音を立てて瓦解した。

「ちょっとお邪魔」

破片を払い除けながら運転席に座って『ギンガ。今からブレーキ掛けるから気を付けて』コンテナの屋根の上で戦ってるギンガに注意するよう促す。

『了解です!』

Ⅰ型によって結構メチャクチャにされてるけど、ブレーキやクラッチ、シフトレバーもなんとかなりそう。すぐさま停車させるためにブレーキを踏む。急ブレーキだとギンガが振り落とされるかもだから、出来るだけゆっくりと減速。そして完全に停車したことを確認してシフトレバーをニュートラル、ハンドブレーキを掛ける。

「あとは・・・!」

コンテナ側のⅠ型の掃討だけ。運転席の屋根から飛び出してコンテナへと駆け出そうとしたんだけど・・・

「あ、シャルさん。こちらは終わりましたよ?」

2つのコンテナの屋根や壁はもう完全にひしゃげてて、その内部で「ふぅ・・・」手の甲で額の汗を拭うギンガの姿を見た。コンテナ内にはダンボールや金属製のケース、それに1型の残骸も多く散乱してる。だけどその中で「レリックケース・・・!」を発見した。

「とりあえずお疲れ様、ギンガ」

「シャルさんもお疲れ様でした!」

わたしとギンガでケースの中を確認。収められてたのは“レリック”で間違いなかった。蓋を閉め直していると『シャル、ギンガ。アリサだけど、そっちの状況は?』アリサから通信が入った。トレーラーの停車および“レリック”の回収を終えたことを伝える。

『そ。ギンガ、よくやったわね。こっちもガジェットの殲滅を完了。トレーラーのドライバーと思われる男性も発見、無事に保護したわ。これで任務完了よ。事後処理があるから、2人はそのまま待機でお願い』

「了解です!」

「ん。判った」

こうしてハイウェイ襲撃事件は幕を閉じた。ちなみにルシルからはな~んにもお褒めの言葉がなかった。チェッ。
 
 

 
後書き
ヨー・レッゲルト。ヨー・ナポット。ヨー・エシュテート。
今話はオリジナル回となりました。六課はドラマCDにあった海鳴市への出張任務。内容はそのままなので書かず、六課がミッドを開けている間に六課に入れなかった余り組のアリサとシャルに視点を当てました。アリサもシャルも出世してますね。
アリサが108部隊の捜査主任(階級が同じラッド・カルタスを居ないことにして)でも良かったのですが、主任である以上は108部隊の隊舎からずっと離れるわけにもいかない、だったら六課に出向も出来ない、という考えの下に断念。
シャルですが未だにパラディンになれておりません。Aクラス1位止まりとなってます。いつかはなりますけど、本エピソードではなりませんね。
 
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