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ソードアート・オンライン《風林火山の女侍》

作者:涙カノ
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肆:攻略戦

 
「なっ……!?」
「て、てめぇ!」

 自ら中佐と名乗ったコーバッツと呼ばれるプレイヤーは自己紹介を終えた後とある要求をこちらに行った。それは、アスナやキリト、クラインら風林火山を驚愕させるものだった。

 その要求とは、キリトやアスナたちが今日ボス部屋の手前まで行った74層迷宮区のマップデータをこちらに提供しろ、というものだ。しかも、提供してもらうのが当然だと言わんばかりの物言いだ。

「どういう意味か分かってんのか!?マッピングする危険性が分かって言ってんだろうな!?」
「我々は一般プレイヤーの解放のために戦っている!!」

 まるでこちらを威嚇するように、声を張り上げて叫ぶ。そんな中、セリシールは風林火山の面々に守られるように囲まれながら思った。そもそもいつから《軍》というのは正式名称になったのだろうか、と。
 ある時期、そのギルド管理を見たプレイヤーが煽り、そして揶揄的につけた名称だったはずだ。

「諸君が我々に協力するのは当然の義務である!!」
「ちょっと、あなたねぇ!」
「て、手前ぇなぁ!」

 アスナとクラインが激発寸前の声を出し、抗議しようとしたその時

「実力が伴わないものは協力とは呼びません」

 ぽつり、とセリシールがつぶやいた。この喧騒の中でそのつぶやきはみんなの耳には届かなかった……とは残念ながらならず、全員がそろってセリシールのほうへと視線を向ける。

「……なんだと?小娘の分際で……」
「え、セリー……」
「隊員の管理もできずこの奥に進んで、ボス戦に挑む。間違いなく死にます。その実力では私たちの荷物です。鎧で着飾ったところでボスには届かない、邪魔です。ここまでの道のりもろくにこなせないような状態で協力。それはあなたたちを守って戦うという労力が数倍になるだけです」

 小さな声で、でも力強くはっきりと。後ろで休んでいる《軍》の隊員にまでも聞こえていたらおそらくここで暴動が起こっていただろう。
 だがそれでも、彼女は言った。別に自分が不機嫌だからそれをこの際すべてぶつけてしまえ、という気持ちはない。おそらく、きっと。

「……やべぇよお姫さんマジ怒ってるよあれ」
「朝早かったもんなぁ……最近ろくに寝てないだろあいつ」
「わがまま姫だからな、意外と」

 ただ、空気を和ませようとこうやって冗談っぽくいう輩もいるが。ただ、こちらの言葉は向こうにも届いておらずその小さな眼で威圧するように全員をにらんでいる。

「この小娘が……!……攻略というのは遊びではない、貴様のような餓鬼が行えるようなものではない!」
「悪ぃが中佐殿。此奴はうちの大事な戦力で、仲間だ。餓鬼だの遊びだの言われて黙っちゃいねぇ」
「……師、匠……?」
「それでもやるってんなら、風林火山リーダークライン様が黙っちゃいねぇぞ!」

 言葉を返したのは目の前にいるクラインだった。彼は自分の体でセリシールを守ると同時に自慢するように言うと、身長差のあるコーバッツに負けず劣らず、睨み返し、声を荒げた。
 先ほどのデュエルで済むのならまだ生ぬるい。一つ爆弾を投下すればその時点で大暴動が起こってもおかしくない、一触即発の状態だ。《軍》のメンバーもこちらに気付いたのか、動き出そうとする。しかし、コーバッツに人望がないのか、はたまた実力差が分かっているのかコーバッツの近くにまでくるプレイヤーはいなかった。

「お前ら落ち着けって……」
「貴様も我々にたてつこうというのか?」
「違う。そうじゃない。ここで俺たちが対立してもどちらにもメリットはない。それに、街に帰ったら公開予定のデータだったしな」
「キリト君……それはさすがに」

 このピリピリしている中、キリトはさっと間に入りクライン、アスナを手で制し、コーバッツへと向きなおる。するとささっとウィンドウを操作し、自身がマッピングしたデータをそのままコーバッツへと提供した。

「マップデータで商売する気はないさ」
「人が良すぎるぜキリトよぉ……」

 コーバッツは無言でそれを受け取ると、表情一つ動かさず軽くマップを確認し、そのまま閉じた。

「協力、感謝する」
「あの子の言い方もあれだけど、ボスにちょっかい出す気ならやめといたほうがいいぜ」
「それは私が判断する。諸君が決定することではない」

 とはいいつつ、この男にそんな状況判断ができるのか、と攻略組の面々は考えた。いくら体力的な疲れがないVRとはいえ精神力の疲労は存在する。

「…………明らかに」
「セリー……しっ、いろいろとめんどくさいからっ」
「ぁっ……ご、ごめんなさい…………」

 またしてもぼそりとセリシールが口を挟もうとしたところで、アスナがさっと自分の口に人差し指を立て喋るなとジェスチャーを行う。そこで彼女は自分の失言に気付いた。確かに彼女が口にした言葉は正しい、と思えるのが多かっただろう。しかし、今この場で言うべきことでも、そのような言葉使いでもなかった。
 実際に、この場でキリトが収めてくれなったら《軍》と攻略組が少なからずぶつかり合っていただろう。ともなればこれからの攻略、どちらかの関係がギスギスとし、支障が出るのは間違いない。

「…………っ」
「よしよし」
「ちょっと先の騒ぎで調子に乗ってたな、姫」
「でもセリシールがここまでむき出しになるのもいい傾向だ」

 風林火山の一人、縦にも横にも大きい男性がセリシールの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。彼らはただ、慰めているわけではない。それでもやはり、風林火山は優しい。そしてその中に逃してはならない厳しさがしっかりと言葉に含められている。くすぐったそうに軽く拒もうとするもセリシール自身がそんなに嫌がっていないのか小さな笑みがこぼれていた。

 だがこちらはそのまま静かに終わる、というわけではなかった。キリトが見たボスの感想をつた、これからの攻略方法に対し自らの意見を言おうとしたが、コーバッツはそれをも「私が判断する」で一蹴してしまっていた。

「あんたの仲間も相当消耗しているじゃないか。一度引き返すのもいいと思うけど」
「仲間?……私の『部下』はこの程度で音を上げるような軟弱ものではない!!」

 仲間ではなく、わざわざ部下と言い換えてまで強調しているが、その部下から同意を得られるような反応はもらえていなかった。いらだったようにその部下と呼ばれたメンバーの居座る場所へと移動し、声を荒げ命令し、この安全地帯から来たときと同じように鎧をガチャガチャと言わせながらボス部屋、先ほどキリトとアスナが全色力で帰ってきた道をたどっていった。

「……なぁキリト、あいつら大丈夫か?」
「さすがにぶっつけ本番でボスはないとは思うけど……なれない最前線だしな」
「……ですが……」
「セリーの思ってるとおりだと思う。キリト君、一応様子見に行ってみようよ」

 アスナの言葉にここにいる全員が同意した。先ほど、カッとなって中佐と呼ばれる人物にそのまま自分の意見をぶつけたセリシール、マップデータを提供したキリトに対しお人よしと称したクラインやアスナでさえも様子を見にこの奥へ進む、という意見に迷いなく賛同している。

「……どっちがお人よしだっての」
「キリト君には負けるかな」
「アスナの言う通りです」

 セリシールはアスナに賛同すると自分の大太刀を背負い、一足先にと風林火山の面々と進んでいった。それに続いてキリトも準備を終え行こうとしたとき……

「ぁあっと。アスナさん。あいつのこと、頼んだ時と似てるんですがね……キリトのこと、よろしく頼んます」
「……わかりました。クラインさんからのお願いですから、断れませんね」
「すんませんな。あいつのことでも割と重荷かけてるっていうのに」
「重荷だなんて。……あの子は、最初の私と似てるんです。だから放っておけなくて。それに、キリト君は……キリト君も放っておけないから」
「キリトの野郎も、セリシールもアスナさんと行動し始めてから本当に変わった。俺じゃできないっすよ、あの二人をここまで変えることは」
「私だけじゃないです。クラインさんや風林火山の皆さんの影響もありますよ。……私だけじゃないんです。だから、こちらこそ……キリト君や、セリーのこと。よろしくおねがいします」
「……アスナさんの頼み、無下に断ったら周りから何言われるか分かったもんじゃねぇな、こりゃ」

 方や。

「……キリト。アスナとのパーティって割と最近ですよね…………惑いました?」
「ぶっ!?せ、セリシールいきなり何を!?ま、惑ってないからな!?」
「あのキリト先生がだぞ?惑ったに決まってる」
「それでもまだまだガキだし、色気に惑ったとしても、先生にしちゃぁ相当な進歩だ」
「成長をこうやって確認できるっつうのが、親の気持ちなんすかねぇ」
「惑ってねーよ!あとお前らに育てられた覚えもねぇ!」

 最初、このゲームが始まったときからは思いもしなった光景。一人は、脱出のために孤独に走り、一人は死に場所を求め、一人は失わないよう集った。
 それが今ではこうして、互いが互いを支えようとしている。誰の力、ではなく全員が全員に作用してできた居場所だろう。
 だから失いたく、失うわけにはいかない。きっと誰もがそう思っているだろう。

「……それならいいですけど」

 その言葉はキリトに向けたのか、はたまた自分に向けたのか。言葉を発したセリシール自身には理解できなかった。



 先立って進んでいった軍を追いかけること30分。途中リザードマンの群れやモンスターの軍隊と遭遇しセリシールたちは一向に軍に追いつくことができていなかった。

「ひょっとして、もう帰ったんじゃねぇ?」
「そーっすよねー、姿形すら見えやしないし」
「ここはいったん帰って情報を連合やらKoBやらと共有してからボス行った方がいいって」

 と、クラインはじめ風林火山の面子からそのような声があがるが、実際には誰も『軍が転移結晶等を使って帰還した』とは感じてはいたが、ここまで音沙汰がないともしかしたらクラインの言葉が当たっているのでは?などと心の隅で思っている者もいないわけではなかった。

「……もう少し、だけ」
「セリーの言う通り。……なんだか嫌な予感がするの」
「あぁ。……ボス部屋前まで行っても損じゃ「ぁぁぁああああぁぁぁ……」……おい、これって」

 キリトの言葉に割り込んでくるように聞こえたそれは、間違いなく悲鳴だった。かすかにだが、モンスターの鳴き声ではないことは全員判断した、ということはプレイヤーが発したもの。

「マジかよぉ!?」
「----ッッ!!」
 その場にいた全員は一斉に顔を見合わせると、聞こえた方向へと一斉に駆け出した。悲鳴が聞こえたということは、軍はこのまま進み最奥でボスへと挑んだのだ。

「………っ、師匠……っ!」

 敏捷パラメータやレベル差のせいでセリシールにキリト、アスナの3人と風林火山の感覚がどんどん広がっていくことに気付きセリシールはブレーキをかけようとした、が

「先に行け、セリシール!俺たちゃ後で追いつく!」
「うちで一番早いの姫が止まってどうする!」
「……――っ、はいっ!!」

 と減速を始めたセリシールにメンバーの声がかけられる。その言葉を背に、セリシールは減速を始めた自らの足を再度動かし、加速を試みる。筋力は大太刀が持てるぎりぎりを調整しているため、ほかの面子に比べて敏捷は高い。しかし、減速したのがあだになったのかキリトやアスナとは距離が離れてしまう。さらに、セリシールの前にリザードマンが数匹ポップした。モンスターはセリシールをターゲットとし剣を振りかぶり、ソードスキルを発動させる。

「…………」

 だがセリシールはそれに対し、減速をするのでもなく抜刀をするのでもなくただ単純にスピードを上げていた。ほとんど地に足がついておらず滑べるように跳んでいる。このままいけば、激突し、装甲の薄いセリシールはあっという間にポリゴン片となってしまうだろう。
 が、セリシールは大きく迂回するでも飛び越えるでもなく、ただ単純にその間を走り抜けた。
 振り降ろされた剣をわずかに反発する磁石のようにさっと避け次へ行く、これを繰り返し1秒とかからず数匹のリザードマンを後ろへ置き去りにして見せた。

「キリト、アスナ!」

 二人に遅れること数秒、すでにボス部屋前の扉は開いており中の光景を確認することができた。床一面、格子状に炎が吹きあげており、すでに舞台は整ったといわんばかりだ。その中央で屹立する巨体が、二人の目撃した74層のボスだろう。

「何をしてる!早く転移結晶を!」
「……転移!…………ダメだ、アイテムが効かない!!」
「何ですって……!?」
「…………」

 アスナが驚愕する理由、それは稀に迷宮で見かける《結晶無効化空間》がボス部屋に適用されていることだ。これではとっさの脱出を行うことができない。しかし、今までこの空間がボス部屋に適用されていることはなかった。

 まさに地獄絵図だった。床に転がったプレイヤーは、無残にも斬馬刀と思われる巨大なものを突き立てられその体をポリゴンへと変える。援護しようにもボス自体のHPゲージ3割も減っておらずいまだ健在。こうしている間にも、また一人斬馬刀に薙ぎ払われ、HPを大きく削られ吹き飛ぶ。

「……撤退を……さっきのあの人は……」

 セリシールが中佐と名乗ったコーバッツの姿を確認する。どうやらまだ健在らしい、ボスの奥にHPゲージを少し減らしながらも立っていた。しかし、その姿勢から軍のプレイヤーを撤退させている、という風には感じられない。それどころかこの状況では考えられない怒号が飛び出す。

「軍に撤退はあり得ない!!我らに、撤退の二文字は存在しない!戦え、戦うんだ!!」
「……馬鹿野郎……ッ!」
「……なに、を……してるの……っ」

 結晶無効化空間で人数が少ない、さらに今さっきセリシールは一人が死んだ光景を目撃した。これだけでもあってはならないのにコーバッツは状況を確認し、冷静に判断ができなくなっていた。

「おい、どうなってる!」
「師、匠……にみんな……」
「クライン!……実は」

 しばらくしてクラインが遅れてやってくる。おそらくセリシールが避けたリザードマンたちも対処してきたのだろう、無事な姿を見て少しほっとするセリシールに風林火山の面子がポンポンと頭をたたく。その間にキリトとアスナがクラインに今までの経緯を簡潔に説明する。

「……なんとかできねぇのかよ……」
「乗り込むにも人数が……」
「……だめ、です……無謀すぎ、ます」

 セリシールの言う通り無謀だ。キリトたちが飛び込めば退路ができるか、少なくとも好きは生まれるだろう。しかしそこから全員無事生還するというのは難しい。だが、体勢を立て直したらしいコーバッツの声がさらに響き渡る。

「……全員、突撃ぃぃ!!」
 コーバッツの無茶な命令通り動いたのは本人を含め8人。しかし、組織の攻撃として成り立っていなかった。一斉に跳びかかったところで全員が満足する攻撃は繰り出せない、さらに見方を傷つける可能性さえある。ボスは攻撃を気に留めずブレスのような蒼い息を吐く。動ける8人の動きが鈍ったかと思うと、斬馬刀を振り上げそのうちの一人を斬り上げ吹き飛ばす。

「きゃっ!?」
「っ!?」

 女性陣の小さな悲鳴とともに、どすん!とキリトたちの前に誰かが落ちた。それは、斬りあげられた人物、コーバッツだった。こちらが確認できるはずのHPゲージが消えている。自分の身に何が起きたかわからない。そんな顔をして、何かを言うように口が動き
 コーバッツの体は消滅した。
 リーダーの失った軍はすでに烏合の衆ですらなかった。組織としては崩壊し、悲鳴をあげつつ逃げ惑う、全員HPゲージが半分を割り込んでいる。

「……だ、め……だめ、だめ……!!」
「…………アス、ナ……?」
「――っ!」

 ぷるぷると絞り出すようにアスナが何かを発す。二人は何かに気付きアスナを止めようとするが一瞬遅かった。持ち前の敏捷を最大限に使い、疾風のように走り出した。

「くっ……アスナ!!」
「おいキリト!……どうとでもなりやがれ!!」
「クライン!……くっそ俺らも行くぞォ!!」

 それを追うようにキリトも抜剣し、その後を追う。さらにそれをようにクラインに風林火山が加勢し、走り突撃していく。

「…………」

 しかし、セリシールはつられるように飛び込む、ということはしなかった。鞘を持ち、深呼吸しながら柄をしっかりとつかみ、抜刀の姿勢をとる。ヤケになって飛び込んだ場合、タンク役のいないこの現状ではさらに死亡者を増やす結果になる。

「……ッ!!」

 キリトがアスナを退けてぎりぎりでかばい攻撃をそらした一瞬のすきに、ズバンッ!と、空気のはじける音とともに、セリシールがソードスキル【疾速】で接敵、斬撃を繰り出す。が、これでも大したダメージは与えられていない。

「みんな、は……軍を、お願いします……!」
「応よ!気ぃつけろぉ!」

 セリシールの言葉に風林火山は周りで散っている軍のメンバーの保護へと回る。
 囮役となっているのはアスナ、キリト、クライン、セリシールの四人。しかし中央で戦っているせいもあり、奥で倒れているプレイヤーを助け出しここから抜け出すのは難しくなかなか進んでいない。その間にも時々かすめる刃でHPが削られていく。クラインにアスナが防戦一方でかわすのに精いっぱいの状況で、セリシールはさらに一歩踏み込み斬撃を繰り出す。

「ぉらあっ!!」
「セィっ!!」
「…………ッ」

 防戦一方のクラインがパリィし攻撃の隙を作り出した。時間にしては一瞬だが、誰かが一撃入れるには十分な時間だ。攻撃を繰り出したのはアスナだ。細剣で間を貫くように数度攻撃を繰り出した。
 ボスの基本的に使うのは両手用直剣の動き。微妙なカスタマイズでタイミングがずらされていたりするがセリシールにはまだどうということはない。その程度なら身体が勝手に動いて攻撃を避ける。
 そしてそのままパリィし接敵し大太刀を突き刺し、相手の動きがわかっているかのようにバックステップをとり上から来た斬馬刀を難なくかわす。
 セリシールへとターゲットが一瞬言ったことによりキリトにアスナ、クラインが続けざまにソードスキルで斬撃を繰りだし退避する。

「ォォォオオオオオ!!」

 攻撃を受けたボスは絶叫を上げ的確にキリトに、一撃を加えようと見た目からは想像もつかない俊敏さで接近し斬馬刀を振り回す。

「キリト君!!」
「……ッ……キリ、トッ」

 そのまま当たればキリトの装備では全損、もしくは危険域まで行くのは間違いない。しかしアスナやクラインの筋力ではあの巨大な武器に太刀打ちできない。地面を蹴るように跳び、斬馬刀へカタナソードスキル【緋扇】を再現するように叩きつける。完全に反らすことはできなかったが微妙に反らした結果、キリトへのダメージを減らすことには成功した。

「ぐ、ぅうっ……クライン、アスナ、セリシール!もう少し持ちこたえてくれ!!」

 キリトがなにか企んでいるのか無理やりブレイクポイントを作る。そこへ間髪入れずクラインが応戦する。次いでアスナがヘイトを集めるよう周りを刺激してキリトの援護をする。

「………ッ、……はぁっ!」

 しかし二人では速さでは勝っても、威力、重量で圧倒的に負けている。だからこそセリシールは真正面へ行き、大太刀を構える。一瞬息をのむと左から右へと円を描くように斬り払い、侵略するかのようにさらに踏み込み、勢いを殺さず左へと斬りあげる。

「……ァァアアアッ!!」

 小さな体からでているとは思えないほどの声を上げ、大太刀を力いっぱい振り下ろす。それに続くように衝撃波が斬撃となりボスの体に追加で三度、斬撃を与える。

 ソードスキル【紅炎】

 セリシールがもつ最大の威力のソードスキルであり、同時に最大の手数を誇る大太刀6連撃の技。
 普段ならこのまま、硬直解除を待ちつつ、ソードスキルによって付与される効果が表れるところだ。しかし、セリシールはこの技を使う判断を間違えた。攻撃から予測した、攻撃間隔にまで大幅な修正がかかっているのを予測しきれなかった。

「ッ……!?セリー、危ない!」
「っ!……しまっ……!」

 そのため、普段なら避けられた斬りあげ攻撃を硬直によって回避することができず、行うことができたのは大太刀でのガード。二人よりは重量があるとはいえ斬馬刀を受け止められるほどではない。セリシールは直撃により、軍のプレイヤーのように大きく宙へと舞う。

「セリシール!!」
「くっ……!……でもこれな……えっ……」

 クラインの声に反応するかのようにさっと、空中で体制を立て直しボスへ応戦するように大太刀を構える。が、手元にあるのは根元から折れた大太刀。
 次の瞬間、手の中にあった愛刀は小さくパリンと音を立てると消えてなくなった。
 
 

 
後書き
お久しぶりです、今思えば武器を壊すのが好きなのですかね私は
涙カノです
半年ぶりに執筆してみました。

双大剣士は少々お待ちください、あと1年半でGGOは完結させたいなぁ、と神頼みしてますので

女侍は書いてて少し楽しいです。割とやりたいことがまとまっているのでww
ほかの原作キャラとの絡みはもちろん!……するかどうかはこうご期待で!

では、またの機会にノシ 
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